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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
神成陽平side
26/32

21杯目~娼館のサキュバス~

 初めましての人は初めまして。

 リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


 最近、アクセス解析を眺めていると、一話から最新話まで一気にお読みになっている方がいるのかな? という棒グラフが現れ、嬉しさがこみ上げてきます。また、更新日にはブックマークの方かな? という棒グラフも出現しますので、勝手に幸せな気持ちになりながら執筆を続けている毎日です。

 そんな皆さまのおかげでPVが1,700を突破しました。21杯目の時にPV1,600を超えた報告をさせて頂きましたので、私の中ではかなりハイペースでPVが増えていると思っています。

 これからも不規則ではありますが更新して参りますので、よろしくお願いいたします。


小説作成時BGM: 【MMD艦これ】恋愛デコレート(第六駆逐隊)

「お、星が出てきたな」


 ボサボサ頭の青年は窓から空を見上げる。

 前にいた世界と今いる世界の数少ない共通点であり、彼の好きな景色の一つでもあった。


「さて、そろそろ宿に行くぞ。てか、魔物は食わなくても生きていけるんじゃなかったのか?」


「“食べない”とは一言も言ってません! それにしても美味しいですね、このアラゴスタの揚げ物!」


 串に刺さり、薄くころもが付いた揚げ物を食べるインプの少女。

 テーブルに置かれた甘辛いタレが入った瓶に串ごと突っ込み、そのまま口まで運ぶ。


「へぇ、これはアラゴスタって言うのか」


「海の深い所とか岩盤の隙間とかに住んでいるので、中々捕れないんですよ!」


 少女の手は止まらない。

 皿が綺麗になるのも時間の問題だ。


「これ食べたら宿に行くからな。温泉は……また今度にするか」


「はい!」


 インプの話によれば、魔物は魔力さえあれば食べなくても生きていけるという話だった。

 つまり、それは食事を必要としない……という事だろう。

 人間には考えられない事案だが、そもそも身体の構造が違うと思えば納得も出来る。

 それに“食事を必要としない”というのは“食事の楽しさが分からない”という事ではないのだから、街にはもっと沢山の飲食店が有ってもいいと思うが……


「ん? 貴様は……昼間の傭兵か?」


 不意に話しかけられ、声のした方向に目を向ける。


「あれ? オグロお姉さん?」


「……“お姉さん”はやめろっと言ったはずだが? それと隣はインプか」


「はうぅ!」


 少女は急いで席を立ち、テーブルの下に身を隠す。

 椅子と机が小刻みに揺れているところを見ると、相対するのは無理そうだ。


「オグロさん、あまりうちの弱虫を脅かさないで頂けますか? 夜の洗濯、この季節はつらいんですよ」


「よ、弱虫じゃありません! それにその話は忘れてくださいって言いましたよね!?」


「別に脅かしているつもりは無いんだが……まあ、昼間の事は悪かった」


「いえいえ……それに、あれは僕たちの為でもあったんですから」


「え? どういう事ですか傭兵さん!」


「知りたいならテーブルの下から出てきたら?」


「こ、これは本能なんです! 洞窟暮らしが長かったので、ついつい暗い所を求めt」


「だからオグロさんには感謝していますよ?」


「うぅ――! 無視するな――!」


 小さな拳が青年の脚を絶え間なく攻撃する。

 今の彼女に出来る、精一杯の抵抗だ。


「僕たち、そんなに目立っていましたか?」


「……洞窟で一生を過ごすと言われているインプ、見た目が人間の男、どちらも珍しい上に二人組ときたものだ。自然と視線は集まる」


「なるほど……だから、衛兵であるオグロさんが身元証明をしなくてはいけなかったんですね。あんな渋滞している道の真ん中で声を掛けてきたのも、そういう理由からですか」


「……昼にも話したが、未だに半魔への差別は消えていない。だが、それ以上に人間へ抱く憎悪は大きい。貴様のなりでは人間と見られる可能性の方が高かったからな……半魔だとしても所在をはっきりしておいた方が安全に街観光を出来ると思ったまでだ」


「そ、そうだったんですね」


 インプの少女はテーブルの影からそっと顔を出し、オウガの顔色を伺う。

 それでも怖いのか、すぐに隠れてしまったが。


「けど、もっと穏便な方法は無かったんですか?」


「ふんっ、生憎私はこの方法しか知らないのでな。それに大抵の奴は槍を向けられた時点で行動に出る」


「僕みたいなのは?」


「貴様のような奴は初めて……いや、二人目だ。何百年か前に槍を向けても何も反応しない奴がいた。変わった剣を腰に携えた男だった」


「その人は魔物? それとも人間?」


「そいつは人間だったが……力量は私では計る事が出来なかった。生きてきた中でそいつよりも強い奴に会ったことはない」


「人間……なら、もう亡くなっていますね」


「だろうな。人間の寿命は長くて百年だと聞いている」


 オウガは懐かしむように自分の右手を見つめ、手の甲の切り傷を撫でる。

 衛兵としての生活が長いせいなのか、肩や腕にも無数の傷跡が残っていた。


「そういえば、オグロさんは一人で?」


「……連れがいる。見つかれば面倒だから先に行かせてもr」


「こんばんはぁ――゛! 面倒な連れのネアちゃんだよぉ――!」


 黒い翼に先の尖った尻尾、それ以外は人間と大して変わらない容姿……サキュバスと呼ばれる魔物がオウガの背後から顔を出した。


「はあ……席で待っていろと言わなかったか?」


「だってお花を摘みに行くって言ってからだいぶ経つしぃ?」


「トイレの帰りに知った顔に会っただけだ」


 木製のコップを二つ持ってきたサキュバスは青年が座っている席の右隣を陣取り、胸元が大きく空いた服で男に迫る。


「ねぇねぇ、オグとはどこで知り合ったの? てか人間さん?」


「オグロさんとはお昼の通りで少しお世話になりました。それと僕は半人半魔です」


「半魔かぁ……ネア的にはハーフってカッコいいから好きだよぉ! あとクォーターにも憧れたりするし! 君もそう思わない?」


「え、えぇ、そうですね。その気持ちも分かります」


「だよね! なんか君とは話が合いそう! どうかな、これからネアの部屋でゆっくりお話しない?」


「やめておけネア、そいつの半分はお前と同族だ」


 オウガの言葉をきっかけに、サキュバスの纏っていた空気が変わる。

 獲物を見定めるような、そんな何かに。


「あはっ、そうだったんだ! ごめんね、全然気が付かなくて!」


「お前は普段から抜けているが……はあ、同族くらい区別しろ」


「ひっどーい! オグだってこの前飲みすぎて、ネアのベットで泣きながらネアと身体をk」


「ふんぬっ!」


「ひゃっ!」


 赤い拳がテーブルを粉砕する。

 唯一の防壁を失ったインプは小さな悲鳴を上げ、座り込んだまま動けない。


「オグってば大胆――! これ、どうするのぉ?」


「……店主に謝ってくる。ネアはそこを離れるな」


「りょうーかぁーい!」


 オウガは荒い足音を立てながらカウンターへと向かった。

 机の破片を拾いながら、サキュバスは椅子に腰を掛け、真剣な眼差しで青年に声を掛ける。


「さて、オグもいなくなった事だし、ネアの部屋に行こっか? 勿論、そのインプちゃんも一緒にね」


「……オグロさんは動くなって言っていましたけど?」


「別に大丈夫だよぉ? それに、オグに君が人間だって話、オグの前で話す?」


「……分かりました。マルテ、今度は立てるか?」


「た、立てないです……」


「はぁ、仕方ない……ほら、背中に乗って」


「あはっ、良いお兄ちゃんやってるね。あっちの世界でも兄妹とかいたのぉ?」


「……行きますか」


 青年はお代を下女に渡し、サキュバスの後について行く。


「本当にオグロさんに行き先を伝えなくても良かったんですか?」


「だいじょぶだいじょぶ! オグだって、これが初めてって訳じゃないし!」


「毎回同じ事をやっているんですね……」


「オウガ怖いです……赤い肌怖いです……」


「インプちゃん怯えすぎだよぉ?」


「そりゃあ、防壁として信じていたテーブルを粉砕され、目前まで迫った拳に悲鳴上げてるくらいだからね……けど、今回はお漏らs」


「ぎゃぁぁあ――!」


「ん? インプちゃん、どうしたの?」


「さあ? 洞窟暮らしが長かったから、興奮して叫b痛い痛い痛い!」


「わ、忘れてくださいって! 言いましたよね!?」


「分かった分かった……はぁ、てまあ、そんな感じなんですけど」


「あはっ、全然分からないけど分かったって事にしておいてあげる! あ、衣服の扱っている店分かる?」


「はい、それならお昼にも行っt」


「やめてください! その話は終わりです!」


 飲み屋街として機能している通り道を一人と一匹が歩く。

 酔った雰囲気の魔物が肩を組みながら次の店を探し、衛兵の恰好をした者は欠伸を抑える事に必死のようだ。


「さあ、着いたよ!」


「……ここは?」


「ネアのお部屋がある店だよ!」


「……サキュバスって言うから何となく予想はしていたけど、まさか娼館しょうかんに連れてこられるなんて。けど、僕たちお金無いよ?」


「ネアのお客さんって言えば入れるから大丈夫! さぁさぁ! いらっしゃい!」


「わ、私、こんなお店に入るの、初めてです」


「僕は何度かあるけど……僕の常識が通じるかな……」


 導かれるまま、店内に足を踏み入れる。

 まず視界に飛び込んだのは多種族の女性陣。

 ハーピー、アラクネ、アルラウネ、ジャイアントアント……両手でも数え切れないほどの種族が彼らを迎えた。


『主様、おいでなんし――』


「すごいでしょ――? この街一番の娼館だよ!」


「凄いね……色んな意味で」


「あ、あわわ……ふ、服が……み、見えそうです……わわわ……」


 インプの少女は局部だけを隠すことに特化した服装に驚きを隠せない。

 空いた口が塞がらず、両目を覆っている手の指は隙間が大きすぎる。


「あら? ネアのお友達でありんすか?」


「は、はい、そうです」


 黄の百合がデザインされた振袖。

 橙色の花の髪飾り。

 黒く、赤い光沢を持つ八本の脚。

 アラクネの遊女は青年にそっと声を掛ける。


「そうでありんしたか。アネモネの館にようきいした、おあがりなんし」


「アラニャさん! この子たち、ネアの部屋に連れて行くからね!」


「待ちなんし。おてき、かのさまはどうしんすが?」


 しなやかな手が指し示す方角には興奮したオークが店の裏口で立って何かを待っている。

 位の低い遊女が店から離れるよう、必死に説得しているが効果は薄そうだ。

 仁王立ちしたまま立ち去ろうとしない。


「わぁ、今日も来ちゃったのか」


「無駄をしなんすと言ってありんすが……わっちたちの言う事は聞いてくりんせし」


「店の裏口で待たれてもなぁ……アラニャさん! インプちゃんと傭兵ちゃんをお願いします!」


「無茶はやめてくんなましね?」


「分かってます!」


 サキュバスは魔物たちの間をすり抜け、裏口から外に出る。

 大きな深呼吸一つ、彼女は溜息と共に話し始める。


「はぁ……こういうの、やめてくんなましって言いんしたよね?」


「ネアちゃん!」


「何度も言いんしたが、もうお店には来ないでくんなまし。お店に迷惑が掛かりんす」


「聞いてくれネアちゃん! 俺、異動が決まったんだ!」


「それは何度も聞きんした」


「だから付いて来てほしいんだ! 俺、ネアちゃんがいないとだめなんだ! 君だけが……心の支えなんだ!」


「それも何度も聞きんした……諦める気は無いでありんすか?」


「どうして分かってくれないんだ! 俺はこんなに……君のことを……」


「きんちゃきんじゅうろう……では、ネアにも考えがあります」


 胸の谷間から砂時計を取り出し、サキュバスはにっこりと微笑む。

 オークはその表情に安心感を覚えているが、彼女の目は一ミリも笑っていない。


「やっと……考え直してくれたのか?」


「いえいえ、ネアにとってもお店は大切です。なのでオークさん、ネアとゲームをしましょう」


「ゲ、ゲーム?」


「はい、ゲームです! ルールは簡単! この砂が全て落ちる前にネアに触れる事が出来たらオークさんの勝ち。逃げ切ったらネアの勝ち。勝者の言う事は絶対……どうでしょう!」


「……何をしてでも触りに行くよ? それでも良いのかな?」


「うん! 問題ないよ!」


「……分かった。それでゲームをしよう」


「良かった! あ、そこのアントちゃん! 時間計ってもらって良いかな?」


 幼い顔立ちのジャイアントアントの少女は砂時計を構える。

 大役を任された彼女が一番緊張しているようだ。


「い、行きます! 始めぇ!」


「はぁぁぁぁあ!」


 巨体に似合わないスピードの突進。

 流石、城下町の衛兵を任されているだけある。


「んふふっ、速いね」


 サキュバスの身体に触れようと手を伸ばす。

 しかし、指先に当たるのは空気のみ。

 紙一重で全て躱す。


「アントちゃん――? 砂どれくらい残ってる――?」


「さ、三分の一くらいです!」


「おぉぉぉ!」


 残り時間の通知はオークの耳にも届いている。

 焦りによって攻撃が単調になってきた。

 いくら腕を振り回しても、彼女の残像にすら触れることは出来ない。


「オークさん、諦めたら?」


「……prraa!」


 木々や花から伸びた蔓がサキュバスの腕に絡みつく。

 拘束魔術の一つだ。


「へぇ、オークさん、魔術も使えたんだね」


「ネアちゃんのようにすばしっこい敵もいるからね。どうしてもスピードで劣る敵にはこうして対抗策を準備しないといけないんだよ」


「衛兵さんも大変なんですね」


「……さて、これで僕の勝ちで良いかな?」


「え? まだネアに触れていないですよね?」


「この状況でそんな事を……じゃあ、ルールに乗っ取って勝たせて貰うよ」


 一歩、また一歩。

 オークは自分の目標に近づく。

 口調は冷静さを保っているが、表情は発情した雄そのものだ。

 己が相手に策略にはまっている事など、知る由もない。


「vntseu」


 突風が吹き荒れる。

 オークの巨体が後方の壁に叩きつけられた。


「う、うぐぅぅぅ……」


「そこから動けないと思いますよ?」


「ネア……ちゃ……ん……うぐぐぐ……」


「アントちゃん――?」


「じ、時間です!」


「はい、お疲れ様」


「ぐはぁっ!」


 地に跪き、呼吸を整える。

 サキュバスを縛っていた蔓は跡形もなく散り、後頭部を壁に打ち付けたせいで眩暈が酷い。

 嘔吐したいのを我慢するので精一杯だ。


「これに懲りたら、もう店には来ないで下さいね。ここは大切な場所なんです」


 オークの意識が遠のく。

 歪み始めた彼の視界には彼女の後ろ姿が揺らめきながら消えた。

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