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私は、叛乱されない魔王に ~恋を知って、恋で生きて~  作者: 者別
余聞 安穏のなかで、ひとり鍛錬を
172/310

次の時を願う魔王さま

 スノウが目を覚ましたとき、窓の外では既に日が落ちつつあった。


「んっ……ん゛〜…………」

「おはよう、スノウ」

 ようやく起きて、動き出した彼女を見つめて……コアイは思わず微笑んでいた。


「……あ、寝落ちしちゃってたかな……」

 身体を起こす彼女を、先ほど同様にただ見つめる。するとコアイの心身はあたたかくなる。


「え、まだあさじゃん……寝よぉ?」

 窓に顔を向けて外の暗さを確かめた彼女を、先ほどから続けて見つめていた。するとコアイの手を取りながらベッドに倒れ込んだ彼女の様子が、コアイをますますあたたかくさせる。


「いや、もう朝は過ぎて、日が暮れた……夜になるところだ」

「えっマ? そんなに寝てたかなぁ……」

 目をこすりながらのっそりと身体を起こそうとする彼女を、取られていた手を引いて補助する。


「もう遅いし、食事をしたら戻ってこようか」

 手を引いたことも、今夜の過ごし方を提案したことも、それを聞いたスノウが笑顔を返してくれたことも……コアイをあたたかく、あたたかく熱に浮かせる。



 この夜も、二人は昨夜と同じように。


 変わったことといえば……酒場の客が少し増えていたこと、その客等がコアイ達にチラチラ視線を向けていたこと……そして、昨日よりは早くスノウが寝てしまったことくらいだろうか。



 コアイはうつ伏せに被さった体勢のスノウの……顔のすぐ横に突っ伏した彼女の頭に手を添えて、心身に残る余韻を反芻する。


 身体が重く感じるのに、どこか浮き足立つような……いや、ふわふわと浮き上がるような心地が残っている。

 熱にうなされているようで、その中で安らかに惚けている。



 コアイは空いた左手で、腹の辺りにしなだれている彼女の手を取って、握って……握りつつ、その寝顔を見つめようと顔を向けた。

 そうするためには体勢が良くなく、実際には彼女の耳までしか見えなかった。が、そうしようとしただけで……いっそう熱が高まる。そして胸が鳴る。


 そうして生まれた()()等はコアイに、彼女を抱きしめるよう求めてくる。

 しかしコアイは、彼女の眠りを妨げないことを優先しようと考え……体勢を変えず、ただ彼女を支えていることにした。




 私は彼女を、全て抱きしめて。受け止めて。受け入れられた。

 私に触れてくれる彼女を見て、聞いて、触れて、感じられた。


 私はやっと彼女の、全てを……感じられるようになれた。


 ……いや、まだたった二夜のことだ。もしかしたら……まだまだ知らないことがあるかもしれない。

 けれど、今の私なら……彼女のすることならいくらでも、真っ直ぐ受け止め、すべて受け入れられる。

 そして、そんな彼女の姿、存在をどんなときも……惑うことなく確かめていられる。確かめて、喜んでいられる。

 そう思える、自信がある。それもまた、喜び。



 私は、彼女とともに。




 コアイは強く、強く達成感に満たされている。

 これほどの達成感をはっきりと、鮮烈に、濃密に……やり遂げたと、感じられたのは……初めてのことかもしれなかった。


 しかし、その達成感だけがコアイの喜びではない。

 彼女を()んだときから今までの数日に渡る、その期間の全てで彼女の所作、存在をはっきりと感じていられた……それもまた、大きな喜びであった。




「ん…………」

 朝……窓から射してきた朝日を眩しく感じたのか、今朝のスノウは早くに目を覚ましていた。


「おはよう、スノウ」

 目を覚まし、微かに動いた彼女を見つめて……コアイは思わず微笑んでいた。


「……おは……ってごめん、重くない!?」

 スノウは寝起きだったが、慌てた様子でコアイの上から横へ退いた。

 気遣いとはいえ身体が離れたことが、コアイを少しだけ切なくさせる。


「いや、そなたは重くなどない」

「あ……まあそっかあ、王サマ強いんだしよく考えたらわたし一人くらい余裕か」

 苦笑いしながら頭を掻く彼女が、可愛らしく……あたたかだった。



「さて、今日はどうしようか? 西にもう少し大きな城市があるが、そこへ向かうか?」

 コアイはベッドに腰掛けて、着替えを終えすっかり目も冴えた様子のスノウへ問いかけた。


「ここより都会? おもしろそう……って、わたしこっち来てから何日めだっけ?」

 彼女は一瞬目を見開いて輝かせたが、何か悩ましげにしている。


「三度夜を明かしたはずだから、四日目だと思う」

「そうだっけ? 昨日とおとといと……」

「此処に来る前に、一晩城で休ませたからな」

「そっか、四日……じゃあ、帰れるなら帰りたいかな。念のため」

 彼女には、彼女の都合があるようだ……であれば、コアイにはそれを邪魔するつもりなど毛頭ない。



「またね!」

 コアイは彼女の望み通り、彼女を元の世界へ帰してやった。


 その後コアイは一人、唇に刺さった、彼女の残した棘に痺れて……ベッドに座り込んで項垂(うなだ)れていた。



 此処で一人になってしまったのは、淋しい……

 けれど、何も悲しむべきことはない。私は……


 私は、彼女のすべてを感じ、受け止め、受け入れられる私になれたのだから。

 彼女の私物さえ十分にあれば、今更懸念すべきことなど何もないのだから……



 そう理解していながら、コアイは淋しくて(たま)らなかった。

 それを示すかのように、足下には雫がふた粒落ちていた。

 今回の更新が、本章『余聞 安穏のなかで、ひとり鍛錬を』のラストとなります。

 次回投稿の際には、新たな章が立ちます……が、少し間が空くかもしれません。ごめんなさい。


 ともあれ、本作を楽しんでいただけていれば……幸いでございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] コアイ様がスノウのすべてを受け入れたことでよりスノウへの想いが強くなってる... 寂しさで泣いてしまうほどにその存在が大きくなるとは コアイ様も感情が豊かになりましたね。 次章ゆっくりで…
[良い点] 更新お疲れ様です!そしてありがとうございます…… コアイ…良かった…( ◜︎࿀◝︎ ) コアイは、スノウとちゃんと触れ合うことを切望してたから良かったねって思ったし、触れ合いの最中も嬉しい…
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