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炎の魔人編⑨『1つの疑念』

神は居ない。仏陀は寝ている。

そんな中、連夜とヨウは奇跡を己の手で手繰り寄せる。

しかし、すべてが終わった後の晴斗の証言が、彼らに1つの疑念を残すのだった。

炎の魔人編⑨『1つの疑念』

 将軍との対峙を経た週末明けの月曜日。俺はいつものように起きて、そして学校へと向かった。手荷物のバッグには普段ない荷物、将軍から借りた服が入っている。

「あ、おはよう、将軍」

 教室に入り、将軍を見つけて声を掛ける。

「あ、碧……」

「その、服、ありがとな」

「あ、ああ……」

 服が入ったビニール袋を取り出して渡すと、将軍はそれを自分のバッグにしまった。

「えーっと、そういや晴香さん、あの後どうなった?」

 早速、事の次第を聞いてみる。すると。

「あ、ああ。そうだな――」


 将軍曰く、お姉さん……晴香さんはあの後病院に行って精密検査まで受けたものの、体に異常らしい異常は見つからなかったらしい。長らく意識不明になっていたものの特に後遺症もなく、寝たきりによる体の衰えなども見当たらず、担当した医師は信じられないものを見たような表情をしていたそうだ。

「そんで今は退院して、復学の準備を進めてる」

「そうか。その話を聞いて、安心したよ」

 正直この話を聞くまで完全に安心できていなかったので、この報告を聞いてようやく本当の意味で心が軽くなった気がした。

「ああ。あと、その……碧、ありがとう! そして、すまん!」

 将軍は立ち上がると、深々と頭を下げてきた。

「あー、そうだな……。まぁ、でもよかったよ、お姉さん助かってさ」

 将軍のあのときの気持ちは理解できるし、これが漫画や小説なら『いいってことよ』と軽く流すようなシチュエーションだろうが、正直殺されかけた訳だし、ここで将軍のことを安易に許すのはあまりにお人よしが過ぎるのではないかという考え方も間違ってはいないと思う。

 だが俺としては、それ以上に丸く収まって良かった、誰も死なずに済んだ、という気持ちの方がとにかく先に来ていた。真白先輩の件があっただけに、悲しい結末にならなくてよかったと、ただただそう思わずにはいられなかったのだ。

「……ありがとう。それと……その……」

「その?」

「その……」

 将軍が何か言おうとしたところでチャイムが鳴り、先生が入ってきた。

「わりぃ、碧。また、後で」

「あ、わ、分かった」

 俺は急いで自分の席に戻った。

 結局その後は色々と間が悪く、放課後まで将軍と会話できる機会はなかった。


 そして放課後になり、俺は自習室でよーちゃん(と陽さん)に晴香さんのことを話した。

「そうですか。晴香さんはもう大丈夫のようですね」

『無事回復したようで何よりだ。2人共、頑張ったな』

「ああ。ほんと、何とかなって良かった」

「そうですね……」

 そんな風に2人(+1人)でやり取りをしていると……。

「あ、えーっと、ここか? こほん」

 突如、部屋の扉の方から聞き覚えある声が聞こえ、そしてトントントンと、軽快なノック音が響いた。

「失礼、します!」

 扉がゆっくりと開き、そして将軍が入ってきた。

「あ、将軍……」

「こんにちは、一橋君」

『……』

 部屋に入った将軍は、俺とよーちゃんの方に近づいてくる。

「その……おれと……と、友達になってください!」

 そして一言こう言い放ち、深々と頭を下げた。

「ちょっ! あ、えーっと……いいけど」

「そこまで頭を下げなくても、大丈夫ですよ一橋君」

「本当か! あ、ありがとう……」

 将軍は顔を上げるも、再度頭を下げる。俺とよーちゃんもそれに合わせて、頭を下げた。

 何とも締まらない感じだが、かくして俺に新しい友達ができた。

『いい雰囲気のところに水を差すようですまないが、一橋君。君に聞きたいことがあるんだが、いいか?』

 3人で頭を下げ合う奇妙な光景は、陽さんの声によって終わりを迎える。

「その声は……陽さん、か。通信機でヨウさんと話をしてるんだよな?」

 将軍はよーちゃんのことを「ヨウさん」、陽さんのことは「陽さん」と呼び分けている。流石に「葵さん」で呼ぶのは無理があったらしい。

『ああ。それでだが』

「分かってる。というかここに来たのは、碧やヨウさんに伝えたかったことがあるってのもあるからな。……あの腕輪の出所について聞きたいんだろ?」

『話が早くて助かる。できれば誰が、についても聞きたい』

「分かった、話す」

 将軍はここで一呼吸を置く。

「ねーちゃんの命の炎が消えかけて焦っているおれの前に現れたのは――」

 そして、俺達に事の次第を話し始める。

 俺とよーちゃんは、その話を無言で聞いていた。


「……」

「……」

 将軍から話を聞き終え、部活の時間が終わって家への帰途につく俺とよーちゃんは、沈黙しながら沼津駅までの道を歩いていた。無言で歩きながら、さっき聞いた将軍からの話を頭の中で反芻する。


「おれの前に現れたのは……怪人:黒仮面だ」

『……やっぱり、そうなのか』

 正直、何となくそうなんじゃないかと思ってはいた。将軍の付けていた腕輪は、真白先輩や黒仮面が付けていたものと同じだったし、流石にこれで全く関係ないというのは考えづらかった。

「奴がおれに腕輪を渡してこう言ったんだ。『この力で、お前の本懐は叶えられるだろう』『だが、お前を止めに来る奴が居る。そいつを何とかしない限り……絶対にお前の本懐は達成できないだろう』ってな。魔術の力についても奴から聞いた」

『ふむ。そいつは、どんな声してた?』

「いや……なんつーか、加工してる? ような声だった。高い声だったとは思う」

『そうか』

 俺とよーちゃんが遭遇した、真白先輩じゃない方の黒仮面。

 おそらく奴が、将軍に接触し、腕輪を渡した。

 俺の漠然とした推測は、おおよそ当たっていた。


『なぁ、一橋君の話なんだが』

「……腕輪を黒仮面から貰った。将軍の腕輪は真白先輩が付けていたのと同じだった。もしかして、真白先輩も?」

『君もそう思うか? 連夜。わたしも実のところ、一橋君の話を聞いてもしかしたらって思ったんだ。腕輪を渡し、真白さんに復讐するよう唆した奴が居るのかもって』

「だよな……。俺もそう思う」

「その『奴』がおそらく、怪人:黒仮面のオリジナルということですね? 私達を襲ってきた黒仮面が、おそらくそいつだと思います」


 正直、俺が先輩の死をまだ受け止め切れていなくて、そこに対して納得できる何らかの理由付け……見えない敵を求めているだけなのかもしれないというのは多分にある。

 だが、それでも、先輩と将軍を結びつける共通項がある以上、無関係とはとても思えなかった。


 この日は久しぶりに、次の日の朝までぐっすりと眠ることができた。

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