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『ラフィーネ、今日の暖かいよ。お花が一杯。あげるあげる、ラフィーネにあげる』
小さなフランデルがくちばしに加えてきた白い花をラフィーネの手に落とす。
『ありがとう、可愛いお花ね』
手に乗ってきたフランデルのくちばしにそっと口づける。
『ラフィーネ、いいないいな。ぼくもぼくも、わたしもわたしも』
周りを飛んでいた小鳥達が一斉に騒ぎ出す。
『いいわよ~、順番ね』
ラフィーネがこたえると、一斉に花を取りに飛び去って行った。アステリアの森の中、綺麗な泉の傍に拓けた草原があった。中心に大きな一本の樹が立っているだけなので、日当たりもよくラフィーネの一番好きな場所だ。
『ラフィーネ、今日の其方は元気がない』
ラフィーネがよりかかっている樹から、直接頭の中に言葉が伝わってくる。
『ゾーリンデン様』
『其方から哀しいと伝わってくる』
『ちょっとね、お城でね。妖精の取り換えっ子、醜いお前なんか嫌だって言われてしまったの』
ラシード様に言われた言葉に、自分で思っていた以上に傷ついていたのに気づく。
『醜い?ラフィーネが?その者はめしいた者なのか?』
『めしいた者?』
『目の見えない者だ。ラフィーネは美しい。触れれば暖かく、柔らかい。我はそう思う』
ゾーリンデンの樹が話しかけてくる。
『目は見える方よ。私なんかよりも、ずっと美しい方。柔らかいっていうのは、それは、多分、え~っと、ブラムの実を食べすぎたからかも?』
お腹周りを自分で触って確かめる。摘まめるほとにも柔らかくはないけど、でも、少し太った?甘くておいしくてちょっと食べすぎたかしら。またマリアに怒られちゃう。
ゾーリンデン様が笑っている様な雰囲気を感じる。樹齢1000年のゾーリンデン様は紳士だから、思ってもレディーにはそんな事は口にされないはず。
突然、複数のけたたましい鳴き声が聞こえだした。
『大変だ大変だ、ラフィーネ大変だ』
ブラックバードがラフィーネのいる場所の反対側の森からいきなり突っ込んできた。
『どうしたの、突然。一体何があったの?』
大変だ大変だと頭上で旋回しているブラックバード。いつもはシニカルなブラックバードがこんなに慌てているだなんて。
先程飛び去って行った小鳥達も次々広場に戻ってきて、ブラックバードと同じ様に大変だ大変だと叫んでいる。
『お願いみんな落ち着いて、なにがどうしたの?大変だってなにが大変なの?』
鳥達に呼びかけるものの、みんな興奮しているのかさっぱり答えてくれない。
『ラフィーネ、森の奥から強い何かを感じる』
ゾーリンデン様が伝えてくる。
『森の奥…。誰かお願い。私を森の奥まで連れて行って欲しいの』
ラフィーネが強く念じると、少しして、大きなツノを持ったラジカが一頭茂みから現れた。
『姫。呼びかけたのは其方か?』
ラフィーネをじっと見て話しかけてくる。森の中でアーマベアの次に大きな生き物のラジカ。
『えぇそうよ。鳥達がこんなに大騒ぎしているし、何かあったのだと思うの。お願い。私をはそこまで連れて行ってくれないかしら』
『姫の望みであれば。さぁ、我が背に』
前足の膝を折り、ラフィーネが背に乗りやすい様に首を下げてくれる
『ありがとう、少し重いかもしれないわ。ごめんなさいね』
ラジカの背に乗り首に縋り付く。
『我にとって其方は綿毛の様に軽い。心配するな。それよりもしっかり掴まれ』
言うと直ぐに、ラジカは駆け出した。物凄いスピードで森の中を駆け抜けて行く。木の根を飛び越え右に左にと、ラフィーネは振り落とされない様にするのに必死。実際のところ、ほんの数分にもなってないが、ラフィーネにとっては生きた心地がしない位の長い時間に感じた。
『姫よ、あれはなんだ』
急にラジカの足が止まる。ギュッとつぶっていた目を開くと、岩場の下に血まみれになった人が倒れていた。
『大変…』
ラジカの背から飛び降りて、倒れている人のところに走る。
黒いマントとフードをかぶっているが、大きな体躯から男性であろう事は分かった。
兄様の言葉が頭に浮かんだが、これでは相手もオオカミになるどころではないだろう。
『大丈夫?しっかりして。私の声は聞こえる?』
呼びかけても返事はない。手で首に触れると、微かに脈動は感じる。
ただ、かなり出血しているし、目から見える部分の顔色は青ざめている
。あまり良くない状態かもしれない。
『このままだと……』
城に戻って王宮医を連れてくるには時間が足りない。せめて、運べる程度に回復しないと。
『みんな、力を貸して』
ラフィーネがそう願うと小さな光が色々な場所から集まってきた。森の木々や一緒に来てくれたラジカから、大地に咲く花や草、大地からも。
集まってきた光がラフィーネの体に吸い込まれていく。




