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炎の魔人編⑤『黒仮面、再び』 

将軍のこと、黒仮面のこと。

それぞれのことについてヨウと整理した連夜は、帰宅の途に就く。

だがそこに、奴は現れた。

炎の魔人編⑤『黒仮面、再び』 

 気が付くと、俺とよーちゃんはグラウンドのような場所、というか俺達の高校のグラウンドにいた。だがグラウンドの周りにある風景は何というか、出来の悪いハリボテ、あるいは一昔前の特撮のセットのような、いかにも作りものですといった雰囲気がありありと出ており、ここが現実の世界と異なる場所であることを強く明示している。

 そして先程まで西日が照らす夕刻だったはずなのだが、空は仄かに暗く、真逆の東から日の光が差し込んでいる。南側から吹いてくる風に匂いはなく、先ほどいた場所よりも肌寒く感じた。

「消去する……!」

 眼前の黒仮面は、その無機質な声色と共に俺に右腕を向け、黒い球状の何かを放ってきた。

「「っ!」」

 俺は咄嗟に左へ、よーちゃんは右に飛んだ。直後放たれたそれは俺が居た場所に着弾して爆発音が響く。地面には陥没が生じ、黒い煙が立ち上った。

「何だあの力は!?」

「あれも……魔術……?」

 俺達が動揺していると、俺の左耳から陽さんの声が聞こえてくる。

『おい! 聞こえているか?』

 陽さんの声だ。

「聞こえているけど……通信できてるのか?」

『あぁ。できてるぞ? 映像も取れてる。……変な場所に飛んだみたいだな?』

 どう考えても俺とよーちゃんは現実から隔離されているはずなのだが、陽さんとの通信は維持されているらしい。これも九恩院グループ製の賜物なのかと、そんな風に考える間もなく黒仮面は次の一撃を俺目がけて放ってきた。

 黒い魔弾……縁が白く光り、ゆらゆらと揺らめいているそれを、俺はすかさず回避するも、黒仮面は両腕から次々に魔弾を飛ばしてくる。そいつは一言も発することなく、ただただ俺に執拗に攻撃を仕掛けてくる。

「ちぃっ!」

 飛来する魔弾に間髪は無く、動いての回避は追い付かない。俺は両腕を構える。両腕から氷柱が出現し、魔弾を防ぎながら砕ける。数発飛んできた魔弾を氷柱でしのぎつつ、俺の身体は後退していく。

『ヨウ! 連夜を援護してくれ!』

「了解。はぁーっ!」

 俺が押されている横で、よーちゃんが石柱を複数召喚する。古代ギリシャの神殿の柱のような形状をした白亜の石柱は回転しながら宙に浮いており、見るからに多大な質量を有しているのだが、彼女はそれを何も躊躇うことなく黒仮面目がけて放った。

「……!」

 石柱の内1本が黒仮面の脇腹に命中……というより黒仮面を横から轢く。黒仮面は吹き飛ばされるも、即座に着地。その動きには一切の乱れが感じられない。

「ぐ……」

 黒仮面の追撃を逃れた俺の身体から力がふっと抜け、情けなく地面に膝をついてしまう。攻撃を防ぐのに、思ったより力が必要だった。

『効いてない!?』

「効いてるはずですよ、オリジナル。っ!」

 2人のそんなやり取りに水を差すように、黒仮面は右腕から黒いキューブのようなものを生み出し、それをよーちゃんめがけて放つ。よーちゃんは当然気付いてそれを回避したようだが、キューブは至近距離まで到達したところで静止し、そこで球形の黒い衝撃波を放って爆発した。

「っ! ぐっ!」

「よーちゃん!」

『ヨウ!』

 爆発のフィールドに巻き込まれたよーちゃんは、直撃こそ受けなかったものの仰け反った。

「このーっ!」

 俺は体勢を立て直し、両腕を構えて吹雪を黒仮面めがけて放つ。吹雪は黒仮面にかかるとカチコチと凍結し、よーちゃんに追撃しようとする黒仮面の動きが鈍くなったような気がした。

『いいぞ連夜! 動きが鈍ってる! このまま追撃するんだ!』

「わ、分かった」

 俺は左耳から聞こえる陽さんの指示を受け、動きが鈍った黒仮面に両手を構える。

 だが……。

「っ!」

 一瞬、動きが鈍っている黒仮面の姿を見た俺の脳裏に、またしても思い出したくない少女の姿が現れる。手元が震え、直後氷柱が腕から発射された。

 氷柱は発射されたが、手元がぶれたせいか仮面の真横を掠るように通り過ぎていった。

「ああーっ! もう!」

 情けない。あれは先輩ではないのだ。そんなの分かり切っているはずだろう?

 だのに手が震え、上手く攻撃できない。情けないったら情けない。

『相手が殺す気できていたら、絶対に躊躇っちゃだめ』

 あの李緒とかいう女の言葉が脳裏によぎる。

(んなん分かってんだよ……)

 そして氷柱を外して数秒も経たぬ間に、黒仮面の動きを鈍らせていた氷が砕け散り……奴は拘束から逃れた。

『……。大丈夫か? ヨウ』

「はい。オリジナル。回復も終わりました。戦闘を継続します」

 気が付くと、よーちゃんは体勢を立て直しており、拘束が解けた黒仮面目がけて即座に石弾を発射する。さっきの石柱もそうだが、よーちゃんの攻撃には手振れも迷いも見受けられない。だが黒仮面はまるでオリンピックの体操選手のようにクルクルと回転しながらグラウンドの地面を跳躍し、よーちゃんの石弾をひょいひょいと躱していく。石弾が地面に当たる音が空しく響く。

『何だあの動きは! あれは人間なのか!?』

「わっかんねぇ……」

 常人にできない動きをしているということは、分かる。

 左から聞こえる動揺の声に考えることなく言葉を返し、黒仮面の動きに唖然としていた俺目がけ、黒仮面は跳躍しながら魔弾を数発発射してくる。

『危ない、連夜!』

 左からの声が俺への警告に変わったことで我に返り、すぐに両腕から吹雪を発射する。

(ぁ……)

 発射された魔弾を吹雪で撃ち落とそうとしたが、1発撃ち漏らし、被弾してしまった。身体に当たった魔弾は破裂し、強い衝撃と共に痛みが走る。

「……つっ!」

 青いオーラの効果があっても言葉が出せなくなるほどの痛みを胸に受けた俺は、そのまま後方に吹き飛ばされ、グラウンドの土に右腕から硬着陸した。

(ってぇ……)

『連夜!』

「連夜君!」

 2つの声が聞こえるなか、気が付くと右腕に擦り傷ができたような痛みの感覚がある。俺は身体と右腕を押さえ、痛みを軽減する白い光を発生させる。同時に俺は横になったまま何とか両手で構えるポーズをとる。

『防御魔術は使い得。あるのとないのとでは大違い』

 李緒の言葉を脳裏に思い出しながら、俺は傷を回復しつつ、青いオーラを再度展開し直すが、その隙を黒仮面は見逃してくれない。そいつは何と右腕から二等辺三角形の尖った黒い刃のようなもの……おそらくは魔術の力に由来するであろうものを出現させ、そのまま俺の方に駆け寄ろうとする。

「ちっ……つっ!」

『連夜!』

 陽さんの声が左耳に飛び込む中、俺は急いで立ち上がろうとするも、傷が治りきっておらず痛みで右ひじをついてしまう。そうこうしている間に黒い魔力の刃を携えた黒仮面が迫る。だがすんでのところで地面の先に無数の地割れが出現し、足を取られた黒仮面は転倒。俺への攻撃は外れた。

 何が起こったのか周囲を見ると、よーちゃんが地面に手を当てていた。どうやら地面に魔術を繰り出したらしい。

「――」

 そしてよーちゃんは無言で石柱を召喚し、起き上がった黒仮面に追撃の一撃を加える。鈍い音が周囲に響くのと同時に黒仮面は少しだけ体勢を崩し、動きが止まる。

「っ!!」

 そんな中、俺はようやく体勢を立て直し終え、立ち上がった。

『さすがに今のは効いただろう。……連夜。大丈夫か? ……いけるか?』

「……」

 俺は右腕に強い力をこめる。直後、右腕に青いサークルが現れ、そこに冷気が収束し、同時に巨大な氷塊が召喚される。そこで黒仮面に狙いを合わせようとしたのであるが。

(ちっ! まただ!)

 またしても手が、腕が……震えだす。思わず左手で右腕を掴んで支えようとするも、震えは止まらない。このままでは……。

「ちっく」

『いいぞ……! 頑張れ……! そのまま……』

 そのとき、左耳から俺を鼓舞するような優しい声が聞こえる。

「っ……」

 その声が耳に入った途端、腕の震えが……どういう訳か治まり始める。

 腕の位置が、ブレが小さくなり、狙いが次第に一点に収束していく。

『よし今だっ! いけっ!』

「っ! はぁーっ!」

 そして腕の位置がちょうど定まったのと同時に聞こえた声を合図に、俺はさらに力をこめた。刹那、氷塊は氷柱に形を変え、無数の冷気と共に発射された。

 極寒の冷気が周囲に漂い、真冬のような寒さを肌に感じる中、吹雪をまとった氷柱はブレることなく直進していき……そのまま黒仮面に命中、爆散した。

 爆散と同時に無数の白い冷気が周囲へ拡散し、着弾点付近の地面を凍結させた。

「……!」

 直撃を受けた黒仮面は無言のまま後方に吹き飛ばされるが、直後グラウンド後方にあるネットの支柱を蹴り、なんとそのまま反転跳躍。俺の方に飛んできた。右腕には先ほど同様魔力の刃を携えている。

『あっ!?』

「なにっ!」

 俺は咄嗟に構えを変更し、両腕を前に突き出して力をこめる。両腕から吹き出した冷気が収束し、俺の目の前に太い氷の柱を生み出した。

 氷柱は俺と黒仮面の間を遮るように出現したが――。

「……」

 黒仮面が右腕を縦に振ると、氷柱はまるで裂けるチーズか何かのごとくサクッと抵抗感なく一刀両断され、左右に弾け飛んだ。

「うお」

『危ない! 後ろへ!』

「っ……と!」

 一瞬動揺し、動きが固まりかけたものの、陽さんの声で慌てて回避のために後方に跳躍し、俺は間一髪のところで黒仮面がかましてきた二の太刀たる横薙ぎを回避した。

(あぶね……)

 そんな風に思っている最中に再び黒仮面の一撃が襲い掛かろうとするが――。

「はぁーっ!」

 それは石弾によるよーちゃんの横槍によって妨害される。黒仮面は真横を振り向くと、飛んでくる石弾を次々と魔力の刃で切り裂き、叩き落していく。石弾が全て撃ち落とされると同時に右腕の刃は透明になっていき、消えた。

「……」

『来るぞ!』

「はい!」

 黒仮面は間を空けることなく魔弾を発射。当然よーちゃんは相殺しようとするが。

「っ!」

『なっ!』

 魔弾の発射に対しほんの少しだけ遅れるタイミングで地面を蹴り、黒仮面は跳躍、そのまま右腕に再度刃を生成してよーちゃん目がけ突っ込んできた。よーちゃんは石弾で魔弾を相殺するも、遅れて突っ込んできた黒仮面への対応が遅れる。

「危ない!」

 そんな中、俺は咄嗟に両手を黒仮面とよーちゃんの間にかざす。それは先ほどよーちゃんが俺に対してやってくれたように。

 直後、両者を隔てるように氷の壁が出現し、黒仮面の一撃はよーちゃんではなく氷の壁に命中。それによって生じたわずかな隙に、よーちゃんは距離を空けるために飛び退いた。

「ナイス!」

『いいぞ!』

 黒仮面の方を見ると、刃が右腕ごと壁に刺さり、動きが止まっている。

 俺は両手に力をまだ込めていた。黒仮面は腕を引き抜こうとするが、氷の壁が再生し、その動きを阻んでいる。

『奴の動きが止まっている! 今なら!』

 俺は左腕を壁の方に向けたまま、右腕を少し隣、黒仮面の方に向けた。

『行けっ!』

「はぁーっ!」

 右手に渾身の力をこめると、再度青いサークルが出現し、先ほどと同じ吹雪をまとった氷柱が黒仮面に向けて発射された。手元はぶれなかった。氷柱は黒仮面にクリーンヒットして爆散、同時に猛烈な地吹雪を発生させた。

「くっ!」

 発生した冷気によって、周囲の視界が白く染まる。冷気が顔にかかり、鼻や口の中に入る。

「……っ!」

 まるで業務用冷蔵庫の中で深呼吸したときのように、鼻と喉に痛みを感じ、俺は思わず目を閉じ、両手で鼻と口を押さえる。

『大丈夫か!?』

「えぇ……私は大丈夫です」

 聞こえる声を見るに、よーちゃんは大丈夫らしい。俺は目を開けた。

 しばらくすると冷気が治まり、視界が晴れていく。

「―ぁ、―ぁ……」

 着弾点の方を見ると、膝と肘をつき、四つん這いで息をしている黒いローブの姿があった。ボイスチェンジャーが低温により故障したのか、そこから聞こえる息遣いは、高い……女性の声のようだった。

「あ、おい……」

 俺は思わず黒仮面に駆け寄る。

 だがそれは全くもって不用心で、油断している行いとしか言いようがなかった。

「……!」

「なっ!」

 俺が黒仮面に2m近くまで近寄った瞬間、そいつは何の予兆も無くいきなり俺目がけて黒い刃を突き付けてきた。……ぬかった。回避できる間合いではない。

 横向きに突き付けられた三角形のそれは、位置的に、丁度肋骨をすり抜けて心臓への直撃コース。まともに食らえば……。

「はぁぁぁ!」

 だが、刃が俺の皮膚より先に届くことはなかった。よーちゃんのシャウトの直後、三角形の刃は皮膚を少し刺した程度で俺の肋骨を貫くことなく突如上方へと逸れたのだ。

 ――刃の主たる黒仮面は、地面から突如現れた高さ2m程度の鋭利な三角形の岩山によって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられていた。岩山は俺と黒仮面を遮るかのように、地面に現れた黄色いサークルから生み出されている。

「っ!!!」

 だが、そんな光景を悠長に見ている暇もなく、俺は刃によってえぐられた皮膚から強い痛みを感じていた。激痛に悶えながら、右腕を胸の傷に当てる。白い光が現れ、痛みは徐々に消えていく。

 痛みが治まり、うつ伏せに倒れる黒仮面の姿を視界にとらえることができた直後、周囲の風景がうねうねとぼやけ、歪んでいくのを感じた。


 気が付くと、周囲の景色は元の大通りの歩道に戻っていた。空はもう暗くなり始めている。時計を見ると、15分ほど経っていたようだ。空気の感触は肌寒いが、先ほどに比べると少々生暖かく感じるような、そんな気がした。

 俺は即座に周囲を見回す。まず後ろにはよーちゃんが立っている。彼女は俺の横から前を見据えている。彼女の目線に合わせて視線を自分の前に向けると、そこには黒仮面が倒れていた。

『これは……元の場所、か? ……やったのか?』

「それはやってないフラグですよ、オリジナル。やめてください」

『あ……すまん』

 そんな風なやり取りが背後から聞こえた直後、それまでうつ伏せに倒れていた黒仮面は突如、明らかに不自然な動きをしながらむくりと起き上がる。そのなめらかな動きはそう……まるで正面にばたりと倒れたのを逆再生して元の立っている状態に戻したかのような動きだった。

「やってねぇな。……まだやるのか!?」

 ここまでやってまだ戦うとなるのは、正直勘弁願いたいところなのだが……2人のやり取りに合わせつつ、両腕を構えながら、身体に青いオーラを張る。

 だが、黒仮面は俺達に向かう仕草を見せずに後方へと跳躍していき、そのまま撤退していく。

『あっ!』

「逃げたっ!」

 あっちから逃げてくれるなら、正直こっちは助かる。

 黒仮面は人間離れした跳躍力で道路を後退していき、気が付くと姿が見えなくなった。


「はぁ……」

 黒仮面が居なくなり、ようやく俺は一息つくことが出来た。

 再度時計を見る。時刻的に父へ迎えの連絡を入れないといけないだろう。

「これは、勝ったのでしょうか?」

『まぁ、勝ったんじゃないか? 一応こちらは損害なく終えられたし。連夜は大丈夫か?』

「あ、あぁ……」

 身体は大丈夫だが、心は中々平静を取り戻すことが出来ない。

「大丈夫みたいですが、連君ちょっと、不用心が過ぎますよ? 私がいなかったらどうなっていたことか」

『ヨウの言う通りだな。気になる気持ちは分かるが、戦いの中警戒を解くのは感心しない。気を付けるんだ』

「そ、そうだな。すまん……」

 全くもって彼女達の言う通りだ。返す言葉がない。次からは気を付けなければ。……次なんて起きて欲しくはないが、その願いは叶う気がしないので気を付けることを意識するよりほかない。『その力を手に入れてしまった以上、戦いから逃れることは、できないわよ?』という言葉が脳裏によぎった。

「次からは気を付けてくれれば、大丈夫ですよ。それはそれとしてオリジナル、早速導入して正解でしたね?」

『だな。導入して早々出番が来るとは思わなかったが。それにしても、先の話にあった暴漢といいあの黒仮面と言い、随分と人気なんだな、連夜は』

「……そうですね。なぜ、彼は狙われているのでしょうか?」

『わたしにも分からん。なぁ連夜、本当に何も覚えがないんだよな?』

「ない」

 首を左右に何度も振りながら、即答した。

『だよな。ヨウに何かあったときのために導入したんだが、もしかして本当に必要なのは連夜の方なのかぁ? うーむ……』

「私は最悪オリジナルに戻してもらえばいいですけど、連君の方は。どうしましょうか……」

『うーん……』

 あのような出来事があったにも関わらず、よーちゃんの声色はいつもと変わらない。いつもの調子のまま、陽さんとやり取りしている。

 ……だもんだから、俺はつい、聞きたくなった。

「なぁよーちゃん。君は、怖くないのか?」

 普通の人間なら、何度も襲撃されて動揺しないはずがない。というか実際俺がそんな状態だし、よーちゃんに至っては真白先輩に一度殺されているのだ。

 遠くから、意地悪な言い方をすれば安全圏から見ている陽さんが冷静なのはまぁ分からなくもない。なのに俺と同じ当事者であるはずのよーちゃんは俺と違って平然としていて、むしろこの状況にあっさりと適応してしまっている。その状況が俺は気になって仕方なかった。

「そうですね……。怖くないと言ったら、嘘になります」

「だ、だよな」

 よーちゃんも、怖かったのだと知り、少し安心した。

「『殺す気で仕掛けてきたら、絶対に躊躇っちゃだめ』」

「っ!」

 だが直後に出た言葉……あの高下 李緒の言葉によって、心臓の鼓動が早まる。

「私は、この意見に同意します。あの黒仮面は私達を殺す気で来ていました。だから今回、実践してみました。躊躇わず……やりました」

「た、躊躇わず……」

 よーちゃんの顔を見る。これはどや顔というやつ、なのか?

「はい。連君も、やるべきです。連君だって、もっと私みたいにできるはずです!」

「で、でもよぉ!」

 拳を握った右腕を顔前に掲げ、俺に信頼を寄せているような様子でどや顔で語りかけてくるよーちゃんを見て、俺はやり場のない気持ちが抑えきれなくなり、つい語気が荒くなってしまう。

「そんなん、俺には無理だよ! そんな……」

 俺は、よーちゃんみたいにはなれない。

 殺意を持って襲ってきた敵とはいえ、あの黒仮面に何度も真白先輩の笑顔が重なってしまったのだ。躊躇わないなんて、できるわけがない。現に手が震えたのだ……陽さんの声を聞いたら治まったけど、それでもだ。

 するとよーちゃんは目を閉じ、少し穏やかな声色でこう続けた。

「連君の言い分も十分理解できます。それが貴方の良い所であるとも、私は思います。でもあの人……李緒さんの言い分も、理解できる気がするんです。躊躇わなかったからこそ、私は貴方を助けられたから……」

「よーちゃん……」

 そうなんだよな。……それもそうなんだよな。よーちゃんの言葉が嫌でも正しいと分かってしまうからこそ、そんな風にしんみりした声色で言われてしまうと、自分が情けなくなってしまう。

『ヨウの言う通りだ、連夜。君の言い分は理解できるし、わたしだって同じ立場だったらそう反論するだろう。ただ、それでもし君の身に何かあったらと思うと……な。前にも言っただろう? 次に会うのがお葬式とか、絶対に嫌だって。だから、どうか自分のために、躊躇わないで欲しい。……わたしからも友達として、頼む』

「陽さん……」

 そんな風にお願いされるのに、俺は非常に弱い。

「……分かった。できるよう善処する。してみるよ!」

「その意気です! 連君ができるよう、私もサポートしますから」

『わたしもサポートするぞ。これからは、一緒に頑張ろう』

「あぁ。ありがとう2人とも。これからもよろしくお願いします」

 俺はぺこりとよーちゃんに頭を下げた。

 多分、次回の襲撃でも迷うだろう。

 でも……何とかしないといけない、と俺は2人の言葉を聞いて思ったのだった。


 その後はいつものように電車に乗り(といっても普段より30分遅れだったが)、俺達はいつものように裾野駅で別れ、そして俺は岩波駅で電車を降り、迎えに来た父の車に乗り、家へと帰った。

「遅くなったみてぇだが、何かあった?」

「1本乗り遅れて、30分沼津駅で待った」

「そうですか」

 父はそれ以上、聞いてくることはなかった。


 夕食と風呂を終えた俺は自室に戻った俺は時計を見る。大変なことはあったが、キララさんとの約束は覚えている。時計を見ると9時20分頃で、約束の10時までまだ時間があった。

(あれでもやって潰すか)

 時間があったため、久しぶりに趣味の弾幕STGをプレイし始める。

「……」

 無言でPCのディスプレイにかじりつき、キーボードでキャラを操作する。1プレイが大体20~30分程度なので、時間潰しにはちょうどいい。

(あっ)

 後半面、炎がモヤモヤと渦巻いている中を下へと降りていく灼熱のステージに現れた、猫の姿をした中ボス(STGで猫? と思うかもしれないが、猫としかいいようがない)が放ってきた弾幕に被弾してしまう。特徴的な効果音と共に、残機が1つ減る。

(ミスったなぁ……)

 普段はパターン化して上手いこと避けれているものなのだが、この日は疲れていたためか、いつもなら被弾しないような所でミスをしてしまった。

 最終的には1度もゲームオーバーになることなく何とか最終ボスまで倒すことが出来たものの、ちょくちょく普段やらないようなミスをしてその度にパターンが崩れ、正直ヒヤヒヤしっぱなしだった。

(ふぅ危なかった。何とかリカバリした。あー……)

 ヒヤヒヤさせられたが、帰宅途中に遭遇したアレに比べれば、まぁどうとでもないとは言えるか。

 時計を再度見ると、ちょうど夜の10時に差し掛かったところだった。

(よしよし、時間潰しできたな)

 俺はキララさんから貰った貰った番号に電話を掛けた。

 発信音が1分弱響いたのち、キララさんらしき声が聞こえてきた。

「はい……空星そらほしです」

「あー、その。もしもし……キララさん?」

「っ! この声は……ミドリ君? もしかして、聞いてくれた?」

「えーっと……」

 俺は将軍から聞いたことを包み隠さず話した。

「そっか。答えてくれなかったかぁ。というか、アタシから聞くよう頼まれたこと言っちゃったんだ」

「あっ。その……ごめんなさい! 言っちゃまずかったっすよね」

 隠した方がより突っ込んだ話ができたのではないか、と今更ながら思い始め、ついつい俺は謝ってしまう。

「いや? 問題ないよ? ミドリ君ならそういう風に聞くんじゃないかなって思ってたし。まぁでも隠し事はありそうなのは確かかぁ……話を聞く限りだと」

「そうですね。その……すみません、聞けなくて」

「いいよいいよ! 元よりアタシの方から無理に頼み込んだことだし。やっぱりアタシが何とかしなきゃダメってことだね。それが分かっただけでも頼んでよかった」

「そうですか……」

 電話越しのキララさんの声は明るく快活だ。……少しだけ残念そうな気配を声色から感じたため、何ともいたたまれない気持ちになった。

「んじゃ、この件はアタシの方でまた何とかしてみるから。また何かあったら連絡する」

「分かりました」

「葵ちゃんにもよろしくね。それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 俺はキララさんとの会話を終えると、部屋の明かりを消して、布団に入った。

(これで今日は終わりか。色々あったなぁ……)

 大変なこともあったが、ともかくこれで今日はおしまい。あれこれは明日の自分に任せ、俺は目を閉じた。

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