異世界第5話
「お嬢様、3歳のお誕生日おめでとうございます」
異世界3年目の朝は、いつものおはようの代わりにお祝いの言葉で目が覚めた。
今日の予定は、お昼に身内だけのささやかなパーティーを開いてくれるらしい。が、今お母様のお腹には赤ちゃんがいて出産間近の為お母様は欠席だ。残念だが仕方ない。
朝ごはんを食べて、お母様とお腹の赤ちゃんに会いに行き、そのまま図書室に篭るのがここ最近の日課。
「ふぅ〜〜、ぼっち落ち着くわぁ」
図書室に入るなり安堵の息を吐く。
両親の事は大好きなんだけど、幼児を演じるのが難しくて正直ストレスになってるんだよねぇ。周りは大人ばっかりで、子供らしい行動ってどうすればいいか分からないし。多分皆んなには、聞き分けの良い物静かな子供に見えているんだろう。実際は落ち着きのない元気なアラサーなんだけどね!
‥ん?こっちの世界の年齢足したらもうアラフォーか?!いやいやいや!(題名変わっちゃうよ!)
こっちの世界はカウント無しにしよう!うん。
「さてと、じゃあ行こうかな」
そう言ってエヴァは成長魔法を使い、一気に10代後半の姿へと変化した。
成長した私は想像通り美人でスタイルも良い。顔はお父様に似て知的な感じ。髪はお母様譲りの白銀ストレートで、瞳はお祖父様から受け継いだ碧眼だ。前世は日本人らしい平凡顔だった私は有頂天。毎回鏡を見るたびに脳内で小人達が小躍りするのよ。うふふ。
でも不思議なことに、何処かでこの顔を見た事がある気がするんだよねぇ‥。んー、思い出せなくてモヤモヤする。
因みに3年間、毎日コツコツと魔力を循環させる鍛錬をしたお陰で、だいぶ自分の魔力を扱えるようになった。クロードの魔力に頼らなくても、収納魔法や瞬間移動ならある程度難なく使う事が出来る。成長魔法はまだ30分くらいしか維持出来ないんだけどね。
「っ‥へくしゅん!」
エヴァは空間収納から急いで服を取り出して着ると、瞬間移動で王都の市街地へ飛んだ。
一瞬で薄暗い裏路地に着いて、目的の場所まで速足で移動する。
「お、エヴァちゃん!いらっしゃい!」
煉瓦造の少し古びたお店の扉を開けると、気の良いマスターが出迎えてくれる。6席ほどあるカウンターの奥にクロードが座っていた。
本来は300年間眠りにつく筈だったクロードだが、私のおねだりによって創造神に強制的に起こされた。
実際には眠りについてから5年程しか経っていなかったみたいで、前回の契約者と一緒にこの国を訪れた事があったらしい。
その時の知り合いがまだここの店で働いてるって分かってから、クロードは足繁く通いだしたのだ。
因みにクロードは精霊だけど、魔法で人間に見える様にしている。
お店が開いたばかりでランチ前のこの時間は、まだ私達以外にお客さんはいない。
クロードはウィスキーのロックを片手に上品な仕草でアップルパイを食べていた。
もう何処から突っ込めばいいのか分からないけれど、彼はどうもリンゴが好きらしくここのアップルパイを毎日食べている。
可愛いな、おい!!
マスターに挨拶してから、私は迷いなく彼の横に座った。クロードは少し不機嫌そうにしている。
「何か用か?」
「おはよう、クロード。ねぇ、今日何の日か知ってるよね?」
彼の問いをガン無視し、私は満面の笑顔で聞いたら、無言のままクロードの顔は引きつった。
何故引きつったかって?ええ、それはここ最近、クロードにずーーっと誕生日のプレゼントをせがんでいたからだ。
別に私は物欲がある方では無い。しかしこれまでクロードからプレゼントやおめでとうの一言すら一度もなかったという事実に、この前ふと気づいたのだ。
別に毎年祝ってとか思って無いけど、ちょっとそういうの寂しいじゃん?ちょっとくらい我儘言ってもいいじゃん?
因みにクロードの誕生日は自分でも知らないみたいで(ていうか、全く興味が無いみたい)、私と出会った日を誕生日に設定して勝手に私が祝っている。もちろん彼にリンゴを添えて。
何が欲しいって訳でもなく、クロードから貰えるんだったら例え道端の石でも嬉しいんだけどなぁ〜。
って考えていたら、クロードはいきなり空間魔法で道端の石を取り出した。
「ほれ、受け取るがいい」
その後、私の成長魔法が解ける寸前まで、事情が分かったマスターと私の愛のお説教が続いたのであった。