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5 騎士団詰め所で土下座



 マリーは言った。

「ちょっと何を仰っているのか分かりませんわ」

 あれだけしつこくマリーに離縁を迫っておきながら、今になって「愛してる」だぁ? 一体全体どの口が言うのか? という非難に満ちた眼差しを夫に向けるマリー。

 すると突然、目の前から夫ファビアンの姿が消えた!? と思ったら、夫はマリーの足元に平伏し、額を床に擦り付けていた。

「すまなかった。本当にすまなかった。でもマリーがいなくなって気付いたんだ。私が真に愛しているのはマリー、ただ一人だと!」

 おいおいおいおい、ちょっと待て! 言ってることも意味不明だが、ここは騎士団詰め所の廊下である。誰の目があるかも分からないし、絵面的にもマズ過ぎる。

 おそらくマリーと同じ事を感じた執事のセバスチャンが、慌てて主に駆け寄る。

「だ、旦那様、落ち着いてください。とにかく場所を変えて、奥様ときちんとお話し合いを」

 そうは言っても、じゃぁちょっと近くのカフェで話しましょう、という訳にもいかず、結局マリーはそのまま夫と執事と一緒に伯爵邸に向かうことになってしまった。もちろん、話し合いの為に行くだけで、戻るつもりはない。

 道中、馬車の中でも「すまなかった」「もう何処にも行かないでくれ」「愛してるんだ」と繰り返す夫に、いやいやいやアンタ愛人いるよね? 子供も産まれてるはずだよね? と突っ込みたくなったが、とりあえず馬車の中でする類の話ではないな、と考えているうちに、あっという間に伯爵邸に着いてしまった。あれ? もう着いたの? 騎士団の詰め所から意外に近かった??? ちなみにマリーは真性の方向音痴である。

 


 伯爵邸は大騒ぎになった。

 誰だか分らぬほど顔を腫らした主と、1年前に出奔して行方不明になっていた夫人が、何故か同じ馬車で帰って来たのだ。使用人達が驚き戸惑うのも無理はない。

「奥様ー?!」「旦那様の手当てを!」「奥様、よくご無事で!」「早く主治医を呼べ!」「ちょっとセバスチャンさん、説明して!」「旦那様、誰にヤラれたんです?!」「奥様、今まで何処にいらしたんですか!?」「だから、まずは旦那様の手当てだってば!」

 パニック状態の使用人たちを執事セバスチャンが一喝する。

「黙らっしゃい!! 指示を出すから順に動きなさい!!」

 

⦅さすがセバスチャンね~。あ、そういえば私が家出するときに買収した使用人達は大丈夫だったのかしら?⦆

 自分の家出に協力したことがバレて、クビになっていたら寝覚めが悪いな~と思いながら、さりげなく1年前に買収した者を探すマリー。すると、こっそりマリーにウィンクを飛ばして来た使用人が数名――いた、いた、いた。どうやらバレずにやり過ごせたようだ。勿論マリーは人を選んで買収を持ち掛けた。生真面目な者や気の小さい者には無理だし、バレるリスクも高い。要領が良くて融通が利き、心臓に毛が生えているタイプの使用人数名をチョイスして「選ばれたアナタだけに特別な金儲けのチャンスがあるのだけど、話だけでも聞いてみない?」と誘ったのである(決して怪しい投資の勧誘ではない)


 自らが手駒にした使用人の無事を確認し、マリーは安堵した。

 そうこうするうちに、伯爵家の主治医が到着したようだ。ファビアンは「手当てなんて後でいい! マリーと話をするのが先だ!」と喚いていたけれど、マリーと執事に説得されて、話し合いの前に医者に処置をしてもらう事になった。いや、当たり前でしょ。そんな状態で話し合いなんか出来ないって。

 ファビアンは顔全体が赤黒く腫れ上がっていたが、特に目が酷く腫れていて、ちゃんと見えているのか心配になる程の有り様だった。

 ファビアンが主治医から処置を受けている間、マリーは「ひゃうっ! 痛い! 痛い! 死ぬ~!」と情けない声を出す夫の手を握り、ずっと側に付いていた。

⦅まさか失明したりしないわよね? 大丈夫かしら?⦆

 そんな心配をするくらいには、マリーはまだファビアンに情を残していたのだ。

 処置終了後、夫婦揃って主治医から詳しい説明を受けた。幸いなことに顔面骨折などはなく、眼球にも異常はない、との事だった。良かった~。マリーは胸をなでおろした。ただし「全治3週間」だそうだ。


「と、いうことでしたら、話し合いは3週間後にしませんか? ファビアン様はそれまでゆっくり養生なさいませ」

 と、マリーは提案した。

 が、即座にファビアンに拒否された。

「イヤだ! マリーはその間にまた行方を晦ますつもりだろう!?」


 何故わかった?!

 




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