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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
太田隼side
24/32

23杯目~アホ毛少年と第三王女~

 初めましての人は初めまして。

 リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


 約一ヶ月ぶりの更新です。ブックマークを付けてくださっている方々、大変お待たせ致しました。

 この度、読者の皆様のお陰で文字数が100,000文字、PVが1,900、ユニークが1,000を突破しました。ここまで創作を続けられたのも、”誰かが読んでくれている”という心の拠り所があってこそだと思っています。

 これからも楽しみながら物語を紡いでいく予定ですので、どうぞよろしくお願い致します。


小説作成時BGM:【MMD】山風 川内 那珂ちゃんで 恋の2-4-11 【艦これMMD】

「う、うーん……」


 鬱蒼と生い茂る森の中、まるで忘れられたかのようにポツンと空いた空間。

 木漏れ日がアホ毛の少年を照らしている。


「はふぁ」


 少年は大きな欠伸を一つ、周りを見渡す。

 記憶の破片にエルフの森というワードが浮かび上がった。


「ここが……エルフの森」


 立ち上がり、耳を澄ます。


 ―――鳥や動物の鳴き声、草木の揺れる音、大木の倒れる音、大きな爆発音……爆発音!?

 

 少年は音の聞こえる方向と真逆の方向に走り出した。


「はぁはぁっ……はぁはぁ……な、なんで森で爆発音なの!?」


 気のせいだと思いながらも……音は段々と大きく、そして近付いてくる。


「ケ、ケルビムさん、絶対転移場所、間違えたでしょ……はぁはぁ……」


 普段運動していない付けが回ったのか、少年の息は荒い。

 三分も経たないうちに足が言うことを聞かなくなった。


「こ、このままじゃまずい。どこかに、隠れないと……」


 樹齢千年はくだらない大木に身を潜める。

 根の部分に大きな穴があり、一人くらいなら余裕で入った。

 少しばかり土臭いが……そんなことを言っている場合じゃない。


「だ、段々近付いてくる……通り過ぎてくれ……」


 再び耳を澄ます。


 ―――鳥や動物の鳴き声、草木の揺れる音、大木の倒れる音、大きな爆発音、男の警告する声、呼吸が荒い女の子の声……あれ? 追われているのは僕じゃない?


「とまれダークエルフ!」


「なぁぁしつこい! 食いもん拝借したくらいでケチケチすんなよ……なっ!」


 爆発音が森の中に響く。

 歴史ある木々がまた朽ちていった。


「あっぶねぇ! おい! いきなり爆発魔法なんて使ってんじゃねぇ! もっと森とオレに優しくしろ!」


「貴様が素直に捕まれば痛みを感じさせず殺してやる!」


「そういう意味の“優しく”じゃねぇーよ!」


 ダークエルフは叫びながら木々の間をすり抜けていく。

 彼女の後方には武装したエルフの兵士たち。

 いずれも騎乗しながら警告音を鳴らす。


「もう一度言う! とまれダークエルフ!」


「はぁ……しつこいな……ったく、お菓子好きな妖精さん 今は無いの」


 小さな溜息の後に紡がれる世界の改変。

 ダークエルフの言葉が世界の理に干渉する。


「いたずらで許してね……タンブル!」


「次は外さnぐあっ!」


「うわぁっ!」


 先頭の軍馬が次々倒れていく。

 落ちた兵士たちは後方から走ってくる馬に潰されないよう、悲鳴を上げながら身を守る。


「狼狽えるな! 標的まであと少しだ!」


「あぁぁしつこい! 私に似た妖精さん 見えないし聞こえないよ」


「また魔法が来るぞ! 各自警戒態勢を!」


 再び世界の理に干渉する。

 ダークエルフの少女の助けとなる奇跡が起きる。


「耳と目を返して ハルシネイション!」


「くっ……ん? 何も起きない……不発か?」


「あれ!? どうして魔法が!?」


「わははは! 勝機有り! 皆の者、突撃だぁぁ!」


「うおぉぉぉお!」


 少女の影を追いかけ、木々を薙ぎ倒しながら兵士たちは森の奥へと姿を消した。

 近くではまだ爆発音と倒木の音が鳴り響いている。


「へっ、精々幻覚と追いかけっこでも……っと、こんなことをしてる場合じゃなかった。また戻ってくる前にどっかに身を隠さないと……おっ、丁度良さそうなのが……」


 ダークエルフの視界が捉える樹齢千年を超える大木。

 根の部分に大きな穴がぽっかり開いており、一人くらいなら十分なスペースがある。


「おっ、あの木とか良さそうだな……よっ!」


「ぐへっ!」


「うぉっ!?」


 足裏に感じる土でも枝でも葉っぱでも無い感触。

 柔らかく、クッション性に富んだそれは蛙のような声を上げた。


「ごほごほっ! い、いきなり何が……」


「ちっ! エルフ……にしちゃ少しばかり太っているな。なんだお前、逃げてきたオークか?」


「ごほごほごほっ……ひ、人のお腹にドロップキックかましておいて……ごほごほっ……それはないじゃないですか……うぅ……」


「おぉ、やけに流暢に言葉を話すオークだな。オークの異常種かなんか?」


 ダークエルフは少年の身体を手当たり次第触り、次に匂いを確認する。


「ぼ、僕の名前は太田……オークじゃない……てかさっきから何を……」


「オーク特有の獣臭さも血の匂いもしない。武器は里で取り上げられたとしても……」


「げほげほっ……だ、だから、僕はオークじゃないって言ってる……うぅ……お腹が痛い……」


「なに? オークじゃない? ならなんだ? ゴブリンの異常種か?」


「……僕は人間。名前は太田。さっきから失礼過ぎない?」


「オータ? それに人間?」


「そう、人間。ゴブリンでもオークでも無いよ」


「……ふんっ、嘘を付くなオークの異常種。ダークエルフだから騙せるとでも思ったか?」


 少年の喉元にナイフが突きつけられる。

 馬乗りで右手は抑えられ、自由なのは左手のみ。

 しかし、変な動きをしたら刃先が血管に到達するのは見えている。


「う、嘘じゃない! ぼ、僕は人間だ!」


「くくくっ、そうか。だが知っていたか人間、この森の結界は人間の力では破るどころか触れることすら出来ない。そして、万が一森に侵入出来たとしても……発見次第、殺される。少し前に出来た森の掟だ」


「す、少し前に出来た掟?」


「あぁ、どうやったかは知らんが……村に入り込んだ人間がハイエルフの少女を唆し、森を抜けて人間の村へと姿を消した。それからだ」


 ―――ぇ……それって……ケルビムさんが転移させた人なんじゃ……


「じゃ、じゃあ、その人だけですか? 人間で生き残ったのって……」


「エルフ族の奴らにそんな情があると思うか? 探し当てて殺したよ」


「そ、そんな……」


「だから、俺がお前を殺しても問題無い」


 ―――ここで引き下がったら……殺される。ケルビムさんとの約束……破る事なんて出来ない。


「……けど、それだと君に利益はないんじゃない?」


「なんだ? 今度は命乞いか?」


「確かに命乞いに聞こえるけど……少なくても、僕がここで死んでも君には利益は無いし、血の匂いで戻ってきた兵士に気付かれる可能性だってあるでしょ?」


「だが、生かしていても利益にはならんだろ?」


「……一つ、僕に考えがある」


「ほぉ、この状況を打破するためのか? 言っておくが、森の結界は外からも内からも破る事は出来ない。俺が実験済みだ」


「僕だってそんな事は分かっているよ」


「ならなんだ? 言ってみろ」


「ここで言ったら……君、僕の事を殺すでしょ?」


「ふんっ、この状況で交渉する気か? 随分呑気な事だな」


 ダークエルフの右手首を握る力が増幅する。

 少年は痛みを彼女に悟られないよう、表情一つ変えず相手の目に映る自分を見つめる。

 周りの人間を観察し、空気を読みながら生きてきた彼には分かる。

 ここを乗り越えれば……彼女は自分を殺さない。


「……僕には君と対等になれる程の力は無い。あるとしたら、言葉を交わす事で出来る交渉という場での取引だけだ」


「そんな言葉で俺が殺さないとでも? 少し買い被り過ぎじゃないか?」


「君が……そこまで必死に生きようとする理由を買っているだけだよ」


 沈黙。

 お互いの吐息と心臓の鼓動しか聞こえない時間。

 たった数分のやり取りが命の有無を決める。

 学校や家庭では味わえない、圧縮し収縮された時が流れた。


「……ふんっ、良いだろ」


 ナイフを腰にしまい、右手首から手を放す。

 彼の血は一滴も流れていない。


「それで、この場面を切り抜ける手段は本当にあるんだろうな?」


「嘘を言って君から逃げ切れるとは思ってないよ」


「なら、どうする」


「まずは……ここから出て僕が初めに転移した場所まで戻る。話はそれからだね」


 ―――ケルビムさんは意味も無くあんな場所に転移させた訳じゃない。あの場所に何か……僕が生き残る為の何かがあるから転移させたんだ。


「分かった。案内しろ」


 大木の穴から這い出た二人は辺りを見渡し、エルフの気配を探る。


「俺の幻覚はとっくに効果切れだ。あいつら、直ぐに戻って来るぞ」


「そんなに遠くないから大丈夫だよ」


 倒れた木々を避けながら、目的地を目指す。

 ついさっきまで爆発音が響いていたとは思えないほど静かだ。

 草木が揺れる音、葉っぱ同士が擦れる音しか聞こえない。


「確か……この辺りだったような」


「着いたのか?」


「うん……その筈なんだけど……」


 鬱蒼と生い茂った森の中にポツンと差し込む木漏れ日。

 彼が目覚めた場所に間違いない。


「ここに何かあるのか?」


 ―――ここまで来れば何かあると思ったけど……何もないぞ? あれ? ケルビムさん、まさか転移場所を本当に間違えちゃった?


「おい、ここに何があるんだ?」


「え、えっと……」


 ―――僕が訊きたい、何があるの、と。


「貴様……やはり俺を謀って……」


 刃先と鞘の擦れる音が響く。

 ダークエルフがナイフに手を掛けた音だ。


 ―――早まるな、考えろ。ケルビムさんは僕を天使パワーで守ってくれると言った。それは後ろの彼女を力で屈服させるという意味じゃないはずだ。


「おい、答えr」


「静かに」


 耳を澄まし、気配を探る。

 冷静になれば見える世界がある。

 そして、それはダークエルフの方が見やすいはずだ。


「……ん? 声が聞こえる」


「本当?」


「あぁ、こっちだ」


 彼女の後を追って茂みの中を移動する。


「あれは……エルフの王女か」


「……そうなの?」


「間違いない。あの腕輪、エルフの王族の物だ。しかし、なんでこんなところに……」


 ガラス細工のような腕輪を付けた銀髪碧眼のエルフ。

 華奢な身体は触れると壊れてしまいそうなくらい細い。


「護衛も付けないで森の中を散歩中とは……呑気なお姫さんだ。よし、アイツを人質にして森を抜けるぞ」


「ぇ?」


「王族のエルフなら森の結界を突破出来るはずだ。それに兵共からの盾にもなる」


 握りしめたナイフに意思が宿り始める。

 ダークエルフは本気で彼女を人質にする気だ。

 仮にも相手は王女。

 ハイエルフの少女を唆した男を地の果てまで追って殺したエルフ族が……森を抜けたぐらいで獲物を許すか。

 その答えは否である。


「それは止めた方がいいと思うよ」


「なに?」


「さっき君が言ったハイエルフの少女の話、それが本当なら僕たちだって森を抜けた先で殺される」


「オウタはともかく、俺は逃げ切れる自信があるぞ?」


「エルフの寿命って何百年なの?」


「寿命? そんなの、アイツらにある訳ないだろう。殺されるか自害しない限り死なねぇーよ」


「……ダークエルフも?」


「まあ、似たようなものだ」


「だったら、逃げ回って生きていくのは辛いんじゃないかな?」


「そうは言うが、他に手があんのか? 王女様にお願いしたら見逃して貰えるって?」


「それは分からないk」


 少年の言葉を遮る悲鳴。

 茂みに隠れていた二人はエルフの王女に視線を戻す。


「そ、それ以上近づいたら衛兵を呼びます!」


「くくっ、それは残念だったな。今頃ダークエルフの尻追っかけ回して大変だろうに」


「……なるほど、同族の方でしたか」


「っ!」


「今、森に滞在しているダークエルフの話を知っているのはエルフ族の方だけですから。外から来た他種族の方はそんな事情は知りません」


「……怯えるフリして情報収集とは、随分余裕だな」


「私に余裕なんて……ありませんよ」


 一歩ずつ後ずさる王女。

 額に大粒の汗を滲ませる。

 刺客の剣先は今にも彼女の喉元を掻っ切りそうだ。


「おい、悠長に考えている時間はねぇーぞ。獲物が横取りされちまう」


「そうだね。敵の数は把握出来る?」


「今見えている三体だけだ」


「後ろからの不意打ちは可能?」


「あぁ? 俺を舐めてんのか?」


「なら良かった」


「は? どういう意味d」


 大きな音を立てて茂みから飛び出した物体が王女と刺客の間に割り込む。

 丸腰で剣も弓も持たない、ただの人間が。


「……誰だ、お前」


「初めまして、太田と言います」


「オウタ? 奴隷工房から逃げてきたオーク……にしちゃ、言語が流暢だな」


「……僕はオークじゃない。人間だ」


「人間……くくっ、そうか、人間か」


「あ、あの……」


 少年の耳が上ずった声を拾う。

 想定外の出来事に緊張を隠せていない。


「何か武器になるような物はありませんか?」


「え、えっと、これで良ければ……」


 手渡されたのは一本の矢。

 通常、弓とセットで使う武器だが……この際、弓の所在を探しても仕方ない。


「……ありがとうございます」


「くくっ、矢だけでどうする気だ?」


「……こうします」


 力いっぱい空へと投げる。

 生物は止まっている物よりも動いている物に意識を集中する。

 例え、それが殺傷力の低い一本の矢だとしても。


「ぐっ!」


「うっ!」


 二人の刺客が前のめりに倒れる。


「な、なんd」


 声を上げようとした刺客の首があらぬ方向に曲がる。


「……流石ダークエルフさん」


「オウタ、俺の話を無視するとは良い度胸だな。お前もこいつらと一緒にお昼寝がしたいのか?」


「ご、ごめんなさい……」


 倒れたままピクリとも動かない身体を指差し、どもった声で少年に話しかける。

 口調は平常運転だが、目の端が吊り上がっていた。


「次はねぇぞ」


 ボソッと吐き捨て、三体の死体が被っていた仮面を叩き割る。


「……やはり、同族でしたか」


 緑色の肌に尖った耳、まごうことなきエルフ族の特徴だ。

 彼女は心のどこかで期待していたのだろう。

 仮面の下にはエルフではなく、残虐な他種族の存在が隠されている事を。

 数千年も同じ国で過ごしてきた……同士の存在を認めなくなかった。


「それで? この姫さん、どうする気だ?」


 血がべったり付いたナイフを王女に向け、少年に呼びかける。

 ダークエルフの考えは彼女を人質に取って森からの脱出を試みる、一択のみ。

 ここで何か言わないとその案が決行されてしまう。


「……まずは話し合いたい。エルフさん、良いですか?」


「この状況で私の許可を取る必要があるんですか?」


「はい。話す気が無い相手との会話は時間の無駄ですから」


「……分かりました。ですが、場所を移動しませんか? 刺客が彼らだけという保証はありませんし」


「それは賛成ですが……生憎、僕は腰を落ち着かせて話せる場所を知りません」


「……それなら、私に心当たりg」


「おい姫さん」


 首筋に当てられたナイフから一滴の血が流れる。

 それが彼女の血ではなく刺客のものだと理解していながら、少年はつい声を上げそうになった。


「……なんでしょうか?」


「この馬鹿オークと俺の知能を一緒にするなよ? 罠へ懇切丁寧にお邪魔するように見えるか?」


「罠ではありません。そこのお方が仰ったとおり、話し合いの場に相応しい場所を提供するだけです」


「それが罠だって言ってんだよ。この森がお前らエルフの庭だって事は知っている」


「……確かにそうですが、ここであなた方に不審に思われる行動をすれば、命を失うのは理解しているつもりです」


「なら、ここで殺されても文句はねぇな」


「……救われた命です。あなた方に奪われるのなら、それも運命なのでしょう」


 彼女の瞳に曇りは無い。

 流石、王女というべきか。

 肝は据わっている。


「……ふんっ、一日に二度もこう対応されちゃ、自信が無くなるぜ」


 ダークエルフは腰にナイフをしまい、大木に背を預ける。


「……では、付いて来てください」


 歩き始める王女の後ろをついて行く少年、ちょっと距離を置いて歩くダークエルフ。

 澄んだ空気が森の中を漂う。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はステラ・シオン、ハイエルフ第三王女です」


「……王女様がなぜ命を?」


「珍しい話ではありません。第三王女である私は王位継承権を持っていますから……邪魔者を排除しに来たんでしょう」


「今回が初めて……という訳では無さそうですね」


「えぇ、その通りです」


「だとしたら、なぜあんな場所に? エルフの森に詳しい訳ではありませんが……あの場所よりは国の中にいた方が安全だと思いますけど」


「そ、それは……そうなんですけど……」


「……オウタ、お前、こいつの命を狙った奴ってどんな奴だと思う?」


 いつの間にか距離を詰めていたダークエルフが話に加わる。


「え? さっきのエルフの人……じゃなくて?」


「馬鹿かお前は」


「えぇ……」


「こいつは何度も命を狙われている。つまり、親玉が存在して、下っ端に指示を出して殺しに行かせているって事だ」


「親玉……けど、僕は別にエルフの国の事情なんて分からないよ」


「少しは頭を使え。こいつが死んで、一番得をする奴は誰だ?」


「王女様が死んで……得する人……えっ」


 少年のギョッとした表情で彼女たちに視線を向ける。


「はあ……お前、オークのくせに平和ボケし過ぎだろ」


「い、いや、だって、有り得ない。やっぱり分からない」


「別に珍しい話じゃねぇ。人間の国でもよく行われている事だ……自分が王位を継ぐためなら、血の分け合った肉親を平気で殺すなんてよ」


「た、他人の可能性だってあるよね? それこそ、王女様を人質に乗って財宝とかを要求するとかさ!」


「さっきの奴らは明らかに殺意を向けていた。目的は王女攫いでは無く、王女殺害。最初から殺しにかかっていたって事だ」


「で、でも……他の可能性だって……」


「数多ある可能性に縋るのは別に悪い事じゃねぇ……だが、可能性と幻想を履き違えるな」


 苔や根が入り乱れ、枝は己の赴くままに伸び続ける。

 森は自由に生き続けるのに……同じ場所に住む彼女たちは何かに縛られているようだった。


「そんな……そんな事って……」


「うふふっ、貴方は面白い方ですね……まるで自分の事のように」


 兄弟姉妹での殺し合い。

 今、エルフの国では血で血を洗う争いが起きている。

 誰かが王位を継ぐまで続くのだろう。


「さてと……着きました」


 開けた所にポツンと存在する古びた建造物。

 屋根や壁は自然に侵食され、外的要因によって崩れ落ちた部分が垣間見える。


「へぇ、エルフの森にこんな場所があったのか」


「森を探索している時に偶然見つけました。おそらく、国の者は誰も知りません」 


「お前らが造ったんじゃないのか?」


「私たちエルフにこのような建築物を建造する技術はありません。それに、もし見つかっていれば破壊されています」


 エルフは他種族との交流を嫌う傾向にある。

 まして、自分たちの敷地内に他種族が建てた物など許す筈が無い。


「にしてもおかしくねぇか? お前らエルフにとって森は庭のような物の筈だ。なぜ今までバレていない?」


「詳しくは分かりませんが、ここには結界が張られています。手順通りの道を通らないとこの場所へ来ることは出来ません」


 建物の中は至ってシンプルであり、テーブルや椅子、それに本棚や食器棚といった家具が数個置かれているだけだった。

 床や壁は全て木材、しかも設計されたというよりは家のイメージをそのまま形にしたような造りだ。


「お茶を入れますのでちょっと待っていてください」


「え? ここ、水を引いているんですか?」


「近くに石段が積まれた場所がありまして、その中央部分に穴が有るんです。これも詳しくは分かりませんが、水が湧いているようだったので拝借させて貰っています」


 木製の容器を持って再び外へ出る王女。

 安全な場所まで来て安心したのか、声色から緊張の色が消えた。


「オウタ、お前の考えを聞かせろ」


「考え?」


「あの姫さんとどう交渉するつもりだって訊いてんだ」


 ダークエルフは椅子に座らず、壁に背を預けながら外の様子を伺う。

 いつでも刃を抜けるように。

 いつでも戦闘態勢に入れるように。


「うーん……実は特に考えてなかったんだよね」


「……なに?」


「い、いやぁ……ほら、ダークエルフさんが人質にして森の外まで逃げるなんて言うから……何か考えがあるフリしないと……はい、ごめんなさい。反省しているのでナイフを抜かないで下さい」


「ちっ、何か考えがあると思っていた俺が馬鹿だったか……」


「……けど、気になる事はあるよ」


「なんだ」


「国の中が如何に危険だからって、森の中を護衛も付けず出歩く意味が分からない。危険度は変わらない筈なのに」


「護衛を付けない理由は大方、誰も信用出来ない……そんなところだろ」


「……そういえば、武器も矢を一本しか持っていなかった。エルフって矢だけで戦う種族って訳じゃないよね?」


「あいつらは弓術と風魔法を得意とする種族だ。矢だけを持っていたのは気になるが……魔法の媒体にするつもりだったか」


「まあ、その辺も含めてお話してみるよ。正直に答えてくれるかどうかは分からないけど」


 年季の入った木製のコップをテーブルに三つ並べ、王女は本棚を背に席に着いた。

 お茶請けは無臭の赤い実。

 一粒一粒が窓から差し込む光によって輝いている。


「お待たせいたしました。では、改めまして……刺客から助けて頂きありがとうございます。エルフの国の事情は先ほどお話しした通りです……私があの場所にいた理由も何となく察しているかと思います」


「護衛を付けていなかったのは、信用に値する者がいなかったからですか?」


「……お恥ずかしい話ですが、その通りです。本来であれば、森に出掛けた事も私に仕える者しか知らないはずなんですが……」


「内通者がいるという訳ですか」


「はい、おそらく」


 声に覇気が無い。

 内通者の存在を今日知り合った他人に示された。

 自分の考え過ぎだと言い聞かせてきた物が崩れたのだ。


「あの場所では何を?」


「これも恥ずかしい話なのですが……魔法の練習をしていました」


「魔法の練習?」


「はい……私はハイエルフでありながら、魔法が使えないのです」


「えぇっと……ダークエルフさん?」


「なんだ」


「これって……珍しい事なんですか?」


「まあ、そうだな。エルフの一族は風の精霊に愛され、自然と共に時を過ごす。水の精霊の加護を受けられないのならともかく、風の精霊の加護を受ける事が出来ないエルフなど聞いた事が無い」


「へぇ……だから、あの場所で練習を?」


「はい、矢を風で操れるようになれば……と思いまして。本当はここで練習したかったんですが、万が一の事を考え、結界の外で練習していました」


「けっ、そのざまでよく今まで生き残れたな」


「……友人がいたんです。今になって分かりましたが、彼女が私を守っていてくれたようでした」


「そのご友人は……?」


「もうここにはいません。森を抜け、魔王討伐の為に外の世界へと旅立ちました」


 王女はあの場所で一人、魔法の練習をしていた。

 エルフにとって風の精霊は親よりも身近な存在。

 見る事は出来なくても、感じる事は出来る。

 そんな当たり前の事が出来ない彼女は……ハイエルフの出来損ないとして兄弟姉妹から白い目で見られてきた。

 そして時が経ち、なまじ王位継承権を持つ為に政権争いに巻き込まれた。


「……もう一度、会いたいですか?」


「え?」


「そのご友人に、もう一度会いたいですか?」


「おい、まさかこいつを森の外に連れて行く気か?」


「……私は森から出るつもりはありません」


「知っています。逃げ出すつもりなら、あんな場所で魔法の練習などしないでしょうから」


「……なら、どういう意味ですか?」


「僕たちと一緒に王位継承権を勝ち取りに行きましょう……つまり、護衛として雇ってくださいという意味です」


「……へぇ?」


「は?」


「王女様が正式に政権を握れば、僕やダークエルフさんを森の外に出すことも出来るはずですし、ご友人の魔王討伐にも協力出来る筈です」


「そ、それはそうですが……」


「待てオウタ、お前は何を言っているんだ? エルフの政権争いに首を突っ込む気か?」


「それにダークエルフさんにとっても悪い話では無いと思いますよ?」


「……どういう意味だ」


「ここはエルフの森。衛兵に追われている様子から察するに、エルフとダークエルフは共存している感じはしなかった。なら、なぜダークエルフさんはエルフの森に?」


「……何が言いたい」


「ダークエルフさんは目的が有ってこの森を訪れた……けど、志半ばで衛兵に見つかり、追いかけ回されていたところで僕と出会った。最初は目的を達成したから森を抜けだそうとしてたのかなぁって思ったけど……その割には衛兵の数が少なかったし、何より王女様の外出が許可される程度の警戒度しか見られていないなら、まだ何もしてないんじゃないかなって」


 ダークエルフの眼光が少年を突き刺す。

 彼の背中は冷や汗でびっしょりだ。


「殺される覚悟でエルフの森に入ったってことは、それ相応の物が目的だと思った。それも、盗まれたら大騒ぎが起きるような物が目的かなって……だから、ダークエルフさんはまだエルフの人たちに用があるはず」


「……だから、俺が協力すると?」


「森を抜けるにしたってエルフの力……それも王族クラスの力が必要なら、これが一番だと思います。今の国の情勢から考えれば、王女様に人質としての価値はありません」


「か、価値が無い……」


 言葉は時として魔法よりも効力がある。

 今回は無慈悲にもハイエルフに矛先が向かった。


「すぐに魔法やら矢やらで蜂の巣にされます。しかも、そこから生き残ったとしても、僕とダークエルフさんは殺人者として指名手配されて口封じのため殺されます」


「……確かにこいつに価値が無いのは分かった。しかし、他種族を嫌う奴らが俺らの存在を認めるか?」


「ま、また価値が無いって……ないって……うぅ……」


「そこは王女様の権限を存分に使ってもらいましょう。人質しての価値は無いかもしれませんが、発言力はそれなりにある筈です」


「うぅ……ぐすっ……ぅぅぅ……」


「確かに第三王女なら……ってなんで泣いてんだ?」


「……え? あ、あれ? 王女様? どうかしましたか?」


「ひっ、ひっく……ぐすっ、あ、貴方たちは、護衛失格、です……ひっ、ひっく……」


「……あれ?」


 少女の鼻水をすする音が部屋の中を木霊する。

 彼等の護衛としての初任務は……こうして失敗に終わった。

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