異世界第4話
『これで契約は結ばれたが、我は他の精霊と違い甘くはないぞ?』
クロードの長い髪が私の手に絡まり、耳元で彼は低く艶のある声で囁いた。彼の濡れた様に輝くインディコライトの瞳には私が映しだされている。見つめられるだけで吸い込まれそうな程魅力的だ。
『契約によって我の能力はお主も使用できるが、我の力までは貸さぬ。お主の力で使いこなしてみせろ』
完成された美しい顔立ちのクロードは少し意地悪そうにうっすら微笑む。その少し上がった口角の曲線すらため息が出る程美しい。
『我の力を使わずとも、お主の魔力量は他の人間と比べれば群を抜いておる。幼少の頃より鍛錬した者はかなりの使い手になるそうだからな。幸いお主は赤子だ。今から鍛錬すれば上位精霊クラスの魔力を扱えるかもしれぬぞ?まぁ、決して我には届かぬがな』
ひとつひとつ紡がれる言葉には遥かなる高みからの慈愛が含まれている。声も表情も体を動かすその仕草ですら全てが絶対的な自信の表れで彼の魅力でしかない。その一挙一動に目が離せなくなってくる。
『‥‥先程からお主はどうしたのだ?』
‥‥エヴァって呼んで。(だめ、抑えて私!!)
『‥‥‥?』
お主じゃなくてエヴァって呼んで?(だめ!だめだめだめ!暴走しないで!)
『あぁ、分かった。望むのならば以後そう呼ぶ事にしよう』
今呼んで欲しいの。お願い‥。(やだ!取り返しがつかなくなる!)
『なっ‥‥‥‥‥!』
あれ程自信に満ちていたクロードはエヴァの予想外の言葉に唖然とし戸惑う。まっすぐにエヴァを映し続けていた瞳は逸らされ空をさまよいだした。心なしか徐々に頬が赤くなってきた様にも見えるが、逞しい腕で顔を隠してもう見る事はできない。少し呼吸を整えたが、目は伏せ口元は腕で遮ったままクロードは喉から微かに声を発した。
『‥エヴァ』
そして腕を下ろし目の前のエヴァを真っ直ぐ見据えた。先程エヴァと触れ合った唇は露わになり、そこから確かな声が紡がれる。
『エヴァ』
ご馳走様でした!!!
エヴァはそう叫び意識を無くしたのであった。
アラサーは年甲斐もなくキスで舞い上がって墜落しました。