32.ハルトは英雄として称えられる、そして奴隷の獣人はパーティから追放される
「本当に行ってしまうのですか?」
「そうだ。せっかくならもっとここにいてもいいんですよ。あなたはこの村を救った英雄なんですから」
「そうだわ。それがいいわね。もういっそここに住んでもいいと思うわ!」
「いや、だから王国に帰らないと……」
はぁ、とオレは思わずため息をついた。村人が騒いでいる理由。あの時を思い出すだけで胸焼けしそうな気分だ。まあ、村も安全だし結果的にはいいか。
村を襲った毒の病とパラライザーによる襲撃、そしてオレ以外は知らないが裏で動いていた兵士との戦闘。あれから1週間ほど経過していた。パラライザーとの戦闘は勝利し、勝利の宴がここしばらく続いていたがようやく収まってきたところだ。病人の症状を確認しておきたくて数日はいるつもりだったが、まさかここまで引き伸ばされるとは。
村人はオレたちをあれやこれやと理由をつけてはここに居させようとした。それほどここの人たちにとって嬉しかったのだろう。
「そんな固いこと言わずにね! ほら! 私たちはみんなあなたを歓迎しますよ!」
老人は歓迎するが遠慮しておく。ここに居てもいいが、早く王国に帰って報告しないとアヤメに怒られそうだし。
「ふふっ、ほんとっ、一気に有名になりましたね」
「ルナ、笑い事じゃないぞ。オレは毎晩宴に呼ばれて休んだ日はないくらいだ」
「でも、皆さんの顔をよく見てください。ここにいるのは、ご主人様が助けた人たちです。ご主人様がいなければこの笑顔はありませんよ。きっと今まで命の危険という状況がなかったのでしょう。だから今回は絶望の瀬戸際まで追い込まれた。ですが、それを助けたのです。このような状況になるのも仕方がないと思いますよ」
ルナの言う通り、この辺境の村にはそもそもスライム程度のモンスターしか現れないから、襲われるということがない。村人の恐怖心は計り知れないものだっただろう。誰かのためになったのなら、オレはそれでいい。
「さあ、オレたちも帰ろう。病人も異常ないしここにいる必要はない。名残惜しいが、はやく出発しないとアヤメに怒られるしね」
「そうですね。行きますか!」
身支度を済ませ、馬車で帰る直前、村長である老人に小さい木箱を渡す。
「こ、これは一体?」
「この中には魔力が込められている。またなにか異常事態があったら開けてくれ。きっと村の助けとなるから」
「おお、こんな物まで用意してくれるとは。本当に、あなたはまるで神様だ」
「気にしないでくれ。誰かの助けとなれるならオレはそれでいいから」
別れの言葉を告げ、馬車に戻る。
「何をしてらっしゃったのですか?」
「御守り。冒険者がいない村は何かあったとき大変だからね。お節介かもしれないけど」
さて、これでやることは終わったか。オレは馬車を出発させる。後ろを見ると、村人総出で見送りをしてくれていた。
「また必ず来てくだされ、冒険者よ。我々はずっとあなたの味方ですぞ」
オレたちを見送る村人たちは、見えなくなるまで手を振り深々とお辞儀をしていた。
「まさか、村を救うなんてさすがです、ご主人様」
「やるべきことをやっただけさ。だから、褒められることはしていないよ」
そう。オレはただやることをやっただけだ。本当は褒められたり感謝される義理などないのだ。
「次はどんな旅が待っているのですかね」
「そうだな。オレたちはどこまでも行けるさ。ルナとならね」
「……」
そして妙に間が空く。あれー、なんか気まずいぞ。それに恥ずかしい。顔が赤くなってしまった。それはルナも同じらしく、
「そ、そ、そ、そうですね。はい! 私もご主人様なら、ど、ど、ど、どこまでもっ!」
そして互いは見つめ合い、同時にニコリと笑ってしまった。
「ははっ、なんだよ今の喋り方」
「それはご主人様だってそうじゃないですか!」
和やかな雰囲気の中、馬車はゆっくりと進む。風になびかれながら、オレたちの旅は続くのだった。
〜とある街道〜
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
私はまた叩かれた。これで何度目だろうか。「次はちゃんとやる」と何度言っただろうか。
「ふんっ、新しい仲間を入れようとしたのに、まさか買った奴隷の獣人がここまでハズレだったとは。無駄な金を使わせやがって」
私は獣人であり、奴隷だ。奴隷商人の商品として売られていたところを、この冒険者パーティに買われた。1ヶ月ほど前に。
「まあまあ、こんなもんだろ。まだ幼いし、ここから強くなるかもしれないだろ」
「お前はわかっちゃいねぇ。さっさと戦力をかき集めて、俺は復讐するんだ。そのためなら何でもする。この獣人は俺が一から教えてやってんのに、一向にできないんだぞ。だから奴隷、お前はここで切り捨てる。せいぜい生き延びろよ」
たった今、私は捨てられた。何もない場所でパーティから追放されたのだ。生まれてまだほんのちょっとなのに死ぬのだろうか。
「お、おい! はぁ、というわけだ。じゃあな獣人の少女」
「ご、ごめんなさいね。もうっ、待ってくださいよ、ライアン様〜!」
「さっさと行くぞ。必ずこの手でぶっ潰してやる。――ハルト」
私を買った主人は、私の知らない人の名を叫ぶと去ってしまった。もう数日間、食べ物も口にしていない。自力で動くことは不可能に近い。声も出せない。だから、心の中でただ叫ぶのだった。力がない私は……それくらいしかできなかった。
――誰か、助けて……
※次回の更新は5月25日、17時頃投稿予定。
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