1人
そして朝……というよりおやつを食べるのに丁度いいくらいの時間に目を覚ました。
さすがに今日はいつもより寝れたらしい、そして横には俺の腕にしがみついて気持ち良さそうな顔で寝てる楓がいる。
俺の感覚で言えばだが、行動だけで見れば楓のこの行動はビッチであると言えるけど、寝言を聞く限り俺の腕を母親だと思っているようなのでセーフにしておいてやろう。
「……歯ブラシしよ」
俺はゆっくり楓の腕をほどき洗面所に向かう、歯を磨きながら考える……楓は結局何で泊まりに来たんだろうか。
人はこちらが考えるほど考えて行動してはいないけど、こちらが考える以上に何かを思い行動しているものだ。
昨日の楓を見る限りは何も考えていなそうだったけど、学校の楓と比べるとずっと楽しそうにしていた……あの笑顔が演技でないのならだけどね。
「何考えてんの?」
俺を驚かせるつもりだったのだろう、楓が忍び足で俺の背後に近づいて自前の歯ブラシを片手に声をかけてきたが、この手のイタズラはよく妹の心にされるので驚きはしない。
「結局お前が何で泊まりに来たのか考えてた」
「彼女が彼氏の家に泊まるのに理由なんて無いでしょ?」
俺の横に立ち、歯ブラシに歯磨き粉を付けながらそう言う楓。
「まぁ、お前が本当の彼女ならそうかもな」
「もうしつこいな〜いい加減に諦めて私と恋人だって認めちゃいなyo!」
「しつこいのはお前だ! 俺は誰とも付き合う気はないし、どうしても誰か選べってんならゆとりを選ぶ‼︎」
「はぁ〜⁉︎ 何でゆとりんなのさ⁉︎」
「1番俺に興味が無さそうだから」
「それ私と理由一緒じゃん……でもそうでも無いと思うよ?」
「ん? 何が?」
「ゆとりんはノアに興味を示していると思う」
「やめろ、どんどん設定を追加しないでくれ」
「いやいや気付いてないの? ゆとりんは部室でノアの事凄い観察してるよ?」
「観察されてるの? 俺って何かの被験体とかなの?」
「うん」
「うんじゃねーよ!」
「でも本当にそんな感じ!」
ゆとりが俺を観察してる? そんなの感じた事ないぞ? 人の好意とか悪意には結構気づける自信があるけど、ゆとりからそういうものを感じた事はない。
まぁ今考えられる事はないだろう、事実確認も出来ないし、月曜日にでも意識して見てみるか。
「そうか……まぁいいや昨日の続きでも見るか」
「え⁉︎ 私の下着の中身を⁉︎」
「それは始まってもいねぇよ! 二期だよ! お前の脳味噌どうなってんだよ!」
「ああ二期ね、まぁじゃあそれ見るか」
「え? 寝る前と人変わってる?」
そして楓に二期を見せながら俺は晩飯の支度を始めた。
いつもは心が作るけど、今日くらいは俺が作ったご飯を心に食べさせてやろう。
「何作ってるのー?」
「好き嫌いがあるのか?」
「別に無いけど? それで何作ってるの?」
「好き嫌いが無いなら聞いてもしょうがないだろ? 黙ってアニメを見てろ」
「ふぅ……全くノアはコミュニケーションもまともにとれないの?」
「何がコミュニケーションだよ? 一晩同じベッドで過ごした仲だろ?」
「そんなの寝ただけで何のコミュニケーションも無いよ!」
「いや匂いを感じる事もコミュニケーションだ! お前意外と無知だな」
「いやらしい! ノアはベッドで私の匂いを嗅いでたんだ⁉︎ 月曜日ゆとりんに言ってやる!」
「何でゆとりなんだよ? 別に好きにすればいいけど、腕に密着されるくらいの距離なら誰だって匂いくらい感じるだろ」
「腕に密着?」
「ああ……意識無いのか、起きたらお前が腕に密着してたよ」
「密着なんていやらしいわ」
「お前がな」
はぁ……何か疲れてきたな、さすがに2日も人といると精神が削られていく。
ただこれは楓のせいではなく俺の問題でしかない……これは相手が誰でも関係ない、親は置いといたとしても、心でも疲れるんだ。心が1番マシなのは単なる慣れだろう。
俺は今の所だが、あえて心情を話すとしたならば、恋愛に惹かれるモノが何一つとしてないのだ。
恐らく、めあたしい人間に会って暇つぶしになるくらいの感覚なんだろう。
まぁでも、ふわっとだが……俺が好きになるとしたら。
ただ今はそういう難しい話しはいいかな、俺は今こいつらといるのが存外楽しめてるんだ。
これから先程彼女達が何をしてくるかわらない、わらないだけで俺は楽しく生きていける。
今俺の周りにいてくれてる子達、もうしわけないけどさ、「俺は1人で生きている」