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炎の魔人編⑦『友を止めるために』

姉を救うべく、怪人:黒仮面に扮して人々の生命力を奪っていた『将軍』こと晴斗。

彼を止めるべく、連夜とヨウが立ち向かう。

魔術と魔術のぶつかり合いの果てにある結末とは?

炎の魔人編⑦『友を止めるために』

 灼熱の太陽がじりじりと周囲を照らし、草が燃えたときの香ばしい匂いが空間に漂う中、いの一番に動いたのはよーちゃんだった。

「ていっ!」

「っぐ!」

 慣れた手つきで石柱を召喚し、将軍目がけて叩きつける。見知った相手なのに容赦がない。石柱は将軍に命中した瞬間粉々に砕け散り、それと同時に将軍のうめき声が聞こえた。

「……」

 よーちゃんの迷わぬ行動に、否応が無く息を呑まされる。

 よくよく考えると、生身の人間があの大きさ、あの重量の石柱で勢いよく殴りつけられたらネギトロ、あるいは潰れたトマトめいた見るも無残な光景が広がるであろうことは容易に想像できる。だが石柱をぶつけられた将軍の身体にはかすり傷が生じ、額から血が流れてこそいるものの、想像していたような凄惨な光景にはなっていなかった。魔術の素養を持つ人間は打たれ強くなると高下李緒は言っていたが、まさかこれほどまでとは。あるいは咄嗟に両腕から魔術を放ち相殺したか。いずれにせよ一筋縄ではいかない相手だというのは間違いない。

 そんな風にあれこれ考えていると、左耳から通信が入る。

『連夜! 何やってるんだ!? 追撃を!』

「あ、ああ……ハァーッ!」

「っ!」

 ともあれやるしかない。先ほどの攻撃でひるんでいる将軍に両手を合わせ、そのまま力を込めてシャウトする。両腕から召喚された氷柱は将軍に命中し、彼の身体は仰向けに倒れ込んだ。

「しょ、将軍……」

 正直、気が乗らない。陽さんの発破がなければまた手元が狂っていたことだろう。

「やっぱり、お前らも力を……!」

 将軍はよろよろと起き上がり、そして右腕を掲げる。

「気に食わねぇぜ!」

 そしてそのまま右腕をプルプルと震わせる。すると彼の身体にピンク色のオーラが溢れ出す。

「テアーッ!」

 そしてそれと同時に将軍は左手からオレンジ色の炎弾をよーちゃん目がけて発射し、更に俺目がけて再び殴りかかってきた。その動きは先ほどまでよろよろとしていたとは思えないほど俊敏だった。

「ちっ!」

 石柱と炎弾が衝突して爆散する音が響く中、炎をまとった将軍の拳を氷柱でガードする。

 だが、拳の直撃こそ防いだものの、拳からあふれ出た炎が氷柱の脇から漏れ出す。

「あっち!!」

 そして着ているワイシャツとスラックスの各所に火の粉が付着した。繊維か何かが燃えたときのような匂いと白い煙が鼻に入り込み、同時にこらえきれないほどの熱さを感じた。

「うぉぁぁぁぁぁ! あっちあっちあっちーっ!」

 咄嗟に地面を転がるも、魔術によって生み出されたそれは普通の炎と性質が違うのか中々消えない。

 熱さと痛みでパニックになっている中、再度左耳から通信が入る。

『大丈夫か連夜!』

「だいじょぶじゃねぇぇぇ!」

 大丈夫ではない。見りゃ分かんだろ。まともな声で返事ができない。

『落ちつけ連夜! 君の力、氷……いや水と言えばいいのか? の力を使えば消せるんじゃないか?』

「……あっ」

 転がりながら自分に向けて吹雪を放つ。するとさっきまで勢いよく燃え盛らんとしていた火の粉は瞬く間に消え去った。

「氷の力か。だがっ!」

「危ない!」

「うおっと!」

 広場に敷き詰められた石材の上をゴロゴロと転がりながら吹雪を周囲にまき散らし、将軍から間合いを取ろうとする俺に対し、更なる拳の追撃が襲い掛かるが、それはよーちゃんが召喚した岩塊によって防がれる。その後、俺は回転の勢いで体をすっと起こした。

「ぅ……」

 火傷だろうか。身体のあちこちがひりひりする。白いオーラで治しつつ、再度青オーラを掛け直した。

『ほっ……』

 左から安堵の声が聞こえてくる。……サンキュー、陽さん。

「一橋君! ごめんなさい!」

「ちぃっ!」

 よーちゃんは将軍の拳を人間離れしたバック宙でかわしながら石柱を召喚し、再び将軍に一撃を加える。石柱が命中した瞬間鈍い音……何かが砕けたような、そんな音が響き、見ると将軍の身体は石柱の下敷きになっていた。

「ぐ……おれは……こんなところで……」

 石柱の下からうめき声が漏れる。

 刹那、石柱の下から無数のピンク色のオーラが溢れ出し、巨大な爆発音が響く。

 爆音と共に炎が吹き出し、半ば溶解し赤変した石柱の破片が辺りに飛散する。

「倒れる訳には、いかない!」

 その中心には、よろよろと立ち上がりながら右腕を掲げる将軍の姿があった。

「ウラッ!」

 将軍は後方へ炎を吹き出し、その勢いで跳躍、よーちゃんに迫る。

「っ!」

 よーちゃんはすかさず石柱を召喚し盾にする。だが――。

「ふんっ!」

 将軍は拳から大火球を発射し石柱を粉砕!

「きゃっ!」

「あっと! よーちゃん! てぁーっ!」

 火が付き赤く溶けた石礫がよーちゃんに降り注ごうとしたところで、俺は吹雪を放ち、石の破片を吹き飛ばす。吹き飛ばされた石片は火が消え、カラカラと地面に転がった。

「連君!」

『ナイス援護!』

 2人からの声を耳に受けながら、俺はよーちゃんと将軍の間に走る。

 走りながら両腕を前方に構え、青いサークルを出現させる。

「ちょこざいな!」

「させっか! こんのーっ!」

 そしてよーちゃんへの更なる追撃の拳を、サークルをまとった両手で横から突き飛ばす。

「グワーッ!」

 両手が将軍の拳に触れた瞬間、冷気が爆発し、彼の身体は広場からロータリーへと吹き飛ばされる。さらに吹き飛ばされた身体がロータリーのアスファルトに叩きつけられた瞬間、周囲が凍結。将軍は氷漬けの状態でアスファルトへうつ伏せに倒れ込んだ。

『よしナイス! ……』

「あ……」

 その光景を見た俺はやっちまったと思い、思わず駆け寄るが――。

「っ!」

『っ、危ない!』

 陽さんからの声で慌てて足を止めると、将軍からピンク色の光が放たれ、突如アスファルトを覆っていた氷が爆散した。

 同時にすさまじい熱気が生じ、飛散した氷は瞬く間に溶解し、水蒸気へと姿を変えた。

「おれは、姉ちゃんを、救う……」

 将軍は立ち上がり、肩を鳴らす。

 その身体からは炎が噴き出し、溢れる。

「お前達を、倒す……!」

 うわごとのように呟く声色からは、ガンギマリの覚悟・決意を感じる。

 アスファルトの地面が熱で溶解し、随所がちりちりと燃え出す。

「ぐうっ!」

 冬の暖房器具で使う灯油が燃えたときのような刺激的な匂いが辺りに漂い、熱さと黒煙で呼吸が苦しくなる。

 俺は思わず飛びのき、そして右手で鼻を覆い、身体の周囲に吹雪を振りかけ、煙と熱をどかした。

「連君! 攻撃が効いていないようです!」

「え?」

『ヨウの言う通りだ。あれだけの攻撃……生身の人間ならただじゃすまないような攻撃を何度も喰らいながら、戦闘を継続している。明らかにおかしい』

 鮮やかな橙色の炎を身に纏い、不屈の精神で立ち上がる将軍の姿を見て、2人は違和感を覚えたようだった。

 確かによくよく考えてみると、将軍は青いオーラ……防御魔術を使っている様子もないのに俺達の攻撃を食らいながら、まるで何事もなかったかのように立ち上がって戦いを続けている。……いくら何でも、しぶとすぎる。

『ヨウ! あいつにもう1度攻撃を!』

「了解。はぁーっ!」

 よーちゃんは炎を纏いながら仁王立ちしている将軍目がけ、無数の石片を撃ちこむ。石片は彼の身体にざくざくと刺さり、内1つは顔を掠って一本の赤線を生み出した。

「っ……さっきから一人芝居みたいに声変えながらブツブツとブツブツと、鬱陶しい!」

 身体の各所に傷を負っているであろう将軍は苛立ちの声色と共に右腕を震わせる。

 するとまたしても彼の身体にピンク色のオーラが現れる。オーラが将軍を包みこんだかと思うと、顔にできていたはずの赤い線が消えていき、跡形もなくなってしまった。突き刺さっていたであろう石片も彼の身体から抜けて弾き飛び、周りにカランカランと転がり落ちた。

「これは……」

「傷が、治ってんのか?」

 治癒魔術が使えるのだろうか? だがオーラの色が俺達と異なっているような……。

『……あっ』

「どうした、陽さん?」

 左から聞こえる声は、何かに気付いたようだ。

『腕輪だ、連夜! あいつの腕輪を見ろ!』

「腕輪……? あっ」

 陽さんに促されるように腕輪に視線を移すと、彼女が言わんとしたいことがすぐ理解できた。

 ピンク色のオーラは、よく見ると右腕の腕輪からあふれ出ている。

「あれがカラクリの正体ということですね?」

『あぁ。あいつは他者の生命力を奪う力を手に入れたと言っていた。おそらくあの腕輪に蓄えた力……今まで人々から奪いプールした生命力を使って体力を回復してるんだ!』

「なるほどな。つまり、あの腕輪さえどうにかすれば!」

『そうだ。あの腕輪を破壊するんだ! 連夜、ヨウ!』

 そうと分かってしまえば単純な話である。将軍に攻撃するのではなく、腕輪を集中的に狙って破壊する。人を狙うのは躊躇われるので、正直こっちの方が気が楽だ。

「はぁーっ!」

 早速よーちゃんは将軍の腕輪目がけて石弾を発射する。

「これはっ! ちっ! させっかよ!」 

 だが将軍は左右に跳躍し、腕への一撃を回避した。

「こいつは姉ちゃんを救うための大事な物なんだ。あぶねぇあぶねぇ……」

 火炎の奔流が将軍から放たれ、俺達に迫る。俺とよーちゃんは同じ方向に跳躍して炎を避ける。炎が通った後は黒く焼け焦げ、煙が上がった。

『連夜。彼の動きを止められないか? 動きを止めたところでヨウが攻撃する、というのはどうだろうか?』

「……分かりました。やってみます」

 将軍に聞こえないよう小声で通信してきた陽さんの提案に同意し、将軍の動きをつぶさに観察する。

「ハァーッ!」

 将軍はオレンジ色の炎をロケットブースターのように噴射しながら跳躍し、俺目がけて炎の拳を振りかざして突っ込んで来る。

 ――彼の動きを止める。

 将軍の姿を凝視しながら体に力を込めて集中すると、どういう訳か周囲の時間がまるで急激に遅くなったかのような感覚を覚えた。

 ――第一選択として考えられる手段としては、このまま彼の攻撃を受け止めて防ぎ、よーちゃんが攻撃する隙を生み出す、といったところか。

 俺は無言でいわゆる三戦(さんちん)の構えを作り、そのまま両腕に力をこめる。すると両腕に氷の盾、あるいは手甲のようなものが生成される。これで攻撃を防げば……。

 構えつつ将軍から視線をずらすと、よーちゃんは俺の意図を察したのか、将軍と俺を直線で結んだ中間点の右真横……ちょうどそのまま割り込めば腕輪を攻撃できそうな位置に陣取っている。

 このまま将軍が俺に一撃を繰り出してきたところを氷の手甲で受け止めて防ぎ、そこによーちゃんが割り込んで腕輪に一撃を加える。集中のせいか、それとも魔術的な力の影響によるものか。急激に引き延ばされた時間の中で思考を巡らし、氷の手甲を将軍の拳目がけて突き出す。

 だがその刹那、集中がふっと解ける。

(あ……?)

 スローモーだった体感時間が元に戻った直後に起きた出来事は、俺の想定し、期待していた展開と全く違うものだった。

「見え見えなんだよっ!」

「っ!」

 俺目がけ、勢いよく向かってきていた将軍の右拳は俺に当たるすんでのところで引っ込み、右後方に火炎放射を放った。

「ふんっ!」

 将軍は炎の反動を利用して身体を着地した左脚を軸に左回りにぐるりと90度回転させ、不意打ちしようとしたよーちゃん目がけて右足で勢いよく回し蹴りを繰り出した。

「ぐっ!」

 よーちゃんは咄嗟に回し蹴りを回避するも、ワンテンポ遅れて自分の方に回ってきた将軍の右手から新たに放たれた火炎弾を食らい仰け反る。着ていた上着の胸元が焼け焦げ、白いインナーが露出した。

『やはり簡単にはいかせてくれないか……』

「女殴んのは気が向かねぇが、まずは数を減らさねぇと、な!」

 左耳から妖精のささやきが聞こえる中、将軍は左手から火炎放射を放ちつつ地面を蹴って跳躍し、高速で俺から間合いを取る。そして同時によーちゃんに右手の炎の拳を向け、追撃せんと飛び掛かった。

『連夜!』

「わーってる! たぁーっ!」

 当然そんなことさせるわけにはいかない。将軍の真似をして左手を後方の地面に向け、吹雪を放ちながら地面を跳躍する。何となくだが、勢いが付いた気がする。

 そしてそのまま2人の間に横から割り込むように接近し、右手から吹雪を放ちつつ、将軍の身体を横から突き飛ばした。

「ぐぁっ!」

 将軍の身体は横に逸れ、ロータリーの周囲に作られた雨よけのシェルターの柱に衝突。直後柱と将軍を取り囲むように氷の柱が形成され、将軍の身体を拘束した。

『いいぞ連夜! 今だヨウ!』

「はいっ!」

 よーちゃんは体勢を立て直すと、氷で動けなくなった将軍目がけて石弾を放つ。

「ぐうっ!」

 石弾の狙撃は正確に将軍の腕輪に命中し、辺りに破裂音が響いた。

「っしゃ俺も!」

 俺も氷柱を発射して腕輪に攻撃しようとするが……。

「ふんっ!」

 直後、将軍は身体に炎をまとう。氷が瞬時に溶解し、彼は拘束から逃れ、放たれた氷柱は瞬く間に溶解、蒸発した。

『あっ! 惜しい!』

「はぁ、はぁ……。うぉぉぉぉぉ!」

 将軍は雄叫びを上げる。すると身体から赤いオーラのようなものが上がった。

「あれって、高下 李緒の!?」

 見覚えのあるオーラだ。確かあんときはあの後、一撃でノックアウトされた。まるでそれまでが手加減だったかのように……。

 おそらく俺の青いオーラ同様、何かしらの効果があるはずだ。用心するに越したことは無い。

「っ!」

 俺同様オーラを視認したと思われるよーちゃんは、即座に石柱を召喚し決断的一撃を繰り出す。

「ちっ!」

 だが叩きつけられた石柱は、将軍が防ごうと反射的にかざした腕に接触した途端、バキッという音と共に、真っ二つにへし折れた。

「あん? これは……」

 将軍は広場に作られた屋根を支える柱を一本軽く叩く。すると柱に無数のヒビが生じた。

「この光、よく分かんねぇが、力があふれてくるぜ!」

 将軍は両手を握ったり開いたりしながら、興奮したかのような声色を発する。

「これならっ! はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そして地面めがけて手を向け、力をこめた。すると俺が立っている場所の地面と、よーちゃんが立っている場所の地面に赤くて丸い魔術陣、サークルが出現した。

『これは!? まずい2人共、回避を!』

 陽さんの声に合わせて即座に跳躍し、サークルがある場所から離れる。

 直後、赤いサークルは一層強く光ったかと思うと、そこからすさまじい勢いでオレンジ色の爆炎が噴き出した。

「あっち!」

 直撃こそすんでのところで避けたが、左腕に熱が伝わり、思わず腕を右のほうに払いのける。よーちゃんの方を見ると、そちらも何とか回避したようだ。

「まーだまだーっ!」

 将軍は地面を押さえつけるような仕草を何度も繰り返す。

 すると地面に次々と赤いサークルが出現し、広場の地面を埋め尽くしていく。

「うぉあ!?」

「っ!」

 足元にサークルが現れる。跳躍して離れる。直後に爆炎が噴き出す。着地したところに再度サークルが現れ、跳躍を余儀なくされる。

 間髪を入れずに次々と現れるサークルと爆炎の中、俺とよーちゃんは広場のあちこちを駆けまわりながら炎から逃れ続ける。

 だが、そんな糸を通すかのような無茶ぶりにも、いつか限界が来る。

「ふんっ!」

「ぐあっ!」

 駆け回っている内に将軍の近くまで来たのが運の尽き。

 俺は回避のために跳躍したところを将軍に殴り掛かられ、そのままサークルの発生地点まで吹き飛ばされてしまい、そして直後噴出した爆炎に巻き込まれる。

 防御魔術のおかげか丸焦げにこそならなかったものの、トップスとボトムスが焼けて吹き飛び、上下肌着だけになって見えた素肌の各所には、無数の腫れと水膨れ、そして一部には焦げが現れていた。

『連夜!』

「連君!」

 2人の声が聞こえる。

「……ぁ……ぅ……」

 辛うじて立ててはいるものの……全身の熱さと痛みで言葉が出せない。火炎で喉をやってしまったのか、口鼻の中から喉にかけてとても腫れぼったくなって空気が通らず、更に瞬く間に痰か何かが気管より奥に入ったような感覚に襲われ、むせる。

「――、――」

 体液の急速な喪失によるショックと気道熱傷による窒息により意識が消えんとする最中、辛うじて両腕を胸に当てて力を練ると、念願の白いオーラが現れ、火傷と痛み、苦しみが急速に消えていき、意識が辛うじて戻る。

「その力……回復か! させっかよ!」

 間一髪のところで熱傷死と窒息死を回避しそうな状態だったのだが、将軍は俺の力に気付いたのか、そんな状況を悠長に待ってくれるはずもなく。

「……べ……っ……」

 将軍が炎を腕に纏って殴り掛かってくるのが見えるが、あいにく治癒が間に合ってない。脚はまだ水膨れと焦げだらけで動かせる状態ではなく、動こうとした途端に激痛に襲われ、足が止まってしまった。

『っ!!』

「させない!」

 そんな俺への追撃を防ぐべく、よーちゃんが割って入る。よーちゃんは石柱を召喚し、眼前に迫る将軍の一撃を防がんとした。

「はぁーっ!」

 だが将軍の炎の拳は石柱の盾を、まるで砂の城を殴ったときのようにサクッと粉砕。

「うっ!」

 そしてその無慈悲な炎の拳は、よーちゃんの胴体にクリーンヒットした。

 石柱が破壊された破裂音の直後、遅れて鈍い音……嫌な音が聞こえた気がした。

「よーちゃ、ぐあっ!」

 火傷の回復が終わり、ようやく動けるようになったところで俺は吹き飛ばされてきたよーちゃんに激突し、一緒に後方に吹き飛ばされる。

『ヨウ! 連――』

 空間の端近く、アスファルトの地面に衝突した瞬間、左耳からの声はザッという音と共に途絶えた。

「う、が……」

 うつ伏せに倒れている状態から何とか起き上がる。位置関係的にさっきいた場所、広場の中心から数十メートルは吹き飛ばされたようだ。すぐさま擦り傷だらけの身体に治癒魔術を追加し、防御魔術を掛け直す。

(よーちゃんは……)

 周囲を見ると、よーちゃんは俺よりもさらに後方に吹き飛ばされ、ハリボテのビルの壁にもたれかかれるように座り込み、がっくりとうなだれていた。ビルの壁には彼女を中心とした衝突跡ができているが、その周囲にはチリチリと黒いグリッチノイズが走っていた。

「よーちゃん!」

 呼びかけるも、返事がない。消えてはいないので、生きてはいると思うが……。

「陽さん! よーちゃんが!」

 思わず陽さんに呼びかけるも、こちらも返事がない。さっきのぶつ切りになった通信から推測するに、衝撃で通信機が壊れてしまったのかもしれない。

「よーちゃん!」

 倒れているよーちゃんに駆け寄る。

「させっか! はぁーっ!」

 だがそこに将軍が割り込み、炎の右拳で殴りかかってくる。

「ちぃっ!」

 すんでのところで回避するも、その結果俺とよーちゃんとの距離は更に離れてしまう。

 当然再びよーちゃんの方に近寄ることを試みるも、その度に将軍から妨害を受け続け、全く距離を縮めることが出来ない。加えて将軍の身体からはめらめらと炎が噴き出ており、じりじりと素肌の面積が増えた俺の身体を焦がした。

(ちっく! どうすりゃいいんだよ!)

 妖精の声はもう聞こえない。

 将軍に手を向けるとやっぱりというか手元が震え、まともに狙いを付けられない。

「……うぜぇ1人芝居は消えた。あとはお前だけだ、碧ィ!」

「ぐうっ!」

 間髪入れずに飛んでくる拳のラッシュとそれに伴う炎を冷気で躱しながら思考を巡らせる。このままではどう考えてもじり貧だ。よーちゃんの復帰も陽さんの通信回復も全く期待できない。となれば。

(俺1人で、何とかするしかない!)

 将軍を攻撃して戦闘不能に追い込むのは手の震えからして不可能。となれば腕輪を破壊するしかない。それが俺に唯一残された勝利条件だ。そのためには、まず……。

「はぁーっ!」

 将軍の攻撃をかわすと同時に、彼の眼前に両手を向けて力をこめる。

「ちっ! まだそんな力が!」

 将軍が俺の両手から噴き出した冷気にひるんだすきに、そのまま後方へ跳躍、よーちゃんのいる方と反対の方に跳躍し、彼女への接近を阻もうとする将軍から距離を空ける。

「何考えてるか分かんねぇが、逃がさねぇぞ!」

 将軍は俺の方に両手を向ける。刹那、手元から赤いサークルが出現し、俺目がけて爆炎が噴き出してきた。

「はぁーっ!」

 すかさず俺も両手を向けて力をこめる。青いサークルが現れ、同時に巨大な氷塊と冷気が噴き出し、迫りくる爆炎の渦を相殺する。氷塊が一瞬で蒸発し、多数の湯気が発生し、視界が白く染まる。

「ぐうっ!」

 大量の湯気を食らったのか、将軍の悶える声色が響く。

 その最中、俺は将軍のいる方向へと全速力で駆けた。

 ――そう。これはかつてあの高下 李緒との戦いでも起きた現象。あの時不意打ちを食らったのは俺だったが、今回は逆だ。

 俺は将軍の目前に突っ込む。すると将軍も俺の存在に気付いたのか、炎の右拳で迎え撃たんとする。

「――!」

 声ひとつない中、俺はすかさず右拳に冷気をまとって殴り掛かろうとする、と一瞬見せかけつつ、吹雪を将軍の眼前に発射、そのまま拳の炎を消しつつ後退し、将軍の顔面に吹雪をぶち当てた。

「なっ! ぐっ!」

 さっき自分が俺に対して行ったフェイントの意匠返しと言わんばかりの反転攻撃は予想外だったのか。将軍は冷気を避けられず、両手で顔を覆う。

 そうしてひるんだすきを見て俺は将軍に再接近し、顔を覆う右腕、そこにある腕輪を右手でがっちりと掴んだ「。

「何ッ!」

「はぁーっ!」

 そして後先考えず、腕輪を掴んだ右手に全身全霊の力を込めた。掴んだ右手から冷気が溢れ出し、腕輪をじわじわと凍らせていく。

「いっけーっ!」

 力を込められた腕輪からピシッという音が聞こえ、少しクラックが入る。

 ――手が震える以上、遠距離攻撃で腕輪を破壊するのは不可能。であれば肉を切らせて骨を断つ方法で腕輪を破壊するしかない。手で直接掴んで冷気、あるいは魔力的な何かを流し込み、腕輪を破壊する。これなら手が震えようが関係ない。近づく方法は先の高下 李緒との戦いで起きたのを参考にしつつ、何かしらのフェイントをかます。

 それが頭を必死に回して咄嗟に考え出した俺の答えだった。

「てめぇ! このっ!」

 将軍は左腕から炎を噴出させ、俺にぶち当てんとしながら全身から熱気を噴出させる。

「んんーっ!」

 だがそんなことでひるむわけにはいかない。熱さを必死にこらえ、右手を離さない。そして俺も全身に力を込める。すると将軍同様身体から冷気がすさまじい勢いで噴出し、将軍の左腕の炎と、噴き出す熱気が打ち消された。

「何ッ!?」

 冷気は更に周囲に広がり、先ほどまでうだるほど暑かった周囲の温度は、冬の終わり、あるいは秋の半ば近くを思わせる涼しさを俺の皮膚、そして息を取り込む鼻に感じさせた。

「ぐっ、させるかーっ!」

「そりゃこっちの台詞、だーっ!」

 こっちの台詞だ。今このとき、言葉が体の内から更なる力を呼び起こしたような気がした。

 冷気と熱気の押し合いはいつまでも続くと思われたが、やがて何かしらの奇跡が起こってくれたのか、俺の冷気の方が次第に勝り始める。

「うぐぅぁぁぁぁぁ!!」

 己の全身全霊の力を押し返され悶絶する将軍。

「まける、かーっ!」

 そして掴んだ俺の右手から放たれた冷気によって腕輪は完全に凍結し……やがてガラスを思いっきり地面に叩きつけて割ったときのような音と共に、粉々に砕け散った。

「そんな、おれの、力がっ!!!」

 腕輪を破壊された将軍は、そのことにうろたえて動きが止まる。……今だ。

「はぁ、はぁ……。よーちゃん!」

 俺は急いでよーちゃんの下に駆け寄る。三つ編み眼鏡の倒れた少女の姿は、まだ消えていなかった。

 急いで治癒魔術を掛けると、その間に周囲の風景が歪んでいった。

 視界が白く染まる……。


 気が付くと、周囲の風景は元の沼津駅北口広場に戻っていた。灼熱の熱気は消え失せ、日没後の晩秋の寒さが露出の増えた身体に深くしみる。本来なら俺達は広場の北端、道路の向こう側のビルの傍にいたはずだが、俺とよーちゃんは広場のど真ん中、ちょうど将軍が生み出した空間に入る前にいた場所に座り込んでいた。どうやらあの空間は、入った場所からそのまま出るという仕組みらしい。空の色は入ったときとさほど変わらず、現実世界ではほとんど時間が経過していないようだった。更によく見ると、周囲の人達は回復したのか、何事もなかったかのように歩き出しており、騒ぎになっている様子も見受けられない。

「う、うーん……」

「よーちゃん!」

 目を覚まし、上体を起こそうとするよーちゃんの身体を両腕で支える。

「連夜君……? ここは……っ! 一橋君は!?」

 よーちゃんは周囲を見回す。それに合わせて視界を動かすと、腕輪を破壊され、無言でうずくまっている将軍の姿が目に移った。

「終わった。腕輪を破壊した」

「そうですか。連君、やったんですね」

「それより、大丈夫か? 身体を打ったみたいだけど」

「今のところは、痛みも特には。後は自分で何とかします」

 よーちゃんは自力で立ち上がると、両手で自分の身体に治癒魔術をかけ始めた。

 ……何とかなった。間に合った。

 安堵の気持ちが心に沸いた途端、夜の寒さがより一層身に染みた気がした。


 その後、起き上がったよーちゃんと共に将軍の下に近寄ると、声が聞こえてくる。

「……姉ちゃんは、おれにとって最後の希望だった。最後の、たった一つの光だったのに」

「一橋君」

「踏みにじられた……! よりによってお前達に!」

 四つん這いの姿勢で地面を叩く将軍。

「将軍。俺は」

「うるせえもう終わりだよ! 何で止めたんだよ! おれの希望を奪うのが、お前達のやりたいことなのかよ!?」

 恨み言をぶつけられた俺は、迷うことなくこう返した。

「止めるに決まってんだろ!」

「……」

 息を呑む声が聞こえた。

「お前が姉ちゃんを大事に思ってるのはすっごい伝わってきたよ。だからこそだよ」

「だからって!」

「だって『人殺しの姉ちゃん』なんて、そりゃあんまりだろ!」

「っ! ……」

 もし、将軍があのまま一線を越えてしまったら。その先にあるものは。

「だから止めたんだよ。俺は。一線超えて戻ってこれなくなった人を、知ってるからよ」

 目を閉じる。脳裏によぎった二つ結びの少女の顔には黒い靄がかかり、その表情は読み取れなかった。

「……ちくしょう、ちくしょう……。姉ちゃん……うううぅぅぅっ!」

「「……」」

 将軍の慟哭を前に、俺とよーちゃんは、それ以上かける言葉が浮かばず、沈黙が流れ――。


「いや……案外まだ希望は潰えていないかもしれんぞ? 一橋君」

「え?」

「あ?」

 沈黙が流れるかと思われたが、そうはならなかった。

 予期せぬ声が後方から聞こえ、俺とよーちゃんは思わず振り向く。

「っ……?」

 自分の名前が呼ばれたことに気付いたのか、将軍も恐る恐る顔を上げたようだ。驚きを表しているであろう吐息が、彼の口から洩れるのが聞こえた。

「それと……無事でよかった。連夜。そしてヨウ」

 目の前に立っているのは、先刻まで俺の左耳から聞こえていた声の主。

 俺の傍にいるよーちゃんのオリジナル……葵 陽その人であった。

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