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第10話 座敷わらし?と台本読みの陽キャ少女

週1更新ですが多くの皆様に読んで頂きありがとうございます。

 本格的に大学に通うようになったわけだが、席の間隔を空けるよう指導があるせいで、みんなイマイチ互いの距離感がつかめずにいた。

 必修科目は自己紹介もしている関係でまだ多少交流できるのだが、大教室で行われる一般教養科目と呼ばれる教科は、オンライン受講も可となっている。最初のガイダンスからオンライン受講の人間がいるかはわからないが、2年生の一部は大学のPC室で1日中講義を受けているそうだ。学食で冬弥からそんな話を聞く。


「人付き合い苦手な真面目系はそれが一番楽なのよな。家だと真面目になれないし、そもそも通信環境が悪かったり、家にいるとサボってると思われたり」

「そうか。ネット回線が弱い人もいるのか」

「そ。実家暮らしだと自分で通信環境を決められないし、構内だと配信された授業が大学サーバーにアーカイブとして残るから」

「とはいえ、対面じゃないといけない講義も多いしね」

「通話アプリで20人は集まれないからな」


 今日のA定食はサバの味噌煮。殆ど骨がないので食べる手が止まらない。臭みもなく、ご飯が進む。ちなみに冬弥は一番オススメというミックスフライ定食。エビフライ・あじフライ・からあげ・コロッケの全部盛りだ。


「少人数のゼミならともかく、外国語は無理。そういうことだな」

「冬弥は今年講義多いの?」

「いや。昌みたいに去年パンキョウ(一般教養)落としてないからね。英語・ロシア語・残りのパンキョウと趣味の講義3つくらい。本当は今日も来なくていい日だし」

「でも食事はしに来るのな」

「やすい、はやい、うまい、最高。芳孝と別れたらバイトだから、がっつり食べないとね」


 本屋でバイトしている冬弥は平日も週2日、大学の講義を入れない日をつくっている。本人は、バイトは社会勉強だと言っているが、ボードゲームは高いからそのためだろう。お店の店員は割引で色々買えるらしいし。


「で、芳孝は午後から英語か。台本の子とどんな会話になるのかね」

「わからん。けど、ちょっと憂鬱」

「まだ演劇サークルに新人は入ってないってさ。そのへんも聞いてみたら?」

「台本では、その質問は許されているんだろうか」

「そこまでは知らん」


 他のクラスメートとの話題も色々考えるところはあるが、分目わんめさんとの会話が一番どうしようかと悩みどころだ。


 ♢


 英語の教室に入ると、分目さんと数人の女子が話をしていた。この前の様子を見ていた俺は一瞬呆気に取られたが、すぐに少し離れた席に座った。

 すると、2人組の男子が傍に来た。挨拶を交わすと、背の高い方が話題をもちかけてくる。確か、水戸ファンのサッカー好きだ。


「分目さんとこの前話してたけど、彼女社交的だね。もしかしてガイダンスで話した?」

「まぁ、そんなかんじ」

「だろうね。彼女、すごい勢いで話題振って来て、一気に皆と仲良くなってるよ」

「へ、へぇ」


 話題を主導しないと対応できなくなるかな、と邪推してしまう。


「このクラスは女子の方が社交的かな。男は個性的っぽいのが多いから、俺なんて埋もれそうで怖いよ」


 いや、その背の高さなら埋もれるより突き出るよ。


「そうやら支倉先生は3人組を作りたがるらしいから、その時はよろしく」

「了解」


 支倉先生がやってくる。ガイダンスで指示されていたテキストを全員が購入しているか確認された後、講義が始まった。

 内容的には高校英語を使って長文を読むのが主流らしい。テキストが補助的なものだったのはそういう理由か。イギリスのEU離脱が決まった時の首相演説なんて、ネット上に和訳が載っていないのだろうか。


「ネットの和訳には全て目を通しているので、そのまんまだと感じたら手荷物検査しますからね。和訳印刷物があったら、素敵な成績になりますよ」


 多分俺と同じことを考えたであろう人間が何人か「やられた」という表情になった。


「中身の是非はこの講義に必要ではありません。ただし、当時の演説者である首相の考え方を考慮しながら訳しましょう」


 そう言いながら、当時の情勢について簡易的に説明してくれる。まぁさらっとだけなので、結局は英語である。


「少し前まではまず音読でしたが、最近は声を出さない音読がrecommendされていますので、まずは全文声に出さずに読んでみてください」


 色々と気を遣う時代だ。


 ♢


 終わった後、分目さんから話しかけられた。


「先日はありがとうございました」

「あぁ、いや、べつに大したことじゃないし」

「お礼と言っては何ですが、こちらを」


 そう言って渡されたのはクッキーらしきお菓子。きれいなトッピングがされているのでお店のものだろうか。


「自作なので味の保証はないですが」

「自作?すごいね」

「ありがとうございます。あと、このクラスのグループチャットができたので」

「あぁ、入れてもらえるとありがたい」

「ぜひ。あと5人なので残りの人の分も知っていれば」


 メンバーにはもう俺の知っているメンバーが入っていた。


「もう知っている奴だけだな」

「じゃあ次の講義で完成させましょう」

「今日は大丈夫だった?台本」

「え、あ、え、あ」


 しまった、これは台本にない問いかけだったか。


「で、ではまた!」


 慌てて逃げるように教室を出て行った分目さんを、俺は呆気にとられつつ見送るのだった。

次回途中まで座敷わらしが出ない回です。大学生活もあるのでご容赦いただきたく。

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