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The Memoirs 30th (回顧録 第30部)「反逆の魔術師、あるいは彼と私と『わたし』の物語」  作者: 語り人@Teller@++
第一章「序章、怪人:黒仮面編」
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怪人:黒仮面編⑤『陽を日向に連れ出して』

連夜と陽は学校に来た経緯、家庭環境、そして自分の持つ力について意見を語り合う。

そんな中、陽は連夜にあることを頼みこむ。

これは彼と私とわたしの物語。その始まり。

怪人:黒仮面編⑤『陽を日向に連れ出して』

 俺はもう1度、陽さんの言葉を聞き返す。

「え? 今……何と?」

「何って、わたしはもう、あいつにわたしが持っている全部のものをあげようと思っているんだ。家族も、財産も……全て。彼女が『葵 陽』として生きていけばいい。そう考えている」

 陽さんはあっけらかんとした様子で答える。

「なぜ?」

「なぜって、そうだな……。わたしはあいつを大事に思っているから、だな」

「大事に、思っている?」

 陽さんは続ける。

「もう知っているとは思うが、わたしは2年前に大きな事故にあった。そこで両親と、弟を失った。以来わたしはずっと引きこもりの日々だ。……もう、何もする気が起きなかった」

「……」

「わたしはあの事故以来、ほぼ生きているだけの存在だった。毎日こうして家にこもり、親の遺産を食いつぶすだけの日々。『なんで、今もわたしは生きているんだろうな』って思ってた。存在そのものが、生き恥じゃないかと」

「生き恥って、そんな」

「生き恥以外の何だというんだい!?」

「っ……」

 陽さんの声にドスが効き、嫌そうな声色が混ざる。その声色を聞いた俺は思わず怯え、身体は強くこわばった。

「だが、そんなとき、わたしの前にあいつは現れた」

「ヨウさん……か」

 突如現れた、自分と瓜二つの存在。

「あいつはわたしなんかよりずっと優秀で、明るくて、わたしよりずっと『陽』だった。そんな彼女を見たとき、わたしの中には、『この光り輝く存在を守りたい、支えていきたい』という気持ちが湧いたんだ」

「……」

 陽さんの声色は明るくなる。だが……。

「それ以来、あいつはわたしの生きがいになった。あいつのために何でも揃えて、自由に使えるお金もあげて、あいつが困っているようなら何でもサポートした。……そしてあいつはますます輝いていった。光の道を歩いて行った。わたしにとって、かけがえのない存在になった」

 彼女の声の明るさが増せば増すほど、俺の耳に薄暗い何かが注ぎこまれていくように感じる。

「……」

「そして決めたんだ。あいつに全部あげようと」

 身体のこわばりが止まらない。

「……それで、そうするとして、陽さんはどうするつもりなんです?」

 ヨウさんが「葵 陽」として振舞うとして、陽さんは?

「もちろん、あいつが存在し続けるためにはわたしの存在が不可欠だ。わたし自身は自分を大切にして、見えないところから……あいつが『居続けられるようにする』つもりさ。『葵 陽』のプロデューサーとして」

 陽さんの顔を見る。多分、笑っている。微笑んでいる。

「プロ……デューサー……?」

 声色はとても明るいが、彼女の言葉を聞くたび、俺の心の中に違和感が溜まっていく。

「わたしはこれでいいんだ。あいつが幸せな生活を送り、わたしはそれを陰からプロデュースする。あいつが幸せなら、わたしはそれでいいんだよ。だから……」

「陽さん?」

 違和感が蓄積する。

 なぁ……つまるところ君が、言いたいのは。

「だから君も、わたしのことは、気にせず構わないでくれ。構うなら、あいつの方に」

「陽さん!」

 予想していた言葉が飛び出たことで、俺は両手をわさわさと動かし、思わず叫んでしまった。

「何だい? 急に大声を出して」

「いや、でもそんな……」

 陽さんはヨウさんのことを大事にしている、と言っている。

 だが、これはもしかして……。

「そうだ! 君に頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

 困惑する俺を前に、陽さんは唐突に切り出す。……嫌な予感がする。

「君と実際に対面して話をして、わたしは確信したよ。……君は真面目で誠実で、わたしと波長が合う人物だと。そしてとても信用できると。……君になら、あいつを任せられると」

「任せる……俺に?」

 俺にとって、とても耳当たりのよい言葉が陽さんから聞こえてくる。

「ああ。君にあいつを任せたい。頼む! あいつを、幸せにしてあげてくれないか?」

「……」


 何処か他人事のような言葉。

 真っ暗闇で物が散乱した部屋。

 そこに一人閉じこもる陽さんの姿。

 彼女の言葉を聞いた俺は……違和感の正体に気付く。

 そして、猛烈な怒りを覚えた。


「……どうした? 君にとっては、悪くないことだと思うんだが」

「ヨウさんのことを大事にしている……? 実際はちげえだろ」

 ……思ったより、しっかり言語化できそうだ。

「え?」

 俺が突然強い言葉、それも否定の言葉を発してきたもんだから、陽さんは戸惑いの声を発する。

 俺の心の中にあったモヤモヤがすぅっと消えていき、同時に言いたいことが次から次へと溢れ出した。

「あいつが幸せならそれでいい? ちげえだろ!」

「違うって、そんな訳ないじゃないか」

「ヨウさんに『理想の自分』を反映させることで、自分が幸せな気分になるからだろ?」

「っ!」

 俺の言葉を聞いた陽さんが、はっと息を呑む。俺の言葉は止まらない、抑えられない。

「プロデュース? ふざけんな! こんなの毒親がやるような自己投影じゃねえか! かけがえのない存在、大事な存在? ……そりゃそうだよな。だって『自分』が一番かわいいもんな!」

「っ、違う!」

 陽さんは俺の言葉を強く否定する。声を荒げている。

「違わねぇよ、陽さん! 君はヨウさんを『できなかった、できない自分』の代わりとして扱っていて、ヨウさん自身のことなんざ、ほんとは内心認めちゃいないんだよ!」

 俺は言い切った。感じていたことを、迷わず言いきれた。

「っ! わた、しは……」

「君は彼女に全部『あげている』んじゃなくて、全部『押し付けてる』んだよ! そんで押し付けて……君は目の前の在り様から目を背けて、そして逃げてるだけなんだよ……」

「……」

 陽さんはその場に萎れるように座り込み、沈黙してしまう。

「理想の自分はヨウさんにやらせるんじゃなくて、陽さん自身でやれよ! 彼女を自己満足のための道具にするんじゃなくて、君自身で満足してみせろよ!」

「そんな! そんなこと言ったって、わたしは……」

「もし自分でそれをやる自信がないってんなら……俺が手を取って助けるよ。何度だってな!」

「っ!」

 俺の右手は無意識に、座り込む陽さんの方へと伸びる。

 思ったことが、そのまま飛び出てしまった。我ながら何とクサい台詞が出たものだと思う。

「……もしその手をわたしが取ったら、わたしが君に助けられて光の道へと進んだら。あいつはどうするんだ? そんなことしたら、あいつの居場所は、無くなるんだぞ?」

 陽さんの言葉は、ヨウさんを慮るような言葉に聞こえるが、実際は違う。

 これは脅迫の言葉だ。『わたしを助けようとするなら、あいつは消えるぞ?』という脅しだ。

 だから俺はこう続けた。

「それは困る。俺の大事な友人がいなくなっちまうからな。俺にとっての大事な友人は、向かいの席に座っている『ヨウさん』だ」

「じゃあどうするつもりなんだ!?」

 陽さんの声色にはいら立ちや不信感のようなものがにじみ出てきている。

「……君も、俺の友達になって欲しい。2人いた方が、楽しいから」

 俺は腰を下ろし、伸ばした右腕を陽さんの目線より下に下げる。

「ふっ! ははははっ! わたしに友達になってくれだって? 『葵 陽』はもう君の友達だろう? 君はもうあいつの手を取ったんじゃないか。あいつの手を取っておきながら……ずいぶんと虫のいい話だな?」

 嘲笑い、軽蔑するような声色が俺の耳に飛び込んでくる。

「確かに、俺はヨウさんの手を取った。でも、手は2つあるんだ。もう片方残ってるだろう?」

 俺は陽さんの方に伸ばしていた右腕を引っ込め、代わりに左手を差し出した。

「……」

 陽さんは複雑そうな顔をしながら、沈黙している。

「……」

 俺も沈黙する。沈黙の時間が続く。

 だがその沈黙も、破られるときが来る。

「……はぁ」

 しばらく沈黙した後、陽さんは右腕を俺の左手の方に差し出すと、一瞬ためらうような仕草を何度かした後、俺の手を取った。

「まるで、わたしがこうするって分かっていたみたいだな?」

 俺の左手を掴みながら、陽さんは尋ねる。その声色には、気まずそうな雰囲気があった。

「いや……分からなかった。 陽さんが俺の手をはねのける可能性の方が高いんじゃないかなって、正直思ってた」

 いきなり説教かましたと思ったら気障な言葉を言って、女の子に手を差し伸べてきたら、普通は嫌われるに決まってる。

「じゃあ何で……跳ねのけられる可能性が高いと思いながら、手を伸ばしたんだ?」

 陽さんは困惑しているような声色で問いかける。

「だって、君は光を捨てきれていない……本当はこんなこと間違っているって理解している人だと思ったから。……それがその証拠なんじゃないのか?」

 俺は彼女の後ろのノートと参考書に目をやり、右手の指を指す。無数に積み重ねられたそれは、彼女の努力の足跡を誇示しているかのようだった。

「これは……昔からの習慣がそのまま続いているだけだ。それに、あいつにも教えないといけないからな」

「引きこもってる状態で、時間がたっぷりあって、娯楽やらなんやらもそばにある状態で、誰に言われるまでも無く誘惑に負けずにずっと勉強し続けるなんて、俺でも無理だよ!」

「っ!」

「それでもそれができちゃうくらい、ほんとは光の道を歩きたいと思っていて、でもそれをする自信も勇気も気力もなくて……。そうかもしれない君の様子を見て、こう感じたんだよ。『ここで手を掴まなかったら、きっと絶対に後悔する』って。だから手を差し出したんだよ」

 何もすることなく、ただしつこく自分に付いてきた女の子の姿が、陽さんにオーバーラップする。

「……わたしに手を差し出すのはあれか? 女の子だからか?」

「それはあると思う」

 後悔の事を踏まえると、全く無いと言ったら大嘘になってしまう。だから正直に答えた。

「はっ! ずいぶんと現金なこった」

 陽さんは呆れたような声色を発する。だが、彼女の右手は俺を離していない。

「現金だよ。だって、俺の後悔がそうだもの。俺が友達を作りたいと思ったのだって、多分結局は、昔の後悔を濯ぎたいからなんだよ……」

 自分の声色に、嘆息の色が混ざっているのが手に取るようにわかる。

「後悔?」

「そう。俺の後悔」

「……興味があるな。わたしに君の手を取らせることになった後悔とやらは、一体何なんだい?」

「それは……」

 俺は自分の過去、小学校時代の出来事を話した。


「……つまり、逃した魚は大きかったと?」

「まぁ……下心満載に捉えるなら、そういう見方もできるよな。でも、あそこで逃げずに向き合って『友達になってください』って言っていれば……と俺はいつも思っちまうんだよ。それが……俺の後悔だよ」

 俺はあの子を鬱陶しく感じて遠ざけたが、つまるところ、あの子と向き合わずに逃げ出したのだ。目の前の在り様から目を背け、面倒くさがって逃げ出したとしか言いようがない。

 そしてそのことを、今でもずっと後悔している。

「……そうか。あいつや、わたしと友達になりたいって思ったのも、それがあったからか?」

「そうだよ。そうとしか言いようがない。面目ないけど」

 結局はこれなのだ。これを上手いこと美化する表現を、俺は持っていない。

 できることは、ただ誠実に、真摯に伝えようとすることだけだ。

「……正直だな。自分のことについて真面目で……馬鹿正直。まぁ、そういう所は嫌いじゃないな。あいつも君のそういう所を評価して、わたしにぶつけてきたんだろうしな」

 陽さんは、俺の手を取ったまま立ち上がる。俺もそれに合わせて立ち上がった。

「いいだろう。友達になってやる。……後悔させるなよ? わたしを」

「当然ですよ。俺も、後悔したくないんで。後悔しない、させないよう……頑張るんで」

「ふっ……」

 陽さんは笑みをこぼし、そして左手の指をパチンと鳴らす。

 すると彼女の左側に、彼女と瓜二つ……ボサボサ頭のロングヘアの少女が現れる。

「ヨウさん!」

 2時間ぶりの再会に、俺は思わず声を上げた。

「連夜君。これは……上手く行ったみたいですね! 良かった……」

 ヨウさんは現れた瞬間、全てを理解したかのように、俺に対し安堵の声を漏らした。


 再開の後、俺は陽さんとヨウさんに別れを告げ、裾野駅に戻ろうとしたのだが、ヨウさんが見送りをしたいとのことだったので、一緒に家を出た。

「なぁ、ヨウさん」

「ん? 何ですか? 連夜君」

「なんで俺を、陽さんに会わせようと思ったんだ?」

 裾野駅への道中、俺はヨウさんに尋ねる。

「それは……連夜君がオリジナルに言った言葉の通りですよ」

「『光を捨てきれていない』から? 自分を『理想の自分』にしようとしていることも、分かってたのか?」

 ヨウさんは陽さんの本心をどこまで分かっていたのだろうか。オリジナルの記憶を持っているようだが……。

「さすがにそこまでは、連夜君に指摘されるまで、私も気付いていませんでしたよ? 単にずっと自分は彼女によくしてもらっている……と私は思ってました。私はオリジナルの記憶を持ちますが、記憶にある場面ごとの彼女の感情を完全に理解できるわけではないので。その点、連夜君の言葉に私も気付かされることがありました」

「そうか……」

 自分の中に別の人間の記憶があるというのは経験したことが無いため分からないが、記憶があるからといって、そのときのオリジナルの心が手に取るように分かる……というほど単純なものではないようだ。

「ただ、真っ暗闇の中でしきりに勉強をしている、勉強の記憶がひたすら積み重なっていることは読み取れていたので、やっぱり本当は表に出たいんじゃないかなとは薄々思ってました」

「表に出たいが、それをする自信も気力もない状態、か」

「はい。だからこそ、私が信用している貴方に頼みたいと思いました」

 ヨウさんはそう言うと、俺に対し軽く会釈した。

「本当に俺で、大丈夫だと思ったのか?」

 ヨウさんとは一応出会って半年近く経つが、まともに交流し始めてからまだ1ヶ月も経ってない。そんな中での俺に対する彼女の評価は、いささか買いかぶりすぎではないかと思う。

「はい。私が貴方についてオリジナルに話しているというのは、オリジナルから聞いてますよね? 彼女の記憶を辿ると分かるんですよ。オリジナルの記憶の中に、貴方についての話がとても強く残っていると」

「記憶が、強く残っている?」

「はい。ところで連夜君は、おととい何を食べたか、覚えていますか?」

「え? うーん……思い出せないな」

 突然のヨウさんの質問に驚きつつ考えたが、思い出せない。というか、そんなの余程印象に残ったものでもない限り、普通は思い出せないはずだ。

「強く印象に残ったものはいつまでも残っており、鮮明に思い出すことが出来る。でもそうでないものは、思い出せない。……私の中にあるオリジナルの記憶も、同じことが言えるんですよ」

 俺が考えていたことを、ヨウさんはそっくりそのまま伝えてきた。

「同じ……」

「オリジナル、陽にとって印象に残っている記憶は私でもはっきりと読み取れますが、そうでないものはほとんど読み取れません。その上で貴方についての話は、私でも鮮明に読み取れるほど、残り続けていた。これがどういう意味か分かりますか?」

「陽さんは、俺に強い興味を持っていたってことか?」

「そうです。何ならさっき貴方がした話も、鮮明に、くっきりと残ってますよ? 彼女が強い興味を持っている貴方なら、きっと仲良くなれる、友達に成り得る。そう考えたから、会わせようと思ったんです」

 ヨウさんの言葉には、一転の迷いも見当たらない。まさに闇夜を貫く一筋の光だ。

「そうだったのか。……何というか、見ず知らずの人間にそこまで興味を持たれていたって聞くと、何だか照れくさくなるな」

 俺自身、目標のために勉強に取り組みつつも、自分は大した人間ではないと思っていた。だが、ヨウさんを介して聞いていた陽さんの中で、そうではなかったらしい。

「自分の置かれている環境に目もくれず、遠大な目標のために1人真面目にコツコツと頑張っている。私が話したそういうところに、共感を持ったのではないでしょうか。……これはあくまで私の推論ですが」

 そのように要素を列挙すると、高校入学当初の俺の状態は陽さんと似ている点がなくもない。人は自分と似たものに興味や好感を持つという……類似性の法則っていうんだったか。古い表現でも「類は友を呼ぶ」という言葉がある。こちらは似たような奴らは自然により集まって仲間を作るって意味だ。……そういう意味では、俺と陽さんの出会いとその顛末は、さもありなんということなのかもしれない。

「なるほどな。まぁ、でも上手くいってよかったよ……。今思うと、めっちゃ恥ずかしいこと口走ってたじゃん。俺って」

 正直よくもまあ、いけしゃあしゃあとあんなことを口走れたと思う。というか、あの時まともに思考していた気がしない。陽さんに対して浮かんだ憤りがそのまま噴き出していた。

「そうですね。初対面の女の子にいきなり言い出すようなことではないと、私は思います」

「辛辣だなぁ……でもそうだよなぁ……反論の余地が無い」

 ヨウさんの指摘はもっともだ。正直言って、理性的でない言動だったと思う。

「でも、そういうところが、オリジナルに刺さったのだと、私は思いますよ? だから、結果オーライで」

「結果オーライ……か」

 オリジナルに刺さった、か。

 彼女は、自分の行いを糾してくれる人をどこかで求めていた?

 自分の間違いを正し、その上で手を差し伸べてくれるヒーローか何かを求めていた? ……分からない。彼女にとって自分がそういう存在だったと捉えるのは、とっても恥ずかしいというか、自分の中で感じる自分とのギャップを強く痛感してしまい、少し気まずい気持ちになった。


 そうやって自問自答していると、俺達は裾野駅へとたどり着いていた。

「あらためて、オリジナルと友達になっていただき、ありがとうございました」

「どういたしまして」

 互いにお礼を伝える。何だか、終わってみると気持ちがすっきりしたような気がする。やっぱり「案ずるよりも産むが易し」だ。まぁ俺の場合「案ずる」が長くなりがちで、「産む」までが大変なのだが。

「これからも、引き続きよろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします、ヨウさん。陽さんにも、よろしく伝えてください」

 見ると、父の車が裾野駅の前に入っていた。俺は父に合図を飛ばす。車が傍に止まり、俺はドアを開く。

「それじゃあ、また来週」

「はい。また来週! 連夜君!」

 俺は別れの挨拶を交わし、父の車に乗り込む。

 車が駅前から去っていくまで、ヨウさんは見守っていたようだった。



 ここまでが、俺と彼女達の出会いまでの話。

 そして、俺が高校1年の2学期に経験した冒険の序章。


 とても悲しく辛いことがあったけれど、自分に友達ができてよかったと思ってた。

 このまま穏やかに過ごしつつ、目標に向かって頑張って行くのだと、無意識にそう思ってた。


 だが当時の俺は、何も分かっていなかった。……知らなかった。

 自分が既に、悪意に満ちた大きな渦、その真っただ中にいることに……。


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