エピローグ
「……リアン様。ああ、なんて可愛いのでしょう!!」
ん…?ここは何処だ?
真っ暗で何も見えないけれど、ざわざわと何人かの女性の声がする。
柔らかい毛布に包まれてるのか、手足があまり動かないけど不快ではない。この肌触りはカシミア100パーセントかな?
ふわっとミルクの優しい香りがして、温かくてウトウトする。
何かよく分からないけど、まだ夢の中にいるのかなと思って、この心地よさに身を委ねて意識をふわふわさせる。
あ〜〜、このまま会社行きたくないなぁ。
起きたらいつものように会社へ出勤して、仕事を残業して帰宅して寝るだけのループ。
仕事にやりがいが無い訳ではないが、休みもほとんどないこの会社に勤めていたらもちろん出会いもない。34年間独身を貫いてきた私は、ここ3年ほど彼氏もできず社畜人生を突っ走っている。
あ〜あ!このままいったら、結婚して子育てをするという幸せを知らずに歳を重ねていくんだろうなぁ。
子供好きだし、いっそ仕事を辞めて婚活パーティーにレッツゴー!しようかな!あはは!
………さて、とりあえず今何時だろう?
そろそろ起きて出勤まで時間があったら、大好きな乙女ゲームの続きでもしようかなぁ。と思った瞬間‥
『キャーーーーーーー!!!!』
そのやけに耳に残る甲高い声を聞いたのを思い出す。
そうだ!確か私は仕事帰りに乙女ゲームをしていた。
残業後の疲れた身体と心に羞恥心というものはなく、ホームの列の先頭で他人の目も気にせず堂々と乙女ゲームをしていた私は、驚いて声がした方に目をやった。
2列右側にいる女の人が座り込んで叫んでいて、周りの人が下を伺って驚いている。
あ……
酔っぱらいのおじいさんが線路に落ちている。
と思った瞬間、私の足は無意識に動いていた。
線路に降りて火事場の馬鹿力でおじいさんを持ち上げて上にいる人達に引っ張ってもらう。
ふぅ、痩せっぽっちのおじいさんで助かった。
とホッとした瞬間
「何やってんだ!!早く登れ!!」
ホームの上から焦った罵声が聞こえて現実に気づく。
が、もう遅い。
電車に引かれる瞬間、
顔面蒼白の女の人と目が合った。
あ〜〜バカだなぁ私は。ごめんね、彼女がトラウマになってなきゃいいが。なるだろうなぁ……。
そう、こうして自分が電車に引かれる瞬間も繊細に覚えている。
私は確実に死んだはずなんだけど、
はて?生きているはずのない私に何で意識があるのだろう。
「エヴァーミリアン。あなたは天使のようね」
未だ目は見えないけれど、私の頭を誰かが優しい手つきで撫でているのを感じた。
……そうか、ここは天国なのかな…
綺麗な柔らかい声……
お母さんの様に温かい声……
あぁ……!!
ごめんね、お母さん。
ごめんね、お父さん。
何にも親孝行しないで死んじゃって、
ごめんね。
ごめんね………
この人が女神様なのか、誰なのかは分からないけれど、母の様な優しい温かさに包まれながら、私は泣き果てて意識を手放した。