第三十一話・朝霧・白砂後編
作者が風邪だと思っていたものがインフルエンザで、思ったより回復が遅れて投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。
やはり目の前にいる女は強い、それが今の率直な感想だった。
ガッ、ドガッ!
こうして木の双剣と拳がぶつかり合い、さらに理解する、こいつは今までやりあった奴の中でも明らかに上位だと、そこで俺の中に一つの感情が生まれてくる、そう、その感情の名は『歓喜』!!
これ程までに強い相手に当たらせてくれた運と、その相手への敬意、ならば自分はその相手に何をすべきか、そんなことは決まっている、それは手加減なく、全力で闘うことだ!
奥義の出し惜しみなどは完全に失礼に当たるだろう
ドガッ!!
斬り込んだ俺に対して腕をクロスさせてガードしようとしたところに、双剣でこちらもクロスさせて斬り払い、距離をとる。
高町
「いや、失礼した、まさかこれ程まで強いとは思わなかったな、正直予想外だ、だからこちらも出し惜しみなく、全力でぶつからせてもらう!!」
同時に、活足を使い、相手の横へ移動、即座に両手に握った双剣で斬りつける
しかしー
無口な女
「甘い…」
右足で踏み込み、大地を震わせ、勢いと同時に腹に掌底を撃ち込む。
高町
「かっはぁ!」
事を急ぎすぎた、もっと冷静でいればもう少しまともな闘い方も出来たのだが、これほどまでに強い相手と闘っている、そう考えただけで冷静でいることなど出来はしなかった、結果焦り過ぎて女の掌底をくらう羽目になったのだ、しかしただでやられる俺ではない
高町
「ぬぁぁぁー!」掌底をくらい吹き飛ばされる直前に双剣を脇腹に向けて振り下ろす。
無口な女
「っ、くうっ」
流石に反撃出来るとは思わなかったのだろう、完全に直撃だ。
しかし吹き飛ばされている時なので、威力が軽減されている、一方こちらはかなりのダメージを負った、なんとか骨は折れていないが、痛みはかなりのものだ
無口な女
「名前は?」
女は臨戦態勢のまま唐突にそう話し掛けてきた。
高町
「人に名前を聞くときは普通自分からだろうが」
無口な女
「白砂琴乃」
(白砂だと!? 武術の名門と言われていて、現当主の娘は実力的に同じ年代にほとんど敵はいないと言われているあの白砂か?)
日本には武術で有名な家は大きく分けて五つある、それは『朝霧家』『夕月家』『白砂家』『麻布家』『片瀬家』の五つだ、この中で白砂家の跡取りが今のところ一番強いと言われている恐らく麻布も本家の人間か、分家の人間だろう。
高町
「俺は高町暸だ、ひとまず、こちらの話を聞いてくれ、俺はさっきのちっちゃい奴に傷を負わせようとして石を投げたんじゃない、無意味な事は止めろという意味で投げたんだ、その証拠に渡辺にも投げたし、直撃すらさせた、こちらの言ってることは理解してくれてるか?」
その言葉に白砂は、コクリと頷いた。
高町
「そうか、良かったようやく誤解がとけたか」
そう言って構えをとこうとすると。
琴乃
「まだ、続ける」
高町
「おいおい、マジか、これ以上はこっちにはやる理由が無いんだが…」
琴乃
「お前との闘い楽しいから、もっと続けたい」
そう言う白砂の目は少し血走ったようだった。
(おいおい、これじゃあ戦闘狂じゃねえか、だが)
高町
「ああ、お前ほどの実力者にそう言ってもらえるとはな、光栄だな!」
そう言って双剣を構え直して、活足で接近して斬りかかる。
高町
「ハアッ!」
横に薙ぐ一閃は空を切り、即座に当たれば必殺の一撃が放たれる。
流石は五家最強と呼ばれるぐらいの実力がある、正直勝てる気はしないし、相手が女性である時点であまりやる気が出ないのだが、せっかくのご指名なのだからもう少し粘らせてもらうとしよう。
(雲月流奥義、『影狩り』!)
二本の剣の内一本を相手に投擲をする。
琴乃
「その程度で」
予測通り剣を弾き飛ばす、それを見て即座に投げナイフを投擲を三本投擲する
琴乃
「しつこい」
弾き、避けながら接近しようとするが、これも予測済みだ、『影狩り』の力はここからだ、弾かれたナイフやもう一本の剣は地面に落ちる、だが地面に触れる前にナイフを投擲する、今度は白砂にではなく、落ちた剣とナイフにだ。
ガキィン
音をたててぶつかり、下から掬い上げるように当たるように投げたので、それは当然上へ跳ね上がる、そうその先には先ほどそれを弾き飛ばした白砂がいる。
ナイフを投げると同時に加速して白砂へ接近する、ここで終わりだ、跳ね上がったナイフを避けようとも、俺自身で終わらせる、避けられなければ結果は言うまでもないだろう。
高町
「うぉぉぉー!!」
白砂は跳ね上がったナイフを全て避けた、その事に関しては褒めてやるよ、だが油断大敵だ!
全力を込めて残りの一本を横に薙いだ。
〜〜〜side高町end〜〜〜
〜〜〜side悠子〜〜〜
悠子
「すっ、凄い」
私の目の前では高町さんと白砂さんが闘っている、高町さんが強いと言うことは渡辺君との模擬戦でわかっていたけど、これ程までに強いとは思わなかった。
白砂さんは確かに流派の奥義や技を使ってはいない、だけどそれは高町さんも同じだろう、さっきから加速系以外は使っていない
このまま闘えば白砂さんに勝てるのでは? そんなことさえ思ってしまう。
しかし
秋那
「このままでは、勝負は終わらない」
悠子
「どうしてそう思うんですか?」
秋那さんの考え方に私は疑問を持った、実力が拮抗しているのではなく、僅かにだが今は高町さんが圧しているという状態だ、それなのに何故?
秋那
「確かに今現在、状況的に高町が僅かに白砂さんを上回っている、だがお互いに未だ決定打を決めてはいない、ならばどちらかが動かなければ状況は何も変わらないだろう」
私はハッとして高町さんと白砂さんを見たが、確かに秋那さんのいう通りどちらも大した傷は見えない。
そのまま、闘いを見ていると先に動いたのは高町さんだった。
先ず持っていた剣の内一本を投擲した。
悠子
「えっ!?」
闘いの最中武器を投げるなど普通に考えてまともじゃない、ならば何か考えがあるのだろう、秋那さんは真剣に高町さんが次に何をするか見ている。
次に先ほどから白砂さんの動きを牽制するために投げていたナイフを投擲した
その全ては叩き落とされるか、避けられた。
それと同時に一気に白砂さんは接近しようとするが、ここでとんでもない事が起こった。
高町さんはさらにナイフを投擲する、今度は白砂さんではなく白砂さんが弾いたナイフに投擲して、当てたのだ、その当たったナイフは下から掬い上げるように舞い、白砂さんに襲いかかる、高町さんはナイフを投げると同時に白砂さんに走り出す、恐らく白砂さんが避けても残りの一本で畳み掛けるつもりだろうか。
高町
「うぉぉぉー!!」
白砂さんは下からのナイフを全て避けたが、避けることに集中し過ぎて接近する高町さんに気づいていない、そして高町さんが気合いと共に一閃したと同時に白砂さんも手を槍を構えるようにして手刀による突きを放った。
辺りは砂ぼこりにまみれて何も見えない、そんな中何かが地面に手をつくのが見えた。
〜〜〜side悠子end〜〜〜
勝敗は決した、確かに白砂を地面に手を着かせるまでに至ったが、所詮そこまでだ、大ダメージを負わせたが戦闘不能に陥った訳ではない、こちらは奥義を二つも使ったというのに、白砂の方は恐らく奥義を使わず、しかも絶対的不利な状況から反撃までされたのだ、これを敗北と言わずに、何と言おう、だから認めよう、こちらの敗北を。
高町・琴乃
「俺の(私の)敗けだ」
敗北を受け入れ、宣言をしようとしたとき、何故か白砂も敗北を宣言した。
琴乃
「何故?」
(それは俺聞きたいぐらいだ、白砂の方だってまだ闘える筈なのに、何故敗北を認める?)
高町
「俺の方は奥義を二つも使ったのに、お前を倒しきれなかった、それだけだ逆に俺が聞きたい、何故敗けを認める? まだ闘える筈だろ?」
琴乃
「お前、全力出してない、私も全力を出せていない決着はお互い全力で」
そういうことか、確かに白砂は全力ではないだろう、確か白砂家の武術で主な武器はハルバードと呼ばれる武器だった筈なのだから、それにしても―
高町
「何故、俺が全力の状態じゃないと思った?」
この質問は当然だろう、普通に考えて相手が全力じゃないなんて理解するのは難しい、全力じゃないなら必ず違和感や、不自然なことをするはずだ、しかし俺は完璧とまでは言わないが、ある程度は隠していた筈だ不馴れな双剣のスタイルを苦手とバレないように、闘っていたはずなのに、白砂はそれに気がついた、俺の動きに違和感や不自然を感じたのなら、白砂は確実に状況の理解や、相手の情報を理解する能力が高いと判断する。
琴乃
「最後に斬りかかったとき…」
(最後? あの影打ちを使った時か?)
琴乃
「お前、顔を狙った方がダメージになるのに、顔を狙わなかった、それどころか最初から一度も顔を狙わず、腹や、傷に成りにくい場所ばかり狙った」
高町
「なっ!?」
絶句する、確かに俺は傷が残らないように、腹や脇腹等を狙ったが、気づかれるとは思わなかった。
しかし白砂はそれをいとも簡単に見破った。
高町
「確かに俺は顔や、後々傷が残らない場所ばかり狙った、だがそれだけで俺が全力かと思ったのか?」
琴乃
「そう」
白砂はそう言って頷き、肯定した、こいつは自分を信じている、決して相手の能力を過大評価せず、かといって過小評価もしない、恐らく白砂は状況判断力が高いのだろう。
高町
「それで、勝敗の件だがお互い敗けを認めるなら、今回は引き分け、ということにしないか?」
お互いに勝ちではないと言うのならば、どちらも勝ちではなく、どちらも敗けとも言えない引き分けが一番妥当だろう、白砂もそう思ったのだろう、俺の意見に頷いて了承の意を表してくれた。
高町
「さて、勝敗も決まったことだし、おい!そこの草の陰にいる奴、いい加減出てこい!」
言うと同時にコートからナイフを近くの木に向けて投擲した。
???
「うわわわっ、」
叫び声を上げながら草の陰から出てきたのは、意外にも相沢だった。
(てっきり、三沢か渡辺だと思ったんだが、いや待てよ、相沢の性格から考えて俺たちの闘いを覗き見するような奴じゃない、ならば一番こういうことを唆しそうな奴と言えば…)
高町
「おい!まだもう一人、麻布が隠れてんだろ? さっさと出てこい」
未だに隠れているであろう麻布に対して呼び掛けた
秋那
「何故私が隠れているとわかった?」
高町
「簡単なことだ、相沢は一人でこんな覗き見をする奴ではない、こんなことを唆しそうな奴と言えばお前ぐらいしか思い浮かばないからな」
秋那
「私はそんな風に思われていたのか」
いかにもショックと言わんばかりに、うなだれる麻布だったが、それを無視して相沢に聞く。
高町
「そういえば三沢と渡辺とチ…あの金髪はどこいったんだ?」
あの喧嘩していたチビをチビと言いかけたときに白砂がもの凄い顔で睨んできたので慌てて言い換えた。
(あの手の類いは怒らせると面倒だからな)
過去の経験から、そう判断して言い換えたはずだ、決して白砂が怖かったからじゃないと信じたい。
悠子
「えーと、あの三人だったら1対1で決着をつけるって言って渡辺くんを審判にしてどっか行っちゃいましたけど…」
琴乃
「どっち?」
即座に聞く白砂、今から追うつもりなのだろう、ご苦労なことで。
悠子
「え、えーとあっちの方です」
そう言って公園の北の方を指差した相沢だったが、白砂はそれを確認すると走り出した。
秋那・悠子
「ま、待った(待ってくださーい)」
二人の制止を聞かずに白砂は走り出した。
悠子
「追いましょう」
秋那
「ああ!」
そう言って二人とも走り出した、残ったのは俺だけ、俺は追わずに、休むことにした。
後に見つかった三沢と渡辺とチビは何故か三人とも気絶して発見されたらしい
〜〜〜side高町end〜〜〜
―第三十一話―
―朝霧・白砂後編―
―完―
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