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第7話 座敷わらしと縁の深い我が家

 入学式で母に「アイロンがけ、やればできるじゃない」と言われた。動画サイトのアイロンがけを参考にしたことにしたが、ちょっと完璧すぎて不審がられた。

 大講堂と呼ばれる建物で行われた入学式では、凛々しい表情で新入生代表の女性が抱負を述べていた。隣に座ったのは筋骨隆々とした男。スポーツ推薦かと思ったが、話したら3浪した苦労人だった。


「高校時代はラグビー部かアメフト部に入っていたのかと言われるんだが、浪人中の運動不足解消にちょっと筋トレをやっていただけなんだが」

「あ、そう」


 そんな不思議な出会いの後、講堂を出て母と合流した。そのままアパートに来ると言われたので、アパートに戻ることになった。食事は母と外でとるとばかり思っていたので、縁さんにも結さんにも準備しなくて大丈夫と伝えていたから、致命傷となる情報はないはず。

 だが、部屋に入った瞬間に母は異常を察知した。


「誰か出入りしてるね?」


 そう言ってキッチンスペースやトイレを隅々まで眺める。


「掃除嫌いのあんたが雑巾を使って掃除?トイレも?」

「ひ、1人暮らしになったからね」

「家で料理なんて碌にしていなかったあんたが、自炊?」

「いや、簡単なのからね」

「いいや、おかしい。このコンロ周りにある油の拭き取った跡、これは簡単な料理しかできない人間なら気づかないところだよ」


 明らかに母の方が鋭い。というか、そんな場所を掃除していたことすら俺は知らなかったので焦っていた。

 だから、クローゼットに潜んでいた2人がそっと顔を出したことも俺は気づいていなかった。

 そして、クローゼットの方向を見た母の驚いた顔を見た瞬間に、俺は気づいた。

 母も座敷わらしが見えることに。


 ♢


「元々、おじいちゃんが座敷わらしと住んでいてね」


 おじいちゃんの実家は戦争でも死人が出ず、運のいい家だと評判だったらしい。しかし、その理由を誰も知らなかったそうだ。しかし、戦争が終わった後におじいちゃんが生まれ、早いうちから家族の誰でもない誰かと話をするようになったそうだ。


「で、3歳くらいのおじいちゃんが誰も教えていない『座敷わらし』を知っていて、座敷わらしと話しているのがわかってから大事にしていたんだって」

「つまり、俺と母さんが見えるのは」

「一応言うと、私は完全に見えているわけじゃないわよ。もやもやしたものがいるのがわかる程度。おじいちゃんは話も出来たし、声も聞けたんだけどね」

「俺は話せるし、声も聞けるよ」

「あんたはおじいちゃん子だったしね。よくわかんないけど、そんなもんじゃない?」


 母は座敷わらしを幸運の神様程度にしか思っていないようだ。姿まで認識できない分、霊的なイメージが強くなるのだろう。


「まぁ、座敷わらしは幸運の使者。家事も手伝ってくれるって聞くし、良かったじゃない」

「良いの?」

「お父さんにもそれとなく事情は伝えておく。お父さんは見えない人だけど、おじいちゃんのことは知ってるから」

「ありがとう」

「いやー、最初はこっちに彼女がいてこれを機に秘かに同棲でも始めたのかと焦った焦った」

「そんな相手いないよ」

「でしょうね。あんたがまともに話する女の子って、てっちゃんだけだからね」


 従妹のてっちゃん以外仲のいい女の子がいなくて悪うございましたね。


「息子の世話を座敷わらし様に任せっぱなしもまずいし、昼は私が作るわね」

『大丈夫ですよ』

「いえいえ。それに、当分息子に手料理を作ることもないでしょうから」


 そう言うと、母は礼装が汚れないようにと持ってきたエプロンを着け、冷蔵庫の中身を確認する。


「あら、浅漬け。良い物漬けてるのね」

『最近のお漬物は作りやすいです』

「便利な世の中ですから、息子も少々頑張れば一人暮らしでも料理して食べられる環境だろうと思いまして」

『可愛い子には旅をさせよ、ですね』

「もう可愛気のある年頃でもないですけどね」


 そう言いながら、ぱぱっと焼きそばを作る母。うちは塩焼きそばが主で、1人前に添付のソースを1つ全部使わず、代わりにスパイス入りの岩塩調味料を入れる。縁さんにも結さんにもこの調味料の使い方がわからないと言われたが、母が入れるとアジアンテイストの強い焼きそばになる。


 完成したものを食べる。ソース焼きそばはやや焦げたソースの強い香りが食欲をそそるが、この焼きそばはスパイスが鼻を刺激して脳が食べろと叫びだす。風味もスパイシーで、ベトナムとかタイとかの焼きそばに近い味になる。


「なるほど。こういう味つけもあるのですね」

「勉強になります」


 縁さんと結さんも、麺一本分くらいを2人で分けて味を確かめていた。あっという間に俺が食べ終わると、今度こそはと言ったかんじで2人が皿を奪いあうように流しにもっていき、洗い始めた。


「あんた、全く家事をやらないんじゃ、将来自分が困るわよ」

「う」

「甘えてると自分のためにならないことは、きちんと理解しておきなさい」


 洗ったお皿を得意気に戻した結さんの細かい動きは見えていないようだが、皿の動きで片付いたのを確認した母はエプロンをしまい、帰り支度をはじめた。そして、


「座敷わらし様、何卒この不肖の息子をお守り下さい。今度は何かお供え物をお持ちしますので」

『私たちこそ助けられています』

『お任せください』


 2人に頭を下げ、母は帰って行った。

たくさんの方に読んでいただきありがとうございます。

背後関係がちょっとだけ出てきましたが、別にシリアスな展開にはならないのでご安心ください。

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