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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
萱草笑side
20/32

11杯目~魔物として転生、そしてハーピーに喰われる~

 初めましての人は初めまして。

 リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


小説作成時BGM:五等分の気持ち(五等分の花嫁OP1)

 北の森、南部。


「オキュちゃんー! 美味しいそうなもの拾ってきたぁー!」


 湖に囲まれた小さな陸地の高台。

 更にそこに数千年の時を感じさせる大木が地面に根を生やす。

 鷲のような大きな翼を羽ばたかせながら、一匹のハーピーが巣に食料を運ぶ。


「お姉ちゃんただいm――」


「水際で倒れていた獲物拾ってきた! 今日はお腹いっぱい食べられる!」


 湿ったパーカーに馬車がデザインされたズボン、さらに防寒靴を履いた少年が赤い尻尾のハーピーによって巣に運ばれた。

 待機していた青い尻尾のハーピーは食料をじっと見つめる。


「オキュちゃんはどこ食べたい?」 


「それ……冒険者?」


「ボウケンシャ? 何それ?」


「ケラお姉ちゃんが言ってた、魔物の敵」


「ケラ姉が? そんな事言ってたっけ?」


 微かに呼吸しているが、少年に意識はない。

 靴の後ろには”萱草 笑”という黒い文字が書かれている。


「でも、武器は持ってなかったよ?」


「魔道具を持ってるかもしれないし、もしかしたら仲間がその辺で待機していて、巣の場所を調べる為にわざと倒れたフリをしているかもしれない。目覚める前に巣かr」


「ならまず殺そう!」


 鋭い鉤爪が少年のどてっぱらに食い込み、もう片方の脚が首を勢い良く刎ねた。

 上半身が一瞬ビクッと痙攣したが、それ以上の動きは無い。悲鳴も上がらない。


「これで安心ー!」


「……冒険者って頭と身体を切り離したら死ぬ?」


「あ、確かに。なら、これくらいはやっておこう!」


 強靭な下半身と鉤爪を使って獲物の身体をバラバラにしていく。


 左脚、右腕と脇腹、左腕、右脚。


 頭部を含め五つの肉塊が出来た。


「これなら大丈夫じゃない?」


「動いたのは最初の首を刎ねた一回だけ。その後は特に苦しむ声も反応もなし。ケラお姉ちゃんはスライム系の生き物だとは言ってなかったから、これくらいしても動かないって事は……うん、大丈夫、かな」


「オキュちゃんの許可下りたー! いっただきまーす!」


「いただきます」


 二匹のハーピーはそれぞれの肉塊にかぶりつき、順調に胃に落とし込んでいく。


「ボウケンシャってあまり味しないねー」


「そうだね」


 左腕を青い尻尾のハーピーが、右脚を赤い尻尾のハーピーが囲った。

 食が進むにつれ、ドロドロした液体が彼女たちの顔に飛び散る。


「ケラ姉、ちゃんとご飯食べてるかな?」


「ケラお姉ちゃんなら大丈夫。獲物取るのも飛ぶのも、私たち三姉妹の中で一番上手だから」


 数か月前、北の森を納めていた長が何者かによって失踪。

 森の暗黙の掟では倒した者が次の長になるのだが、誰一人として名乗りを上げる者はいなかった。


「魔術師様を倒したの、誰だと思う?」


「この森の外の存在、だと思う」


「外の存在? 今食べてるボウケンシャとか?」


「うん。偵察部隊が、前にオークの縄張りで不審な人影を見たって言ってた」


 長を失った森に起きたのは魔物同士による覇権争い。

 つまるところ、誰が森のトップに君臨するかを決める内乱が起きた。


「今のところ有力なのはオークとゴブリン、それにトロール。だけど、団体行動を主とするゴブリンが最近勢いづいてきている」


「そうなの?」


「新しい支配者が生まれたのかもしれない。いずれにしても、私たちハーピーの縄張りは日々減少している」


 現在、北の森は中心部に長が拠点としていた城があり、北東部をオーク、南東部をホブゴブリン、南部の一部をハーピーの一族が支配している。西部にはトロールが棲んでいるが、彼らに縄張りという概念はあまりない。覇権争いに参加しているというのも、ただの食料到達という目的の延長線に過ぎないのだ。


「ゴブリンとオークはまだ分かるけど、魔術師様はよくトロールたちを説得出来たよね。あいつら会話全然通じないし、いきなり襲い掛かって来るし、返り討ちにしても学習しないし」


「この世界は弱肉強食、それだけ魔術師様が強かったってこと」


「その魔術師様がぽっくり逝っちゃうんだから、世の中分からないよねぇー」


 覇権争いには森中の魔物が参加している。

 勿論、彼女らハーピーの一族も。


「アエロたちハーピーってどうなったんだろうね」


「分からない。毎日周囲を飛び回っているけど、仲間は疎か他のハーピーにすら会わない」


「ここで待ってるようにケラ姉からは言われたけど……正直退屈」


「……だめだからお姉ちゃん。ケラお姉ちゃんはここで待ってなさいって私たちに言って飛び立った。帰って来た時に私たちがいなかったr」


「分かってるよそれくらいー! ちょっと言ってみただけー!」


 今日の空は雨のち曇り。

 巣を支えている枝や葉っぱから落ちた水滴が大木の根元に雨を降らせ、湖に小さな水紋を起こす。


「オキュちゃん、頭食べる?」


「いいよ、お姉ちゃんが食べても。折角取ってきたんだから」


「やった! お言葉に甘えていただくね!」


「それじゃあ、今度は私が見回りに行ってくr」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああ゛!」


 青い尻尾のハーピーが巣の端に足を掛け、飛び立とうした瞬間。

 断末魔とも呼べるほどの声が大木を揺らした。


「ハーピーコスプレの女に殺されるぅぅぅう! 誰かぁぁぁあ! 助けてぇぇぇえ!」


「わぁっ! 喋った! ねぇねぇオキュちゃん! このボウケンシャ、生きてるよ!」


「お姉ちゃん離れて! こいつ、危険!」


 頭部だけ残された少年は錯乱状態のまま助けを求める。

 頭だけで生きている生物を初めて見た二匹だったが、感情の温度差は激しい。


「おもしろーい! ねぇねぇオキュちゃん! この生物飼ってもいい!?」


「だめに決まってるでしょ! というか離れて!」


 妹に尻尾を掴まれ、一時、生首から距離を置くハーピー。

 巣の上空から様子見に徹する。


「まさか冒険者がスライムの性質を持ち合わせているなんて……誤算だった」


「ねぇねぇ生首さん! アエロのペットにならない!?」


「お姉ちゃん! 正体不明の生き物をペットする癖はやめて!」


 必死に姉を抑え、言葉を発する生首を観察する。

 黒い髪の毛につりあがった目、胴体には見慣れない薄い防具を身に着け、武器の類は持っていない。


「え!? 空飛んでる!? てか俺の手足は!?」


「あ、それはアエロたちが食べちゃった」


「お姉ちゃん! 勝手に話しちゃだめ! 会話がトリガーの魔法かもしれn」


「えぇぇぇ!? 食べちゃった!? 食べっちゃったって何!? てか勝手に人の身体食ったの!? 馬鹿なの!?」


「馬鹿とは失礼な! 私はこれでも百二十歳だ! お姉ちゃんなのだ!」


「ロリババァハーピーだと!?」


「ババァ!? 生首のくせに、これでも……」


 赤い尻尾のハーピーは大きく息を吸い込む。


「お、お姉ちゃん!?」


「喰らえ!」


 吐かれた息は炎へと変わり、巣の中心にいた少年の頭上を覆う。


「いや、ちょっ、待て! おい、おいおいおいおいぃぃ! 死ぬぅぅぅう!」


 無慈悲に落とされた業火が生首に直撃。

 当たった衝撃で巣に火の粉が舞う。


「死ぬぅぅぅ……う? ん? 熱くない?」


「なに!? 生首のくせにアエロの炎が効かな――」


「お姉ちゃん下がって!」


 姉を後ろに庇い、今度は青い尻尾のハーピーが水を吐き出す。

 圧縮され、弾丸のように発射された水塊が生首に襲い掛かる。


「ちょっと待て! 一旦話し合おう! 俺も状況がっておいおいおいおいぃぃ! 今度は水かぁぁぁあ!」


 枝や幹を抉るほどの弾丸が巣全体に降り注ぐ。

 頭部だけの少年に避ける術は無い。


「あぁぁ、オキュちゃんのせいで巣が穴だらけだ」


「仕方、ない。それに、最初に巣を燃やしたのはお姉ちゃん」


「だってあの生首が!」


「挑発に乗ってはだめ」


「うぅぅ! お、お姉ちゃんはアエロなんだからね!」


 火が急激に水によって消火されたため、水蒸気が辺り一帯を覆いつくした。

 風によって分散する霧から少しずつ、巣が姿を現す。


「あぁあぁ、折角喋る生首ペットが手に入ったのになぁ」


「あんな得体の知れない者、身近に置いておくことなんて出来ない」


「ならなぜ俺をここまで運んだ?」


「それはお姉ちゃんが勝手に……っ!?」


「わぁ! 生きてる! 生首のまま生きてるよオキュちゃん!」


「なるほど、そっちの炎ちゃんが俺をここまで運んだ訳ね」


「……なぜ、生きてる?」


「死ななかったからって答えるしか無い。てか普通は首から下が無い時点で死ぬんだが」


「すごいすごい! すごいよ生首さん! アエロの炎もオキュちゃんの水も効かないなんて!」


 興奮を抑えられない姉のハーピーは大きな翼で頭部を包み込む。


「おい、羽根がチクチクする、降ろせ、持ち上げるな」


「さっきまで騒いでたのに急に冷静になったね?」


「驚き疲れただけだ。てか手足無いし、炎熱くないし、水ぶっかけられるし。もう何が起きても驚かない」


「あ、あれ、あなたの胴体の残骸」


「貴様らぁぁぁあ! 人の身体に何しやがるぅぅぅ!」


「わぁい! 元気になったぁ!」


「お姉ちゃん、生首で遊ばないで」


「お前も何しれっと言うとんじゃこらぁぁぁあ! 人の身体を勝手に食っただろうが!」


「お前の身体、まずかった」


「感想きいとらんわ!」


「身体にお別れする?」


「貴様、主犯者のくせに……はあ、もういい。せめて胴体のところまで頭を持って行ってくれ」


「むふっふっふ、なら代わりにお前はアエロのペットになれ!」


「鬼かお前は! 自分で歩けなくしておいて交換条件出すか普通!」


「むっふっふ、アエロは、オウガより怖いハーピーなのです!」


「ドヤ顔腹立つなぁ……」


 霧が晴れ、周囲の光景が少年の視界に入る。

 樹齢数千年の大木、曇った空、住処を囲うように出来た湖、その外側に広がる森。

 風の音と不気味な遠吠えが木霊している。


「まあ、いいや。お前のペットで良いから、俺を胴体のところまで連れて行ってくれ」


「やったぁー! オキュちゃんも良いよね!?」


「だめに決まってる」


「えぇぇ……そんな……」


「そんな得体の知れない生き物、飼う事は許可出来ない」


「あ、生首に質問! お名前を教えて?」


「苗字は萱草かやくさ、名はおかし


「オカシね! アエロはアエロ! こっちは妹のオキュちゃん! よし、これで得体は知れた! 飼っても良い!?」


「名前を聞いただけで許可は」


「オカシは何歳?」


「十七だ」


「えぇ!? めっちゃ子供じゃん!」


「俺からすればお前たちの方が驚きだ。百二十歳と、えっと……」


「オキュちゃんは今年で九十六歳になる! もう少しで成人なんだよ!」


「成人? なら、ハーピーの成人は百歳なのか?」


「そうだよ! オカシの種族は?」


「俺のところは二十歳だ」


「子供じゃん!」


「寿命がせいぜい八十歳前後だからな。百歳なんて珍しい方だ」


「へぇ、短いんだね」


 青い尻尾のハーピーは姉が正体不明の生き物と意気投合するのに憤りを感じながらも、観察を続けた。


「あ、まずは胴体の残骸だったね」


「残骸言うな」


 仮にも姉の炎を凌ぎ、己の水弾を無傷で過ごした存在。


「よくまあ、こんなに食い散らかしてくれちゃって……む」


「どうかした?」


 真の力を発揮した時、どれほどの脅威になるのか。

 敵対した時、どんな攻撃が有効なのか。

 炎も水も、もっと威力を強めれば通用するのか。

 もし敵わないと悟った時、逃げ切る事は出来るのか。

 疑問が疑問で塗りつぶされ、あらゆる可能性と未来に不安が膨らむ。


「血が出てない。そういえば痛みも感じなかった」


「血? ボウケンシャは血が出るの?」


「当たり前だ。皮膚をちょっと斬られても血が出るし痛い」


「アエロが食べた時は血なんて出なかったよ?」


「……俺を運んだ時、俺の身体は五体満足だったか?」


「欠けた部分は無かった気がする!」


「よし、ならちょっと試したい事がある。もしかしたらお前たちも多少は苦しい思いをするかもしれないが……まあ、割り切ってくれ」


「何をするの?」


「まあ、見てろ」


 少年は目を閉じ、無いはずの身体に意識を集中させる。

 頭部は姉ハーピーの腕の中、胴体の残骸は目の前、右腕と左脚は妹ハーピーの足元。

 視覚で確認出来ない部位……左腕は妹ハーピー、右脚は姉ハーピーの胃の中だ。


「よしお前ら、嘔吐に備えろ」


「おうと? オカシ、オウトってなに……うぅっ!?」


「っ!?」


 ハーピーたちは胃の中で暴れる何かを感じた。

 その何かは魔力を宿し、食道を通じて喉まで這い上がろうとしている。


 飲み込むか、吐き出すか。

 二者択一の状況で彼女たちが出した答えは、本能的なものだった。


「う、うぅぅぅえぇぇぇえ……」


「ぅぅぅ……」


 胃液と一緒に吐き出された半固体の物質。

 微弱な魔力を帯びながら、少年の元へと移動する。


「よし、腕と脚は返してもらった。後は、コネコネして模るイメージで……」


 胴体や頭部、それに吐き出された部位が一つの塊に集約し、やがて人の形を成す。

 人間の、男の姿に。


「なるほど、身体は分離されても再生可能。また姿形も変化自在」


 少年は右腕を槍の穂先部分のように尖らせる。

 先端は柔らかく、物を突き刺すには強度が足りない。


「脅しと見栄を張るには通用するかもしれないけど、実戦には向かないな」


「おぉぉぉ! オカシ、そんな事も出来るの! すごい!」


「気持ち悪いのは治ったか?」


「スッキリした!」


「吐いてそれだけ元気なら良いか。妹の方は……」


「ぅぅぅう……」


「まだ復活は無理そうだな」


 顔を巣の外に出し、蹲るハーピー。

 顔に似合わない低い声の嗚咽が鳴り響く。


「その先っぽ、触ると痛い?」


「いや、殺傷性は無い。身体を変化させられるだけで、硬さまでは再現出来ないみたいだ」


「舐めてみてもいい?」


「好奇心の塊かお前は。もっと面白いの見せてやるから我慢しろ」


 ハサミ、定規、シャーペン、りんご、バナナ、車、自転車など。

 想像の範囲内であればどんな物にも変化可能という事が分かった。

 ただし、変えられるのは見た目だけであり、色や香りは無色無臭。

 強度や性能までは真似できない。


「おぉぉ! 面白い!」


「性能まで真似出来れば良いんだが、まあ仕方ないか。さて、色々教えてくれないか?」


「ん? どうした?」


「ここは、どこだ?」


 目が覚め、ハーピーに出会い、水と炎の効かない身体を手に入れ、手足を修復し、己が人間じゃない事は分かった。

 しかし、それ以外は全く分からない。


「北の森!」


「それがこの森の名前ね。んで、ここにはお前たちハーピーみたいな種族が?」


「オークやゴブリンどももいる!」


「はいはいなるほど。この世界に魔王とかっている?」


「いる! 今は魔界に三人いる!」


「え? 三人もいるの? という事は勇者は? 勇者も三人いるのか?」


「ユウシャ? なんだそれは?」


 少年は考える。

 この世界には魔界という場所に魔王が三人もいる。

 勇者の存在は知らない。

 彼女はハーピーで、ここは北の森という場所。

 北の森が有るという事は、東、南、西の森がある可能性が高い。


「いきなり黙ってどうした?」


 ハーピーであり魔物である彼女は魔界事情には精通しているかもしれないが、それ以外の世界、例えば人間界には詳しくない可能性がある。だとすれば、勇者が誕生していても不思議ではない。まだ公に動き出していないだけで、着々と世界は進んでいるのかもしれない。


「おーい、お腹が空いたのかー?」


 見た目は人間だが、蓋を開ければ魔物そのもの。青い尻尾ハーピーの反応から、魔物と人間が共存している可能性は低い。もし、魔物特有の気配を察知出来るテクノロジーや人がいたら戦闘は免れないだろう。水と炎の攻撃、というか斬撃類は効かないだけで無敵と思うのは浅はかだ。


「アエロを……無視するなー!」


 強靭な足腰から繰り出される蹴りは簡単に首と胴体を切り離す。

 少年の表情に焦りはない。

 宙を舞った頭部を今度はしっかりと両手で受け止め、静かに元あった場所に固定する。


「オ、オキュちゃん゛ー! オカシが無視ずる゛! うぇぇぇん゛――!」


「うぅぅ、お、お姉ちゃん……揺らさないで……お願い」


 妹はまだ嘔吐から復活出来ていない。

 姉に少年の頭部を譲ると言いながら、実は身体の部位の多くを胃に落としていたのだろう。


「姉ハーピー、そのくらいにしてやれ。じゃないと妹が死ぬぞ」


「だ、だってオカシが無視するから!」


「別に無視してない。少し、考えていただけだ」


「え? そうだったの?」


「見た事もない異世界に飛ばされ、挙句の果てに魔物へ転生。少しくらい考える時間を貰っても罰は当たらないだろう?」


「なんだそうだったのか!」


 赤い尻尾が左右に触れる。

 犬と同じ感情表現にどこか安心感を憶える少年。

 前にいた世界の記憶が無い……なんて事は無い。

 全て憶えている。

 大晦日。突然の隕石襲来。妹を駅に迎えに行こうと玄関を飛び出し、途中でトラックに轢かれそうになった小さな人影を助け、恐らく死亡。

 子供が助かったのかは分からない。

 恐らく死亡というのも、そこから先の記憶が無いから確実ではない。


「他にもハーピーはいるのか?」


「森の支配者を決める戦いに出掛けてるから、今はいない!」


「森の支配者? この森には支配者がいたのか?」


「いたけど死んじゃって、今は魔物同士で誰がトップになるか決めているの!」


 だが、確実な事が一つ。

 この異世界で自分が人間としてではなく、魔物として生き抜かなければならないということ。

 転生された理由が勇者残滅だろうと魔王の手下だろうと知った事では無い。

 生きて、生きて、生き延びて。

 そして……


「なら、俺たちも参加しないか?」


 元いた世界の妹を救う方法を探す。

 魔物も、魔法も、魔王だっている世界。

 そんな異世界だからこそ、隕石から妹を助ける方法が見つかるかもしれない。


「参加? トップ争いに?」


「そうだ。木の上で過ごすより、よっぽど面白そうだと思わないか?」



 少年の時間は再び動き出す。

 助ける事が出来なかった運命に構っている暇は無い。

 今はただ、前に進むだけ。

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