第21話 座敷わらしと夏合宿 その2
予定より長くなったので分割増やしました。
合宿3日前。最初の合宿の参加者リストが、持ち物リストや集合場所等をふくめデータで配られた。主なサークルメンバーだけでなく、初めて見る名前も数人。分目さんも当然だが参加している。翠さんはいない。さすがにほとんど誰も知らないと厳しいのだろう。その一方で、夏休み中のサークル活動には見学に来てくれるという。雰囲気などを感じ取ってもらってから9月の合宿には参加するかどうか決めるつもりだと言っていた。
全員がデータを見たかどうかは冬弥にはわかるので、前日には催促メールを送るつもりらしい。
俺と昌と分目さんの3人は今日、合宿当日に遊ぶためのボードゲームを宿に送る作業のために冬弥に呼ばれた。ボードゲームの大きさは大小さまざまだ。コンポーネントまで非公式の立体物を買い始めれば箱1つに収まらなくなることもある。
「トランプサイズからゲーム機より大きいものまで、色々ありすぎてきれいに入りませんね」
分目さんは几帳面なのか丁寧に入れようとして苦戦している。割と適当に入れている昌とは対照的だ。
「同じサイズの箱より、同じ種類のゲーム入れた方がわかりやすいからな」
「リストに記入が終わる前に入れるのはやめてほしいけどな」
「たいそい(だるい)からさっさと終わらせたいのよね」
「この作業は大事って冬弥が言ってたぞ」
持ちこみ、持ち帰りなどでなくなるボードゲームがでないようにするためだ。高価な物が多いし、今では手に入りにくい物もあるからだ。
冬弥が新たに10個ほどの箱を抱えて持ってくる。
「こっちが協力型のボードゲームだな。全員で協力しないとクリアできないタイプ」
「イラストゲーは鉄板でみんなで楽しめるから面白いよな。これは?」
「それは占い師になってイメージから3つのカードを当てるゲームだね。1人から渡されるイラストカードからそれぞれが推理して殺人事件の犯人を当てるっていう」
「へぇ」
「1人のヒントを渡す側は答えを知っているけれどそれについて話せなくてね。イラストで伝えるしかないんだよ。そこが面白さのポイントだね」
本当に色々なゲームがある。だからこそ、何を持って行ったかわかるようにするのが大事なのだろう。分目さんも最近はいくつか好きなゲームを見つけて遊んでいるが、ボードゲームは種類が豊富だから誰でも1つ以上気に入るゲームがあるのがいいところだ。
「これ、面白いですよね」
「あぁ、最近また話題になったよね。最悪のウイルスから世界を救うゲーム」
「分目さんはレガシー版まだ遊んでないよね?」
「あ、はい。まだですね」
「レガシー版の方が色々とハードだから、今度遊んでみてね」
「楽しみです」
必死にリストを書きながら会話に参加する。分目さんもペアの女性副部長がリストに書き入れるのを見ながら箱にきれいに詰めている。
「あ、分目さん。あまりきれいに詰め詰めにしすぎないで」
「え、あ、あ、え?」
「少し余裕がないと、帰りに荷物を詰めなおす時に時間がかかっちゃうから、多少余裕があったほうが適当でも帰りの準備が楽になるようにしたいんだ」
冬弥の言葉を聞き、なるほど昌が呼ばれた理由がわかった。昌は多少適当だが、だからこそダンボール箱に余裕ができるので帰りに荷造りしやすくなる。
「あ、あ、えと」
ただ、その結果として予期しないことに動けなくなる彼女は台本のない世界へ放りだされた。今までテキパキと動いていたのに完全に停止してしまい、事情を理解している昌と冬弥はしまった、という表情になる。ペアで作業をしていた女性副部長は少し困惑していたので、俺と作業相手を交代してもらう。
「大丈夫。作業はそのままでいいよ。ただ、まだ入るかなくらいで一旦ストップして」
「あ、はい」
壊れたロボットみたいに、ぎこちなく頷いた分目さんと作業を再開する。丁寧に箱詰めしてくれたが、テニスボール9個くらいのスペースが空いた状態でストップしてもらい、全体に少し隙間をつくってからダンボールのふたを閉める。
ダンボールをもつとずしりと重さが体全体に響く。これ以上いれると配送をお願いする人にも負担になりそうだし、万一箱が壊れると大変だ。
「これくらいでいいよ。次も同じかんじで」
「はい。わかりました」
少し落ち着いた彼女と2人で作業を進める。昌は相変わらず適当なので隙間が多いが、今入れていたのは世界大会も開かれる有名なデッキ構築型カードゲームのカードケースだ。紙は重いので隙間が大きめにならないと重さが酷くなるのだろう。そのあたり冬弥も考えて割り振っている様子だ。
分目さんとペアになって15分ほどで最後のダンボールのふたを閉めた。5つのダンボールに入ったボードゲーム。実際は6割くらいしか遊ばないらしい。理由を冬弥が送り状に記入しながら教えてくれる。
「流れでね、このゲーム面白いならこれ次にやろうかってなるんだよね。だから、数人がいつもやっているゲーム以外は、参加者次第で何をやるか分かれるんだ」
「へぇ」
「拡大再生産が面白いなら『ブラス』のマーティン=ワレスとか、トーマス=レーマンもいい。前にやった『アグリコラ』のウヴェもいいかもしれない。ドラフトゲームなら『セブン・ワンダー』。これが楽しければ『アズール』とかも楽しめる。そういうのは人によって違うからね」
冬弥は高校時代からボードゲーム好きだったのでかなり詳しい。来年3月には現在の部長から部長職を引き継ぐだろうと言われている。3年生にあまり運営に積極的な人がいないからだ。
少し申し訳なさそうな分目さん。台本にない動きはまだまだ辛いのだろう。
「えっと、ごめんね芳孝君」
「あぁ、大丈夫大丈夫。お疲れ様」
「もう少し、アドリブがきく人間になりたいんだけれど」
「まぁ、無理してアドリブだけで動いて大変なことになる男もいるから」
俺は昌に視線を向ける。高校時代、修学旅行中にその場の思いつきで旅館の中庭でドンキで買った打ち上げ花火をして担任に説教を受けた男だ。「旅館の景色的に映えると思った」という一言に、引率の校長が頭を抱えたそうだ。旅館自体は夏に中庭で小さな花火大会をしているところだったし線香花火などは旅館に頼めばやらせてもらえるので、旅館から注意をうけることはなかったらしいが。
「まぁ、肩の力抜いていこう。ここは楽しく遊ぶサークルだし」
「そうですね。そう、なりたいです」
変わりたいという意思を感じつつ、本人はまだ少し恐れている様子だった。多かれ少なかれ、アドリブに弱い人はいる。分目さんも、自分はその傾向が強いだけだ、と前向きに思えればいいのだけれど。
「そう言えば当日はバスでしたね」
「乗り物酔いしやすいから座席は前を希望してるんだっけ?酔い止め、忘れないでね」
「はい。ありがとうございます」
副部長が分目さんと一緒に動くらしい。バス自体は後方にテーブルのあるタイプの団体バスで、移動中から酔わないメンバーでボードゲームをやるそうだ。楽しい合宿になることを願うばかりだね。




