44.それぞれが想いを胸に
「……てください……起きてくださいっ!」
何だか耳元で誰かが叫んでいるような気が。頼むからもう少し寝かせてくれよ……ッ!?
「ほら、やっとお目覚めですか。もうみんな外に出ていますよ」
オレの布団をはがし、横にいたのはルナだった。窓から外を見るとまだ薄暗い早朝だった。いったいこんな朝から何なんだ?
「おはようルナ。何かあったのかい?」
「おはようございます。もうっ、今日は武闘大会の開会式ですよ。忘れたのですか?」
そういえばそうだった。しかしこんな朝早くから始めるかね。もっと遅くから始めてもいいんじゃないのか。
「ああ、そうだったね。ナタリアはどうしている?」
「ナタリアちゃんならとっくに準備していますよ。ご主人様も早く起きて表に出てくださいねっ!」
そう言うとルナは部屋を後にした。オレは立ち上がり、もう一度外を見る。いよいよ始まるのか。大会に出場するのはオレじゃないが、何だか緊張するな。オレは自分の頬をパシッ!と叩き、目覚めさせる。
「よし、行くか!」
オレは武闘大会に向け、部屋を飛び出すのだった。
「ご主人様、はやくしないと置いていきますよ!」
……なんだか最近、オレとルナの立場が逆転しているような。
大きなあくびをしながら、
「こんなに集まっているとは。オレはまだ寝れるってのに」
「それはご主人様だけですよ。みんなこの日を楽しみにしていたんですから」
この街伝統のお祭り。楽しみにしている人もいるか。
「おーい!」
大きな声がし、振り返るとノアが駆け寄ってくる。
「おはよう」
「ああ、とうとうだな。お前も緊張してんじゃねーのか」
「オレは見ての通り、まだ眠気がな。けど、ナタリアならその逆だ」
朝からオレはまだナタリアとは言葉を交わしていなかった。なるべく自分が精神統一できるようにしてほいいからだ。
「そうか。なんだか俺も緊張してきたな」
「ははっ、ノアは出ないだろ。でも、応援してくれるだけでありがたい」
「あったり前さ。アイツをぶっ飛ばせる逸材なんだろ? 期待させてもらうぜ」
『アイツ』とは前回優勝者のローガンのことだろう。何があったか聞いてはいないが、深堀は止めておく。
「だいぶ集まってきたな。開会式ってそんなに大事なものなのか? 観光客向けのイベントとか」
オレは素直に疑問にしていた。それはノアが答えてくれた。
「ま、一つはハルトが言ったのが正解だ。せっかくの祭典だ。経済効果もあるさ。そしてもう一つは……お前も気付いているだろう? 他の人の雰囲気を」
「まぁな。目を見ればわかるよ」
そう。この闘技場の前には全ブロックの出場選手が集まる。この日のために血みどろな鍛錬をこなし、この地に立っている。当然、生半可な気持ちで挑む者などいない。
「ご主人様、ほら、上を見てください!」
ルナに言われるがまま、見上げるとそこには上半身がはだけた老人がいた。その鍛えられた肉体美は歳を重ねても健在していた。だが、オレにはその老人が知るわけもなく、
「誰なんだ、あの人?」
「バカかっ! あれはこの街の英雄、ルドルフさんさ。そしてこの大会の主催者だよ」
そんな偉い人だったとは。たしかになんかオーラがすごい。ルドルフが咳払いすると、皆口を閉じ、静寂になる。
「皆の者、よく集まってくれた。ここにいる者の過半数が、大会に出場する選手じゃろう。お前たちはまだ卵じゃ。ワシに比べればまだまだ未熟なヒヨっ子じゃ。だが、才能はある。この大会で存分に持ち前の力を発揮してもらいたい。……まあ、前座はこれくらいにしておいて」
そしてルドルフは大きく息を吸い、
「――これより、武闘大会開始の宣言をする!!!」
この街に響き渡る程の大声量。
「「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
ここにいる全ての人が大声を上げている。
「これこれ、これでこそ武闘大会だ」
ノアにとってはこれが恒例行事のようだ。まあ、気合いは入るな。オレは横目でナタリアを見る。その目は……心配はないだろう。オレができることは、信じることだけだ。
会場全体を覆うほどの開会の言葉により、開会式は終了する。
主人様のために、過去との決別をするために、富豪の力による差を見せつけ英雄になるために、そして……復讐するために。
――それぞれが想いを胸に、武闘大会が始まったのだった。
試合前の控え室。ナタリアはAブロックの1回戦からのため、この場所にいた。極力緊張をほぐすため、オレとナタリアの2人きりだ。
「緊張しているか?」
「いいえ、私は今までこの日のために鍛錬してきましたから。必ずや勝利をこの手に」
その言葉は嬉しいが、できれば自分のために頑張ってもらいたい。けど、ナタリアがやる気ならいいか。
「それに、あのエドワードって相手をボコすためです。主人様を侮辱した恨みです」
まだそれ気にしてたの!?
「あんまりオレのことは気にするな。ただ、全力でやるんだ。ナタリアは強い。だから見せつけるんだ。ここにいる観客にもな」
「はい、そのつもりです!」
話しているうちに試合時間となり、ナタリアは闘技場の中央へ歩いていく。オレはじっとその背中を見つめていた。
「さて、オレも観客席に戻るか」
当然、心配などしていない。だってナタリアは、強いのだから。




