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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
ティエラside
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5杯目~大きな冒険の小さな末路~

 初めましての人は初めまして。

 昨日ぶりの方はこんにちは。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


小説作成時BGM:ピンクレモネード(ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。OP)

「はあっ……はあ……っ……」


 修道服を着た少女が真っ暗な道をただ走り抜ける。

 背後から聞こえる不気味な吐息から少しでも遠ざかるために。


「ご、ごめん……なさい……みんな……私だけ……ごめんなさい……」


 今となっては後の祭りだと分かっていながら、謝らずにはいられなかった。

 必死に振る両腕には赤黒い液体がべったりと付着し、それが友の物だと知っているのは彼女だけ……いや、彼女だけになってしまったと言った方が良いのかもしれない。


「だれか……誰でも良いから……助けて……私の友人を……誰か……」


 消えてしまいそうな声を絞り出しながら走り続ける彼女を追いかける、暗闇を好む者。

 下品な笑い声が洞窟内を響き渡り、多数の足音が後ろから迫ってくるのが分かる。


 ―――こんなはずじゃ……こんなはずじゃ無かったのに……どうして……


 討伐クエストを無事終えた時点でギルドに戻るよう進言すれば良かったのか、ダンジョンをもっと慎重に進めば良かったのか、魔物が出てきた時に逃げずに立ち向かえば良かったのか……正解なんて分からない。

 現実の世界に取り返しのつかない仮定話など無意味だ。

 今はどこに続いているのかも分からないこの道を走って、走って、走り続けて……背後に迫る脅威から遠ざかり、助けてくれる存在を探さなくては。

 幸か不幸か、今走っている道は一本道であり、もし先にダンジョンに入っている冒険者が入れば会える可能性がある。


「はぁっ……はぁ……誰か……いて……お願い……」


 心臓を揺さぶる悲痛な叫び声は音を失い、多数の足音が洞窟内に木霊している。

 ダンジョンの中でどれほどの時間を過ごしたのだろうか。今、自分はダンジョンのどの辺にいるのだろうか。そもそも先に入った冒険者などいるのだろうか。

 頭の中では、浮かんでは消える疑問が心を圧迫し続けている。


「はぁはぁ……あれ、ここから分かれ道に……どっちに行けば……」


 今まで一本道だったダンジョンに分岐点が現れた。

 間違った道を選ぶと、ある程度進んだところで床が抜けて真っ逆さま……なんてのはダンジョンによくある罠だが、大抵斥候の冒険者が気を付けてくれるので、それで死ぬケースは実はあまり多くない。

 しかし、彼女はローグでも無ければ盗賊でもない……よって、ここは己の勘に任せるしかない。


「うん……決めた。左の道……にしよう」


 不安に押しつぶされながらも一歩一歩前進する。

 最悪、床が抜けて奈落の底に落ちたとしても……魔物たちに玩具にされて殺されるよりはマシだ。

 彼女はそう考え、足音や壁に傷が少ない左の道を選んだ。

 右の道は魔物が何度も出入りしたような跡が残っており、後ろから追いかけて来た集団と挟み撃ちにされた時には……高所から落ちて死ぬよりも酷い運命が待っていると思って。


「ぅ……この匂い……死体の……?」


 分岐点から幾ばくか歩くと、鼻を刺すような死臭に出会った。

 周辺に死体らしき物は無く、どうやら奥に見える部屋から放たれるようだ。


「行くしか……ない……」


 綺麗な装飾が霞んでしまうくらい血や埃が付いた両扉を押し開け、中の様子を伺う。

 相変わらず薄暗く、更に死臭の匂いが酷い部屋だったが……消え入りそうな声を彼女は聞いた。

 仲間たちと別れてから久しぶりの……人の声だ。


「だ、誰か……いるんでs!?」


 部屋の暗さに慣れた彼女の瞳に映った光景……部屋の一番奥の壁に傷だらけの状態で磔にされた一人の少女が片目を開けて彼女を見ていた。

 磔と言っても拘束具なんて物はここには無く、冒険者の武器であったであろう剣やらナイフやらで四足を貫かれた状態で飾られている。


「だ、大丈夫ですか!? え、えっと、い、今、この剣を抜いて、すぐに魔法を!」


「……殺して……くだ……さい」


「そ、そんな事、言わないでください! だ、大丈夫です。私、一回だけですけど、白魔法が使えますので、この傷も治せますから」


「殺して……お願い……もぅ……いや……あいつらに……殴られて……刺されて……もぅ……楽にし……て……」


 少女は服などを一切纏わず、鈍器で殴らたように右側の乳房が不気味な腫れ方をし、手足が紫色に変色していた。

 あまりの光景に周りを見渡す事を忘れていたが、どうやらこの部屋は魔物たちにとっての拷問部屋だったらしい。

 少女と同じように磔にされた遺体が横に幾つか並んでおり、肉が腐りかけているものから白骨化しているものまである。


「どうか、気をしっかり持ってください……このダンジョンを抜けたら、ギルドに帰って……っ!」


 入ってきた扉の奥、複数の魔物の足音が近付いてくる。

 何か会話をしている様だが、内容については全く理解出来ない。

 しかし、この部屋が拷問部屋で遊び部屋なら……今この部屋に訪れる理由は……


「ソレイさん……ジトさん……」


 彼女の仲間……いや、仲間であった獣人娘とハーフエルフの少女を目の前の少女と同じように磔にしに来たのだろう。

 彼女が最後に見た光景は……黄色く光る濁った目の大群に仲間たちが次々と蹂躙され、聞いた事も無い叫び声と骨の砕ける音、それと魔物の笑い声が鳴り響く惨状だ。


「どうか……殺して……ください……おねがい……しま……す……」


 隠れる場所などどこにも無かった。

 部屋の中で視界を遮る物といえば磔台しか無く、己の身体を隠すには小さすぎる。


「グラァッタハァラッ!」


 魔物……仲間たちを蹂躙したゴブリンに見つかった。

 三匹ほどいるゴブリンは髪の毛を引っ張りながら赤黒い物体を引きずっており、それがソレイたちだと気付くのに瞬きを数回程要した。

 汗とは違う液体が太ももを伝って地面にシミを作る。

 ゴブリンたちはその匂いに薄気味悪い笑みを浮かべ、血がべっとり付いた棍棒を持って彼女に近づく。


「あ、ぁぁ……ぃ……」


 目にしたことの無い地獄が脳内を駆け回った。

 仲間が魔物に踏み倒される光景に自分が重なった。

 これから想像を超える苦痛と絶望が待ち構えている……そう思うと言葉にならない声が喉から出た。


「だ……ぇぁ……たす……ぇて……」


「グラァッタティハラ!」


 一匹のゴブリンが棍棒を掲げて走って来る。

 逃げようと右に足を踏み込むが、そこで不意に斜め後ろに服を引っ張られた。

 予想しない方向から力を加えられ、足腰に力が入らない。

 態勢が崩れ、小さな黒緑色の足と石畳が視界を埋める。

 痛みはすぐに訪れた。

 右肩に激痛が走る。


「あぁぁぁぁぁぁ゛―――! があぁぁぁぁぁあ゛―――!」


 こんなに大きな声が出るのか?

 自分でもびっくりする程大きな声が部屋の中を走り回る。

 両腕を抑えられ、脚をばためかせても意味が無い事は分かっているが、痛みから来る身体の自然現状だ。自分ではどうにも出来ない。


「あ゛ぁぁぁ、あ゛ぁぁあ゛! あいぃぃぃい゛―――!」


 痛覚を任意で切断する事が出来たらどれほど幸せか。

 泣き虫だったあの子は元気にしているだろうか。

 財布を拾ってくれた冒険者にお礼するのを忘れてしまった……

 泡のように次から次へと出ては消える感情や記憶。

 口から発せられる声はもう自分で出しているものでは無い。

 脳からの命令通りに身体が勝手に行動しているだけだった。


「っ! ぁぁぁぁあ゛―――!」


 生臭い刃物が院の長から頂いた服を貫通し、太ももの血管を切断する。

 再び部屋の中を駆けずり回る叫び声。

 ゴブリンたちはその声を聞く度に広角を上げて少女を見下ろし、もう一本のナイフで皮膚ごと斬り付けて服を破っていった。


「ゴブリン三匹」


 冷めきった声がゴブリン共の頭上から降り注がれる。


「アグアガァリッ!?」


 一匹のゴブリンが突如壁に叩きつけられた。

 もう一匹のゴブリンが石天井に食い込んだ。


「グリァg!」


 最後の一匹は入口から弾丸のように飛び出し、手足を痙攣させながら通路で横たわっていた。

 少女は何が起きたか分からなかったが……自分を見下ろす者が人間では無いことだけは理解出来た。


「……口を開けろ」


 有無を言わさず口に放り込まれる鉄臭い液体。

 それが毒なのか治療薬なのか、判断する前に少女は飲み込んでしまう。

 そもそも判断する力など、身体のどこにも残っていなかったが……

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******

2019.3.4

見直しによる修正


(修正前)

 心臓を揺さぶる悲痛な叫び声は音を失い、多数の足音が洞窟内に木霊している。


 ダンジョンの中でどれほどの時間を過ごしたのだろうか?

 今、自分はダンジョンのどの辺にいるのだろうか?

 そもそも先に入った冒険者などいるのだろうか?


 頭の中では、浮かんでは消える疑問が心を圧迫し続けている。


「はぁはぁ……あれ、ここから分かれ道に……どっちに行けば……」


(修正後)

 心臓を揺さぶる悲痛な叫び声は音を失い、多数の足音が洞窟内に木霊している。

 ダンジョンの中でどれほどの時間を過ごしたのだろうか。今、自分はダンジョンのどの辺にいるのだろうか。そもそも先に入った冒険者などいるのだろうか。

 頭の中では、浮かんでは消える疑問が心を圧迫し続けている。


「はぁはぁ……あれ、ここから分かれ道に……どっちに行けば……」



(修正前)

 今まで一本道だったダンジョンに分岐点が現れた。

 間違った道を選ぶと、ある程度進んだところで床が抜けて真っ逆さま……なんてのはダンジョンによくある罠だが、大抵チーフやら盗賊の冒険者が気を付けてくれるので、それで死ぬケースは実はあまり多くない。

 しかし、彼女はチーフでも無ければ盗賊でもない……よって、ここは己の勘に任せるしかない。


(修正後)

 今まで一本道だったダンジョンに分岐点が現れた。

 間違った道を選ぶと、ある程度進んだところで床が抜けて真っ逆さま……なんてのはダンジョンによくある罠だが、大抵斥候の冒険者が気を付けてくれるので、それで死ぬケースは実はあまり多くない。

 しかし、彼女はローグでも無ければ盗賊でもない……よって、ここは己の勘に任せるしかない。

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