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炎の魔人編④『将軍の焦り』 

最近、晴斗の様子がおかしい。

帰り道で出会ったキララに、晴斗の様子を確かめて欲しいと頼まれた連夜。

彼の身に、いったい何があったのだろうか……。

炎の魔人編④『将軍の焦り』 

「あ、あのぉ……」

 キララさんから将軍の様子を調べて欲しいと頼まれた翌日、早速俺は食堂に行く前に将軍に声を掛けた。

「あ? ……何だ、碧か。お前から話しかけてくるなんて珍しいな」

 将軍は少し間を空けてから俺の呼びかけに答えた。

「そ、そうだな。えーっと……最近、調子はどうだ?」

「は?」

 将軍は訝しむような声を発する。

「い、いや……何か最近、悩んでることあるのかなぁ……って」

「悩んでいること?」

「ほらっ……最近、俺に話しかけてくることが無かったからさ! 何か、あったのかなって」

 言葉が途切れ途切れになる。……そうだった。俺はそもそも、人と会話するのが上手くない。違和感なく話ができる気がするヨウさんや陽さんと会話することが最近多かったから、忘れていた。

「……あぁ。ちょっと最近、忙しくてな」

 そんな俺の問いかけに対し、将軍は少し考えたかのような間を置いた後、ポツリと答えた。

「忙しい?」

「……まぁ、碧には関係のないことだ。おれ自身の問題さ」

 将軍の声色からは、明らかに『これ以上話しかけないでくれ』という意図を感じる。他者の気持ちを完全に理解することはできない。だからこれは、あくまで俺の推論だ。

「そう? そうか。……本当に、本当に大丈夫なのか? 何か悩んでるとか、ないのか?」

 とはいえ、キララさんに詳しく聞くよう頼まれている手前、話を打ち切られるわけにはいかない。俺は食い下がった。

「……なんでそこまで聞く? 普段、おれについて聞いてくることなんてなかったのに」

 俺の様子を将軍が訝しむ。まぁ実際訝しまれても仕方ないとは思う。

「いやそれがさ……実はキララさんに頼まれて」

 ここで俺は、つい口に出してしまった。ただ、しまったという気持ちはなかった。というか単に、食い下がる理由があることを素直に説明した方が話はスムーズに進むと思ったのだ。

「あぁ、そういうことか。一応言っとくが、本当に何もないんだ。……何にも、な」

「……そうか」

 将軍の答えはいまいち要領を得ない。本当に話すつもりが無いというのは確かなようだ。

「まぁでもあれだな。キララに心配させちまってるのはあれだ。今度おれの方でキララには謝っておく。……巻き込んじまって悪かったな」

「え? いや、でも……」

「おっと、早く行かないと飯食う時間が無くなっちまう。んじゃな!」

「あっ、将軍! ……うーん」

 将軍はまるでまくしたてるように話を打ち切り、そのまま教室の外へと出て行ってしまった。

 明らかに、何かを隠している。そんな気がする。質問すると話すスピードが露骨に速くなっており、焦っているような、そんな気配がした気がする。

 ただ、それを聞き出すには、俺の交渉スキルはいささか力不足であったようだ。そのことだけを再認識する展開となった。


「ってな感じで、悪い、聞き出せなかった!」

「そうですか……」

「何か隠してるのは間違いねぇと思うんだが、それが何かを知るには、俺の交渉系技能がいささか足りなかったようだ……」

「仕方ないですね。でも、隠し事があるのは間違いなさそうですね。キララさんにはそういう風に報告しておいてください」

「分かった……」

 そんな風に自習室でやり取りをしていると、突如自習室の扉を開ける音が響く。

「おーい、二人とも! 元気にやっているかぁ?」

 扉を開けて入ってきたのは八雲先生だ。

「こんにちは、先生」

「こんにちは」

 俺達は軽く会釈した。

「君達さぁ……なんか危ないことに首突っ込んでたりしてないよね?」

 八雲先生は入って来るや否や、胸ポケットからメモ帳を取り出し、その一点を凝視しながら俺達に尋ねてきた。

「いや……特に何も?」

「どうかなされたんですか?」

 実際の所、首は突っ込んでいない。首を突っ込まされたことは……何度かあったが。

 なので、俺としては特に違和感なく否定の回答ができた。ヨウさんの方も同じようだった。

「いや、そうならいいんだけど……くれぐれも気を付けてよね? 最近物騒だしさ。それに真白さんのこともあったから……ね?」

「「……」」

 なんとも、言葉が出ない。先生は叱るつもりではなく、単に心配しているのだということが、声色から伝わってきたからだ。

「ま、そういうことだから。それじゃ、頑張ってね。またテスト問題用意するからさ!」

「……分かりました」

「はい、八雲先生」

 俺達は教室から出ていく先生を見送る。

「……」

「……」

 だが、何とも気まずい気持ちになる。何も悪いことはしていないのであるが……。

 結局その日はそれ以降、俺達は無言で自習に取り組んだのだった。


 そしていつものように、港町に黄昏が訪れる。

 神無月の夕暮れどきは、心地いい塩梅の涼しげな風を運んでくる。

 そんな風情を感じたような気になりながら歩いていると、すぐ後ろから声が聞こえた。

「思ったのですが、連夜君、『ヨウさん』って、呼びづらそうにしてますよね?」

「えぁ?」

 ヨウさんの言葉にどう反応していいかわからず、素っ頓狂な声が飛び出てしまう。

「何というか『ウ』を強調してますよね? 私の名前を呼ぶとき、いっつも」

「あぁー……。まぁ、そうだな。丁寧に言おうとすると、どうしてもそうなるというか。ほら、『よーさん』になっちゃうじゃん?」

 ヨウさんからの指摘を受け、彼女の言いたいことをようやく理解する。ヨウさんの名前は気を付けて発音しないと「よーさん」になってしまう。ちょっとそれは失礼ではないかと個人的に思っていたため、呼びかけるときに気を付けていた。

 まぁ正直な所、彼女に指摘されるまで別段呼びづらいという気持ちは無かったが……改めて指摘を受けると、確かに呼びづらい気がしなくもない。

「ですよね? であれば……いっそ『よーちゃん』っていうのはどうでしょうか?」

「……は?」

 突然出てきたワードが、俺の思考を混乱させた。

 ヨウさんが『それ』をどういう意図で言っているのか、全く理解ができない。

「だから、『よーちゃん』です。私の事を、これからは『よーちゃん』と呼んでください」

「よ、よーちゃん!?」

「はい」

「え……その……いいの?」

 彼女の方から言ってきたのだからいいに決まっているのに、俺はそれでも聞かずにはいられなかった。

「かまいませんよ。代わりに私も連夜君のことを『連君』と呼ばせてもらいますから」

「あ……わ……分かった。そ、それじゃあこれからはそう呼ぶ。……よーちゃん」

「はい。よろしくお願いします。連君」

 俺は何とかぎこちないながらも平静を取り繕う。

 正直、女の子をあだ名みたいな呼び方で呼ぶのは、めっちゃ抵抗感がある。

 だが、向こうから呼んで欲しいと言われたのだ。呼ぶしかないだろう。

 そう……これは間違っていない。おかしなことではない。

 そうしきりに心の中で言い聞かせていたが、それを無意味にする出来事が続け様に起こった。


『『よーちゃん』か。よかったな。それに『連君』か……。わたしもそろそろ『連夜』と呼ぶとするかな』

「……えぁ?」

 平静を保とうとする心の動きをさらに混乱させるような声が、何処からか響く。

 そしてその声は聞き覚えのある女性の声で……というかこの声って、陽さん!?

『あー。あー。本日は……曇天なり。聞こえているか?』

 陽さんと思われる声は、何やら通信チェックのような言葉を発している。

「き、聞こえます」

 その様子に対し、俺は思わず返答してしまう。

 聞こえている。聞こえているが……何で陽さんの声が聞こえるんだ?

「聞こえますよ、オリジナル。問題なく通話できています。……カメラの方は?」

 だが、そんな疑問を口に出そうとする暇もなくヨウさん、じゃなかった、よーちゃんがその声に語り掛けた。

『カメラも問題ない。目の前の景色……目の前には連夜が居るな。鮮明に見えてる。通信状態も問題ないようだ』

「そうですか。成功ですね」

『だな。初めての運用なんでどうなることかと思ったが、上手くいってよかったよ』

「……」

 ほとんど同じ2つの声がやり取りをしているのに対し、何もできずに立ち尽くしていると。

『なんで陽さんの声が聞こえるんだ? ……そう思っているだろう? 連夜』

「ぬ!?」

 俺に対するものであると思われる問いかけが聞こえてくる。

 その問いかけに対し、俺は思わず一音しか口から出せなかった。

『ぬってなんだ? ぬって』

「いやいやいや! ……陽さん、だよな? 何で?」

 正直まだ理解が追い付かない。

 そんな状態で問いかけられても、まともな返答ができる状態に俺はまだなかった。

『それはだな……そうだ! ヨウ! その、例のものを』

「了解」

 陽さんの声を聴いたよーちゃんは、俺に何かを手渡す。

「これを耳にどうぞ」

「あ、ああ……」

 渡されたものをよく見ると、コードが付いていないイヤホンの片方のような、あるいは耳に付ける補聴器のような……そんな形をしたものだった。形状的に左耳に付けられそうだ。俺はよーちゃんの指示に従い、それを左耳にはめた。

『どうだ? わたしの声は聞こえているか?』

 すると、左耳に付けた装置から先ほどよりも鮮明に陽さんの声が聞こえてきた。

「は、はい。これって……無線か何かすか?」

 陽さんの声を装置越しに聞いたあたりでようやく思考がまとまり、言いたいことが言えるようになる。

『ああ。そうだ。先の件を踏まえて、双方向無線機と通信機能付きのビデオカメラを……ヨウの制服に仕込んでみたんだ。君が付けたのは無線機の子機で、わたしの声が聞こえるようになってる』

「私の右耳にも同じのを付けてます。一応親機から聞こえはしますが、騒音などもあるので」

 よーちゃんは右耳を俺に向ける。俺が左耳に付けている装置の、右耳版と言ったものが付けられている。

『それにしても、流石は九恩院(くおんいん)グループの新製品! 元は軍用品というだけあって性能がとっても高い! 通信機もそうだが、カメラもこんなに遅延無しでリアルタイムにくっきり映るとは! これに比べたら、家電量販店で買えるのは玩具だな。いやぁ大枚はたいた甲斐があったな~』

 陽さんは何やら一人でうんうんとうなっている。

「無線機の本体は、これです」

 よーちゃんはブレザーの胸の内ポケットから、黒い機械を取り出して見せてくれた。無線機はよくあるトランシーバーのような形をしており、俺が持っているガラケーより二回り大きい位の大きさだった。よく見ると九恩院グループ(注:ヒノモト国最大の企業グループで、色んな製品を作っている)のロゴマークが入っている。試しに手に持たせてもらったが、ごつい見た目相応の重さがある。

「そしてカメラは、これ」

 よーちゃんは首元の蝶ネクタイをずらして見せる。するとそこには隠れるように黒い小型の機械が取り付けられている。こちらは見る限り軽そうだった。

「なるほどな……。陽さんは、今どこに?」

『そりゃあ、裾野の家にいるが?』

「だよな……」

 陽さんの自宅がある裾野からここ沼津までとなると、おおよそ9~10kmくらいの距離だ。その距離でこうやって通信できるとは(陽さん曰く鮮明な映像も見えるらしい)、流石九恩院グループといったところか。

『これでこいつの身に何かあっても把握できて、安心という訳だ』

「そうですね。オリジナル」

「ふむふむ。これが陽さんの秘策ってことか……いや、ちょっと待てよ?」

 これって、陽さんがよーちゃんの行動を逐一監視できるという事じゃないか? そんなん、いいのか?

「なぁ陽さん。前に言ったと思うが、よーちゃんに君の」

「それは分かっている。分かっているぞ、連夜。この通信はそっちの、ヨウの方から操作しないとできないようになっている。わたしの方からむやみやたらと干渉するつもりはないさ。ただ先の件もあったし、何かあったときに状況を共有できた方が良いというのも事実だからな。最悪、わたしの方から安全なこっちに呼び戻すことだってできるだろう?」

 俺の疑念に対する陽さんの回答は、一応それを払拭する内容ではあった。後半の主張も実際に体験した身である俺的に正論であると思う。となると、あとはよーちゃんがどう考えているかの問題だ。

「ふむ……よーちゃんはどう思う?」

「私としてはこの状況に反対する理由はないですよ? まぁ、私が開きたいときに、開くので。……オリジナルに見られたくないものも、見せるつもりは、ないですので」

『ふっ。手痛いな……』

「そうですね。でも、私としては……オリジナルに外の世界を、私が見ている景色と同じ景色を見て欲しいと思いますし、こうして連君と交えて話せるのも、やってて楽しいです。だから、これでいいと私は思います」

『ヨウ……』

「そっか。分かった」

 よーちゃんがそう言うなら、とりあえずこれで良しとしよう。そうしよう。

「んじゃ、引き続きよろしくってことで」

『ああ……っ!?』

 俺の言葉に返答した直後、陽さんは驚愕の声をあげる。

「ん? どうした?」

「『連君(連夜)、後ろっ!』」

「あ……うぉぁ!?」

 慌てた様子の2人の声に促されて後ろを振り向いた俺は、眼前に現れた『それ』に驚き、即座に後方に飛び跳ねる。そしてよーちゃんの真横に着地する。

 そこには見覚えのある黒いローブに、黒い仮面を付けた人物が立っていた。位置的に、先程は俺のすぐ真後ろに立っていたようだ。俺の後方が見えていたはずの陽さんやよーちゃんが突如驚いたことから、彼女達が気付かぬ間に現れたのだろう。

「怪人:黒仮面……」

『なるほど。こいつがか』

 よーちゃんの言葉で、陽さんは眼前の存在が何なのかを理解したようだ。

「真白先輩……じゃないよな? 一体誰だ!」

 俺は思わず問いかける。

「碧、連夜……」

 するとそこから聞こえてきた声は、やはり俺の知っている声ではなかった。声はボイスチェンジャーのようなもので加工されており、おそらく元は高い声であろうということ以外、その主を突き止めうる情報は無い。声に抑揚はなかった。

「なんで俺の名を?」

 こいつも俺の名前を知っているようだ。先日の男達といい、名乗った覚えのない奴らから名前を呼ばれると、正直怖さしかない。

「お前を……消去する」

 だがそいつは俺の問いかけをシカトし、右腕を取り出して掲げる。右腕には腕輪……真白先輩が付けていたのと全く同じものが付けられていた。

 直後、右腕の腕輪が光を放ち、同時に周囲の風景……南北に走り、左手に並木と車道が、右手に工場が見える大通りの歩道の景色が歪み始めた。

『これは!?』

「これは……先輩のときの!?」

「これが?」

「ああ……」

 俺達が動揺する間もなく風景が歪んでいき、別の物に置き換わっていく。

「っ!」

 俺は咄嗟に両腕を構える。身体に青いオーラが現れた。

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