40.そして新たなステージへ
激しい攻防戦だ。互いに牽制し合い、様子を伺っている。どちらも力は互角という証拠だ。下手に動けばその時点で負けてしまう。ナタリアのオーラは最初とは大きく変わっている。強者の威圧というものなのだろうか。それほどまでに成長していた。
「はっ!」
ナタリアは超高速移動で相手の懐に入り込む。あの技はオレも一度は受けた。しかし、あまりに直線的な動きは相手に読まれやすい。当然、ヴァルクさんも見切っているだろう。
「確かに速いが、タイミングさえ合えば簡単に攻略できるぞ!」
「クッ!」
そのまま防戦一方になるナタリア。これはまずいか。
「あのままだと負けてしまいますよ」
「ヴァルクさんも相当な実力者だ。そう簡単に隙など見せないだろう。でも、……いつか勝機はくる」
「それってどういう意味ですか?」
「見てればわかるさ。果たしてナタリアは本当に守りだけに徹しているだろうか」
そうだ。ヴァルクさんの攻撃を受け止めているナタリアの方が不利だろう。ただそれは客観的に観た話だ。最初こそは不利を強いられていたが、今は拮抗している。
「ふんっ、私の攻撃を捌くとは。面倒なやつめ!」
「負けたくないんです。こんなところで負けるわけにはいかないから!」
徐々にナタリアが押し返していた。ここにいるその誰もが驚いていただろう。
「不利だったナタリアちゃんが……勝ってる!?」
「獣人は並外れた身体能力を有する。その瞬発力や攻撃力もそうだが、なによりすごいのは体力だ。つまり、人間より持続的な戦闘ができる」
「はっ、だからヴァルクさんはすでに疲れが出始めているけど、ナタリアちゃんはまだまだ戦えるってことですか?」
「そういうことだ」
だからオレとの特訓もついてこれたのだろう。それに、ナタリアは普通の獣人以上の体力をつけたのだ。厳しい訓練の末に手に入れた、ナタリアだけの力だ。
「まさか……押し負けるとは。だがここで負けるわけにもいかない。さあ、全力で来い!」
「……初めて誰かに自由をもらいました。私にとってそれは本当に嬉しかった。だから、ここで主人様に恩を返さなきゃいけないのです!」
またしても高速移動で間合いを一瞬で詰める。しかしさっき攻略されたばかりだ。
「またそれか。そんなんじゃいつまでたっても成長できないぞ! ……何っ!」
「もう、――負けるような人生は嫌ですから!」
最初の一撃はフェイント。ナタリアは体勢を低くし、そこから得意の蹴りをくり出す。それにヴァルクさんは反応できず、腹部に直撃する。そのまま後方へと吹っ飛ぶ。……しかし、まだ、ヴァルクさんは立っていた。
「ははっ、あの攻撃をやられて立つとか化け物か」
思わず驚いてしまった。しかしその直後、膝をついた。
「見事だ。よく私に膝をつかせた。……私の負けだ。ナタリアの勝ちとし、これにて最終試合とする」
ナタリアにとって初めての試合、しかもレベル4相手に勝ったのだった。
オレたちは試合が終わったあと、いつもの部屋にいた。
「すごいよナタリアちゃん! もう私感動しちゃった」
「いえ……私はまだ改善する点はいくつもあります。まだまだです」
だいぶ謙遜しているようだ。
「素直に喜んでもいいんだぞ。正真正銘、ナタリアの勝利だ」
不利な状況から打開策を考える思考、決して諦めない精神力。たった一ヶ月で身に付いたとはとても思えない。
「あのっ、主人様、これからも……ずっと一緒にいてもよろしいのでしょうか?」
「何を言っているんだ……もうオレたちはパーティだろ? だったら逆にいちゃダメな理由なんてこれっぽっちもないだろう。それに、歓迎するのはオレだけじゃないよ。ルナだって嬉しいんだから」
「私はずっとナタリアちゃんと一緒にいると誓いましたよ! こんな可愛い子を手放すなど考えられませんっ!」
なんか色々と違う意味で好かれているようだけど、まあいいか。最後にオレはもう一度、手を差し伸べる。
「オレたちについてきてくれないか?」
「……はいっ!」
オレはナタリアの頭を撫でる。思っていたよりケモ耳がフサフサしていた。
「あっ、そのっ……恥ずかしいです」
その顔はだいぶ真っ赤になっていた。
「ナタリアは頑張ったからね。これからもよろしく」
「あっ、ご主人様ばっかりズルいです! 私だって抱きしめたいです!」
そう言うと俺を手をくぐり抜け、ルナに奪われてしまった。こうして模擬戦は勝利に終わり、オレたちの絆は深まった……のだろうか?
「んんっ、イチャついてるところ申し訳ない。用事があってここに来たのだが時間はあるか?」
えっ、誰かいたの?と思い、扉の方に目をやるとヴァルクさんがいた。
「いたならノックぐらいしてくださいよ」
「何度もしていたんだがな。お前たちが気づかなかっただけだ!」
おっとそれは失礼。怒られてしまった。
「まあいい。それで私の用件はこれなんだが」
そう言うと1枚の紙を渡される。どうやらなにかのチラシのようだ。気になったのかルナたちも寄ってくる。
「なんですかこれ?」
「見ればわかる……ここから少し離れた場所で行われるものだ。君たちにちょうどいいと思ってな」
そこに書かれてあったのはオレが聞いたことない催し物だった。
「……武闘大会。お前たちにうってつけの大会だ。もっと言うなら、――私に勝ったナタリアにな」
新たな仲間とともに、オレたちは次なるステージへ向かうのだった。
「面白い!」「続きが気になる!」
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