2杯目~今日もギルドは冒険者で賑わう~
初めましての人は初めまして。
一週間ぶりの方はこんばんは。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:気まぐれメルシィ
「はぁー……」
「どうしたんですか?」
受付用カウンターに上半身を預け、大きな溜息を吐く女性に同僚が声を掛ける。
お昼時のピーク過ぎ、冒険者どころかお客さん自体少ない時間帯だ。
「いやぁ、あの人が帰ってくるまで長いなぁって思ってねー?」
「あ、あぁ、あの人ですか。そうですね……今の時間はまだ帰ってこないかもですね」
「だよねー……最近は新人さんも少ないし、特に仕事もないから暇でねぇ」
「……だったらこっちの仕事手伝ってくださいよ。こっちのカウンター、基本的に全ての窓口になっていて忙しいんですよ?」
「おつかれー」
「……貴方が先輩なのは分かりますが若干イラっとしたのだけは覚えておいてください」
「りょーかぁいー」
「……はぁ」
今度は違う意味で隣の女性が溜息を吐く。
「だいたい、ルナ君は気張りすぎなんだよー……もっと力を抜いて仕事に取り組んだらどうだい?」
「先輩は力を抜き過ぎです。今だってお客さんが来たらその格好、どう説明する気ですか?」
ハーフアップにした髪と胸元に光るリボン型のネームプレートが特徴的な女性、ルナ・リブラは窓から入る日差しに目を細めながらも姿勢を崩さず仕事モードを継続する。
「ちょっと休憩しちゃいましたーてへぺろっ」
「……すいません殴りますね」
「そこは殴って良いですかって許可取るところだろー?」
「ダメって言われそうなんで」
「おぉー私の心が読めるのかいー?」
「……やっぱり殴りますね」
「ふふふっ、良いのかなぁ? あと三十グルもしないうちに新人冒険者さんが来ちゃうよー?」
「ふんっ、先輩の割には浅はかな嘘ですね。この時間帯、冒険者どころか人すら来n」
ルナの言葉を遮り、木の軋む音と地面を蹴る音が同時に受付カウンターに近づいてくる。
いつもはどんちゃん騒ぎの冒険者と注文の飛び交う声でかき消されるが、今はそのどちらも不在のため、ドアを開ける音すら響くのだ。
「受付さん! 薬草五つください!」
「はい、銅貨二十五枚になります。今日はポーション、大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 白魔法使える子がパーティーに入ったので!」
「ふふふっ、そうですか。でも、あまり無茶をしてはいけませんよ? 例えば……そうですね、スライム討伐ついでに獣の住処やダンジョンに入ってお宝探しとか」
「も、勿論です! そ、そんな事、私たちのパーティーがする訳無いじゃないですか!」
「ふふふっ、そうですね。すいません、忘れて下さい。冒険の厳しさも残酷さも、私たちなんかより冒険者さんの方がずっと詳しいですからね。たった三日ですけど」
「三日も! です! 明日、成果を報告しに来たら四日になるので、そしたらもう新顔冒険者みたいな対応はやめてもらいますからね!」
「はい、分かりました。では明日、必ず皆揃って報告書の作成を手伝ってくださいね?」
「了解です! じゃあ、薬草持っていきますね!」
「はい、行ってらっしゃい」
狐耳をブンブン振り回してギルドから出ていく獣人娘。
受付嬢はそれを確認し、今度は胸を押し付けるような格好でカウンターに身を預ける。
お客様も冒険者もいない建物はやがて静寂に包まれるが、今度はそれをルナが打ち破った。
「……先輩、なんでソレイさんが来るって分かったんですか」
「勘ってやつ? ふぁー……」
「誤魔化さないで教えてください……お願いします」
「はぁー真面目だねぇ……まぁ、別に大した事じゃないよ。前の冒険の報告書、確かポーションも薬草も足りていなかったよね?」
「……はい、そうですね。まぁ私がまとめた報告書ですが」
「ということは、今回も冒険に際して勿論補充が必要になってくる。けど、信頼に値するポーションも薬草も販売しているのはこの街ではギルドだけ。安い偽物買わされた挙句、ピンチの時に恩恵ゼロじゃ、怪物の玩具か餌になりに行くようなもんだからねー……新米冒険者でもそのリスクくらいは計算出来るでしょー?」
「……そうですね」
カウンターに突っ伏す受付嬢は次々と言葉を並べる。
ポーションは高いから薬草を買いに来ること、つい先ほどまで作戦会議をしていたこと、そろそろ出発しないと帰りが朝方になること。
果たして、本当に”大した事”では無いのだろうか。
「ねぇ? 大した事じゃないでしょ?」
説明を終えたサイドアップの受付嬢―――リヘル・ノーヴァは気怠そうな様子で獣人娘が去った跡を眺める。
人が来る気配など微塵もしないが、何故か目線を一向に反らそうとしない。
「……初めて聞いた時は結果からのただのデマカセだろうと思っていましたけど、報告書を作るときにパーティーの皆さんに確認すると殆ど合っているって言うんだから……余計腹が立つんですよね」
「えぇー? こんなに説明させておいてー?」
「そりゃそうですよ。いつもダラダラグタグタしているけど、本気を出せばここの誰よりも優秀で……こんな外れのギルドで受付嬢なんかやるような人じゃないのに……」
「ふふふっ、ルナ君ももう少し肩の力を抜いたらー同じくらいだらけながら仕事出来るようになるよー」
「いえ、それは結構です」
「うわぁー真面目だねー」
「普通です。それに、私と先輩の実力がどれくらい離れているかくらい、分からない訳では無いので」
「ふふふっ、そんなに違わないんだけどねー」
「明日、あのパーティーの冒険者たちの話を聞きながら報告書を作るとき、先輩から聞いた話をすれば、あの子たちもさぞ驚くでしょうね」
「……うん、そうだね。明日、皆で来てくれるといいって……思ってるよ」
「ん? 急にどうし――」
「宴だぁー! 今日は食って飲んで食いまくるぞー!」
「……お前はいつも食いまくっているだろうが」
「そうかぁ? なら……いつも以上に食いまくるぞぉー!」
「やめろバカ。今日の報酬を全部飯代にする気か」
木製の床がミシミシと悲鳴を上げる。両開きのドアは片方外れそうだ。
「うおぉー!? やべぇよ相棒! 俺のツグナイトソードに刃こぼれが有るぞ!」
「なら鍛冶屋にでも出しておいたら? てかそのツグナイトソードってやめてくれないかしら。魔物斬る度にその名前叫ぶの、同じパーティーメンバーとして恥ずかしいんだけど」
「……よし、あ、あぁぁー!? 俺の聖剣エクスカr」
「それ以上言ったらパーティー解散ね。あとあのキチガイの真似は今後しないで、きもいから」
「いきなり厳しくない!?」
ガヤガヤと周りなど一切気にせず入ってくる冒険者たち。
彼らの性質上、毎日が死との二人三脚のため、こうして一日を無事に終えた日には騒ぎ、叫び、飲み、食べ、笑う……とにかく、いつ死んでも良い様に気持ちを全て解放するのだ。
ダンジョンでトロルに出くわした時、帰り道の道中でサイクロプスの群れに遭遇した時、逃げるか戦うかを考えている間に後生大事にしていた酒の事が頭を過ぎるなんて、そんなのは冒険者として失格も良いところだ。
明日のために今日を頑張るのではなく、今日を生き抜くために今を頑張る。
「騒がしくなってきたからお喋りはここまでだね。ルナ君、私が楽出来るように頑張って働いてくれたまえ」
「なぁ!? そ、そんな事言ってないで先輩も手伝っt」
「おーい! 報告書を頼むー!」
「あ、は、はい! ただいま伺います! 順番にお並びくださいー!」
ハーフアップの受付嬢は冒険者を列に並ばせながら報告書の作成に取り掛かる。
あらゆる方向から雑音と呼びかけが交差する中、必要な情報だけを聞き取り報告書にまとめるのはかなり困難な作業だ。
しかし、隣の気怠そうな先輩に負けられまいとやる気と闘気に満ちた彼女に仕上げられない書類は無い。
「明日のために今日を頑張るのではなく……今日を生き抜くために今を頑張る……その結果が明日に繋がっているだけなんだぞ……ってのに気付いてくれるかなぁ……あの子たち……」
消え入りそうな声が空に飛んで、そして消える。
誰かに言ったわけでも無く、独り言という訳でも無い。
ただ……言霊という力が有るなら、その恩恵に少しでも与りたい……そう思うリヘルだった。
誤字・脱字・感想・評価
お待ちしております。
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2019.3.3
見直しによる修正
(修正前)
受付用カウンターに上半身を預け、大きな溜息を吐く女性に同僚が声を掛ける。
お昼時のピーク過ぎ、冒険者どころかお客さん自体少ない時間帯だ。
「いやぁ、あの人が帰ってくるまで長いなぁって思ってねー?」
「あ、あぁ、あの人ですか。そうですね……今の時間はまだ帰ってこないかもですね」
「だよねー……最近は新人さんも少ないし、特に仕事もないから暇でねぇー」
(修正後)
受付用カウンターに上半身を預け、大きな溜息を吐く女性に同僚が声を掛ける。
お昼時のピーク過ぎ、冒険者どころかお客さん自体少ない時間帯だ。
「いやぁ、あの人が帰ってくるまで長いなぁって思ってねー?」
「あ、あぁ、あの人ですか。そうですね……今の時間はまだ帰ってこないかもですね」
「だよねー……最近は新人さんも少ないし、特に仕事もないから暇でねぇ」
(修正前)
今度は違う意味で隣の女性が溜息を吐く。
ハーフアップにした髪と胸元に光るリボン型のネームプレートが特徴的な女性、ルナ・リブラは窓から入る日差しに目を細めながらも姿勢を崩さず仕事モードを継続する。
「だいたい、ルナ君は気張りすぎなんだよー……もっと力を抜いて仕事に取り組んだらどうだい?」
「先輩は力を抜き過ぎです。今だってお客さんが来たらその格好、どう説明する気ですか?」
「ちょっと休憩しちゃいましたーてへぺろっ」
(修正後)
今度は違う意味で隣の女性が溜息を吐く。
「だいたい、ルナ君は気張りすぎなんだよー……もっと力を抜いて仕事に取り組んだらどうだい?」
「先輩は力を抜き過ぎです。今だってお客さんが来たらその格好、どう説明する気ですか?」
ハーフアップにした髪と胸元に光るリボン型のネームプレートが特徴的な女性、ルナ・リブラは窓から入る日差しに目を細めながらも姿勢を崩さず仕事モードを継続する。
「ちょっと休憩しちゃいましたーてへぺろっ」
(修正前)
「……そうですね」
「後は簡単でしょー? 前のあの子たちの行動から、たぶんついさっきまで作戦会議をしていて、『ポーションは高いけど薬草なら一人一つくらい持った方が良い』っていうハーフエルフの子のアドバイスをリーダー格の戦士の子が盲判で採用、ジッとしているのが苦手な獣人娘ちゃんが自ら買い出し係に立候補で私たちの前へ登場……という感じかな?」
「……あと三十グルもしないうちっていうのは?」
「スライム討伐の場所はそう遠くないけど、慣れない場所へ行くのはそれなりに時間が掛かるでしょー? ましてクエストはまだ二回目だし、そろそろ出発しないと冒険開始は夜になっちゃうーっていう魔法使い君の意見が炸裂しているだろうなぁーって」
流暢に説明を繰り返すサイドアップの受付嬢―――リヘル・ノーヴァは気怠そうな様子で獣人娘が去った跡を眺める。
人が来る気配など微塵もしないが、何故か目線を一向に反らそうとしない。
(修正後)
「……そうですね」
カウンターに突っ伏す受付嬢は次々と言葉を並べる。
ポーションは高いから薬草を買いに来ること、つい先ほどまで作戦会議をしていたこと、そろそろ出発しないと帰りが朝方になること。
果たして、本当に”大した事”では無いのだろうか。
「ねぇ? 大した事じゃないでしょ?」
説明を終えたサイドアップの受付嬢―――リヘル・ノーヴァは気怠そうな様子で獣人娘が去った跡を眺める。
人が来る気配など微塵もしないが、何故か目線を一向に反らそうとしない。




