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31.あるはずのない勝利の未来

 「さっさとやろうか。――君を地獄に叩き落とす時間だ」


「ハハッ、随分と調子のいい言葉を喋るじゃないか。まさかこの姫さまの護衛をする私を倒せるとでも?」


「そのつもりさ。だからオレはここにいる」


 兵士は挑発するかのような態度をとる。


「一撃目の攻撃を避けたのは褒めてやろう。だが、レベル4に昇格寸前の私に、スキルは知らないがレベル0という弱者のレッテルを貼られた君が勝てるわけがないだろう」


 どこまでいっても、レベル0というものはオレを縛り付ける。面倒なものだ。


「この世界はどこまでいってもレベルなのか? オレはそうとは思わない。必ずどこかにレベル以上の才能を持った人ぐらいいると思うけどね」


「だったら私の目の前に連れてきてほしいよ。ま、そんな者などいないけどね」


「そうか。だったら見せてやるよ。ここにいる冒険者が、どれほどの感情を抱いて君の前にいるのかってことをね」


 オレは剣先を相手へと向ける。


「来い。実力の差というものを見せてやろう!」


 ――ガッ!


 互いが同時に駆け出し、間合いを一気に詰める。剣が交差しつばぜり合いの状況になる。火花が飛び散り力勝負になる。


「ガキにしてはなかなかの力をもっているじゃないか」


「そっちこそ、さすがはレベル4になろうとしている人だ」


「だったらもっと力をだそうではないか!」


 つばぜり合いの力が抜け、優勢だと思ったが、兵士はそれを利用しオレがもたついたところを斬りかかる。オレも負けじと不安定な体勢から受け止める。


「チッ、まぐれめ。次はないぞ!」


 兵士は剣を横に薙ぎ払う。それをオレはステップを踏み後ろへ回避する。兵士はそれを狙っていたかのように着地の瞬間に突きの攻撃をする。心臓を貫くはずだった剣は、なんとか剣で滑らせ回避する。


「思ったよりやるね。これはやりがいがあるよ」


「威勢がいいのも今だけだ。さっさとその口を喋れなくしてやるよ」


 あの兵士はレベル高い。剣筋も悪くないが、何よりその思考能力だ。まるでオレの次の手を知ってるかのように動く。一切の無駄もなく。……なるほど。その異様な慢心はそういうことか。


「まさかだけど、君のスキルって()()()()()()()()()()?」


 オレの質問に兵士はニヤケながら答える。


「その通りだ。私のスキルは『(ネクスト)()未来(フューチャー)』。次の未来が選択肢として出てくる。私はそれを選び、攻撃をしている。つまり最初からお前が勝つなんて未来はないのだよ!」


 本当に厄介だ。いや、ズルいというべきなのだろうか。スキルで言えばトップクラスに強いだろう。けどとても残念だ。


「そんなスキルを持ってたなんてね……本当にもったいない」


「何が言いたい!?」


「だから、――君みたいな弱い人がそんなスキルを持っていてもったいないって言ってるんだ」


「腑抜けたことを。いいだろう。そこまで死にたいのなら、殺してやろう!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、理性を失うかのように剣を振るう。だから勿体ないんだ。もっと冷静な人に与えられればレベル5までいけたかもしれないのに。この世界の神様はとても意地悪だ。


 ――スパンッ!


 先の未来が見える。それにより確実に当たったはずの一撃は、空を斬った。


「何っ! 私は見たんだ! お前が私の剣によって死ぬところを。なのに何故死んでいない!?」


「答えは簡単さ。オレはその先の未来を見た。だからもう君の攻撃は当たることはない」


 スキル『創造』により兵士のスキルを使用したのだ。オレのスキルは一度見たスキルは『創造』が可能だ。


「ありえない。ありえないありえないありえないありえないありえないッ! あってはならない未来だ! 今お前は、私によって殺されるんだッ!」


 怒り狂い、闇雲に剣を振るう。その姿は滑稽だった。エリートだとしても、ここまで落ちぶれるとは。だったらもう決着をつけようか。オレは距離を取り、スキル『瞬速(アクセル)』で足元を狙って高速の一閃をくり出す。


「グハッ!」


 兵士はモロに攻撃をくらい、よろめく。オレはその隙を逃さず懐へ飛び込み、首元をつかみ、片手で持ち上げる。すでに足は地面から離れている。


「わかっただろ。君の実力なんてこの程度なんだよ」


「ッ! まだこれからだ!」


 しかし兵士は力が入らないのか剣を落としてしまう。


「もう終わりだよ。はぁ、せっかく本気を出そうと思ったのに」


「何ッ! まだ本気を出していないだと。バカな。妄言はそこら辺にしておけ!」


「いいよ。そこまで信じてくれないなら真実を話そうか」


 オレは空いている片手で魔法書を取り出す。


「――どうだい、魔法を使う冒険者に剣で負ける気分は?」


「まさか……お前、剣士じゃないな!」


 ようやく気付いたか。だがもう遅い。この距離で魔法が避けれるほど、魔法は弱くない。


「正解。ま、もう遅いけどね。それじゃ、存分に味わってくれ。村の人たちが苦しんだその痛みを」


 瞬間、兵士の身体はドクンッ!と跳ね上がり、オレが離すと地面で横になり苦しみ出す。呼吸が辛いのか息継ぎがあまり出来ず過呼吸状態になる。


「お前……何を……したッ!」


「魔法で君が村人たちに放った毒を君にも与えたんだよ。だって殺そうとしたんだ。それくらいの報いは受けてもいいよね」


『創造』の対象はオレが一度でも見たもの。つまりこの舌で感じた毒も例外ではない。あと数十分もすれば呼吸困難になり死ぬだろう。けど、オレは自らの手を汚したくない。だから救済を与える。ポケットから小瓶を取り出す。中には液体が入っている。


「これは解毒薬。これを飲めば君は助かる。だから飲みなよ」


 そしてオレは瓶を高く振り上げ、


 バリンッ!


 それを地面に叩き落とした。中の液体は地面に広がる。


「あ……何を……するッ!」


「救済だよ。死にたくなかったら、この地面を舐めるんだ。そしたら生きれる。けど、超エリートな王国兵士が地面を舐めるとか、そんなのプライドが許さないよね。生きるか死ぬか、選ぶのは君だ。正しい選択をすることを祈ってるよ」


 オレは全ての役目を終え、踵をクルっと回転させ、その場を後にする。


「クッ……ガハッ……待て。まだ私は……はぁ……負けてない!」


 無視して歩いていたが、あっ、とオレは思い出すのように、


「そういえばさ、――君、パラライザーよりも弱かったよ」


 ただ一言、そう言い残しその場を去る。もうこんな胸糞悪いことはゴメンだ。だから君は決断するんだ。己の生死を。





 私は絶望の淵にいた。あと少しで助かるのだ。ぼやける視界の先には割られた瓶が転がっている。その周りには濡れていた。そこを舐めれば私は助かる。あと少しで。やっとの思いで辿り着き、舐めようとしたその時、先程の言葉が蘇る。


『――パラライザーよりも弱かったよ』


 つまり、私が村人を殺し、あのレベル0を殺したとしても、パラライザーに負けるというのか。なら、この計画は意味が無いじゃないか。いや、そんなはずはない。私は強い。だって王国でも高位に君臨しているんだ。そして今、そんな私より弱い冒険者に助けられている。


「いや……だ……」


 認めない。絶対に認めない。この私があのレベル0より弱いはずがない。スキルで未来を見たのだ。私がかつその瞬間を。だから私は、お前になんかに助けられない!最後に手を伸ばし、ゆっくりと、


「私は……お前より……つよい……はず……だ」


 掠れた声を漏らし、突如視界が暗くなる。――それは、男の意識は人生の終焉に気づかぬまま闇を彷徨うのだった。


「面白い!」


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