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炎の魔人編②『『黒い悪魔』の忠告』

目覚めた力によって襲撃者達を退けたヨウ。彼女の力で一命をとりとめた連夜。

その様子を見物していたと思われる1人の女性が、彼ら達の前に現れる。

炎の魔人編②『『黒い悪魔』の忠告』

 ビルの影から拍手が響き、そして、そこから1人の人影が現れる。

 それは、1人の女性であった。女性は黒い服を着ており、髪は黒色のサイドテールだった。

「ぱちぱちぱち……ってね」

 わざとらしい声色と共に、女性の拍手の手が止まる。

「あ、あんたは……?」

「誰……?」

 俺達が疑問を呈する間もなく、女性は一言こう告げた。

「さて。初めましてで悪いけど、貴方達の力……『魔術』の力、見せてもらうわよ!」

 女性は袖から青い球体のようなものを取り出す。そしてそれを、真上に投げた。

 すると球体は俺たちの頭上で弾け、同時に青い、ドーム状の半透明な壁のようなものが生成されていき、俺達と女性を包み込む。

 気が付くと、俺達は半径10m程度のその青白いドームのような何かに閉じ込められていた。

「なっ!?」

「これは……」

「さて。始めましょ?」

 女性は俺に右手を構える。すると右手から黒い炎が飛び出し、自分達の方に向かってくる。

「……っ!?」

 俺は目の前で起きた現象に対応できず、まごついてしまう。

「はぁーっ!」

 だが、傍にいたヨウさんはそれを見て咄嗟に両手を黒い炎目がけて構えた。すると彼女と俺を炎から遮るように、目の前に石の壁が生成される。生成された石の壁によって、黒い炎は防がれた。

 一体、何が起きているのか。

 女性がいきなり手から黒い炎を出してきて……理解が追い付かない。ヨウさんが咄嗟に反応して事を起こしてくれていなければ、俺達はあの業火に瞬く間に包まれ、物言わぬ蝋燭と化していただろう。

「……へぇ。ならっ! ふんっ!」

 女性は両手を石の壁を狙うように合わせる。

 直後彼女の両手から大きな黒い火球が発射される。

 禍々しい色をしたそれは石の壁に命中すると爆発し、壁を粉々に破壊した。

「きゃっっ!」

「グァァッ!?」

 壁の破片が俺達の方に飛び散ってくる。破片が体の各所に当たる。ブレザーが傷だらけになり、右頬に痛みが走る。

 ヨウちゃんの方を見ると、膝に手を当て、口元を手で拭っている。その表情は……眉間にしわが寄っている。

「ほらほらっ! さっさと来なさいな!」

 だが休む暇も与えないと言わんばかりに、女性は俺に対して火の玉を数発発射してきた。

「ハァーっ!」

 俺はヨウさんを庇うように立ち、そして両手から吹雪を出して応戦する。

 だが、黒い火球達は吹雪を押し返す。俺も力をこめるが、火球達は吹雪を瞬く間にかき消し直進し……それぞれ俺の衣服に触れて爆散した。

「グワーッ!」

「くっ!」

 爆風で俺の体が宙に浮き、後方に吹き飛ばされる。

 熱さと共に、ペットボトルが焦げたときのような匂いを、感じる。

 身体をかがめ、咄嗟に両手で身構えると、身体に青いオーラが現れる。

「グフゥ!」

 直後、俺の身体は背後のドーム状の障壁に激突。

(ッ……)

 青いオーラのおかげだろうか、衝撃の割にそれほど痛みは感じられなかった。

「連夜君!」

 俺の名前を呼ぶヨウさんの声が前から聞こえる。俺が前に立って火球を受けたため、彼女は吹き飛ばされることこそなかったようだ。

「弱い吹雪ねぇ……ふんっ!」

 女性はヨウさんに対し火炎放射! 黒い炎が迫るが。

「ヨウさん!」

「っ!」

 直後、彼女の身体は地を離れる。

 脚が空に舞い、スカートがひっくり返る。だが彼女はそれを意に介すことはない。

 まるでアクション映画の一場面か何かのようだった。ヨウさんの身体が縦にクルっと回転しながら宙を舞い、迫る炎を避ける。

「ふんっ!」

「はぁーっ!」

 女性は間髪を入れずに火球を宙に舞うヨウさん目がけて飛ばしてくる。だがヨウさんは上下逆の状態で両手を構え、手から石柱を発射。

 石柱は黒い火球に当たって爆発し、それを相殺。

 直後ヨウさんはすたっと着地し、スカートのほこりを払う。

 この間、僅か数秒の出来事だった。

(すげぇ……)

 俺は思わず見とれてしまう。俺にはとてもできないような動きだった。

「ふんっ!」

 だが、のんきに見とれているような時間は無い。女性は俺に対し火球を1発放つ。俺は咄嗟にグルグルと地面を転がり、何とかそれをかわす。そして地面に両手をつき、急いで立ち上がる。

 見ると、ヨウさんが両手から石柱を次々と発射しており、女性がそれを黒い火炎放射で1発1発打ち消している。

(ヨウさん……俺も!)

 ヨウさんだけに戦わせるわけにはいかないと感じた俺は、両手を女性に向け力を溜める。

 だが、女性と両手が重なった瞬間、俺の眼前に一瞬見知ったお下げの少女の姿がよぎる。

(……)

 力が溜まらず、俺の手が止まった。

「ふんっ!」

 女性は右手1つで石柱を相殺しながら、左手で俺目がけて大きな火球を発射!

「ちぃっ!」

 俺は横幅飛びの要領で跳躍! それをギリギリかわす。

 火球は俺の後方、青い障壁にぶつかって爆散した。

「連夜君! 攻撃してください!」

「あ、ああ……」

 直後、ヨウさんが俺に対し指示を飛ばし、同時に両手から女性目がけて石片を発射。

 女性は手から風を発生させ、石片を吹き飛ばして受け流す。

(……)

 俺はヨウさんの指示に従い、再度女性に両手を向ける。今度は大きな氷柱が生成される。

 ……氷柱は、確かに女性目がけて発射された。

 だが発射直前、俺の手元は少し下向きにぶれていた。

 氷柱は斜め下に飛んでいき……女性の足に命中した。

(当たっ、た……)

 一撃が入る。同時に、胸の中に何とも言えない複雑な気持ちが湧きあがる。

「ふぅ……」

 しかし、当てられた女性の方はその一撃を、全く意に介していないようだった。

 そればかりか、俺に対しこんなことをのたまってきた。

「君さぁ。もっと本気だしなよ? はぁーっ!」

 女性は大火球を発射する。

「っ!」

 俺は咄嗟に両手を構え、さっきより強く力をこめた。

 すると両手から青いサークルが出現し、巨大な氷塊が吹雪と共に放出される。放出された吹雪と氷塊は俺と女性の中間地点で大火球とぶつかり、ぼんっ!という音と共にそれを打ち消した。

「へぇ……やればできるじゃない」

 大火球を相殺した俺を見て、女性は感心するような声を漏らす。

 だがその隙を見逃さないかのように、ヨウさんが女性の背後から石柱を放った。

「甘いっ!」

 すると女性の身体に、赤いオーラのようなものが現れる。

 その直後、女性は背後に回し蹴りを繰り出し、飛来する石柱を蹴り1つで木っ端微塵に粉砕した。

「なっ……」

 不意打ちを止められたヨウさんから、動揺の声色が漏れる。

「ふんっ!」

 そして振り向いた女性は即座にヨウさん目がけて大火球を発射し……。

「はぁ!」

 俺に対してはもう片方の手で火炎放射をかましてきた。

 俺は咄嗟にさっき同様青いサークルを展開し、吹雪と氷塊で迎撃する。

 するとさっきと違い、氷塊が黒い炎によって瞬く間に溶解、そして一瞬で加熱される。

 氷塊だったものは多数の泡を発しながら爆発し、周囲に猛烈な湯気が放出された。

(うわっ……)

 凄まじい湯気によって、視界が真っ白になる。

「ふんっ!」

「ガァッ!」

 刹那、湯気が左右に切り裂かれ、目の前から女性が飛んでくる。

 高速で突っ込んできた女性の蹴りを受け、俺は後ろに吹き飛ばされ……そのまま青い壁に叩きつけられ地に伏した。

(ぅ……)

 青いオーラの効果が切れていたのか、今度は胴体に強い衝撃と痛みが走る。頭をぶつけなかったのが幸いか。

 次第に、湯気が晴れていく。

 俺はふと、地に伏した状態でヨウさんがいたであろう方を見る。

「はぁ……はぁ……」

 そこには膝に両手を当て、肩で息をするヨウさんの姿があった。ブレザーのあちこちは焦げ、肘やひざに赤い火傷らしきものが生じており、痛々しい姿だった。

「ヨウ、さん……」

 声を掛けようとしたとき、彼女の身体から白い光が溢れ出す。白い光は、彼女の傷を癒していく。

 ヨウさんの様子を見た俺は、痛みをこらえながら、何とか立ち上がる。

 そしてそれと同じタイミングで、それまで俺達を覆っていた青い半透明のドーム状のものにひびが入り、そしてガラスが割れたような音と共に粉々に砕け散った。

(っ……)

 俺は両手を組み、力をこめる。白い光があふれ、痛みが引いていった。


「……50点、ってとこかしら」

 白い光に包まれている俺達を見て、女性はそう言い放った。

「50、点……?」

「そ。今の貴方達じゃ、ちょっと力も仲間も少な過ぎね。色々足りてないって感じ」

「は……?」

 なんだよそれ。

 俺が疑問の声を漏らすと、女性は更に畳みかけるように口を開いた。

「私からいくつか、忠告しておいてあげる。まず1つ目。『防御魔術は使い得。あるのとないのとでは大違い』。魔術の素養を持つ人間は普通の人間より打たれ強くなるけれど、過信は禁物よ。攻撃を受けてから使うようじゃ遅い。戦う前くらいにはもう掛けとかないとね?」

「……」

 は? 防御魔術?

 防御魔術というのは、あの青いオーラのことだろうか。確かに最後は切れてて滅茶苦茶痛かったが……。

 言い返す暇もなく、女性の言葉は続く。

「次に2つ目、『相手が殺す気できていたら、絶対に躊躇っちゃだめ』」

「……っ!」

「貴方達には、まだ躊躇いが見える。私が殺す気で来ていたら……貴方達死んでたわよ?」

 女性は叱るような声色で、俺達に語り掛けてきた。

「……躊躇い、って。んなん当然だろ! 躊躇うに決まってんだろ!」

 ようやく隙が生まれ、俺は言葉を差し込むように返す。

「いくら凄い力を持っていたからって、それを好き勝手に振り回していい理由なんてねぇ!」

 こんな力、人間に対して使用したらどうなるか……。

 真白先輩の力で倒れた男の姿や、自分のすぐ隣で消えたヨウさんの姿が脳裏によぎった。

「相手が、って言ってるでしょ? 私が言いたいのは、向こうが仕掛けてきたら、躊躇わずに力を使って抗え! っていってんの」

「それでも! 人間相手にこんな物騒な力で躊躇わずに攻撃するなんて、できるわけねぇだろうが!」

 できるわけがない。というか……俺にはそんなことできない。俺は女性に抗議した。

「……」

 俺と女性の問答を黙って見ていたヨウさんは、胸に手を当て、何かを考えこんでいるようだった。

「あそう? じゃもう1つ忠告しておくけれど……その力を手に入れてしまった以上、戦いから逃れることは、できないわよ? せいぜい肝に銘じておくことね」

「はぁ……?」

 困惑する俺を尻目に、女性は身体のほこりを払う。彼女の衣服は傷ひとつついていない。

 女性はほこりを払い終えると、俺達に背を向けた。

「あ、最後にもう1つ。この周りの有様だけど……私がやったってことにしとくから! うちのクライアントが対処するんで、貴方達はまったく気にしなくていいわよ? んじゃ!」

 そしてそのまま、どこかへ向かって歩き出していく。

「あっ、おいっ! ちょっと待てよ! あんた誰なんだよ!?」

 いきなり現れたと思ったら俺達に襲い掛かってきて、そのうえ説教までかましていきやがった女の背中に、俺は叫んだ。

「……李緒」

「え?」

「私の名前は、高下(たかした) 李緒(りお)よ。また会いましょう? 水属性使いのミドリ君と……地属性使いの『ドッペルゲンガー』さん?」

 李緒と名乗った女性は、そのまま夕陽に向かって歩き去っていった。


「大丈夫ですか、連夜君」

 女性が居なくなった後、ヨウさんが声を掛けてきた。

「あ、あぁ。何とか大丈夫。ヨウさんは?」

「私は大丈夫ですが……制服はもうダメですね。オリジナルはともかく、叔母さんにどう説明したものか」

「……そうっすね」

 こっちも父に対する言い訳を考えないといけない。それに、さっき頭を強く打った際によくない症状がでていたので、念のため病院にも行った方がいいだろう。

「彼女、私の事を知ってましたね? それにあの黒い炎の力……」

「俺の名前も当たり前のように知ってた。高下、李緒。一体何もんなんだ……?」

 俺の名前に加え、ヨウさんの正体に気付いているようだった。ただものではないのは間違いない。

「分かりません。とりあえず、周りのことについては彼女が何とかすると言っていましたが……」

「説教かましてきたから、多分敵じゃないとは思うけど、ひとまず信じるしかねぇか……」

 俺達は李緒という女性に疑問を呈しながら、その場を後にしたのだった。


 結論として、その後は色々大変だった。

 父に転んで後頭部を強く打ったため病院に行きたいことを伝え、岩波駅まで車で迎えに来てもらった。父は焦げた制服姿の俺を見た途端、案の定何があったのかと問い詰めてきたが、家庭科の授業で誤って焦がし、火傷しかけたと伝え、何とか誤魔化した。『ったく、おめえはとろいんだからもう!』と父は怒りと呆れが入り混じったような声色で返してきたが、頭を強く打ち、吐き気や痛みがあることをメールで伝えていたこともあり、それ以上は追求せずそのまま病院へ直行してくれた。

 病院では少し待たされた後にCT画像を撮った。幸い頭部に出血や骨折などの異常はなく、ひとまず様子を見て、異常が見られたらまた来てくださいということになった。バットで後頭部をフルスイングで殴られたにもかかわらず、である。白い光は治癒の力……高下 李緒の言葉を借りるなら「治癒魔術」で確定とみてよさそうだ。

 ちなみに、今回の被害は警察には言っていない。魔術について説明しても信じてくれるか怪しいし、あの道路の損壊のことについて学校側に連絡が行ってしまうのは困るため、俺は口を噤むことにした。

 病院に行ったこともあり、家に帰ったのは普段より少し遅くなってからのことだった。


「はぁ……」

 普段より遅い夕食と風呂を済ませた俺は、自室の布団で寝転ぶ。

(厄日ってレベルじゃねぇぞ!?)

 いきなり見ず知らずの男達に殺されかけたうえ、それが終わったと思ったら黒い炎を操る李緒とかいう女に襲われ、散々な目にあった。

(何だよこれ何だよこれ何だよこれ!)

 誰かが、俺を狙ってる?

 全く覚えがない。心の中に不安と困惑の気持ちがあふれていく。

(ふざけんなよもぉーっ!!!)

 拳をプルプルと震わせていた、そのときであった。


 突如、携帯端末の着信音が鳴り響く。見ると知らない電話番号から電話がかかってきている。

(何だこれ?)

 知らない番号には、出ない主義だ。俺は電話をスルーする。

 すると、またかかってくる。……やけに長くかかってくる。

(何だ? 用があるんか? こんな遅くに何なんだよ……)

 俺は訝しみながら、電話を取った。

「もしもし。誰ですか?」

「ああ。わたしだ。陽だ。夜遅くに失礼する」

「あっ、陽さん!? す、すみません……」

 電話の相手は、ヨウさんのオリジナルである陽さんであった。

「大方、知らない番号だから無視したんだろう? わたしもよくやるよ」

「ご、ごめんなさい……」

 やらかした。よくよく考えると、ヨウさんと陽さんは連絡を取っているらしいので、違う端末を使っていると考えるのが自然だ。前訪問した時に連絡先交換をしなかったのは失策だった。

「まぁ、わたしも連絡先を君に教えなかったからな。違う端末を使っているってことも話してはいなかったし、今回はおあいこということで。んで、電話番号はこの番号で、アドレスは後であいつにメールで送らせるんで、登録しといてくれよ?」

「わ、分かりました……」

 後でちゃんと登録しておかないと。

「それで、要件は何なんです?」

「あぁ。あいつから話は聞いたぞ? 色々と大変な目にあったそうじゃないか」

 陽さんは、ヨウさんから今日起きたことを聞いていたようだ。

「えぇ……まぁ何とか生きてます。あと、あの白い力、治癒の力で間違いなさそうです」

「そうか。見立ては合ってたか。まぁ、君が無事なら何よりだよ……」

 電話越しの陽さんの声には安堵の気持ちが混ざっている。彼女は俺のことを心配してくれていたようだ。

「ですね……。あ、そうだ。ヨウさん、何か力が使えるようになったみたいなんですけど、陽さんの方は何かありましたか」

「力と言うのは、魔術の事か?」

「あ、はい」

 陽さんが魔術という言葉を違和感なく使いこなしていたため、俺は少し驚いた。

「そうだな。……わたしの方には、特に何も出てないな。力……魔術の力を使えるのはあいつの方だけだ」

「そうですか。てっきり真白先輩みたいに2人で使えるものかと……」

 てっきりオリジナルの陽さんの方も連動して力に目覚めているのかなと思っていたが、どうやらそういう訳ではなかったようだ。

「わたしも当初はそう思ったんだがな……。これはわたしの推論だが、おそらく真白先輩の場合はオリジナルの方が魔術の力に目覚めていたのではないかと思う。分身体はオリジナルの状態を反映するが、その逆はない。魔術の力についても、似たようなことが言えるのかもしれない」

「なるほど……」

 モエさんが使っていた魔術の力は、オリジナルである萌衣さんの力だったという訳か。

「一応、あいつを消して出し直した後にもう1回試してもらったんだが、あいつの力はそのままで、わたしが使えないのは変わらなかった。あの力は……あいつ固有のものだ」

「……そうっすか」

 オリジナルである陽さんが持っていないものを、ヨウさんは手に入れた。その話を聞いて、何とも言えない不思議な気持ちになった。

「それにしても、わたしが見ていないところで2度に渡ってあいつが酷い目にあうとはな……」

「その……すみません。俺が、しっかり対応できていれば」

 陽さんの声色からは、顔をしかめている彼女の様子が浮かんでくる。

 1回目は咄嗟のことで対応できず、2回目は逆に助けてもらうことになるという情けない有様だった。友達を守ることが出来ず、ぶっちゃけ慚愧に堪えない。

「一応言っておくが、君は何も悪くないぞ? むしろ2回も殺されかけて、わたしが言うのもなんだがお祓いにでも行った方が良いのではというレベルじゃないか」

「……そうですね」

 陽さんは気にしていないようだが、俺はどうしても気になってしまう。

「とはいえ、これは何かしらの対策が必要そうだな……ちょっとわたしの方で考えておくよ」

「分かりました。その……お心遣いいただき、ありがとうございます」

 おそらく、俺のことを心配して電話をかけてきたのだろう。何となく、そんな気がした。

「どういたしまして。それで、あいつの方はわたしで何とかするとして……君は君で十分に気を付けろよ? 次に会うのがお葬式とか……絶対に嫌だからな……?」

「……はい」

 電話越しの陽さんの声は、心なしか震えていたような気がした。


(お葬式、か)

 陽さんとの電話の後、布団の上に寝転がりながら、物思いにふける。

 もし原型をとどめぬほどにバラバラにされて海にばらまかれてしまっていたら、おそらくまともな葬式を開けるかも怪しい。最悪白木の箱に浜辺の石ころ1つ……とか。陽さんの過去については詳しく聞いていないが、自身も事故にあって1人残された彼女がどんな葬式を迎えたのかを考えると察するに余りある。

(葬式か……葬式はなぁ……)

 ふと、自分の記憶の直近にある、母の葬式のことを思い出した。


 母の終わりの時は、本当にあっけないものだった。

 早朝、父に叩き起こされ、朝香と共に病院へと向かう。

 病室で末期の母は、静かに眠っていた。誰も彼も、泣くことはなかった。

 そして眠る母の傍にしばらくいると、医師や看護師がぞろぞろと入ってきて、母の死を宣告した。

 本当にあっけなく、死んだ。というか、傍にいたのに死んだその瞬間にまるで気付かなかった。

 死亡の瞬間を描写しているフィクションの数々は全くの誇張だったのだと、そのとき理解した。


 病室の外を出ても、母の遺体が病院から葬儀場に運び出されても、まだ母が死んだのだという実感がわかなかった。

 ほとんど人が居ない葬儀が始まっても、まだ不思議な非日常の出来事が起きたくらいの感覚だった。

 だが……母が斎場で火葬され、火葬が終わって斎場の中に入ったとき。

 骨がいくつも散らばる中に1つ……丸い骨、真っ白な頭蓋骨の後ろ姿がぽつんとあるのを見た瞬間……俺は強い動悸と脱力感に襲われた。

 そしてそのまま納骨が終わり、家に帰るまで、動悸と脱力感は治まることが無かった。

 ……あの頭蓋骨を見た瞬間に得た実感、体感を、俺はいまだに忘れることができない。


(……)

 そういえば、先輩の葬式はどうなったんだろうか。多分『萌衣』さんの方はちゃんと弔われたんだろうが……。

(……死を忘れるな……か)

 俺は部屋を出て階下に降りると、珍しく家にある仏壇に手を合わせたのだった。

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