12.真夜中の宿屋と新たなクエスト
レットドラゴンを討伐してから3日ほど経過していた。この村にもようやく慣れてきた頃だ。この数日でルナに基本的な戦闘技術を教えた。と言ってもオレが教えれるのは限りがあるけど。
だがそんなオレに対しても、
「さすがですご主人様。これは他の誰も真似できない技術ですよ!」
なんて言ってくれる。オレと行動するのが不安かと思っていたが心配はなさそうだ。
昔もこうやってみんなでダンジョン攻略に挑んでいたなーとふと思い出がよぎってしまう。今あのパーティが何をしているのかわからない。別に気にしてはいないけど。オレがやっていた野営準備やアイテムの補充など当たり前ができているか大丈夫だろうか。
「ま、オレより経験ありそうだし大丈夫か」
「何が『大丈夫』なんですか?」
おっと、つい独り言が漏れてしまった。
現在深い夜の中、宿屋の一室で一緒に過ごしていた。よく考えたら同じ部屋なのである。その……気にしないのだろうか。
「なんでもないよ。それと、なんか当たり前のようにしてたけど、本当に同じ部屋で良かったの?」
「全然構いませんよ! むしろこちらからお願いしますって感じです!」
なんか思っていた反応も違うけど、本人が言うならいいか。
「そういえばご主人様ってあんなに強いのに、どうしてレベル0なんですか?」
何気ない質問にどう反応したらいいかわからなかった。あれは突然のことだったと記憶している。誰にも話すことはなかったが、なぜかルナには話してもいい気がした。
「オレはもともと、スキルすらない本当のレベル0だったんだ」
「えっ!? で、でも、どうして今はあんなスキルを?」
「……信じてもらえないかもだけど」
オレはあの日のことについて、話を進めた。
「もう3年前、あれは12歳のときだ。気付いたら道をさまよっていた。食料もなくて死にそうになった時、目の前に神様が現れたんだ。そして言われた、『力が欲しいか』と」
「それで、ご主人様はなんと言ったのですか?」
信じているのか、目を見開き真剣に聞いてくれていた。そのまま話を続ける。
「ああ。だからオレは、『誰かを救う力が欲しい』って言ったんだ。そしたら、このスキルと魔法書が与えられたんだ。お礼を言おうとしたけど、もうそこにはあの神様はいなかった」
それからすぐにライアンたちのパーティに入ったことは言わないでおこう。今は関係ないし。
まるで絵本に出てくるお話みたいだ。ありえないような、夢でも見ているのだろうか。だがそんなおとぎ話にも、ルナは真摯に受け止めた。
「そうだったんですね。……でも、なんか私と似てますね」
「似てる?」
「はい、私も『妖精族』の末裔として利用されてましたから。ご主人様が助けに来なかったらこの命はもうありません」
そう言うと、立ち上がり、そっと抱きしめてくれる。
「――私は、ずっとご主人様のお傍にいますよ」
優しく、まるで天使の羽にそっと包まれるかのような感覚だった。久しぶりだ、誰かに共感されることが。たしかあの『剣姫』もそうだっただろうか。
「やめてくれよ、恥ずかしいしオレは別に……」
「離しませんよ、ずっと」
だから、今だけは、本当の気持ちになれるのだ。孤独で生きてきた人生に、ルナという『華』が加えられたこの瞬間だけは。
「一緒についてきてくれて、ありがとう」
「それはこっちのセリフですよ、ご主人様」
自分の中にある黒い何かが、少しだけ浄化された気がした。
「冒険者ハルトはいるか?」
あれから一夜明け、オレとルナはギルドに来ていた。すると、重装備をした大勢のパーティがオレの名前を呼んでいた。
「あのー、オレがハルトですが、どのようなご要件で?」
なんか怖いし穏便に行こう。
「お前がハルトか。数日前、レッドドラゴンを討伐したという報告があってな」
オレを探していたのは、鉄の鎧を身にまとい、メガネをかけ、黒い髪を後ろで結んでいた女だった。うしろには整列している部下がいた。どっかでみた鎧だな。
「えぇ、オレが倒しましたけど?」
「ほほう、思っていたよりも弱そうだがまあいい。その腕を見込んで依頼がしたい」
またも依頼を受けるとは。依頼をするクエストは緊急を要する。そもそも珍しいはずなのに。
「それはいいんですけど、一体どんな内容で?」
「具体的な内容は前線基地で話そう。我々はお前の力が必要だ」
「ん? 前線基地? えっと、『我々』とは?」
その女は忘れていたかのように姿勢を整え、敬礼をする。
「私は隊長であるヴァルク・レオーナだ。そして、我々は王国直属、モンスター殲滅部隊だ。――姫様が、お前の助けを必要としている」
まさか、依頼主があの王都のお姫様とは。これは厄介なことになりそうだ。めんどくさいと思っているハルトと、ポカンっとしているルナだった。
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