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『当たり前だ。うまいぞ?焼きたてだから、火傷しないように気をつけて』
火に翳していた串替わりの枝を一本地面かから抜いて、エインはラフィーネに手渡す。
ジュージューと音を立てて脂を滴らせているシャーケの切り身を、フーフーと冷ましながらラフィーネはかぶりついた。
『あちっ!』
一瞬、まだ熱々なシャーケから口を離し、再度冷ましてチャレンジする。カブっと一口。
『う~~~~ん、美味しい。こんなの初めて食べたわ』
『そうだろう?今の時期のシャーケは脂がのってて旨いんだ。後はほら、これも食べて』
そう言って、エインが焚火の中から、ホッバの葉に包まれた大き目な楕円形の何かを取り出す。ホッバの葉は10m位に成長する木の葉で、葉自体も1m程度の大きさになる。
数枚の葉に来るまれたそれは湯気を立てており、エインがナイフで割ると、中から柔らかく蒸されたヨネの実に似た何かが出てきた。
『甘くて美味しい!!』
程よく噛み応えのあるその実は、焼いたシャーケの切り身と合わせて食べると、また格別の味になった。エインに聞くと、これはヨネの実の亜種との事。どうりで美味しい訳だ。
『それならよかった』
笑顔でシャーケを頬張るエインを見ていると、ラフィーネの心の中が少し騒めいてくるのを感じていた。
エインと二度目の朝食を平らげた後、ラフィーネはエインと一緒に、昨日エインを見つけた場所まで戻ってきていた。
『エイン、大丈夫?疲れませんか?』
昨日はラジカの背に乗せられてきたが、今日はエインの腕に腰かけるようにう抱えられて戻ってきた。
『全然大丈夫だ。しかし、なんでこんなにラフィーネは軽いのだ?もう少ししっかり食べなきゃ駄目であろう?』
かれこれ小一時間、森の中をラフィーネを腕に抱えたまま歩いているのに、エインに疲れは全然見える様子もない。昨日瀕死の重傷を負っていたのが嘘の様だ。
『そんな事ないわ。普通よ普通。いつもしっかり食べているわよ?エインが力持ち過ぎるのよ』
『そうかな?その割には、ちょっと…,,,』
エインの視線が、ラフィーネの申し分程度にしかない胸の辺りを彷徨う。
『エ、エインのエッチ!なんでそんなところを見るのですか!』
『いや、それは、その、俺も男って事で』
『何が男なのよ!エインって因みに何歳なの?』
『30歳だな』
『やだ、もうおじさんじゃない』
『なんだって?おじさん?まだ30代だ!』
エインと彼是言い合っている間に、昨日の場所にたどり着いた。
エインの腕から降ろして貰い、地面に立つ。昨日はじめてエインと会ったばかりなのに、もうずっと一緒にいるみたいな感覚に凄く不思議さを感じる。
『エイン、何故、私の名前を知っていましたの?』
『ラフィーネの名前をか?』
『えぇ。わたし、最初に名乗らなかったのに、帰り際に名前を呼んでくれたでしょう?なんで知っているのかなと思って』
『俺の連れが教えてくれたんだ』
『連れ?昨日話していた?』
『そうだな。俺の番がいると。金の髪に青い目の大層美しい女性で、ラフィーネという名だと言っていたよ』
(金の髪に青の目。名は確かにラフィーネだけど、私ではないわ)
『番って、どう言う意味?』
『妻だ』
『つ、妻?』
『そう。一生を共に過ごす運命の相手。人間の場合だと、妻だな』
ラフィーネはなんと言ったらいいのか、言葉に詰まってしまった。
エインの連れが言っていた「ラフィーネ」は確かに自分だけど、「金の髪に青い目の大層美しい女性」は自分ではない。考えられるとしたら、ラフィーネの姉のフィオーネと勘違いしたのかもしれない。
フィオーネであれば、エインの連のが言っていた「番」も当てはまるかもしれない。ラフィーネにはない、金の髪と青い目。美しいという言葉も、フィオーネには当てはまるのだから。
急に黙ってしまったラフィーネの様子を見て、エインが声をかける。
『ラフィーネ、どうしたんだ?どこか具合でも悪いのか?』
うつむいてしまったラフィーネの顔をが身を屈めて覗き込む。
ラフィーネと目が合うと、エインは目を見開いた。
『どうしたんだ、ラフィーネ。なんで泣いている?』
ポロポロとラフィーネの目から涙が零れ落ちる。両親や兄や姉には全然似ていない自分。自分以外の家族は皆、金の髪と蒼い目なのに自分だけが違う。
『いつ見てもパッとしない末姫』
『兄王子様や姉王女様はあんなに賢く美しのに』
『王様やお妃様とも似ても似つかない、妖精の取り替えっ子』
『良いところをみんな吸い取られた、出涸らし姫』
これまでずっと言われてきた言葉。侮蔑の視線にも慣れたけど、でも、そのそれらに傷つかない訳じゃない。両親や兄や姉はラフィーネに沢山の愛情を注いできてくれたけど、それでも自分だけが家族と違う容姿なのはラフィーネの心をひび割れさせた。
そんなラフィーネに侮蔑の視線もむけず、気に入ったと、醜くなんかない、俺が惚れた女だと、そう言って笑ったエイン。そんなエインの番が自分でなく、フィオーネかもしれないと思ったら、知らず知らずの内に涙がこぼれて落ちてしまっていたのだった。




