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斬撃

 用心してくれとは言ったものの、セーラの墓までそんなに距離がある訳でもなく、城の敷地内な訳で、危険なんてあるはずもないのだが……


 エイルに呼ばれている事を考えれば、俺は置いておいてもエリサの安全は文字通り保証されてはいない。

 ならば、俺からエイルの事を言わないにしても、エリサに注意だけはしておいて欲しいという俺の自己満足である。


「星來? 一体何があってこんなに短い間にリリーの女王になったのですか?」


「答えたい所だけど、もうセーラの墓に着いちゃうから、多分、墓に着いてからの方が分かりやすい説明が出来ると思う」


 そこにはエイルがいる。エイルの存在を俺から明かして、もしエイルが言葉足らずなだけだったら、無駄な顰蹙を買いかねないし。


 それに、どちらにしても、目の前にある角を曲がればもうセーラの墓だ。

 百聞は一見に如かず。俺がエイルの存在を説明するよりも、目の前のエイルを見た方が早いだろう。


「星來……その先に誰かいます!」


「ああ……気配とか分かるんだっけ? 大丈夫だよ」


 角の前で足を止めるエリサの横を通り過ぎ、セーラの墓の横に立つエイルを見て俺は安心した。


 エイルが目の前にいる。これだけでエイルがセーラに危害を加える気が無いと判断するのは浅慮だが、少なくとも奇襲は無い。


「え……? 星來に似てる? 星來……この方は一体」


 エリサがエイルを見て俺に問いかける。そして、その様子を見てエイルが口を開いた。


「僕の作った装備をつけているみたいだけど……君の世界ではその格好で戦うのかい?」


 エリサを連れて来て開口一番がそれかよ……


「俺もその話はするつもりだったけど、それは後回しでいいだろ」


「装備? あ……それはセーラ・ミリアーナ様の! って……僕の作った? それじゃあ、あなたは……いや、でも」


 エリサが俺の指輪とネックレスを見て色々思考を巡らせているみたいだ。どうやらこのアクセサリーも有名らしいな。


「初めまして、僕の名前はエイル・ミリアーナ。君の名前は?」


 エリサの動揺を察したのか、エイルは自己紹介をした。

 開口一番がそれであれば動揺は少なく済んだのではないだろうか?


「エイル・ミリアーナ……様? でもエイル様は……」


「年齢と容姿が合わない? それとも僕は外では死んだ事にでもなっているのかい? まぁどちらでも構わないが……それよりも君の名前を教えてくれないか?」


「あ……すみません! 私はエリサ・レスティオールと申します」


「レスティオール……星來は君を姫様と言っていたけど? 君がレスティオールならば、君は王女ではないのかい?」


 ん? なんだよ? 何か間違ってるの? シュガーとおっさんが姫様って言ってたんだから俺のせいじゃねーよ?


「私はレスティオール国王様に認められていませんので……レスティオールの名を持つ者として形の上で位は与えられ、姫と呼ばれてはいましたが、王女とは認められていませんでした」


 何か難しい話ししてるなー凄くどうでもいいなー。


「国王はセザス・レスティオールでいいのかな?」


「はい。私のお爺様です」


「まぁ前国王ならセザスの方を選ぶだろうね。ハイムはまだ生きているのかい?」


 ここでおっさんが出てくるのか……うむ、さっぱりわからん。


「ハイム様をご存知なのですか?」


「質問を質問で返さないでほしいものだね……それに知っているから聞いているに決まっているよね?」


「す……すみません、ハイム様は存命です」


 なんだ? エイル、随分エリサに厳しいな。可愛い子を虐めるなんて趣味の悪い男だな。


「そうか、星來の話しによれば君達が厄災石を使ったという事だったけど、理由を教えてくれないか?」


「私が使った訳ではありませんが、使った理由は知っています……ですが、あなたがエイル様かどうか分からない内は教える訳にはいきません」


「ふーん……君の評価を改めよう。ただの気弱な子に見えたんだけど、そうでもないのかな。良いだろう、ならば見てみるといいよ」


「何故私のリースが光だと知っているのですか?」


 そう言いながら俺の方を見るエリサ。

 俺は言ってねーよ? てか見てみるといいよ。ってアレか……エリサと最初に会った時の人の内側を見るやつの事か。


「星來から聞いた訳ではない、僕も光なんだ。いいから僕を見てみなよ……それで僕がエイルだと信用出来ないなら仕方ない」


 そう言われエリサは目を凝らすようにしてエイルを見つめる。


「光のリースが……これは……星來のリースと同じ? え……リースが……2つ?」


「星來の中は見た事があるみたいだね……なら君が星來の中に見たモノと同じモノが見えただろう?」


「はい……ですが、それでは星來はセーラ・ミリアーナ様という事なのですか? それにリースが2つあるのはどういう事なのですか?」


 エリサがかなり狼狽している様に見えるが、まだまだだな。何にそんなに驚いてるかは知らんが、気付いたら異世界にいた驚きと比べればカスみたいなモノだろう。


「君達は色々勘違いをしているね……まず僕とセーラは人間ではない。そこの星來は僕と会ってすぐにそれを看破してみせたけど、それは君達が愚かな訳ではなく、星來が凄いのだろうね」


 いやー照れるなぁ。まぁ俺からしたら色々な種族がいる事自体に驚いた結果、エリサから聞いた情報を纏めて論理的に推測すればエイルが神族に当て嵌まっただけなんだけどね。


「僕とセーラは神族なんだよ。セーラはそれを知られたくなかったようだから僕もそれを隠していた訳だけど、セーラが死んだ今それを隠す理由は僕には無い」


「セーラ様とエイル様が……神族? 神族はただの伝説ではなかったのですか?」


「……神族は確かに存在しているよ。今はもう僕と、そこにいる星來だけだけどね……と言っても星來はセーラ・ミリアーナではないから側だけだけどね……簡単に説明しよう」


 それからエイルは先程、俺に話した内容を簡単にエリサに説明した。

 

「わかりました……あなたがエイル様だという事は理解出来ました。ですが何故星來をセーラ・ミリアーナ様の体に作り変えるなどと――」


「質問は僕が先にしていいかな? その為に星來に頼んで君をここに連れて来て貰ったんだ」


「分かりました、答えられる範囲でならお答えします」


 俺も聞きたい事を答えてもらいたいからエリサをここに連れてきたんだが、ここは2人の話しを黙って聞いていればエリサが聞いてくれそうだから黙っておくか。


「君の目的はなんだい? 何故、厄災石を使うに至った?」


 ……はぁ。


「それは……」


 エリサが俺の方を見る。


 おそらく、もう限界だろう……面倒事だと避けてきたけど、往生する時がきたらしい……なるほど、これがアトラクタフィールドの収束か。


「いいよ、いずれにしても聞く事になりそうだから、俺の事は気にしないで話せる事は話してくれ」


「はい……それでは現状に至るまでの経緯をお話しします」




 ――なるほど。

 エリサがシュガーと合流した後に聞いた話しと合わせて纏めよう。


 まず、人物についてだ。

 セザス・レスティオール。

 レスティオール国の現国王にして、エリサの父方の祖父らしい。


 ハイム・レスティオール。

 セザスの弟で、レスティオール国の内政を取り仕切り、民からの人望も厚いらしい。

 そして聞けばやはり、シュガーといたおっさんがハイムで間違いないとの事だ。


 ジーナ・レスティオール。

 エリサの姉にしてセザスに王女と認められている。エリサを除けば俺が召喚された時にあの殺風景な部屋にいた唯一の女だ。まぁこれに関して言えば俺はほぼ確信していたが。


 他にも名前は出てきたが、現状に至るまでの話しに大きく関わっているのはこの3人なので、とりあえず他は一旦置いて考えを纏めよう。


 どうやらこの世界は6ヶ国あるらしく、レスティオール国の総人口は6ヶ国中2位で、その数10億人もいるらしい。

 2位と言ってもそれは人口の話しであり、国の強さで言うとエリサ曰くおそらく6ヶ国の中で1番力を持っていると言っても過言ではないらしい。


 まぁ数的優位は間違いなく存在するとしても、数だけが国の強さではないという事だろう。


 それを証拠にリリー国は人口では下から2番目になるが、国の強さだけで言えばレスティオールと戦える程の戦力を誇っているという。


 そして現状に至る理由だが、簡単に言えば6ヶ国のパワーバランスが崩れた。


 レスティオールの持つ英雄石。今までは厄災石を合わせてエイルの作った三つだけだと思われていたが、レスティオールが他国に潜らせていた間者から英雄石を持っていて、さらには英雄石を使ったという情報が下りてきた事から始まる。


 英雄石から召喚された者は強大な力を持っているとされ、そしてエイルの作った英雄石に限っては、召喚者の言う事に逆らえない様に術式を組んだらしい。


 これは、光のリースと神族の力の応用でやったらしいが詳しくは知らん。


 まぁつまり英雄石は核爆弾みたいなもので、それをいきなり他国が保有したと言われた様なものだ。


 それを聞いたセザスが対応策として英雄石を使う事に決めたと、そこにジーナがいっその事、英雄石2つを使い他国を制圧する事を進言し、セザスもその案に賛成した。


 英雄石を使うには膨大なリースの力を石に込めなければならない。これはエリサを助ける前に聞いたな……次にリースが溜まるまで10日必要だとかなんとか。


 そしてさらに個人で膨大な力を持つ者を1人生贄に捧げる必要がある、これにエリサが選ばれた訳だ。


 エリサが選ばれた理由だが、エリサが膨大なリースの力を持っているというのは勿論だが、それだけなら他にも選択肢はあった。


 では何故エリサが選ばれたかというと、エリサが他国を制圧するという案に反対したからだ。

 

 一国の王と王女が立案した政策に反対したのだ。


 リリー王国では反乱因子は残しておかないという事なのかな? 

 つまりだ……それでリースの力が溜まるまでの間エリサはずっととじこめられていたわけか。


 まぁ結局ひととおりは聞いてしまったようだが……助けてあけられるけど、俺には関係ない……


 ……けど助けるしかないのかな。


「エリサ!」


「は、はい!」


「その国の名前とここからの距離は?」

 

 「エムレーク国です距離は全力で行っても6日間くらいかかります」


「6日か、今すぐ出ないと絶対間に合わないな?」


「少し待ちなよ、どうして星來が彼女に力を貸すのだい?」


「エリサには恩も引け目もあるからな。これで精算させてもらうよ! ってとりあえず俺の服と刀、直してくれない?」


「残念ながらそれは無理だね。それが君が選んだ最強の装備という事だよ、システムなんてそんな簡単変更できる者じゃないのだよ」


 くそ!

 たしかに便利ではあるが……どうせ着るならもっと華々しくも凛とした装備が良かったーーーー


「……そうだよエイルてめー俺の能力についてだ……」


 それを聞いたエイルは少し唇を上に上げた様に見えた。


「君はダメージをうければそれだけ強くなる。ここまではいいね? そして君のダメージだが、命を失う程のダメージをくらえば更に力は大きくなるだろう。簡単に言うなら……死ねば死ぬほど強くなるんだ。勿論代償はあるよ? それを今話すつもりはないけどね」


「……俺が俺について聞けるのはここまでか?」


「そうだね。でも今の戦闘力じゃすこし心許ないね、少しサービスをしよう!」


「サービス? くれよ、貰える物は貰っておく主義なんだ」


「後ろを向いてごらん」


「後ろ?……出来れば向きたくないけど……まぁ……向いておくわ」


 しばらく後ろを向いて待っていた。




 少し待っていると、どう例えたらいいのだろうか、左肩から右の腹辺りまで斬撃を入れられた様な痛みが走った。

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