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光が吸い込まれていくと、ラフィーネの体がそれに比例して輝いていく。柔らかい光に包まれた様なラフィーネが、倒れているマントの男の手に触れる。
『リンデム』
ラフィーネが囁くと、柔らかい光がマントの男の体を包んでいく。
少しずつ、男の傷が癒えていく。青ざめた顔も少し赤みが戻ってきて、微かな脈動もしっかりしたものに変わってきた。
『よかった。完全に治った訳じゃないけど、なんとか動かせるわ』
男の腕から手を離し立ちあがろうとするが、思ったより力を使ってしまったのかもしれない。足に力が入らず、その場に崩れかけてしまった。
『姫っ!』
ラジカルの鳴き声が響く。ラフィーネの体が地面に着く前に、誰かがラフィーネの体を支えてくれる。
『大丈夫か?』
低くかすれた男の人の声。ラフィーネを抱きしめている腕は、力強く逞しい。もうろうとなっている意識をしっかりさせようとするが、どうにも目が開けられない。
『あぁ、すまなかった。私を助ける為に力を使いきってしまったのか』
その人が話かけてくるものの、頷く事も出来ない。だんだん暗くなっていく視界。
『少し休めば大丈夫だろう。私もまだ、思う様には動けな、いか..........』
ラフィーネを腕の中に抱きしめたまま、その人もまた意識を失ってしまった........。
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(温かい......)
少し硬めだけど、温かい何かに包まれている状態に、うつらうつらしながらラフィーネが目を覚ます。
『ようやく目が覚めたか』
低い声が耳元でささやく。
(え、何?誰の声?へ?今、私どこに......?)
『体の方は大丈夫か?』
再び耳元でささやく低い声。優しいその声に、ラフィーネはようやく覚醒した。
バッと顔を上げると、金色の髪をした金色の目の男がラフィーネを覗き込んでいた。見た事のない金の色の瞳。目が合うと、金色の目を細め、その男は楽しそうに笑った。
『は、はぁい、はい!大丈夫です!!は、離してくださいませっ!』
自分がその男の腕に中にいる事に気が付いたラフィーネは大慌てて離れようとするが、腕の力が何気に強く逃げられない。
『離してくださいませ』
男の目をじっと見る。綺麗な金色の目。キラキラ光るその瞳に、ラフィーネは目を奪われる。
『そんなに見つめてくれるな。照れるだろう?』
口にする程照れる様子もなく、どちらかと言えば冷静に見える男に、一人身もだえるラフィーネは腹立たしく思った。
『そうお思いならば、離してくださいませ。そちらこそ、お体の調子はもううよろしいのですか?』
あれだけの傷を負っていたのだ。ラフィーネが癒しの力を使ったとしても、すっかり完治までには至っていないはず。
『あぁ、君が治してくれたんだな。ありがとう。お陰様で命拾いをしたよ』
真剣な目で礼を述べる男に、ラフィーネはホッとする。
『良かったです。でも、完全に治った訳ではないので、しっかり療養しないと』
『しかし、戻らないと.......』
『その体でどこに戻ると?』
う~んと考え込む姿を見ると、どこかに居を構えている訳ではないのかと思う。冒険者かなにかかしら?
『連れが心配しているだろうからな』
『お連れ様がいらっしゃるのですか?それは心配されているのではありませんか?』
多分心配はしてないかも.....と苦笑しながら答える。
『心配してないって。そういえば、あんな怪我をどうして負われたのですか?』
男の腕の中から逃げ出せないまま、そう問いかける。
『連れを休ませている間に、魔物に遭遇してな』
『魔物?!』
先日、ラシード様が大規模な討伐を行ったばかりだと言うのに?
『ベルニオンの親だろう。子供とはぐれたのか、大分興奮していて。いつもであれば、躱せるのだが....』
『そうだったのですか。つい最近、魔物の討伐が行われたので、その際にでももしかしたら....』
『討伐?なにか魔物が人を襲ったりしたのか?』
『いえ、最近はそんな事は。ただ、魔物を見かける事が多くなってきたとの事で』
『そうか。確かに姿を見れば恐ろしくもなるだろう。ただ、魔物も我らと同じ生き物だというのに』
確かに、人だって自分の子供がいなくなれば、必死に探すだろう。魔物だって同じだ。
『可哀そうなことをしました』
うなだれるだフィーネを見て、男は首をかしげる。
『なぜ君が謝る?君が討伐したわけでもないだろうに』