表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
第三章 災禍に挑み花やぎ華散り
43/310

三 花沿わず、華きらめき、はなタオレて

 大きく拡がった草原に、ぽつりぽつりと二つの人影が立ち尽くしている。


「昼刻は……まだか?」

「陽がダグル山からあまり離れてない、つまりまだだいぶ東側に傾いてる。まだまだ先だな」

 大男アクドは呆れ気味に返答する。


「だから言ったろ、夜はもう少し寝ておこうって……気が逸るような性質(たち)でもないだろうに」

「…………」


 コアイは二度の野宿でどうにも眠れず、二度とも無理にアクドを起こして夜明け前に移動し始めていた。しかし、それはどうにも眠れなかったことが理由だと、答える気にはならなかった。




 「魔術の王」とされていた頃には……何度か野宿をしたことがあった。

 だがあの頃と同様に、木々の間、()き火の側にいても……そこで眠るのは、何故か寒かった。

 あの頃には感じなかった(はず)の、寒さ。


 そして、感じる筈のない寒さを忘れさせるのは……彼女、描かれた彼女の姿。




 夜、コアイは焚き火を背にして横臥(おうが)し、彼女の描かれた厚紙を懐から取り出して見つめているだけだった。

 そして焚き火が消えると、燃え殻にもう一度火を灯し……集めた木々が完全に燃え尽きたとき、むずがるアクドを無理やり起こして出立していたのだ。



「人が寝てる時に発光の魔術使おうとしたり、夜も明ける前から起こしてきたり……まったくわがままな王さふあぁ~……」

 アクドは言い終えられず欠伸をしていた。


「とりあえず、手前の森に馬を(つな)いでくるよ」

「昼刻はまだまだ先だと言ったな、馬を繋いだら寝ていても構わないぞ」

「おっありがてえ、そうすっか……」



 コアイは適当な草地に腰を下ろし、辺りを見渡す。

 見える範囲では北側ほど高くなっている、概ね傾斜のなだらかな平地のようだ。地面は草の生え揃った部分が多めだが、所々で赤茶けた土がむき出しになっている。



 殆どが緑と茶……彼女に見せて、喜ばれそうな景色でもないか。



 いつしかコアイは仰向けに寝転がり、彼女の姿、声、息遣いを思い浮かべて……惚けていた。




 どれほどの時間が経ったのか、辺りではいつしか騎馬の足音が踏み鳴らされていた。

 コアイは身体を起こして辺りを見回すと、北の丘からこちらへ少しずつ下ってくる一騎を見つけた。コアイは立ち上がり、騎馬を見据えて待つ。



「久方ぶりですな、コアイ殿……いや、コアイ王とお呼びすべきか」


「ジョージにございます」

 騎士は下馬し兜を脱いでから、(ひざまず)いて一礼する。


「貴公か」

「さて、早速ですが……」

 人間にしては実直そうな騎士が、顔を上げて話し続ける。


「我らは北の丘の向こう側に集結いたしました、いかように闘いまするか」

「如何様に、とは」

「代表者を選び勝ち数を競うか、あるいは全軍の采配を以て会戦するか……お選びください」


「お~い、待ってくれぇ~」

 男の大きな声が南側から聞こえてくる、しかしコアイはそれを気に留めずに言い放った。


「面倒なことを、全員で向かってこれば良い」

「な……」

「な、なに~っ!? 俺は!?」


「彼等が雪辱したいのは私一人だろう、それに」

 コアイは南側へ振り向きながら答える。


「……士に二言はありますまいな?」

 表情の変化こそ微かだったが、それは強い怒りを抑え込んだ故に僅かだったのだろう。しかし反感は抑えきれなかったのか、騎士は眉を(ひそ)めながら口を挟んでいた。


「士とは何だ? それは知らぬが、私に異存はない」

「おいおい王様……」


「委細承知! 失礼仕る!!」


 騎士は兜を被るのも忘れて脇に抱えたまま馬に向かって駆け出し、飛び乗るように(またが)り、早々に去っていった。


「いいのか?」

 アクドは少し心配そうな表情をしている。


「問題ない、今の所お前より強い魔力は感じない。それに」

「それに?」

「彼等は強兵なのだろう? この機に、数を減らしておこう」

 アクドは言葉が返せないのか、神妙な顔つきでコアイを見つめ黙っている。


退()がっていると良い」




 (しばら)くして、アクドを退がらせたコアイの耳に、男の歌声のような一節が聞こえてきた。



 If You ring the Heretic Bell,(神よ、貴女が「異端の鐘」を振り鳴らし給えば)

 we ring the Purgatory Horn. (われらは「煉獄の角笛」を吹き鳴らし応え申す)

 For Your honour, for our honour,(貴女の栄誉のために、われらの名誉のために)

 we wash our soul, his blood! (われらは魂を研き清め奉る、彼の者の鮮血を以て奉る!)



 北から流れ着くそれはけして美しい声ではなかったが、遠くコアイにも確かに聞こえた。そしてそれに続いて、高低様々の咆哮(ほうこう)が沸き上がる。


「ブラアァァァァァァァァッ!!」

「ラアァァァァァァァァ!!!」

 重なりあったそれらは強く、大きく、猛々しい叫び声となり辺りを震わせながら平原に響いた。


 それらはやがて、左右、そして正面から届く地響きと馬蹄の音に混じり始める。コアイはそれらの主が、視線に入るのをただ待ち構えていた。


 ……そして、まず正面に砂埃(すなぼこり)を伴った一団が現れた。コアイが先頭の者に注目すると、どうやら片手を手綱から離し、その手に何かを構えているようだった。


 一団を見ていると突然彼等は方向転換した、すると矢の飛ぶ音が聞こえてきた。

 ()とかいう名の武器だったか、それにしては随分小さい……と思いながらコアイは両手を前方に(かざ)し、斥力によって己に向かう矢を逸らす。

 そして、それらを処理し終えるとほぼ同時に、左右から大きな得物をぶら下げた騎兵達が向かってきた!


「ブラアァァァァァァァァッ!!」

「ラアァァァァァァァァ!!!」



 好機。コアイは眼を閉じ、詠唱を始める。


「幾百の(つる)よ、幾千の(やじり)よ」 

「所を知り射てよ、果を知らず駆けよ」

(あまね)く裂けよ、(ことごと)穿(うが)てよ」


「『天箭(メルゲン)』」


 詠唱を終えると同時に開眼したコアイの左から重装備の騎兵、右から軽装の騎兵が突っ込んでくる!

 彼等は衝突しないよう、コアイを挟んですれ違いに進路を取る。そして間にいるコアイへと長槍を向け、横を駆け抜けながら標的の身を削り取ろうと切先に力を込める!


 標的……コアイに長槍が触れるより少し早く、そこを中心に嵐が巻き起こった。



 無尽の狂風が人馬を()ぎ倒し、あるいは風刃が彼等を斬りつけていく。

 またその風に乗って、硬く鋭い小さな尖石(せんせき)が彼等の肉を(えぐ)り、またはめり込んで鮮血を噴き出させる。

 また風害に巻き込まれ倒れた人馬が、後続の進路を塞ぐ。進路を塞がれた者達は、向きを変えて離脱するか、そう出来なかったものは先行の人馬を踏んで転げていく。



 されど、惨状なおも嵐は止まず、駆け去ろうとする者達に、転んだ者達に、また倒れた者達に……狂風が、石礫(せきれき)が容赦なく叩き付けられていく。

 狂風は横薙ぎに、石礫は縦横に人間達を切り裂き、貫こうと撃ち乱れる。



 平原には今や歌声も咆哮もなく、ただ負傷した人馬の悲鳴だけが響き合っていた。

余談ですが……

本文中の人間の歌は、童謡『Ring-a-Ring-o' Roses』の曲で(早口気味に)歌うという設定だったりします^^;

ゲーム『Plague Inc.』中で時折子供が歌っている曲です、と言うとイメージが湧くかも? しれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ