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『……ラフィーネ様、ラフィーネ様』
(また明日待っているって言ってたわ。私、名を名乗ってないのに、ラフィーネと確かに言ってたね。それにしても、指に口付けって、あれは…)
ラフィーネはボーっとエインの事を思い出していた。
(衝撃的な出会いに初めての口付け。金の髪と瞳を持った男の人。一体何処からやって来たのだろう。連れがいると話してたけど…)
『ラフィーネ様!』
少し強めの口調でアリサに呼ばれてハッと気が付く。
『ごめんなさい、アリサ』
食事の手が止まってしまい、心配したアリサが何度も声をかけてくれたみたいだ。
『ラフィーネ様、一体どうなされたのですか?夕食の時間になっても戻られず。森に行かれたのはわかっておりましたので、皆様には体調が定まらないので夕食は摂らないと伝えて事なきを得ましたが。お戻りになったかとおもえば上の空ですし』
『それは、その…。』
エインの事を思い出していたとも言えず。モジモジするラフィーネを見て、アリサはふと気づいた。
『ラフィーネ様、森で誰かとお会いになりましたか?』
『な、な、ななんで??』
突然触れて欲しくない事をピンポイントに聞いて来たアリサに、ラフィーネは思いっきり動揺してしまった。
『ラフィーネ様、そんなに驚かれたら、私の方が驚いてしまいます』
あきれた様な表情をしてアリサが答える。
『ラフィーネ様は嘘がつけない方ですし、いつもだったらとっくに食べ終えているお食事も、いつになったら終えられるのかと。お声をかけても上の空ですし、何かがあったと思うのは無理ない事なのでは?』
アリサ、御明察。それにしても誰かに会ったかなんてなんでわかったのだろう?
『でも、でも、どうして誰かと会ったなんてわかったの?』
『それは.......』
『それは?』
『秘密でございます』
『えーー!?アリサ、それはないわ、教えて教えて!』
(なんでわかったのか、知りたかったのに)
少し頬を膨らませると、アリサが苦笑いしていた。
『教えて差し上げるのは構いませんが、誰とお会いしたか、私がお聞きしても姫様はよろしいのすか?』
アリサがそう不思議そうに話すが、確かにアリサに話せば必然的に兄様や姉様、父上や母上に報告されてしまう。そうなったら.........と想像すると、恐ろしくて気を失いそうになった。
『いえ、結構よ。誰とも会わなかったから。皆には余計な事は報告しないでね』
冷や汗をかきながらアリサに指示する。
『かしこまりました』
にっこり笑って答えるアリサ。その目が信用ならないんだけど.....とは言いかねたラフィーネは、黙って残っていた食事を平らげたのだった。
食事と湯浴みを済ませて、ベッドに横になる。今日は色々な事がありすぎて、疲れているけどなかなか眠れない。
ラシード様の事、相変わらずの兄様の事。後は森で会ったエインの事。
金の色の髪と瞳のエイン。口振りは平民の様な口調だけど、時折見せる仕草などは、多分貴族なのではないかと感じたり。
(あの指先への口づけなんて、凄く品があって慣れていた感じが…)
思い出すとまた赤面してしまう。枕をギュっと抱きしめて顔を埋める。
両親や兄姉以外は、侮蔑する様な視線を向けられる事が殆どのラフィーネにとって、エインの向けてきた好意的な視線はとても嬉しく、そして印象に残った。
『金色の瞳、凄く綺麗だった。ずっと見ていたかったわ』
枕を抱き抱えながら、エインの事を想いだす。低いけど甘く優しい声。一目見て気に入ったと、微かに触れるよう唇を奪った時に見せたくエインの満足げな笑顔が、ラフィーネが眠りに落ちるまで、ずっと目の中に焼き付いて離れなかった…。




