38.ちょっと成長スピードが速すぎる件
この日からナタリアの修行が始まった。前の主人は何をしていたのか、戦闘の基礎すらも教わっていなかったのだ。そりゃ追放するだろ。だって教えていた人が悪いもん。才能がない人に拾われたら、そりゃ才能が開花するわけがないだろう。
王国兵とともに、同じ訓練を受けている。体術、剣術といったものを叩き込まれている。指揮しているのはヴァルクさんだ。キツイのも仕方ない。あの軍曹には誰も勝てない。オレとルナは、ナタリアが必死になって訓練している様子を眺めていた。
「ナタリアちゃん、頑張ってますね」
「そうだね。彼女自身が選んだんだ。オレたちは見守ることが役割だ」
「それにしても、ご主人様があんなキツいこと言うなんてビックリしましたよ」
それはあの時だろう。オレ自身ですらあれは追い打ちをかける言葉だったと記憶している。
「安易な気持ちで冒険者はなっちゃダメなんだ。かつて、パーティに蔑まれ、追放された冒険者がいるように、必ずしも楽しい道が待っているわけじゃないからね」
いつか、オレもケジメをつけなきゃならない。多分、本気でぶつかって初めてわかることだから。
「それ、ご主人様じゃないですか。もうっ、でも、ご主人様はナタリアちゃんのことを思って言ったのですよね。それなら、私は嬉しいです」
「……嬉しい?」
「はい、私とナタリアちゃんはご主人様に救われた存在。だからご主人様に認められ、一緒にいるのが何よりの幸せですから」
そんなものなのだろうか。オレはオレ自身の使命を果たすつもりでいたからな。
「オレはそんな良い奴じゃないよ。きっと……」
既に一人の人間を裁いたのだ。オレは、――悪魔みたいなものだろう。
訓練は早朝から夕方にかけて、夜はオレが相手になって稽古をしていた。
「それじゃダメだ。隙が大きすぎる。もっと相手の動きを予測するんだ」
「はいっ、主人様!」
ナタリアは獣人だ。人並外れた身体能力を主に使う。だからオレはそれを最大限活かせるようにしていた。機動力を活用した奇襲攻撃。それは一瞬にしてオレの背後を取っていた。
「もらいました!」
――ドスンッ!
オレは片手で受け止めていた。
「動きはいいが、思考がバレバレだ。最初は戦えるが、直線的な動きは相手に読まれやすい。もっとあの脚力を使った戦闘をした方がいい」
「……はい」
オレは今の動きについて講評するが、すごい落ち込んでいるのがわかる。あんなにわかりやすいと言いずらいな。なんかオレが悪者になった気分。
「でも、この数日でかなり成長したと思うよ。出会った頃とは比べ物にならない」
っていうか、成長スピードが尋常じゃない。それになんだか少しずつ大人びてるし。ちょっと前まで完全な子どもだったのに。
「私には勿体ないお言葉。まだまだ修行中です。これからもっと成長してみせます」
「お、おう……そうだね」
あっれー、オレとルナよりしっかりしているのは気のせいだろうか。
あれから一ヶ月が経とうとしていた。
……うん、絶対におかしい!なんであんな成長速いの?思わず疑ってしまうレベルだよ。マジで。今日もナタリアは訓練だ。他の王国兵と模擬戦をしていたが、圧勝だ。女の子だからといって手加減したら恐らく生きては帰って来れないレベルまで到達していた。
もうあれレベル4行くだろって感じだ。オレが遠くから見てるとヴァルクさんが手を振ってこちらへやってくる。
「君からすれば、この訓練はたいしたことないだろう」
「いいえ、厳しいと思いますよ。この国の治安が守れているのも納得しましたよ」
あれなら暴動が起きても一瞬で鎮圧できそうだ。
「なかでも君の獣人は優秀だ。まさかあそこまで成長が速いとは」
ヴァルクさんも褒めていた。それほどまでにナタリアはすごいのだ。
「色んな意味で成長が速いし、あれもナタリアの才能なんですね」
オレはふと言った言葉にヴァルクさんは目を見開いて反応する。
「何を言っているんだ?」
「えっ、いやだってほら、あれはナタリアがすごいからって……」
「そうか。獣人の特性を知らんのか。なら私がわかりやすく解説してやろう」
立ち話もなんなので、座って話すことにした。
「獣人は、環境の影響を受けやすいんだ」
「環境の影響?」
「そうだ。環境適応能力とでも言う。生き抜くためには今の環境に慣れる必要がある。獣人はそれがしやすいんだ。もしそれが人に教わるという環境だったとしたら、教える人が優れていれば、より吸収しやすい。つまり、よほど君が教えるのが上手いというわけだ」
「いやオレは何もしてませんよ。全部、ナタリアが勝ち取った力です」
獣人にそんな特性があったとは驚きだが、おそらくそれはナタリアが努力した賜物だろう。
「ともかく、あんな強い獣人がいるとこちらとしても頼りになる。最近は魔獣のことで不安になっているからな」
魔獣についても、オレができる範囲で調べた方が良さそうだ。何かが起ころうとしているのだから。
「そういえば、たしかレベル5の獣人冒険者がいた気がする」
「レベル5の!?」
レベル5は、この世界で最もランクの高い存在。かつての仲間、セレシアと同じだ。数人しかいないレベル5に獣人がいるとは。
「ああ。いつか会ったら教えを乞うといい。きっと役に立つだろう」
「そんな情報まで。本当にありがとうございます」
「いいんだよ。何度も言ってるが、これは私の意思でやっていることだ」
そしてカッコよく去っていったのだった。頼りになる人とはヴァルクさんみたいな人なのだろう。オレもいつかはあんな風になってみたいな。
すると、一人の王国兵が声を上げる。
「あっ、ヴァルクさん! サボってないでちゃんと訓練に参加してくださいよ!」
「おっと、すまんすまん」
……いやサボってたんかいっ!
何はともあれ、ナタリアの修行は順調だった。
それからヴァルクさんとナタリアの模擬戦が決まったのは数日後のことだった。
※次回の更新は6月6日、19時頃投稿予定。
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