1杯目~冒険者の街アイファング~
初めましての人は初めまして。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:Alteration
「ここがアイファング……冒険者の街! やっぱり活気がすごいです!」
修道服を身にまとった少女は、期待と興奮を隠しきれない様子で広場を見渡す。
胸元には翡翠色の月の模様の刺繍。
心做しか、踊っているようにも見える。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ハイレン帝国の奥様方にも大人気!」
見たこともない家具、嗅いだことのない料理の匂い、触れたことの無い魔導具……同じ空の下で生きてきたのにここまで違うものなのかと、世界の広さに感心しながら少女は目的地を目指す。
勿論、途中で何度も誘惑に負けそうになったのは内緒の話です。腰当ての巾着に手なんて伸ばしてませんとも。えぇ、嘘じゃありません。私、こう見えて我慢強い女なんです。
「えぇっと、ギルドの場所は……」
自分の背丈以上の大剣を背負った褐色肌の人間、鋭い牙と鱗が特徴的なリザードマン、ずんぐりむっくりで手足が短いドワーフやフサフサの体毛を風に靡かせながら歩く獣人。
街一番の大きさを誇る建物を様々な種族が行き交う。
建物の看板には“ギルド”という文字。まさに彼女の目的地だ。
深呼吸一つ、年季の入った扉に手を掛ける。
―――行きます!
その瞬間、急に身体に違和感が生じた。
いや、これは違和感というより……
「あ! 財布が無い!?」
先程まで腰当てに大事そうにぶら下げていたオリーブ色の巾着。
それが引きちぎられた訳でも落とした訳でも無く、元々そこに無かったかのように消えている。
「え、えぇっと、こういう時は……」
護衛中の兵士に声を掛けても相手にされないのは目に見えて明らか。周囲の人たちに聞いても酒の肴にされて時間の無駄。そもそもアイファングという街で貴重品が入った巾着を腰当てにぶら下げている方が迂愚で愚行なのだ。
ここは良くも悪くも冒険者が集う街。
必要最低限の秩序以外は自由なのだから。
「ぅ、いきなり一文無しに……」
唸っていても仕方無い。
この数多いる種族の中から巾着を持ち去った人物を探す。それこそ、五等級推奨クエストを達成するより難しいだろう。
愚劣で凡愚だった己を恨み、まずは今夜の寝床と食事の確保が第一優先だ。
少女はきめ細やかなデザインが施された杖をしっかり握り締め、ギルドの扉を押し開ける。
「わぁ……」
まだ昼前だというのに、丸テーブルを囲むようにして宴会を始めている多種族構成のパーティー、装備と消耗品のチェックを念入りに行っている同い年くらいの男女、扇と際どい衣装で客の興奮を誘う踊り子などなど。
視界に収まりきらないほどの人たちが各々の目的のために行動している。
お祭り騒ぎのその空間につい自分も高揚してしまいそうになるが……さっきの経験を踏まえ、気持ちをしっかり引き締める。
これ以上盗まれる物なんて持っていないが、“自由”が売りのこの街では油断出来ない。
「え、えっと、クエスト掲示板は……」
部屋の中央、美しい文字で記された上質紙から小型ワームが踊っているような文字で書かれた紙まで、様々な用紙が張り出されている掲示板に人だかりが出来ている。
もう少し近づかないと内容は分からないが、多分、あれがクエスト受注に必要な書類なのだろう。
「スライム討伐、ゴブリン退治、盗賊からの護衛、ピクシーの生態調査、ダンジョン攻略……」
しばらく眺めていると、小柄な男の子が紙を掲示板から破り取り、奥のカウンターで押印された書類と交換していた。
報酬を受け取る時の証明書類として必要なギルドマークが一際目立つ仕様のようだ。
「あの、このクエストを受けたいんですけど……」
「はい! 冒険書はお持ちですか?」
「ぼ、冒険書? ですか?」
小柄な男の子の真似をしてみたが、返ってきたのは”冒険書”という聞き慣れないワード。
「はい、いつも提示していただいてます……あ、もしかして新しい冒険者さんですか?」
「あ、は、はい、そうです……」
隠す気も無かったが、何だか無性に恥ずかしい。
知ったかぶりの様子は受付嬢の瞳に滑稽に映っただろうか。
「それは大変失礼しました! でしたら、ここより二つ左隣のカウンターにこのスライム討伐の依頼書を持って、冒険書の作成手続きをしてもらう事になります! 文字の読み書きは出来ますか?」
「は、はい、一応一通りは出来るつもりです」
「分かりました! では、二つ左へお進みください! 上に冒険書作成カウンターと明記されていますので!」
「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」
言われるがまま、二つ隣のカウンターへ移動する。
一般的なクエスト受注カウンターは絶えず人が入り乱れているが、どうやら新参者用のこのカウンターはそんなに人が来ないらしい。先ほどの受付嬢と比べ、目の前の女性は眠たそうな眼差しが隠しきれていない。
「あ、あの、冒険書の作成をお願いしたいんですけど……」
「ん? 君、新しい冒険者さん?」
「あ、は、はい」
「そっかぁ……そんなに小さいのに凄いねー」
「は、はい……」
「冒険者の人はね、毎日が死と隣り合わせだからね? そりゃもう、昨日話した人が突然来なくなるって事が日常茶飯事なのね。まぁ、私たちにその人の行方を知る術なんて無いから、冒険者を辞職して農家にでもなったのかなぁーとか想像する事はあるんだけど、ほら、そのクエストをそのまま放置する訳にもいかないじゃん? だから、他の冒険者が受注して、無事帰って来た時に『道中で冒険書を拾わなかった?』って聞いちゃうんだけど、まあ、大抵の冒険者さんはそんな物を拾ってくる余裕なんて無いから……」
超高等魔法の詠唱のような言葉が次々とカウンターの上に並べられる。
苦笑いしながら戸惑う修道服の少女はなんとか自分の想いが届かないか念を送っているが、彼女の努力は虚しく散る羽目になる。
昼を知らせる鐘が鳴り響き、ようやく話を終えた受付嬢が一枚の薄っぺらい紙を引き出しから出してくれた。
「えっと、沢山項目あるけど、呼び名と出身地、あとは得意分野の一つでも書いてくれれば大丈夫だから」
「……得意分野ですか?」
「そっ、例えば……“炎魔法が得意です”とか“魔法探知が出来ます”とか」
「え、えっと……特に無い場合は……」
「え? 無いの? 一つも?」
「い、いや、その、魔法は少し使えるんですけど……その……得意ってほどじゃ……」
「ああぁ、私の言い方が悪かったね。別に得意分野じゃなくても、適当に書いてくれれば良いから。それにそこ、自己紹介みたいなところだから、自由に書いてくれれば良いよ」
「あ、はい、分かりました……」
この紙を貰うのにどれ程の時間を要しただろう……そんな想いが脳裏を過ぎるが、今となっては後の祭りである。
また話し始められても困るため、必要事項を出来る限り簡素にまとめて書いた。
名前と出身地、それと自己紹介文の書いただけの紙にギルドマークの印が押され、五分も経たないうちに冒険書が発行される。
「はい、君の冒険書ね、これ。あとは自由に掲示板から依頼書を取ってきて貰えばクエスト受けられるから。えぇっと……ティエラさん? で良いのかな?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それじゃティエラさんは特に前科も無いし、悪い噂も聞かないから十等級からスタートね。まあ、これは冒険者のレベルみたいものだから、依頼書こなしていけば、ある程度のところまでは大丈夫なはずだよ。あ、一応依頼書には推奨等級って明記があると思うけど、それはその関係のクエストを受けて生き延びた冒険者たちをベースに作っているから、絶対的な物差しじゃないから安心して。勿論、今回持ってきて貰った“スライム討伐”の依頼書の推奨等級が九等級になっているからって、受けられない訳じゃないから」
お喋り好きな口をせっせと動かしながら手元の書類を素早く整理し、横に設置されている機械に入力と出力を同時に命令する。
流石と言うべきか、仕事のスピード自体は恐ろしく速い。
「これ、クエストを受けましたっていう証明書ね。後で報告書を作る時に色々聞くんだけど、その時に提出してもらう物だから無くさないようにね。落としても盗まれても、報酬を受けるにはこれが必要になるから」
「はい……」
ここに来る前、全財産が入った巾着を知らぬ間に落としたティエラは自然と声のトーンが下がる。
命をかけて達成した報酬が泡となって消える結末だけは絶対阻止したい。
「それにしても、ティエラさんは持ってるねー大物の予感がするよー」
「え?」
「いやいや、珍しいよ? この街でこんな物がギルドに届けられるなんて。私も五、六年ここで働いているけど、冒険書以外が届けられたのは初めてだよ」
「あっ! それっ!」
そう言って机の下から出された物に少女は思わず声を上げる。
それは紛うことなきオリーブ色の巾着であり、少女の持ち物だった物だ。
中身は幾らか減っているが、全財産を失う事に比べれば露ほどにも問題にはならない。
取り敢えずこれだけ残っていれば、今日の食事と寝床には困らない。
「今度は懐にしまうことをお勧めするよ」
「ありがとうございます! あ、あれ? だけど、どうして私の物だって……それに財布を落としたなんて一言も……」
「巾着に“ティエラ”って刺繍が有ったし、『落としても盗まれても』って言ったら声から覇気が失われていたからね。それに、そんなに大事そうに杖を握っている新米冒険者さんは大抵、ここに来る前に大事な物を落としたか盗まれたか、まあ、どっちにしても警戒心が異常に強まるから。この街は良くも悪くも冒険者の街“アイファング”、自由と夢が売りの活気ある街だってこと、忘れちゃダメだよ?」
「は、はい!」
元気を取り戻した少女は受け取った冒険書とクエスト証明書、それと失われた筈の巾着を大事そうに懐に仕舞い、再び杖を力強く握り締める。
「それじゃ、説明は一通り終わったけど、何か聞きたい事はある?」
「あ、え、えっと、落とし物を届けてくれた人って……」
「ん? 届けてくれた人? それを聞いてどうする気? お礼でもしたいって?」
「は、はい。この街に来たばかりで浮かれていた私が悪いんですけど……やっぱりお礼はちゃんとしたいなって思いまして……あ、もしかしてギルドの方で情報提供は出来ない感じですか?」
「ふふふっ……いや、まあ、確かに冒険者さんの情報提供は出来ないんですけど、今回のようなケースは別に問題無いかと。ただ、拾ってくれた人はちょっと変わり者で有名な方なので……ふふふっ……」
「え、えっと……」
不敵な笑みを浮かべる受付嬢はシンプルなデザインの魔導具に目を向ける。
二本の長針と短針がグルグル回り続け、何周かした後にピタッと止まってしまった。
「ふふっ……さて、失礼しました。えぇーティエラさんの探し人ですが、今はクエスト中なんですよね。今受けているクエストだと、帰りは陽が落ちるくらいの時間帯になりそうですけど、どうします?」
お日様はまだ頭の上で周囲を照らしている。
決して所持金に余裕が有る訳では無いため、このまま何もしないで待つのは明日以降の事を考えれば一択しかない。
「え、えっと、スライム討伐に、行ってきます」
「はい、了解しました。ですが、ソロで大丈夫ですか?」
「あ、は、はい……」
「ここはギルドですよ? 周りにいる冒険者とパーティーを組んで行く方法も視野に入れても良いんですよ?」
「……私なんかだと皆さんの足を引っ張ってしまうと思うので、今回は一人で行くことn」
「受付さん!」
途中からいきなり割り込んで来た小柄な少女、狐耳が特徴的な獣人族の娘が甲高い声で受付嬢に話しかける。
「ソレイさん、どうしました?」
「この子、新人さんなんですか!?」
「えぇ、そうですね。貴方達と三日ほどしか変わりませんが」
「三日も違います!」
獣人族は元々活発的であり、冒険者になる者も少なくない。
ドキドキとハラハラとワクワクを求めて里を離れ、上位階級として名を馳せながら新たな冒険に出る。またその反面、他のどの種族よりも縄張りを気にし、縄張りの中にいる者が傷つけられでもすれば、すぐさま報復の為に行動に出る。
「ねぇ君! 私たちとパーティー組んでくれないかな! 今うちのパーティーね、白魔法を使える人がいなくてさ!」
「え、あ、えっと……」
「あ、報酬とか気にしてる!? 大丈夫大丈夫! 私なんかはズボラだから適当に分けちゃうけど、うちの眼鏡はそういうとこに女々しいかrいたっ!」
「誰が女々しいって? えぇ?」
藍色のローブを身に纏った少年が長杖で獣人娘の後頭部をどつく。
見るからに黒魔法を得意とする禍々しい杖はまだ汚れておらず、受付嬢が言った“三日”という日数も間違えでは無いらしい。
「い、痛いよぉ……」
「お前が余計な事を言うからだろ。それに相手側にも都合というものがあるだろうが」
「け、けどぉ……この子、ソロで白魔法使えるし」
「だからってお前みたいにグイグイ行く奴がいるか……はぁ……」
「おいアレン、ソレイの飼い主はお前の役割だろ? 他の冒険者に迷惑かけてどうする」
「ならお前も手伝えグレット。大体、村にいた時からコイツが俺の言う事をまともに聞いたこと無いだろうが」
「み、みんな、喧嘩は、ダメだよ! 仲良く、ね?」
剥き出しの剣を腰に下げた少年と鋭く尖った耳を持ったハーフエルフの少女が輪の中に入る。
どうやら彼等はみな顔見知りらしく、先ほど獣人娘が言っていたパーティーというのもこのメンバーの事らしい。
「え、えぇっと……」
「あ、この馬鹿が失礼しました。その、いきなりで戸惑ったかと思いますが、コイツに悪気は無いので許して貰えないでしょうか? ほら、お前も謝る」
「うぅ……ごめんね?」
「い、いえ、ちょっと驚いただけですので大丈夫ですよ? それに、パーティーの話も正直どうしようかと迷っていましたので……」
「えぇ!? ホント!? だったら私たちの――」
「アレン」
「はぁ……ジト、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、うん……ごめんねソレイ」
「え? え? どうしたの二人とも? アレン、どうしてそんな怖い顔してるの? てかジトまで私の両腕拘束し始めてるけどなんで?」
ハーフエルフの子は慣れた手付きで獣人娘の手首を縛る。
何度か少年の顔色を伺い、結び目の固さを調整しながら。
「聞き分けのない奴は運び屋に村まで送ってもらうって約束だからな」
「え? 冗談だよねアレン? まさか本気じゃないよね? ねぇ、両腕が全然動かないんだけど!?」
「ばいばい、ソレイ。ちょっとの間だったけど、冒険、楽しかった、よ?」
「ジト? なんでそんな顔を私に向けるの? ねぇ、冗談だよね? まさかホントに――」
「よし、俺は婆さんの知り合いの運び屋探してくるから、ジト、こいつが逃げないよう見張っておいてくれ。一応椅子に縛り付けるから大丈夫だと思うが」
「う、うん、気を付けて、行ってらっしゃい」
「……や――だぁ゛――! 村に帰りたくないぃぃい゛――! ごめんなさいぃぃい゛――!」
外まで聞こえるほど大きな声が建物の中を走り回る。
カウンターに害虫駆除の依頼を出しに来た老人はあまりの出来事にペン先で用紙を貫いてしまった。
受付嬢は溜息一つせず、『ゆっくりで良いですよ』と笑顔で新たにもう一枚紙を出すが、こめかみを僅かな震えが襲っている。
「なにをやっているんだアイツ等は……はぁ……」
「あ、あの……」
「あ、あぁ、悪い。俺はグレット。あそこで冒険者の皆さんの心臓に多大な負荷を掛けている三人のツレだ」
「あ、え、えっと、私はティエラと言います。そ、その……今日冒険者になったばかりで……」
「あぁ、見れば分かる……と言っても、俺たちも三日前に冒険者になったばかりだから、あまり大きな事は言えないが」
「あ、いえ、そんなことは……」
「いやいや、俺らも昨日簡単なクエスト……それも地下のスライム討伐を一回行っただけだ。対して変わらないさ」
グレットと名乗る少年のズボンには所々赤黒い塗装が付いており、それが経年劣化による鉄錆だという事は誰の目にも明らかだった。
「んで、あっちで泣きながら反省している奴がソレイって言うんだが、アイツは後先考えずに行動する事が多い。だから、特に打算があってパーティーを組もうとした訳じゃないんだ……そこのところは理解してもらえると助かる」
「あ、いえいえ、大丈夫です。そ、その、一人でどうしようかと思っていたのは事実なので……」
「……それじゃ、ここからは交渉の話なんだが」
「あ、は、はい……」
「うちのパーティーの構成についてだが、俺とハーフエルフのジトで前衛、鼻水垂らしながら泣いているソレイが中衛、最後にローブを着たアレンが後衛、と一見バランスよく見えるパーティーだが、実は白魔法……癒しを乞える者がいない。お陰で報酬の殆どは寝泊りとポーション行きって訳だ。俺やアレンはまぁ仕方無いとして、流石に女のジトとソレイを馬小屋に寝させる訳には行かない。だから、スライム討伐と一緒にダンジョンにちょっと入ってお宝を探ってこよう……って話をアレンとしている」
「え? そ、それって……大丈夫なんですか? 確かダンジョンの推奨等級は……」
「別にダンジョン制覇を目指している訳じゃない。入口からそう遠くない所をちょっと探して、物が有ればラッキー程度で考えている。第一、あの二人がいる状態で俺もアレンも無茶なんてしない」
「……仲が良いんですね、四人は」
「腐れ縁ってやつで昔から一緒なだけだ。なにせ小さな村に子供が四人しかいなかったからな……まぁ、そんなに話は置いといてだ。ティエラさん? で良いか?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それじゃティエラさん。スライム討伐の報酬はティエラさんが六割、俺たちが四割。逆にダンジョンで得た報酬はティエラさんが四割、俺たちが六割って感じで、もし何も見つからなくてもスライム討伐の報酬の比率は変わらず。けど、ちゃんとダンジョンにも付いてきてもらうっていう契約で良いか? あ、勿論ダンジョンの事は他言無用ってのも条件付きだが」
「えっと……ホントにダンジョンに何も無くても……?」
「あぁ、勿論スライム討伐の報酬の比率は変更なしだ。実はさっきまで張り紙を見ていたが、あの報酬の四割なら二人分の簡単な飯とベットなら大丈夫だった。水浴びはちょっと我慢してもらう事になるが……草の上に寝るよりはマシだろ」
「……分かりました。私もそれで大丈夫です」
「よし、交渉成立だな。なら、あっちに行って騒ぎを収めて作戦会議としようか」
騒ぎを起こした張本人を謝らせ、縄を解いているアレンに目で合図を送る。
パーティーの在り方はパーティーの数だけ存在するが、このような交渉は剣士であり頭目であるグレットが担当しているようだ。
「アレン、交渉は概ね承諾してもらった。いつもの場所に移るぞ」
受付嬢にペコリと頭を下げ、一行はギルドを出る。お日様はさっきより幾分か傾いているように思えるが、まだまだ夕暮れには程遠い。
「おい、ちゃんと反省したな?」
「は、反省した! 私、めちゃくちゃ反省した!」
「……ジト、こいつが何かやらかさないよう見張るのを手伝ってくれ」
「う、うん……」
「反省したから大丈夫だよ! 私、村でもやれば出来る子だっいだだだっ! いたい゛っ! いだいよアレン゛!」
獣人娘の幼顔が左右から引っ張られる。
はぁ、とこめかみを抑える剣士の苦労は絶えない。これ以上注目を浴びてもいられないため、二人を宥めに入る。
「ふふっ……なんだか、懐かしいです」
「なつか、しい?」
「あ、いえ、すいません。その、私、ここに来る前に修道院で暮らしていたんですけど、その時に小さい子の教育係を担当していたので、お二人にはちょっと失礼なんですけど……こういう光景は毎日目にしていたんです。だから、なんだか懐かしく感じてしまって」
「大丈夫、だよ? アレン、も、ソレイも、村にいた時から、何も変わって、いないし、ね?」
「それを言うなら俺らもだろ。毎度問題を起こすソレイ、それに巻き込まれるジト、止めようとして結局問題を大きくするアレン、みんなの後始末をする俺……待てよ、ここ抜けて他のパーティーに入った方が良いんじゃないか、お――」
「ダ、ダメ! グ、グレットは、ジト……たちと、一緒、じゃないと……イヤ、だからね?」
グレットの右手を控え目に、けど力強く握りしめ、上目遣いで己の意思を主張するジト。
一瞬反らした彼の顔は酔ったような赤みを帯びているが、夕陽のせいにするには少し無理な時間帯のため、口元を手で隠しながら応答する。ジトは気付いていないようだが。
「……冗談だからそんなに強く握るな。歩きにくいだろうが」
「ふぇ? だけど、この前は、迷子になる、と、ダメだから、って、グレットかr」
「ティエラさん! あそこが俺たちの作成会議の場所だから覚えておいてくれよ! 共通で使う物とかは一旦全部あそこに預けるようにしてるからさっ! はっはっは!」
「グ、グレット……? だいじょう、ぶ……?」
「何言ってるんだジト! 俺は大丈夫に決まっているじゃないか! 急におかしな奴だな! はっはっは!」
不自然な笑いを語尾に付けたまま、グレットは街外れの巨大な木の上に作られた簡素な建物を剣で示す。
入口は地面に掘られた隠し階段らしい。すぐに彼の姿は視界から消えた。
もっとも、隠し通路内でぎこちない笑い声が反響しているため、そこらのダンジョンより入るのに勇気がいるが。
「……グレットの奴、道中で拾い食いでもしました?」
「え、えっと……そんな事は……無いと思いますけど……」
「……そうですか」
「グレット、面白そうな物でも見つけたのかな!?」
「いや、違うだろ……」
昼に食った物でもあたったか……と呟き、己の腹部をさすりながら降りていくアレンとキラキラした眼差しで後を追うソレイ。
全く同じ光景が目に映っているはずだが、二人の感性が一致する日は来るのだろうか。
「ジトの方が……おかしい、のかな?」
頭に無数のクエスチョンマークを発生させているジトは自分の華奢な身体を確認し、変なところが無いか確認してから階段を降りていく。
ティエラはそんな四人を微笑ましく眺めながらも、自分が一番最後だという事に気付き、そそくさと慣れない階段に一歩を踏み出した。
誤字・脱字・感想・評価
お待ちしております。
******
2019.2.23
見直しによる修正
(修正前)
胸元に翡翠色で刺繍された月の模様が入った修道服を身に纏った少女は期待と興奮を隠しきれない様子で広場を見渡す。
(修正後)
修道服を身にまとった少女は、期待と興奮を隠しきれない様子で広場を見渡す。
胸元には翡翠色の月の模様の刺繍。
心做しか、踊っているようにも見える。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! ハイレン帝国の奥様方にも大人気!」
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2019.3.3
見直しによる修正
(修正前)
見たこともない家具、嗅いだことのない料理の匂い、触れたことの無い魔導具……同じ空の下で生きてきたのにここまで違うものなのかと世界の広さに感心しながら少女は目的地を目指す。
(修正後)
見たこともない家具、嗅いだことのない料理の匂い、触れたことの無い魔導具……同じ空の下で生きてきたのにここまで違うものなのかと、世界の広さに感心しながら少女は目的地を目指す。
(修正前)
勿論、途中で何度も誘惑に負けそうになって腰当ての巾着に伸びた右手を自我が残っている左手で叱りながら歩いたのは内緒の話だ。
(修正後)
勿論、途中で何度も誘惑に負けそうになったのは内緒の話です。腰当ての巾着に手なんて伸ばしてませんとも。えぇ、嘘じゃありません。私、こう見えて我慢強い女なんです。
(修正前)
自分の背丈以上の大剣を背負った褐色肌の人間、鋭い牙と鱗が特徴的なリザードマン、ずんぐりむっくりで手足が短いターザンを巻いたドワーフ、フサフサの体毛を風に靡かせながら歩く獣人……様々な種族の出入りが激しい建物の看板に“ギルド”という文字を見つけ、少女は深呼吸一つ、年季の入った扉に手を掛ける。
(修正後)
自分の背丈以上の大剣を背負った褐色肌の人間、鋭い牙と鱗が特徴的なリザードマン、ずんぐりむっくりで手足が短いドワーフやフサフサの体毛を風に靡かせながら歩く獣人。
街一番の大きさを誇る建物を様々な種族が行き交う。
建物の看板には“ギルド”という文字。まさに彼女の目的地だ。
深呼吸一つ、年季の入った扉に手を掛ける。
(修正前)
「あれ!? 財布が無い!?
(修正後)
「あ! 財布が無い!?」
(修正前)
先程まで腰当てに大事そうにぶら下げていたオリーブ色の巾着。
それが引きちぎられた訳でも落とした訳でも無く、元々そこに無かったかのように綺麗さっぱり消えている。
(修正後)
先程まで腰当てに大事そうにぶら下げていたオリーブ色の巾着。
それが引きちぎられた訳でも落とした訳でも無く、元々そこに無かったかのように消えている。
(修正前)
王都護衛のパトロールをしている兵士に声を掛けても相手にされないのは目に見えて明らか。
周囲の人たちに聞いても酒の肴にされて時間の無駄。
そもそもアイファングという街で貴重品が入った巾着を腰当てにぶら下げている方が愚かで馬鹿なのだ。
ここは良くも悪くも冒険者が集う場所……必要最低限の秩序以外は自由なのだから。
「うぅ……いきなり一文無しに……」
(修正後)
護衛中の兵士に声を掛けても相手にされないのは目に見えて明らか。周囲の人たちに聞いても酒の肴にされて時間の無駄。そもそもアイファングという街で貴重品が入った巾着を腰当てにぶら下げている方が迂愚で愚行なのだ。
ここは良くも悪くも冒険者が集う街。
必要最低限の秩序以外は自由なのだから。
「ぅ、いきなり一文無しに……」
(修正前)
唸っていても仕方無い。
この数多いる種族の中から自分の巾着を持ち去った人物を探すのはそれこそ五等級推奨クエストをクリアするより難しいだろう。
無知で愚かだった己を恨み、まずは今夜の寝床と食事の確保が第一優先だ。
「ここで唸っていても仕方ないですね……まずは簡単なクエストをクリアして……」
きめ細やかなデザインが施された杖をしっかり握り締め、目の前のギルドの扉を開ける。
(修正後)
唸っていても仕方無い。
この数多いる種族の中から巾着を持ち去った人物を探す。それこそ、五等級推奨クエストを達成するより難しいだろう。
愚劣で凡愚だった己を恨み、まずは今夜の寝床と食事の確保が第一優先だ。
少女はきめ細やかなデザインが施された杖をしっかり握り締め、ギルドの扉を押し開ける。
(修正前)
まだ昼前だというのに丸テーブルを囲むようにして宴会を始めている多種族構成のパーティー、装備と消耗品のチェックを念入りに行っている同い年くらいの男女ペア、扇と際どい衣装で客の興奮を誘う踊り子……視界に収まりきらないほどの人たちが各々の目的のために行動している。
お祭り騒ぎのその空間につい自分も高揚してしまいそうになるが……さっきの経験を踏まえ、気持ちをしっかり引き締める。
これ以上盗まれる物なんて持っていないが、“自由”が売りのこの街では油断出来ない。
「え、えっと、クエスト掲示板は……」
部屋の中央、美しい文字で記された上質紙から小型ワームが踊っているような文字で書かれた紙まで、様々な用紙が張り出されている掲示板に人だかりが出来ている。
もう少し近づかないと内容は分からないが、多分、あれがクエスト受注に必要な書類なのだろう。
(修正後)
まだ昼前だというのに、丸テーブルを囲むようにして宴会を始めている多種族構成のパーティー、装備と消耗品のチェックを念入りに行っている同い年くらいの男女、扇と際どい衣装で客の興奮を誘う踊り子などなど。
視界に収まりきらないほどの人たちが各々の目的のために行動している。
お祭り騒ぎのその空間につい自分も高揚してしまいそうになるが……さっきの経験を踏まえ、気持ちをしっかり引き締める。
これ以上盗まれる物なんて持っていないが、“自由”が売りのこの街では油断出来ない。
「え、えっと、クエスト掲示板は……」
部屋の中央、美しい文字で記された上質紙から小型ワームが踊っているような文字で書かれた紙まで、様々な用紙が張り出されている掲示板に人だかりが出来ている。
もう少し近づかないと内容は分からないが、多分、あれがクエスト受注に必要な書類なのだろう。
(修正前)
「あの、このクエストを受けたいんですけど……」
「はい! 冒険書はお持ちですか?」
「ぼ、冒険書? ですか?」
「はい、いつも提示していただいてます……あ、もしかして新しい冒険者さんですか?」
「あ、は、はい、そうです……」
「それは大変失礼しました! でしたら、ここより二つ左隣のカウンターにこのスライム討伐の依頼書を持って、冒険書の作成手続きをしてもらう事になります! 文字の読み書きは出来ますか?」
「は、はい、一応一通りは出来るつもりです」
「分かりました! では、二つ左へお進みください! 上に冒険書作成カウンターと明記されていますので!」
「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」
言われるがまま、二つ隣のカウンターへ移動する。
一般的なクエスト受注カウンターは絶えず人が入り乱れているが、どうやら新参者用のこのカウンターはそんなに人が来ないらしい。
先ほどの受付嬢と比べ、眠たそうな眼差しが隠しきれていない。
(修正後)
「あの、このクエストを受けたいんですけど……」
「はい! 冒険書はお持ちですか?」
「ぼ、冒険書? ですか?」
小柄な男の子の真似をしてみたが、返ってきたのは”冒険書”という聞き慣れないワード。
「はい、いつも提示していただいてます……あ、もしかして新しい冒険者さんですか?」
「あ、は、はい、そうです……」
隠す気も無かったが、何だか無性に恥ずかしい。
知ったかぶりの様子は受付嬢の瞳に滑稽に映っただろうか。
「それは大変失礼しました! でしたら、ここより二つ左隣のカウンターにこのスライム討伐の依頼書を持って、冒険書の作成手続きをしてもらう事になります! 文字の読み書きは出来ますか?」
「は、はい、一応一通りは出来るつもりです」
「分かりました! では、二つ左へお進みください! 上に冒険書作成カウンターと明記されていますので!」
「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」
言われるがまま、二つ隣のカウンターへ移動する。
一般的なクエスト受注カウンターは絶えず人が入り乱れているが、どうやら新参者用のこのカウンターはそんなに人が来ないらしい。先ほどの受付嬢と比べ、目の前の女性は眠たそうな眼差しが隠しきれていない。
(修正前)
「そっかぁ……そんなに小さいのに凄いね――」
「は、はい……」
「冒険者の人はね、毎日が死と隣り合わせだからね? そりゃもう、昨日話した人が突然来なくなるって事が日常茶飯事なのね? まぁ、私たちにその人の行方を知る術なんて無いから、冒険者を辞職して農家にでもなったのかなぁーとか想像する事はあるんだけど、ほら、そのクエストをそのまま放置する訳にもいかないじゃん? だから、他の冒険者が受注して、無事帰って来た時に『道中で冒険書を拾わなかった?』って聞いちゃうんだよね? まあ、大抵の冒険者さんはそんな物を拾ってくる余裕なんて無いから……」
超高等魔法の詠唱のような言葉が次々とカウンターの上に並べられる。
苦笑いしながら戸惑う修道院の少女はなんとか自分の想いが届かないか念を送っているが、彼女の努力は虚しく散る羽目になりそうだ。
そうこうしているうちに昼を知らせる鐘が鳴り響き、ようやく話を終えた受付嬢が一枚の薄っぺらい紙を引き出しから出してくれた。
(修正後)
「そっかぁ……そんなに小さいのに凄いねー」
「は、はい……」
「冒険者の人はね、毎日が死と隣り合わせだからね? そりゃもう、昨日話した人が突然来なくなるって事が日常茶飯事なのね。まぁ、私たちにその人の行方を知る術なんて無いから、冒険者を辞職して農家にでもなったのかなぁーとか想像する事はあるんだけど、ほら、そのクエストをそのまま放置する訳にもいかないじゃん? だから、他の冒険者が受注して、無事帰って来た時に『道中で冒険書を拾わなかった?』って聞いちゃうんだけど、まあ、大抵の冒険者さんはそんな物を拾ってくる余裕なんて無いから……」
超高等魔法の詠唱のような言葉が次々とカウンターの上に並べられる。
苦笑いしながら戸惑う修道服の少女はなんとか自分の想いが届かないか念を送っているが、彼女の努力は虚しく散る羽目になる。
昼を知らせる鐘が鳴り響き、ようやく話を終えた受付嬢が一枚の薄っぺらい紙を引き出しから出してくれた。
(修正前)
この紙を貰うのにどれくらい時間を使ったのだろう……そんな想いが脳裏を過ぎるが、今となっては後の祭りである。
(修正後)
この紙を貰うのにどれ程の時間を要しただろう……そんな想いが脳裏を過ぎるが、今となっては後の祭りである。
(修正前)
「はい、君の冒険書ね、これ。あとは自由に掲示板から依頼書を取ってきて貰えばクエスト受けられるから。えぇっと……ティエラ君? で良いのかな?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それじゃティエラ君は特に前科も無いし、悪い噂も聞かないから十等級からスタートね。まあ、これは冒険者のレベルみたいものだから、依頼書こなしていけば、ある程度のところまでは大丈夫なはずだよ。あ、一応依頼書には推奨等級って明記があると思うけど、それはその関係のクエストを受けて生き延びた冒険者たちをベースに作っているから、絶対的な物差しじゃないから安心して? 勿論、今回持ってきて貰った“スライム討伐”の依頼書の推奨等級が九等級になっているからって、受けられない訳じゃないから」
(修正後)
「はい、君の冒険書ね、これ。あとは自由に掲示板から依頼書を取ってきて貰えばクエスト受けられるから。えぇっと……ティエラさん? で良いのかな?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それじゃティエラさんは特に前科も無いし、悪い噂も聞かないから十等級からスタートね。まあ、これは冒険者のレベルみたいものだから、依頼書こなしていけば、ある程度のところまでは大丈夫なはずだよ。あ、一応依頼書には推奨等級って明記があると思うけど、それはその関係のクエストを受けて生き延びた冒険者たちをベースに作っているから、絶対的な物差しじゃないから安心して。勿論、今回持ってきて貰った“スライム討伐”の依頼書の推奨等級が九等級になっているからって、受けられない訳じゃないから」
(修正前)
お喋り好きな口をせっせと動かしながら手元の書類を素早く整理し、横に設置されている機械に入力と出力を同時に命令する。
流石と言うべきか、仕事のスピード自体は恐ろしく速い。
「これ、クエストを受けましたっていう証明書ね。後で報告書を作る時に色々聞くんだけど、その時に提出してもらう物だから無くさないようにね? 落としても盗まれても、報酬を受けるにはこれが必要になるから」
「はい……」
ここに来る前、全財産が入った巾着を知らぬ間に落としたティエラは自然と声のトーンが下がる。
命をかけてクリアした報酬が泡となって消える結末だけは絶対阻止したい。
「それにしても、ティエラ君は持ってるねー大物の予感がするよー」
「え?」
(修正後)
お喋り好きな口をせっせと動かしながら手元の書類を素早く整理し、横に設置されている機械に入力と出力を同時に命令する。
流石と言うべきか、仕事のスピード自体は恐ろしく速い。
「これ、クエストを受けましたっていう証明書ね。後で報告書を作る時に色々聞くんだけど、その時に提出してもらう物だから無くさないようにね。落としても盗まれても、報酬を受けるにはこれが必要になるから」
「はい……」
ここに来る前、全財産が入った巾着を知らぬ間に落としたティエラは自然と声のトーンが下がる。
命をかけて達成した報酬が泡となって消える結末だけは絶対阻止したい。
「それにしても、ティエラさんは持ってるねー大物の予感がするよー」
「え?」
(修正前)
そう言って机の下から出された物に少女は思わず声を上げる。
それは紛うことなきオリーブ色の巾着であり、少女の持ち物だった物だ。
中身は幾らか減っているが、全財産を失う事に比べれば露ほどにも問題にはならない。
取り敢えずこれだけ残っていれば、今日の食事と寝床には困らないだろう。
(修正後)
そう言って机の下から出された物に少女は思わず声を上げる。
それは紛うことなきオリーブ色の巾着であり、少女の持ち物だった物だ。
中身は幾らか減っているが、全財産を失う事に比べれば露ほどにも問題にはならない。
取り敢えずこれだけ残っていれば、今日の食事と寝床には困らない。
(修正前)
「あ、え、えっと、落とし物を届けた人って……」
「ん? 届けた人? それを聞いてどうする気? お礼でもしたいって?」
(修正後)
「あ、え、えっと、落とし物を届けてくれた人って……」
「ん? 届けてくれた人? それを聞いてどうする気? お礼でもしたいって?」
(修正前)
不敵な笑みを浮かべる受付嬢はシンプルなデザインの魔導具に目を向ける。
二本の長針と短針がグルグル回り続け、何周かした後にピタッと止まってしまった。
「ふふっ……さて、失礼しました。えぇーティエラ君の探し人ですが、今はクエスト中なんですよね。今受けているクエストだと……帰りは陽が落ちるくらいの時間帯になりそうですけど、どうします?」
お日様はまだ頭の上で周囲を照らしている。
決して所持金に余裕が有る訳では無いため、このまま何もしないで待つのは明日以降の事を考えれば一択しかない。
(修正後)
不敵な笑みを浮かべる受付嬢はシンプルなデザインの魔導具に目を向ける。
二本の長針と短針がグルグル回り続け、何周かした後にピタッと止まってしまった。
「ふふっ……さて、失礼しました。えぇーティエラさんの探し人ですが、今はクエスト中なんですよね。今受けているクエストだと、帰りは陽が落ちるくらいの時間帯になりそうですけど、どうします?」
お日様はまだ頭の上で周囲を照らしている。
決して所持金に余裕が有る訳では無いため、このまま何もしないで待つのは明日以降の事を考えれば一択しかない。
(修正前)
獣人族は元々活発的であり、冒険者になる者も少なくない。
ドキドキとハラハラとワクワクを求めて里を離れ、上位階級として名を馳せながら新たな冒険に出る。
またその反面、他のどの種族よりも縄張りを気にし、縄張りの中にいる者が傷つけられでもすれば、すぐさま報復の為に行動に出る。
「ねぇ君! 私たちとパーティー組んでくれないかな! 今うちのパーティーね、白魔法を使える人がいなくてさ!」
「え、あ、えっ……」
「あ、報酬とか気にしてる!? 大丈夫大丈夫! 私なんかはズボラだから適当に分けちゃうけど、うちの眼鏡はそういうとこに女々しいかrいたっ!」
(修正後)
獣人族は元々活発的であり、冒険者になる者も少なくない。
ドキドキとハラハラとワクワクを求めて里を離れ、上位階級として名を馳せながら新たな冒険に出る。またその反面、他のどの種族よりも縄張りを気にし、縄張りの中にいる者が傷つけられでもすれば、すぐさま報復の為に行動に出る。
「ねぇ君! 私たちとパーティー組んでくれないかな! 今うちのパーティーね、白魔法を使える人がいなくてさ!」
「え、あ、えっと……」
「あ、報酬とか気にしてる!? 大丈夫大丈夫! 私なんかはズボラだから適当に分けちゃうけど、うちの眼鏡はそういうとこに女々しいかrいたっ!」
(修正前)
藍色のローブを身に纏った少年が長杖で獣人娘の後頭部をどつく。
見るからに黒魔法を得意とする禍々しい杖はまだ汚れておらず、受付嬢が言った“三日”という日数も間違えでは無いらしい。
「い、痛いよぉ……」
「お前が余計な事を言うからだろ。それに相手側にも都合というものがあるだろうが」
「け、けどぉ……この子、ソロで白魔法使えるし……」
「だからってお前みたいにグイグイ行く奴がいるか……はぁ……」
(修正後)
藍色のローブを身に纏った少年が長杖で獣人娘の後頭部をどつく。
見るからに黒魔法を得意とする禍々しい杖はまだ汚れておらず、受付嬢が言った“三日”という日数も間違えでは無いらしい。
「い、痛いよぉ……」
「お前が余計な事を言うからだろ。それに相手側にも都合というものがあるだろうが」
「け、けどぉ……この子、ソロで白魔法使えるし」
「だからってお前みたいにグイグイ行く奴がいるか……はぁ……」
(修正前)
剥き出しの剣を腰に下げた少年と鋭く尖った耳を持った少女が輪の中に入る。
どうやら彼等はみな顔見知りらしく、先ほど獣人娘が言っていたパーティーというのもこのメンバーの事らしい。
「え、えぇっと……」
「あ、この馬鹿が失礼しました。その、いきなりで大変戸惑ったかと思いますが、コイツに悪気は無いので許して貰えないでしょうか? ほら、お前も謝る」
「うぅ……ごめんね?」
「い、いえ、ちょっと驚いただけですので大丈夫ですよ? それに、パーティーの話も正直どうしようかと迷っていましたので……」
「えぇ!? ホント!? だったら私たちのパーティーn」
(修正後)
剥き出しの剣を腰に下げた少年と鋭く尖った耳を持ったハーフエルフの少女が輪の中に入る。
どうやら彼等はみな顔見知りらしく、先ほど獣人娘が言っていたパーティーというのもこのメンバーの事らしい。
「え、えぇっと……」
「あ、この馬鹿が失礼しました。その、いきなりで戸惑ったかと思いますが、コイツに悪気は無いので許して貰えないでしょうか? ほら、お前も謝る」
「うぅ……ごめんね?」
「い、いえ、ちょっと驚いただけですので大丈夫ですよ? それに、パーティーの話も正直どうしようかと迷っていましたので……」
「えぇ!? ホント!? だったら私たちの――」
(修正前)
「アレン」
「はぁ……ジト、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、うん……ごめんねソレイ」
「え? え? どうしたの二人とも? アレン、どうしてそんな怖い顔してるの? てかジトまで私の両腕拘束し始めてるけどなんで?」
「聞き分けのない奴は運び屋に村まで送ってもらうって約束だからな。えぇっと、確かここに前の冒険で拾ったロープが……」
「え? 冗談だよねアレン? まさか本気じゃないよね? ねぇ? 両腕が全然動かないんだけど!?」
「ばいばい、ソレイ。ちょっとの間だったけど、冒険、楽しかった、よ?」
(修正後)
「アレン」
「はぁ……ジト、ちょっと手伝ってくれ」
「あ、うん……ごめんねソレイ」
「え? え? どうしたの二人とも? アレン、どうしてそんな怖い顔してるの? てかジトまで私の両腕拘束し始めてるけどなんで?」
ハーフエルフの子は慣れた手付きで獣人娘の手首を縛る。
何度か少年の顔色を伺い、結び目の固さを調整しながら。
「聞き分けのない奴は運び屋に村まで送ってもらうって約束だからな」
「え? 冗談だよねアレン? まさか本気じゃないよね? ねぇ、両腕が全然動かないんだけど!?」
「ばいばい、ソレイ。ちょっとの間だったけど、冒険、楽しかった、よ?」
(修正前)
「ジト? なんでそんな顔を私に向けるの? ねぇ、冗談だよね? まさかホントn」
(修正後)
「ジト? なんでそんな顔を私に向けるの? ねぇ、冗談だよね? まさかホントに――」
(修正前)
外まで聞こえるほど大きな声が建物の中を走り回る。
カウンターに害虫駆除の依頼を出しに来た老人はあまりの出来事にペン先で用紙を貫いてしまった。
受付嬢は溜息一つせず、『ゆっくりで良いですよ』と笑顔で新たにもう一枚紙を出すが、こめかみの僅かな震えだけは止められないらしい。
「……なにをやっているんだアイツ等は……はぁ……」
(修正後)
外まで聞こえるほど大きな声が建物の中を走り回る。
カウンターに害虫駆除の依頼を出しに来た老人はあまりの出来事にペン先で用紙を貫いてしまった。
受付嬢は溜息一つせず、『ゆっくりで良いですよ』と笑顔で新たにもう一枚紙を出すが、こめかみを僅かな震えが襲っている。
「なにをやっているんだアイツ等は……はぁ……」
(修正前)
「あ、あぁ、悪い。俺はグレット。あそこで冒険者の皆さんの心臓に多大な不可をかけている三人のツレだ」
(修正後)
「あ、あぁ、悪い。俺はグレット。あそこで冒険者の皆さんの心臓に多大な負荷を掛けている三人のツレだ」
(修正前)
騒ぎを起こした張本人を謝らせ、縄を解いているアレンに目で合図を送る。
パーティーの在り方はパーティーの数だけ存在するが、このような交渉は剣士のグレットが担当しているようだ。
(修正後)
騒ぎを起こした張本人を謝らせ、縄を解いているアレンに目で合図を送る。
パーティーの在り方はパーティーの数だけ存在するが、このような交渉は剣士であり頭目であるグレットが担当しているようだ。
(修正前)
「アレン、交渉は概ね承諾してもらった。いつもの場所に移るぞ」
「了解。おい、ちゃんと反省したな?」
(修正後)
「アレン、交渉は概ね承諾してもらった。いつもの場所に移るぞ」
受付嬢にペコリと頭を下げ、一行はギルドを出る。お日様はさっきより幾分か傾いているように思えるが、まだまだ夕暮れには程遠い。
「おい、ちゃんと反省したな?」
(修正前)
「反省したから大丈夫だよ! 私、村でもやれば出来る子だっいだだだっ! いたい゛っ! いだいよアレン゛!」
「ほぉ、村出発する時に珍しく早起きして逆方向の馬車に乗った奴は誰だったかなぁ? あのお金が有ればもう少し良い装備が買えたんだけどなぁ? どう思う? えぇ?」
「ごめんなざいごめんなざい! はんせいしてひゅからひっぱらひゃいで!」
「グ、グレット……」
「……良いからそのままにしておけ」
「ふふっ……なんだか懐かしいです」
(修正後)
「反省したから大丈夫だよ! 私、村でもやれば出来る子だっいだだだっ! いたい゛っ! いだいよアレン゛!」
獣人娘の幼顔が左右から引っ張られる。
はぁ、とこめかみを抑える剣士の苦労は絶えない。これ以上注目を浴びてもいられないため、二人を宥めに入る。
「ふふっ……なんだか、懐かしいです」




