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俺は、教室の扉を開け、座り込んだ。何せ、半年ほど走っていなかったからだ。
「ぜぇ…、くるし…。」
心臓を抑えながら息を整えようとしたが、昼飯後から水分をとっていなかった体は悲鳴を上げるのが普通だ。
「鶴崎、大丈夫か?待ってろ、お前のロッカーのカギはどこだ?」
鏡宮が心配そうに覗き込んできた。しかし、話す力がなかった俺は、ズボンのポケットを指さすことしかできなかった。
「そこか。待ってろ、開けてやる。あと、これスマホ渡しとくけど一回ロック解除してくれるか?」
俺は、鏡宮が支えてくれながらスマホに触れロックを解除した。
「さんきゅ。僕の番号を入れとくな。」
確かに、なんかあったとき必要だと思いながら俺は少しだけ楽になった体で 返して貰ったスマホを確認した。モバイルバッテリーで充電していたため100%だった。が、圏外だった。
「それ、今圏外だけど電話とメールだけは繋がるからな。」
俺の鞄を持った鏡宮が隣に座りながら、俺の水筒と薬を渡してくれた。
「ありがと…。俺の薬よく分かったな。」
「手前にあったし、僕、保健委員だからさ。クラスの奴らが所有している持病の薬とかは把握してるんだ。」
「そうなのか…。」
俺は薬を口の中に入れた。慣れない苦みが口の中に広がり思わず顔をしかめる。
目を閉じ、痛みが少しずつ消えていくのを感じつつ俺は考えた。
何故、あのような異形…化け物が学校にいるのか。
俺と鏡宮だけしか、生き残っているのか。
俺は、ゾッとした。俺の両親は、海外にいるから生きている可能性は高いが、ずっと俺を育ててくれた爺やと婆やはどうなっているのか。
目を開け、鏡宮を見ると、鏡宮も俺のほうを見てこう言った。
「鶴崎、お前顔に出やすいんだな?」
「はぁ?」
拍子抜けした。俺が?顔に出やすい?
「なんで、そんな話になるんだよ!もっと違うこと話せよ!」
「ははっ。さっき、あの化け物に襲われたときすんごい顔がもう駄目だ!みたいな顔していたし。
いやな授業の前にもそんな顔をしていたんだよ。で、その顔をしていた授業はさぼっていたからね。」
「知らなかった……。んで、なんでその話題になるんだよ。関係ないじゃないか。」
すると鏡宮は俺のスマホをとり、指を触れロック画面を指さした。
「この画面さ、すねこすりだよね。ぱっと見可愛らしい猫や犬に見えるかもしれないけど本物を見てきた僕からしたすねこすりしか見えないからさ。」
おい、待て。この男は何を言った。本物をみえているだと?
「本物が、見えるのか?妖怪だぞ?」
「…僕は、幽霊だって見えるよ。気付いてないんだね。鶴崎、君も見えてるはずだよ。」
「俺が見えているだと?」
ありえない。16年生きていて全く見えなかった人生だ。だから、惹かれた。生きている人間よりも何より惹かれたのだから。
「そうだよ。しかも、君生きることが嫌になっているよね。だから、心霊、妖怪、死を扱うものに惹かれている。まるで磁石の様に引かれるんだよ。そういう人間の闇を奴らは餌にするんだ。」
「知らなかった。でも、異形は?あれは俺は望んだことではないぞ!それに、あの腕は、担任の…」
思い出すたびに、悍ましい。あの血だまり。全身の血液がすべてなくなりそうなほど怖かった。
「あれは…!ちっ!まずい…鶴崎!こっち来い!あの化け物がこっちに来る。」
鏡宮は舌打ちをし、自分の鞄を漁り白い人のような紙を取り出し何か文字を書き廊下側の窓から投げて
校庭側にも違う文字を書いた紙を投げ、
「絶対声出すなよ!」
「は?お、おいちょっと待て…ひぃぃ!?!?」
俺の背中を…突き飛ばし真っ逆さまに飛び込んだ。
爺や、婆や。ごめん、もう無理だわ……。俺は、今日2回目の死を覚悟した。