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第6話 座敷わらしとの3人生活

 結さんにアパートの前で待っていてもらい、部屋に入ってもらう前に縁さんに事情を説明しようとしたら、縁さんがドアから顔を出してこちらを見ていた。


「座敷わらし同士はある程度近くにいるとお互いの位置がわかるので」

「一緒に説明した方がいいね」

「中には入らない方が一応いいので、扉の前で待ちますね」


 というわけで、結さんを少し待たせて説明をしようとした。が、縁さんは、


「早く入ってもらいましょう!」


 と心底嬉しそうに手招きして結さんを迎えようとしていたので、結さんと顔を合わせた後で2人で部屋に入ることにした。


「そういえば、こういう子でした」


 少し呆れ顔ながら結さんもわかりやすく嬉しそうな声である。


 ♢


「そうですか。13年前の義三よしぞうさんが最後で」

「ええ。縁さんは?」

「私は11年前にとし子おばあちゃんが亡くなって」

「あぁ、あの品の良さそうな」

「はい。すごく優しくて、食べられないのに飴をいっぱいくれて」


 話に華が咲いている。完全に俺はいらない子である。と思ったら、


「芳孝さん、結さんもこの家に住まわせてあげられませんか?」

「あ、うん。俺はもともとそのつもりだったし、縁さんはいいのかなってくらいだったから」

「ありがとうございます!良かったですね、結さん」

「本当に助かったわ、芳孝さん、縁さん」

「いえいえ」


 部屋が若干狭く感じるが、2人の笑顔を見ると何も言えない。座敷わらし同士の会話をいくらしてもわらしには戻らないそうだが、2人なら俺がいない間でも寂しくはならないだろうし。


「しかし、座敷わらしってたくさんいるの?」

「そんなには」

「知り合いが5,6人くらいですね。多分県内でそのくらい?」


 千葉県全体でその人数なら本当に縁さんとの出会いも結さんとの出会いも偶然だったのか。


「結さんとの出会いは私の『幸運』も多少あると思いますが、それでも普通は会えませんね」

「座敷わらしがいる家同士は惹かれ合うところがありますからね。縁さんの家と仲良くなるのはここ100年で3回目ですね」


 スケールが大きい話だ。100年単位か。香川県なんて1時間の単位にされて可哀想なのに。


「南蛮人の方が来られてから色々変わりましたよね」

「メリケンさんと戦っていた時は周りのおうちがみんな燃えちゃって」

「そうそう。焼け残ったのは私たちのおかげだって感謝されましたよね」

「いや、南蛮人って……」


 歴史の教科書か。


「だって、よーろっぱって言いにくくて」

「南蛮人って呼んでいた時間の方が長いんですよ」

「300年で染みついた呼び方はなかなか変えられないのです」


 確かに今でも年配の人は看護師さんを看護婦って言いがちだけれど。戦国時代から開国までの感覚で見ているのは恐ろしい限り。見た目は普通のおばあちゃんと若い母親で、2人が見えるならシングルマザーの3世帯家族だ。そういえばこのままだと近いうちに縁さんは俺と変わらない見た目になるのか。ちょっと考えていなかったな。


「さて、ちょっと話しこんでしまいましたが、夕食にしましょうか」

「あぁ、私も手伝うよ」

「結ちゃんはお風呂洗ってきてほしいのです。場所はおトイレの隣です」

「はーい」


 今日の夕飯は豚の生姜焼き。ちょっと生姜多めなのは4月に入ったばかりで肌寒い外で仕事をしてきたからか。千切りキャベツをロースの豚肉で巻いて一口。食感もいいがパワーのあるうまみにご飯が進む。脂はあえてとらないでもらっている。がっつり食べたいお年頃なので。少しくどく感じたら味噌汁に手を伸ばす。ほっとする白みそ。大根は箸で持てるのに噛まずに崩せる。即席ではない味。そんな味を堪能していると、結さんが戻って来て、


「お風呂掃除の道具を使えませんでした」


 そういえば、結さんに道具の許可をきちんと出していなかった。


 ♢


 食事後、お風呂を沸かしている間に3人で話をしていた。話題はこれからどう生活していくか。家事は2人がやってくれるらしいが、何より困るのは連絡手段の欠如だ。バイトや大学の講義を終えた後、連絡できないと困る。電話ごしでは2人の声は聞こえない。これは先日の友人が来た時に試してわかっていた。さらにタッチパネルも2人を認識しない。つまり、電話やスマホではダメなのだ。


「ポケベルはないのですか?」

「ポケベル?」


 慌てて調べた。どうやら既にサービスが終了しているらしい。小型のメッセージ受信機で、数十年前に流行ったらしい。俺はスマホ世代なので、記憶にある限り初めて聞いた。


「PCはハードル高いよね」

「ボタンぽちぽちもぐるぐるもはできませんね」


 キーボードとマウスを使う時点でハードルが高いらしい。固定電話なんて当然ないし、さて困った。他に連絡手段と言えば何があるだろう。


「手紙……より芳孝さんの方が早いですよね」

「まぁ、そうですね」

「日が沈んだら帰る、という時代でもないですからね」

「となると、やはりガラケーしかないのかな」

「がらけー?」

「携帯電話だね」


 俺の言葉に、2人は同時に思いだしたようで互いを見合った後で頷いた。


「あー、あの両手で持つ箱型の!」


 これが本物のジェネレーションギャップというやつか。スマホと携帯の技術的繋がりとかは思いつかないのかな。思いつかないだろうな。色々と知識が飛び飛びすぎるのだろう。

100人もの方にブックマークしていただけるとは思っておりませんでした。まったり更新中身もまったりですが、今後も少しずつ更新していきたいと思います。

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