004 お部屋に突撃:真中編
しばらく読書をしていると、下から發樹と真中の声がした。ショッピングを終えて帰ってきたみたいだな。
「お兄ちゃんただいま! 見て見て、この下着セクシーじゃない?」
「うおっ!?」
ドタドタと階段を上がる音がすると思えば、真中が勢いよく俺の部屋のドアを開けやがった。
短いスカートをたくし上げ、新しく買ったのかは知らんが黒い下着を見せつけてきた。こういう揶揄いは結構やられている。慣れっこといえば慣れっこなんだが、もう俺たちは……今までの関係ではいられない。
「真中、もうそういうことはやめよう。俺たちは血が繋がってないんだぞ」
「えー? 急に意識しちゃったー?」
新しいおもちゃを見つけた子どものように、真中はニヤッと笑う。
「あぁそうだよ。だからやめてくれ」
「ちぇー、認めるんだぁ。つまんないの」
こっちは大人の余裕を見せて対抗した。本当は心臓バックバクだけど。
やれやれ、もう少し自分が美少女であると意識してもらいたいものだ。特に白姫と真中にはな。
「ねー、お兄ちゃん何読んでるの?」
「うおっ!? 真中まだいたのか!」
「だってまだ揶揄い足りないしー?」
「お前なぁ……」
真中は金色のツーサイドアップをぴょこぴょこ揺らしながらニヤついている。さらなる揶揄いも辞さないということか。
「あ、ラノベじゃん」
「真中は興味ないだろ、こういうの」
「ううん。ラノベは読まないけど、ラノベ原作のアニメは見るよ」
「へー、意外だ」
17年一緒に暮らしていてもまだまだ知らないこともあるんだな。真中みたいな派手な女の子はラノベとは無縁と思っていたんだがな。
「あ、ちょっとえっちぃやつじゃない?」
「ラノベなんてだいたいちょっとはえっちぃだろ」
「確かに。でもそういうのが楽しみなんでしょ?」
「人によるだろ」
「お兄ちゃんは?」
「まぁ、そこそこかな」
「あ、認めるんだー」
下手に否定したら揶揄いがエスカレートしそうだからな。素直に認めた方が楽だ。
「それでそれで? どんなシチュのお色気シーンが好みなの?」
「それ兄妹で聞くか? 普通」
「血繋がってないからよくない?」
「血繋がってないからマズい気がするんだけど」
まぁいっか、17年一緒に暮らしてきて今さら性癖バレくらいなんだって話だ。
「こことか」
「み、水着かー。……お兄ちゃん中学生みたいだね」
「う、うっせぇ!」
痛いとこ突かれたな。確かに俺は恋愛経験がないからエロ適性は中学生レベルだ。普通に水着でドキドキするが、別によくない?
「お兄ちゃんあれでしょ、バトルシーンの挿絵は読み飛ばすのに、水着か下着の挿絵は30秒くらい吟味するでしょ」
「な、なんでわかるんだよ!?」
「え、本当にやってるんだ……」
「やられた……」
作者やイラストレーターさんに失礼なことをしていたツケがここで回ってくるとはな。でも仕方なくないか? バトルシーンの挿絵ってなんとなく流し見でもわかるだろ? でも水着や下着のシーンは細部までこだわったイラストレーターさんの癖が見られるんだよ。そこを味わうのが醍醐味だよな? な?
「ま、まぁお兄ちゃんの性癖なんて興味ないけどねー」
「じゃあなんでわざわざ聞いたんだよ」
「あ、私買ったものの整理しなきゃ! バイバーイ」
真中はいそいそと俺の部屋から出ていった。
あいつ、恥ずかしくなってきて耐えきれずに逃げたな。




