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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
ティエラside
4/32

3杯目~小さな冒険者たちの大きな冒険~

 初めましての人は初めまして。

 昨日ぶりの方はこんばんは。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


小説作成時BGM:命ばっかり


「足元気を付けろよ。この先はいつ出てきてもおかしくないぞ」


「う、うん」


「了解!」


「おぉ」


「は、はい!」


 森の中を切り分け、枝を払い、目的地へと向かうパーティー。

 先頭に戦士のグレット、そのすぐ斜め後ろに斥候のジト、少し離れて体術に優れたソレイ、白魔法の使い手ティエラ、黒魔法のアレン。

 彼らは既にスライム討伐の目的地圏内に足を踏み入れている。いつ魔物に遭遇してもおかしくない。


「っ! グ、グレット……」


「ジト、敵か?」


「うん……だけど、スライムじゃ、ない……この足音は……ルーヴの群れ」


「ル、ルーヴ?」


「え? ルーヴ知らないの?」


「あ、は、はい……すみません……」


「別に気にしなくていいよ! えっと、ルーヴって言うのはね……」


 得意気にルーヴについて語るソレイ。

 ルーヴとは、狼のような風貌をした魔物であり、その体調は大きいもので五メートルにもなる。元々集団での行動を好み、また一定の場所に留まらない性質を持っているため、冒険者にとってはお馴染みの魔物なのだ。


「だけどね、普通の狼より身体が大きいだけじゃないんだよ?」


「そ、そうなんですか?」


「なんとあのルーヴは……火を吐くの! それも三階級相当のファイア! 初心者冒険者にはひとたまりも無いよ!」


 遥か昔から歴史の節目などで使用され、世界の理に干渉して神秘的現象を呼び出す力……魔法。

 種類は世界の歴史の数だけ存在し、全て把握している者は空の上か森の奥、土の下にいるかどうか。


「うちのパーティーで魔法を使えるのはアレンとティエラの二人でしょ? アレンは二階級のファイアエンチャントが二回、一階級のファイアが一回の合計三回だし、ティエラは……」


「え、えっと、二階級のファイアが一回と二階級のヒールが一回の……二回です」


「でしょ? どこにでもいる魔物の割に今の私たちより強いんだから……はぁ、慎重に動かないといけないのは分かるんだけど、じっとしているの、苦手なんだよね」


 ソワソワしながら愚痴る彼女をアレンが杖でつつく。

 気付けば、群れは自分たちが隠れている林を通り過ぎ、後ろ姿を晒していた。

 後方には四匹の子供ルーブがはしゃぎながら追いかけっこをし、草木の擦れる音を響かせている。


「小さいうちは子犬みたいで可愛いよね!」


「そうですね。あんなに可愛いなのに冒険者を襲うなんて……考えられません」


「そうだねー」


 一行は再び草木を払いながら歩みを進める。

 陽が段々傾き始め、本日の最高気温に達した頃には背中が汗ばんできたのを感じるぐらいには暑い。


「グ、グレット……」


「どうした?」


「北北西に五十リール先……地面を這いずる音、聞こえる。たぶん、スライム。けど……」


「けど? なになに? 何かおかしいの?」


「う、うん……この前会ったスライムよりも……たぶん、大きい」


「大きい? どれくらいだ?」


「分からない、けど……グレットよりも大きい……かも」


 ハーフエルフの少女は種族柄、普通の人間より耳が良い。

 木々で覆われ、視界が悪い森の中でも五メートル先くらいの音なら拾える。


「なに? 俺よりも大きいのか?」


「う、うん……たぶん……」


「へぇ! グレットよりも大きいって凄くない? グレットって身長、確か十八リールだよね?」


「そうだ……だが、作戦に変更はなし、だ。相手がどんなに大きくてもスライム相手にやる事は変わらない。さっき話した通りで行くぞっ」


 一斉に動き出すパーティー。

 グレットとアレンは正面からスライムに立ち向かう。

 彼等の役割は他の魔物が騒ぎに気づいて他のメンバーに注意がいかないよう、目の前のスライムを迅速かつ的確に殺すこと。


「こりゃ……確かにデカイな。この前倒した奴の三倍は有るんじゃないか?」


「だな。だが、生態はこの前の奴と対して変わらない筈だ。とっととクエスト完了するぞ!」


「よし……情熱の乙女よ 欲し求める者に その力授けよ――エンチャントファイア!」


 アレンの言葉が世界の理に干渉し、神秘的な現象を生む。

 グレットの刀剣がみるみる熱を帯び、握っている彼の額に一筋の汗を流す。

 スライムは刀身を避けるように身体を変形させ、二人の冒険者の様子を伺っているようだ。


「じゃあ、私たちも行動開始!」


「うん」


「は、はい!」


 その頃、ジト、ソレイ、ティエラの三人はグレットたちを囲むように陣形を配置し、予想外の事が起きないよう周囲を見渡していた。

 訓練や練習と違い、現場では何が起きるか分からない。目の前のスライムだけに集中し、気づいたらゴブリンの群れに包囲されていたなんて話は冒険者の間でよくある事。


「はぁぁぁぁー!」


 力強い声と共に飛び散る薄緑色の液体。

 森の中で暮らしているせいだろうか、身体の色は緑色に近く、通常のスライムとは明らかに違う。


「グレット! 私も加勢した方が良い!?」


「大丈夫だ! お前はジトの指示で引き続き警戒を頼む!」


 ソレイの声に応対しながら次々とスライムの身体を削っていくグレット。

 口も鼻も目も耳も無い、突起物が何もないスライムは雄叫びを上げることも睨みつける事もしないまま、どんどん小さくなっていく。

 強力な魔法を使えるパーティーなら一瞬で終わる戦闘を彼等は何十分もかけて慎重に行い、やがて……


「これで……終わりだぁーー!」


 振り落とした刀身によって真っ二つにされたスライムが動きを失う。

 周囲には大小様々なスライムの破片がゼリー状に広がり、ベトベトした水たまりを作っている。

 触れたからとって害は無いだろうが……よく洗わないと衣類が全て薄緑色にカラーチェンジだ。


「おつかれ二人ともー!」


「お疲れ様、グレット、アレン」


「お、お疲れ様です!」


「おぉ、見張りありがとな。お陰で目の前の敵だけに集中出来たぜ」


「今回はちゃんと我慢できたな、ソレイ。声を上げたときは途中で突っ込んでくるんじゃないかとヒヤヒヤしたが……お前も日々成長してるって分かって安心したぞ」


「私だって成長してますー! アレンに言われなくたって分かってますー!」


 一段落着いたパーティーは和気あいあいとその場に座り込む。

 周囲に魔物がいないのはジトが確認済みだ。


「それじゃ、予定通りダンジョンに入るぞ。幸い、アレンは魔法がまだ二回残っているし、ティエラさんの魔法もある。陽は落ちていないし、このまま入口付近の部屋だけ見て回れれば夕方頃には街に帰れ……」


「グ、グレット、疲れている、から、もう少し、休む」


 立ち上がろうとしたグレットの袖をギュッと引っ張り、虚ろな上目遣いでか細い声を発するジト。

 彼に釣られて思わず立ち上がりそうになったメンバーは顔を見合わせ、頷きながら再び腰を下ろす。


「い、いや、ジト、俺はもう大丈夫だから、ダンジョンn」


「ダンジョンは、逃げない、から、もう少し、休む」


 腰当てから水玉模様の綺麗な水筒を取り出し、自分の水袋に注いでグレットに渡す。

 パーティーメンバーの誰よりも小さく、華奢な体つきの彼女だが、仲間を人一倍大切にするその姿は昔から変わらない。

 それを知っているソレイとアレンは目で合図しながらグレットに声をかける。


「ジトの言うとおり、少し休んでいったほうがいいな。ソレイもそう思うだろ?」


「うん! 私ももう少し休んでいった方が良いと思う! それに、ジトも周りをずっと警戒してたから疲れているんじゃない?」


「ん? そうなのかジト?」


「え、あ、えっと……うん、少し、休みたい……かな? ダメ……?」


「いや、問題ない。なら場所を移動するぞ。ここだと木で周りがよく見えないからな」


 森から少し離れ、大きな岩がそびえ立つ草原で風呂敷を広げる。

 複数人が同時に座るには少し狭いが、何もないよりは幾らかマシだ。


「それじゃ、一旦解散にするからな。あまり遠くに行かないようにしろよ」


「了解! ティエラ! あっちの場所に美味しい木ノ実が有ったから見に行こう!」


「あ、え、えっと……」


「おい、あまり遠くに行くなよ? 村の周辺と違って何がいるか分からないんだから……」


「すぐそこだし! ちょっと木ノ実探してくるだけだし! 行こ、ティエラ!」


 ソレイに手を引かれ、もつれそうになる足を必死に回転させながら姿勢を直す。

 スライム討伐に参戦しなかった彼女は体力が有り余っているのだろう。

 目をキラキラさせながら森の中に入っていく。


「あ、あの、ソレイさん……木ノ実って言うのは……」


「もう少し行った所だよ! あ、毒とかは大丈夫だよ! 私、村にいたときに採ってきて食べたから!」


 ティエラは心配そうな眼差しで後方の木々を見つめる。

 彼女が言いたかった事は決して木ノ実の事についてでは無かったが、次の言葉を声に出そうとした時には目的地に着いてしまっていた。


「見てティエラ! この実ね、そのまま食べても美味しいけど、ジャムにしてパンと一緒に食べても美味しいんだよ!」


 赤く熟れた小さな実。

 尖った二枚から三昧の葉っぱの上に育ち、陽の光を浴びて艶のある色合いをしている。

 これで毒がないなら、魔物や動物たちに食べられていてもおかしくないはず。


「この実、匂いが全くしないでしょ? 獣人の私ですら分からないんだから、多分、他の種族や動物だって分からないはずだよ」


「……だから、ここに住んでいる生き物たちも気づけないんですか?」


「そゆこと! 視界に入ればすぐに分かるんだけど、私たちのように嗅覚に頼っている種族は案外見つける事が出来ないの! まぁ、私は村にいた時にこの実の近くに有った木とか花とかを覚えたから、たまたま見つける事が出来たんだけどね」


 貫禄のある巨木をひょいひょい登っていき、枝や葉っぱを揺らしながら姿を消す。

 見上げても木漏れ日が邪魔で上の様子は分からないが、彼女が木の上でつまみ食いを始めたのはなんとなく分かる。唸るような声がティエラのところまで響いているからだ。


「あ、あの……ソレイさん……?」


「うーん! 久しぶりに食べたけどやっぱり甘くておいし……はっ! た、食べてないよ!? 皆の分集めているだけだよ!?」


「え、えぇっと……そろそろ戻らないとグレットさんたちが……」


「あ、そうだね! なら……よっと!」


「きゃっ!?」


 今まで以上の揺れを見せた枝や葉っぱから赤い実が無数に落ちてくる。

 まるで血の雨でも降っているようだ。


「うん! これくらい有れば沢山ジャムが作れる! ギルドの厨房を少し貸してもらえるか受付さんに訊いてみないと!」


 彼女は雑嚢一杯に木の実を詰め込み、ぱんぱんになった状態で腰当に括り付ける。

 俊敏さから来る優れた体術の邪魔になるくらい重そうだが、満足気の彼女の表情にティエラは何も言う事は出来なかった。

 第一、スライム討伐は終わったのだ。

 後はダンジョンの入り口付近の部屋を見てお宝があるか確認するだけ……帰り道で魔物にばったり鉢合わせになるくらいじゃないと武器を持つ必要は無い。

 だが、それも聴覚に優れたハーフエルフのジトが事前に阻止してくれるに違いない。


「よし、そろそろ戻r」


 言いかけた言葉が途切れた理由、それは他でもない。

 唯の人間ですら聞こえるほどの大きな足音が森の中で木霊したからだ。


「森の中でこの足音……たぶん、トロールだね。それもこっちに向かってる」


「だ、大丈夫なんでしょうか?」


「分からない……けど、幸いこっちの気配には気付いていないみたい。あいつら、馬鹿でノロマだけど、力だけは凄いから、このままここでやり過ごそう」


「は、はい」


 声を潜め、気配を消し、草むらの中にうずくまる二人。

 目の前を巨大な足が草木を踏み潰して行くのが見える。

 思わず声を上げそうになるが、余計な物音はあの世への片道切符だ。

 トロールの胃袋に入りたくなければ……じっと息を殺して通り過ぎるのを待つしかない。


「……行ったね。あの足、見た?」


「は、はい……大きかったですね……」


「大きいなんてものじゃないよ、アレ。たぶん全長で四十リール……いや、五十リールは有ると思う。流石にアレに鉢合わせしていたら……今頃私たち、あの辺の草と同じになっていたかもね」


 ソレイの視線が足跡の残った場所に向けられる。

 再生不可能なくらい茎も枝も折れ曲がり、花は全て散っている。この場所に再び生命が宿るのはいつになるだろうか。


「……そうですね。皆さん、無事でしょうか?」


「ジトがいるから大丈夫だよ。それよりも、私たちの心配をしているだろうから……ティエラ! 急いで戻ろう!」


「……はい」


 命の危機を何も失わずにやり過ごした二人冒険者、ティエラとソレイ。

 休憩時間に入るのがもう少し遅ければ、自分がソレイに言葉を掛けず、木の実の回収にもっと時間が掛かっていれば、身を潜める場所が少しだけずれていたら……もしかしたら別の結末になっていたかもしれない。

 そんな考えが頭の隅にこびり付いて拭えないまま、ティエラは草木で覆われた森の中を駆け足で進む。


 誤字・脱字・感想・評価

 お待ちしております。


******

2019.3.3

見直しによる編集


(修正前)

 森の中を切り分け、枝を払い、目的地へと向かうパーティー。


 先頭に戦士のグレット、そのすぐ斜め後ろに罠察知担当のジト、少し離れて体術に優れたソレイ、白魔法の使い手ティエラ、黒魔法のアレンが並ぶ。


 彼らは既にスライム討伐の目的地圏内に足を踏み入れ、いつ魔物に遭遇してもおかしくない。


(修正後)

 森の中を切り分け、枝を払い、目的地へと向かうパーティー。

 先頭に戦士のグレット、そのすぐ斜め後ろに斥候のジト、少し離れて体術に優れたソレイ、白魔法の使い手ティエラ、黒魔法のアレン。

 彼らは既にスライム討伐の目的地圏内に足を踏み入れている。いつ魔物に遭遇してもおかしくない。



(修正前)

「分からない、けど……グレットよりも大きい……かも……」


「なに? 俺よりも大きいのか?」


「う、うん……たぶん……」


「へぇ! グレットよりも大きいって凄くない? グレットって身長、確か十八リールだよね?」


「そうだ……だが、作戦に変更はなし、だ。相手がどんなに大きくてもスライム相手にやる事は変わらない。さっき話した通りで行くぞっ」


了解です!』


 一斉に動き出すパーティー。


 グレットとアレンは正面からスライムに立ち向かう。


 彼等の役割は他の魔物が騒ぎに気づいて他のメンバーに注意がいかないよう、目の前のスライムを迅速かつ的確に殺すこと。


(修正後)

「分からない、けど……グレットよりも大きい……かも」


 ハーフエルフの少女は種族柄、普通の人間より耳が良い。

 木々で覆われ、視界が悪い森の中でも五メートル先くらいの音なら拾える。


「なに? 俺よりも大きいのか?」


「う、うん……たぶん……」


「へぇ! グレットよりも大きいって凄くない? グレットって身長、確か十八リールだよね?」


「そうだ……だが、作戦に変更はなし、だ。相手がどんなに大きくてもスライム相手にやる事は変わらない。さっき話した通りで行くぞっ」


 一斉に動き出すパーティー。

 グレットとアレンは正面からスライムに立ち向かう。

 彼等の役割は他の魔物が騒ぎに気づいて他のメンバーに注意がいかないよう、目の前のスライムを迅速かつ的確に殺すこと。



(修正前)

 その頃、ジト、ソレイ、ティエラの三人はグレットたちを囲むように陣形を配置し、予想外の事が起きないよう周囲を見渡していた。

 訓練や練習と違い、現場では何が起きるか分からない。

 目の前のスライムだけに集中し、気づいたらゴブリンの群れに包囲されていたなんて話は冒険者の間では日常会話の範囲内だ。

 力強い声と共に飛び散る薄緑色の液体。

 森の中で暮らしているせいだろうか、身体の色は緑色に近く、通常のスライムとは明らかに違う。


(修正後)

 その頃、ジト、ソレイ、ティエラの三人はグレットたちを囲むように陣形を配置し、予想外の事が起きないよう周囲を見渡していた。

 訓練や練習と違い、現場では何が起きるか分からない。目の前のスライムだけに集中し、気づいたらゴブリンの群れに包囲されていたなんて話は冒険者の間でよくある事。


「はぁぁぁぁー!」


 力強い声と共に飛び散る薄緑色の液体。

 森の中で暮らしているせいだろうか、身体の色は緑色に近く、通常のスライムとは明らかに違う。



(修正前)

「は、はい」


 声を潜め、気配を消し、草むらの中にうずくまる二人。


 十八グルも経たないうちに十リール先、巨大な足が草木を踏み潰して行くのが見え、思わず声を上げそうになるが、余計な物音はあの世への片道切符だ。


 トロールの胃袋に入りたくなければ……じっと息を殺して通り過ぎるのを待つしかない。


「……行ったね。あの足、見た?」


(修正後)

「は、はい」


 声を潜め、気配を消し、草むらの中にうずくまる二人。

 目の前を巨大な足が草木を踏み潰して行くのが見える。

 思わず声を上げそうになるが、余計な物音はあの世への片道切符だ。

 トロールの胃袋に入りたくなければ……じっと息を殺して通り過ぎるのを待つしかない。


「……行ったね。あの足、見た?」

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