39.オレを越えろ、その限界を越えるんだ
「模擬戦……ですか?」
「ああ。どうやら定期的に一般兵から選抜された兵が隊長であるヴァルクさんと模擬戦をするそうだ。それにナタリアが選ばれた」
なんともヴァルクさんが開きそうだ。あの人戦いが好きそうだしなー。案外暇なのかも。
「で、でも、私はまだ修行中。ヴァルク様と手合わせするなどまだ……」
不安だろう。格上の相手と戦うのは覚悟がいる。負けてしまうのではないか、呆気なくやられてしまうのではないか。だからオレは少し昔話をする。
「オレも、絶対に叶わないなって思った相手がいたんだ」
「主人様にもいたのですか? そんな人が」
「いるよ。オレだって全知全能の神じゃない。強い人はいるさ。その冒険者は魔法は一切使わず、ただ己の剣のみを信じ、己のために振るう。そんな人だった。でも、オレは一緒に進み続けた。だっていつまでもうずくまってたら、追いつけないだろう」
3年もかかった。ようやく対等になれると思っていた。あんなことがなければ……いや、今はそんなことはどうでもいい。重要なのは、
「前を向いて戦うんだ。ナタリアの力は誰のものでもない、ナタリア自身のものだ」
少しでもオレの言葉が勇気に変わるのならいくらでも声をかける。後は、ナタリア次第だ。
「正直……怖いです。何もかもが不安です。でも……やります。私、頑張ります!」
「うん、オレもルナも応援してる。オレたちに見せてくれ。君の全力を」
それから模擬戦当日がやってきた。
「ふふんっ、これより恒例行事の模擬戦を開始する。今回出場するのは3名。好成績を収めたガルド、気合いだけは十分のアビ、それから、――途中参加であり不利な状況からだが、最も実力をつけたナタリア。以上の者はこの闘技場へ上がれ」
中央にはステージが設けられ、その周りには観覧席がある。そしてステージにはナタリアがいた。オレとルナは観覧席で他の王国兵と一緒に試合を見届ける。
「ナタリアちゃん、大丈夫ですかね?」
「心配はいらないさ。ナタリアはこの一ヶ月ずっと頑張ってきた。努力は裏切らないよ」
日中の辛いヴァルクさんの訓練を受けながら、夜はオレとの訓練もこなしていた。その疲労は凄まじいだろう。だが、ナタリアは一言たりとも弱音を吐かなかった。普通であれば挫折するであろう。しかし、彼女は違った。強い何かが、彼女を支え続けた。
「だから、オレたちは信じるだけさ」
「そうですね!」
最初にヴァルクさんと戦うであろう、王国兵がステージへ上がる。
「では、早速模擬戦を開始する。ルールは簡単。一対一で戦い、戦闘不能にさせた方が勝ちだ。とてもシンプルながら熱い試合だ。それでは――試合開始!」
ヴァルクさんのコールとともに、模擬戦の幕が上がった。
それは容赦なく、圧倒的な差だった。一人目、二人目と連戦するも、ヴァルクさんに攻撃を一度も当てられず、一方的にやられていた。
「……ヴァルクさん、強すぎません?」
さすがにルナも唖然としていた。それもそうだ。ヴァルクさんは現役のレベル4だ。オレも1回戦ったが、その実力は本物だ。オレだって手加減し過ぎれば負けてしまうだろう。それほどの実力者。
「はぁ、全く、私の兵はなんでこんなに弱いのだ。私は本気を出しとらんぞ」
この時、周りにいた王国兵はこう思った。
『あんたが強すぎんだよ!』
しかし、こんな状況でも、臆することなく挑む者がいた。
「では、最後の相手だな。ナタリア、準備はいいか。いつでもかかってこい」
さあ、頑張ってくれナタリア。オレを……越えろ!
「行きますッ!」
それは一瞬だった。明らかにさっきの王国兵とは違った。それはこの場にいた全員が感じ取った。恐るべきそのスピードは、ほとんどの者が追いつけないだろう。放たれる一撃。致命傷となる攻撃を、ヴァルクさんは受け止めていた。
ズドンッ!
「やるじゃないか。君と戦うのはこれが初めてだ。さあ、もっと私に見せてくれ! その実力を!」
激しい攻防戦が繰り広げられる。ナタリアは得意の脚力を活かして蹴りの攻撃を仕掛ける。それを見切ったのか、ヴァルクさんは後方へ下がり、隙のできたところに拳を放つ。とっさの判断で受け流し、互いに間合いをとる。
「よくこの一ヶ月で成長したな。ここまでの逸材だとは。いつか我々の部隊に入ってもらいたいくらいだ」
「その気持ちはありがたいですが、私にはパーティという仲間がいるので」
「仲間……ハルトたちか。ふふっ、やはりハルトはただの冒険者じゃないな。何かを引き寄せるそんな人物なのだろう。ナタリアよ、君は強いさ。私が認める。……だが、ハルトにはまだ程遠いな。守るんだろ? ハルトを。超えるんだろ? そんなんじゃいつまでも追いつけないぞ!」
「……それは、私が一番わかってます!」
「ならもっと全力で来い! 私に見せろ。その実力を!」
ヴァルクさんは挑発するような言動を放つ。それにナタリアは感化される。まるでわざとらしく。
「なんでヴァルクさんはあんなことを言うのでしょうか……?」
「試してるのさ。ナタリアの限界を。限界を超えたその先の境地へ誘おうとしている」
オレという目標がある限り、ナタリアはオレを超えることはできない。だから、ヴァルクさんはその先を引き出そうとしている。
「……私だって、強くなったんです!」
怯まず、ナタリアは地を蹴り、戦いに挑む。
「ここが正念場だろう。ナタリア、壁を超えるんだ」
気のせいか、ナタリアの目はさっきより輝いていた。まるで、戦いを楽しんでいるかのように。
※次回の更新は6月10日、17時頃投稿予定。
「面白い!」「続きが気になる!」
と思った方は、
下にある『☆☆☆☆☆』から作品の応援してもらえると嬉しいです。
ついでに『ブックマーク』もポチッと押して頂けると幸いです。




