表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
序章 私は蘇り、そして出逢った
5/301

五 願い事、ヒトツ

「うん、済まない。実は私がそなたをこの世界に喚んだんだ」

「え?」

 彼女は頬をさすりながら私に顔を向ける。


(にわか)には信じられないかもしれないが、私にはそういう力がある」

 彼女はあきれたような、呆けたような顔をする。


 この表情、何故か好ましい。もっと、見てみたい。


「え~っと……とりあえず、さ? 帰れるんだよね、あたし?」

「条件はあるが、元の世界に帰すことは可能だ」

「条件?」

 まだ帰したくはない、そう思っているが。


「召喚者である私の願いを一つでも叶えた後であれば、送り還すことはできる」

「じゃあ早めによろしく! なんでもしますから!」

「何でも?」

「あ、いや~……あたしに出来ることなら、ね」


「早く帰らないとさぁ、出席ヤバいんだって」

「出席? 何の会合かは知らぬが律儀なのだな」

「え? まあ単位落としたくないだけだし」

 たんい? それが何を意味するのかよくわからないが、とにかく彼女が困っていることは理解できた。


 私は、彼女が早めに帰れるように、それでいて己が望んでいること……それを早く彼女に伝え、一旦帰ってもらうべきだろうと思った。

 そう欲した以上は、きっとその通りにすれば良いのだ。



 私は、彼女に何を望むのか……



「失礼かもしれないが確認したい。そなたは女、であるな?」

「見たら分かるでしょマジ失礼かっ!?」

 彼女は顔をしかめた。


「そうか……」



 女……そうか、女か。


 私は知りたい。私を殺したらしい、女というものを。



「夜が明ける前に、夜伽(よとぎ)をいたせ」


「は?」

「そうしたら、朝にはそなたが元居た世界に帰してやる」

「つか、よとぎ? ってなにそれ」


「ええと、だな……」


 困った。実は私もよくは知らない。そんな経験どころか、これまでにそんな願望を抱いたことすら無かったから。


「女を寝室に連れて行って、一夜を共にするのだが……駄目か?」

「ああ、そういうことね……っていきなり!? ちょっと考えさせて!?」

 彼女は頭を抱えている。そんなに困ることなのだろうか?


 昔、手柄を立てた部下が女を連れてきて、その者を身請けしたいと申し出てきたことが何度かあった。私は興味がなかったから、いつも「好きにしろ」と返答していた気がする。


 当時のやり取りにも、私の知らぬところで似たような問題があったのだろうか……私には分からない。



「くっ……最悪、それでもしかたないかあ……」



「あ、おにーさん、とりあえずメット取ろうよ。顔見せてよ」

「めっと? 先ほどから何度か聞いたが、めっと、とは?」

「そっか、名前が違うのかな? その、顔と頭隠してるやつだよ」


 私は困ってしまった。気安く素顔を、肌を曝すべきではないだろう。私はこの世界に存在していることに気付いた時から常にそう考え、人前では衣服で己の肌を隠していた。

 過去、他人にこの発想を押し付けることはしなかったが、自ら他者に顔を曝したこともない。


「いーじゃん別に笑ったりしないから」

「あ、いや……どうしても、顔を見せなければ駄目か?」

「できればー」


 そういうものなのか。ならば。彼女のために必要ならば、迷わない。



「えっ……」

 彼女の表情が固まった。何か可笑しかったのだろうか?


「えらいキレイな顔してるじゃん、なんでそんな美形隠してんのもったいない」

「そ、そういうものなのか?」


「まあいいや、キレイな顔したおにーさん、エスコートよろしくぅ」

 私は少しだけ過去の記憶を参考にした。(おもむろ)に彼女の手を取り、寝室のあった方向へ歩き出す。



 やわらかい。あたたかい。




 彼女と歩きながら、ふと疑問が浮かぶ。

「おにーさん」とは、男に対してのみ用いる呼びかけ……なのではないか?


 いや、そもそも、私は……?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ