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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
萱草笑side
19/32

9杯目~善人は短命~

 初めましての人は初めまして。

 リアルタイムでお読みになっている方はありがとうございます。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


小説作成時BGM:煌めく瞬間に捕われて(SLAM DUNK ED3)

 その日、世界は終わりを知った。



『おはようございます! ニュースイヤーの時間です! いやぁ、今年も最後ですよ工藤さん!』


『そうですね、菊池さん』


『工藤さんは今年のニュース、何が一番心に残ってますか!? 例えばですね……僕と秋田県犬が追いかけっこしt』


『やっぱり関東地方の大地震ですかね。被害が大きく、仮設住宅暮らしを強いられているご家族が……』


 冬休みが始まって六日目の朝、午前九時。

 テレビからは元気な男性アナウンサーとおっとりした女性キャスターが今年最後のニュース番組を進めている。


「お兄ちゃん――? 朝ごはん出来てるよぉ――」


「今行く――」


 ボサボサ頭の少年は自室のテレビを消し、布団から這い出る。

 服装は起きたばかりだがパジャマ姿ではなく部屋着。

 どうやら寝ていた訳ではなく、ただの寒さ対策のようだ。


「お兄ちゃんおはよう――」


「おはよう」


「お母さんとお父さんは会社行って、私はこれから友達とお出掛けするけど……お兄ちゃんはどうする? 私たちと一緒に買い物する?」


「中学生の妹の買い物に付き添う兄って……しかも年末に……」


「林ちゃんは別に良いって言うと思うよ?」


「いや、そういう問題じゃないよね? てかあれだよね、福袋の荷物持ちにする気だよね?」


「へぇ? な、何のことかな?」


「お前らだけで行ってこい。俺は家でゆっくりしてるから」


「……ちっ」


「おい、今舌打ちしただろ?」


「それじゃお兄ちゃん、食器洗いは宜しくね? 私は出掛けるから!」


 ツインテールが似合う少女は”リツ”と書かれた歯ブラシをコップに差し込み、ソファーに投げていたバックを肩にかける。

 こちらはボサボサ頭の少年と違い、外出用の服装に既に着替えている。


「夕方目標で帰ってくるから! 行ってきます――!」


 大きな足音を立てながらリビングを出発し、数秒後には玄関の開く音が家の中を木霊した。

 妹の出発を確認した少年は大きな溜息を吐き、再びテレビの電源を入れる。


「終始騒がしい奴だな……さて、ニュースの続きを……」


 相変わらず年末のニュースは平和であった。

 福袋に群がる若者にインタビューをしたり、今年の漢字について議論していたり、一年のニュースを振り返って考察を述べたり。


『今年の漢字は災難の”災”という字ですね。意味は”自然に起こる悪い出来事。生活を損なう出来事。わざわい”という意味ですが……』


『確かに予想外の大雨に猛暑、大型台風の接近等がありましたからね』


『まあ、私にとっての災難は菊池さんとタックを組まされた事ですけどね』


『あぁ、なるほ……って工藤さん――!?』


 女性キャスターの真顔で言い放った言葉に男性アナウンサーがツッコミを入れる。

 全国生配信中の番組でやるには少々難易度が高いギャグだが……いや、ギャクなのだろうか?


「……ごちそうさまでした。さて、面倒になる前に洗っちゃうか」


 年末はどこのニュース番組も内容は似たり寄ったり。

 少年にとってはリビングにいる間のBGM代わりに過ぎない。

 興味を惹かれず、思うことも特にない、無音以外の何かが耳に入ってくればそれで良い。

 なまじ知っている曲や興味の惹かれる内容であれば手を止めて見入ってしまうから。


『あ、今スタジオに流れている曲って!』


『踊りがダサいと評判のあの曲ですね』


『いやぁ、この曲のせいって訳じゃありませんが……今年の忘年会の出し物はこれ一択でしたね』


『そういえば菊池さんも踊ってましたね。女性店員さんに鼻の下伸ばしながら』


『えぇ!? 伸ばしてませんよ!?』


『手を振りながら声援にも答えていましたし、さぞ嬉しかったんですね』


『い、いやいや、あれは場のノリというものでして……ってあれ? 工藤さんって席にいました?』


『……他の席で飲んでました』


『あ、そうだったんですか? 中締めした後でしたし、女性キャスターさんは殆ど帰ったので、てっきり工藤さんも帰ってしまったと思ってました!』


『……たまたまです。何か?』


『いえいえ! 折角だったので、二次会にお誘いすれば良かったなぁっと思っただけです!』


『……そうですか。まあ、お断りしますが』


『辛辣ぅぅぅ!』


「よし、洗い物終了。後はテレビを消して……」


 部屋に戻るためテレビのリモコンに手を掛ける。

 しかし、ボタンを押すよりも先にテロップと甲高いアラームがテレビから流れた。


「うおぉっ」


 咄嗟の事に驚き、リモコンを床に落とす。

 自由落下速度は思いの外速く、地面に叩きつけられた衝撃によってリモコンの電池が外れてしまった。


「くそっ、電池がソファーの下に……届かねぇ……」


 頬をべったりと床に付け、ソファーの下を覗く。

 手を伸ばしても電池には届かず、指先に当たるのは埃と長い髪の毛のみ。


「大掃除の時にソファーの下やるの忘れてた……くっそ……」


 頭、肩、腰、脚、右手……身体の殆どの部位が指先の一寸先にある目標物に触れようと力を尽くしている中……右耳だけがまったく別の事象を捉えた。


『速報です。皆さん、落ち着いて聞いてください……』


「あ、あと少し……そうだ、ペンを使えば……」


『今政府から入った情報によりますと……およそ二時間後、巨大な隕石が地球に接近し……その十分後には衝突する事が発表されました』


「……は?」


『おおよその落下地点はヨーロッパ周辺国ということですが、衝突の衝撃は凄まじく、現在の計算上では……地球は終焉を迎えるでしょう』


 ベテランアナウンサーの口から初めて聞く”終焉”というパワーワード。

 最後の最後に流行語大賞を掻っ攫って行く気なのだろうか?


『繰り返します。今政府から……」』


 数秒のフリーズを迎え、まず手に取ったのはスマートフォン。

 すぐに電話帳を開き、妹の番号を押す。


「……くそっ、掛からねぇ」


 大地震が起きた日も全国のユーザーが電話を一斉に掛けたせいでパンクし、電話が暫く繋がらなかった。

 連絡アプリも固まって動かない。電話と同じ状況だ。


「考えろ……電話、メール、連絡アプリ系はだめ……なら……」


 指先で画面にそっと触れる。

 表示されるアプリの起動画面。

 二、三年前に男女問わず大ヒットしたパズルゲームの一つだ。


「気付けよリツ……お前と共通で入っているゲームアプリはこれだけだ……」


 当時、このアプリはパズルゲームでは珍しいリアルチャット機能が実装され、相手プレイヤーの集中力を乱すというプレイが流行った。


「よし、動く……!」


 しかし、全く需要の無い機能実装にユーザーが激怒し、ネット上で大反発。

 それから幾分もせずに大舞台から姿を消す羽目になった。


「リツ……リツ……よし、まだあいつも消してない……」


 それでも、未だにアプリ自体が運営出来ているのはパズルゲームとしての完成度が高く、根強いファンがいるからだ。


「っ! 来た!」


 画面に表示されるツインテールのキャラクター。

 キャラ名は”リツ”。


『そっち大丈夫か?』


『大丈夫じゃない! 電車止まってる!』


『今何駅だ?』


『えぇっと……鷹巣駅と二ツ井駅の間! てかやばい』


『やばい? 何がだ?』


『乗ってる人が電車から出せって騒いでる。暖房も止まってる』


『駅員はなんて言ってる?』


『少々お待ちください。今上層部に確認しております』


『他には?』


『それの繰り返し!』


『……友達も一緒か?』


『うん! 後、別の車両に見た事ある人が何人かいる。たぶん同じ学校の人』


『分かった。通知機能オンにして駅員の誘導に従って非難しろ。何かあったらチャット飛ばせ』


『分かった!』


 少年は二階に駆け上がり、自室のパソコンを起動させる。

 ニュース、災害掲示板、ツイッター、二チャンネル、FPS……情報集中は可能な限り行う。


『世界が終わるぅぅぅう!』


『らめぇぇぇえ!』


『深呼吸だ、まずは落ち着いて状況整理をしよう。まだあわてるような時間じゃない』


『仙道――!」


『仙道さん――!』


『電車止まって動かない!』


『こっちも!』


『てかさっきから上に確認するとしか言わない! まじ使えない!』


『二十年前に電車の運転士をしていたものです』


『え、マ?』


『昔とマニュアルが変わっていなければ、運転士の一人は電車の外にある沿線電話機という物で指令室に連絡を取っている筈です』


『やばい、老害キレてる』


『こっちは宗教勧誘ウザイ。神に祈れって強要してくる』


『宗教勧誘w』


『その後、レールの歪みを確認する人がいますので、もう暫く待つように言われる筈です』


『おk』


 更新ボタンを連打し、繰り返し画面を表示させる。


 今、周りで何が起きているのか。

 外に出て走り回っても情報は得られない。

 頼りになる大人なんていない。

 ”近くの頑丈な建物に避難してください”というテレビの戯言など充てにしてる暇は無い。


「っ!?」


 身体の芯に響く振動。

 モニターの映像が揺れ動いた。


『地震!?』


『こっちも揺れた!』


『直下型地震だ!』


『震度五くらい???』


『てか電車の人――!』


『呼びました?』


『全然動かないんですけど!?』


『多分ですが、さっきの地震で確認作業時間が増えたと思います』


『えぇ――!? もう三十分以上止まってるんだけど!』


『速報! さっきの地震じゃない!』


『え、そうなの?』


『深呼吸だ、まずは落ち着いて状況整理をしよう。まだあわてるような時間じゃない』


『仙道――!』


『仙道さん――!』


『さっきのは隕石の欠片が山脈に衝突した衝撃らしい!』


『隕石!? もう!?』


『メディアァァァア!』


 ニュースの速報以外で初めて触れる災害の一端。

 窓の外ではリュックやバックを背負った親子が街の避難所に向かって一斉に走り出した。


『お兄ちゃん! 地震凄かった!』


『電車の状況は?』


『同じこと繰り返し言ってるだけ!』


『客のイライラ度は?』


『爆発寸前。かれこれ閉じ込められて一時間になるし、代行バス出せって騒いでる。あと、無理やり扉をこじ開けようとしているグループがいるくらい』


『お前は大丈夫か?』


『寒い、喉乾いた、ホットな紅茶花伝飲みたい』


『友達は?』


『……トイレに行きたいって』


『緊急事態じゃないか』


『違います! 誤解しないでください!』


『……ん?』


『あ、今の林ちゃん』


『お前ら……そっちはニュースの情報入っているのか?』


『ツイッターしか見てない。けど、隕石直撃で地球滅亡説が有力』


『大体合ってる』


『衝突まで一時間切ってるって流れてきた。これって本当?』


『速報ではそう言ってた』


『やばいじゃん! やばたにえんじゃん!』


『あ、今の林ちゃん』


『違います! お兄さん誤解しないでください!』


『リツ、やめなさい』


『もうやめてますよぉ〜?』


『……代行バスは出そうか?』


『うーん……あ、ちょっと待って、なんか運転士の人と騒いでた人が交渉してる』


『なんて言ってる?』


『ちょっと遠くて分からないから、近くまで行ってくる。その間、林ちゃんと話してて』


『いや、別に後で連絡くれれば良いんだけど』


『えっと……お兄さんですか? 林です』


『あ、あぁ、林ちゃん。トイレ大丈夫か? 我慢できるか?』


『その話は忘れてください! そ、それにあれはりっちゃんのおふざけです! 本気にしないでください! あと、私はトイレに行きません』


 ―――お前は紅魔族か。


『そ、そっか。リツは帰ってきたか?』


『聞き耳を立ててます……あ、帰ってきました。代わりますね』


『お兄ちゃん、もうすぐバス出るって』


『何台?』


『能代方面と大館方面の二台。大館方面のやつに乗る』


『なら鷹巣駅で降りろ。迎えに行く』


『了解です! あ、林ちゃんも一緒で良い?』


『問題無い』


『おっけー! 待ってるるるるるるるるる』


『最後にバグるのやめろ』


 コートを羽織り、スマホと財布を肩掛け式のバックに入れて玄関の扉を開ける。

 外は雪がしんしんと降り続いている。

 地面にある無数の足跡はまだ消えていない。


「……なるほど。あれは死ぬわ」


 空全体を覆いつくす赤い惑星。

 どうやら隕石はヨーロッパ周辺だけに落ちる訳ではないらしい。


「駅まで走って二十分……ギリギリ間に合うくらい」


 誰かが残した足跡を踏み潰し、駅方面へと走り出す。

 街中に人の気配は無い。

 避難施設にそろそろ到着した頃だろう。


「くそっ、滑り止めの防寒靴を履いてくるべきだっ……ん?」


 視界の端に映った小さな人影。

 横断歩道を渡るために信号をじっと見つめている。


「この緊急事態に子供一人? 親はいったいなにして……!」


 言いかけた言葉を飲み込み、身体を”静”から”動”へ切り替える。

 歩行者用信号機は確かに青を示した。

 人影は確かにそれを確認し、歩き出した。

 しかし、速度を一切落とさない大型車両だけは車両用信号機の赤を確認出来なかった。いや、確認出来なかったのではなく、確認した上でアクセルを踏んだ。


「まにあえぇぇぇえ――!」


 その日、世界は終わりを知り、少年は妹が待つ駅へ辿り着けなかった。

 原因は色々あったと思う。

 防寒靴の選択ミス、妹とのチャット、踏み潰された路面の雪、信号の変わるタイミング、無意識の人格……全てが噛み合ってこそ初めて起こる事象だった。


 彼はこの終焉を迎える日に死ぬ運命だったのかもしれない。

 しかし、それを確かめる術は……ない。

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 お待ちしております。


※追伸

 2018年最後の投稿になります。

 今年お付き合いくださった方々、本当にありがとうございました。

 

 私はと言うと……

 大晦日だというのにテレビは無人島生活(CM時には紅白歌合戦にチャンネル切替)、スマホからはアニソンを流しながらパソコンに向かってひたすらキーボードをカタカタカタカタ……普通の休日とあまり変わらない時間を過ごしました。

 来年も不定期ではありますが、更新していければ……と思います。


 年明けまであと少し。

 皆さまにとって、2019年が本年よりも良い年になりますように。


 どうぞよいお年をお迎えください。

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