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進み続ける異世界の原点  作者: 雲煙模糊
桜庭龍太side
16/32

22杯目~エルフの少女は夢を見る~

 初めましての人は初めまして。

 リアルタイムでお読みになっている方はこんにちは。

 久しぶりの方はご無沙汰しています。


小説作成時BGM: 【MMD艦これ】 時雨改二で『恋空予報』

「ねぇ、テノ?」


「何かしら?」


 数え切れない程の本棚に囲まれた空間。

 ハイエルフとエルフの二人の少女は読書に興じていた。


「本当に森を出ていくの?」


「……えぇ、そうね」


「この場所が嫌になった?」


「別にそういう訳では無いわ」


「なら、どうして?」


「前にも言ったでしょう……いつか、外の世界を見に行くと」


 ハイエルフの少女はガラス細工の腕輪を光に当て、床に眩い影を生み出す。

 赤、青、緑。

 そして重なり合うことによって生まれる新たな光。

 その変化を彼女は追うことが出来ない。


「それが今だって言うの?」


「……そうよ」


「一瞬、間があったわ」


「まあ、思っていたよりは早かったわね。ここの文献にも全て目を通した訳でもないし」


 両緑眼の瞳に書物の題名が次々と映り込む。

 まだ手に取っていない文献を探しているようだ。


「だとしたら……」


「貴方も知っているでしょう? 長老様たちが決めた事は絶対よ」


「だって……こんなのおかしいわ! 数百年から数千年を費やす長老会が今回の件に関してはたったの二年で決断されたのよ!?」


「そういう時もあるのでしょう?」


「あの老害どもは椅子に尻がへばりついているから、結論を出すのにもう三百年は費やすって教えてくれたのはテノじゃない!」


「……貴方、意外に口が悪いわね。それ、私の前以外で言ってはだめよ?」


「そのくらい私だって分かっているわ!」


 腕輪を机の上に置き、ハイエルフは彼女の正面に座りなおす。


「お話をしましょう、テノ」


「嫌よ」


「それは許可出来ません」


「なぜ貴方の許可が必要なのかしら?」


「私が第三王女だからです」


「それは職権乱用というものではなくて?」


「そんな細かい事は良いのです。今、わたくしステラ・シオンはテノとお話がしたいのです」


「……はぁ、分かったわ」


 花の栞を開いていたページに挟み、そっと机の上に置く。

 誰もいない空間を良い事にハイエルフの少女はやりたい放題だ。


「それで、お話というのは?」


「森からの派遣についてです。今まで、エルフの一族は他種族からの人員要望など一蹴してきました」


「えぇ、そうらしいわね」


「まして人間の国からなど……長老会を開催する以前の問題だった筈です」


「今回はそれだけ緊急を要したのではなくて?」


「それでもです。人間の国からの手紙が議題に上がったのは……恐らくですが、今回が初めてでしょう」


 エルフの一族が他種族を嫌っているのは遥か昔からだ。

 数百年程度の話ではない。


「おかしいと思いませんか? 魔王軍の進軍も特に無いこのタイミングで”魔王討伐ためにエルフを一名送り出して欲しい”など……絶対に何か隠しています」


「そうかもしれないけど、それを私たちが知る術は無いでしょう。長老たちはそこら辺を敢えて伏せていたし」


「それに、抜擢されたのは衛兵でも戦士でも無く、一国民である貴方……選定基準が全く分からないわ」


「あら、簡単じゃない。合理的な方法で余所者を排除出来る絶好のチャンスよ?」


「……テノは余所者なんかじゃないわ。私の一番の親友よ」




『テノ……お……じか……』


 頭の上で声が聞こえる。




「面と向かって言われると照れるわね」


「だったらもう少し恥ずかしそうにして。分かっていましたよっていう反応しないで」




『テ……お……きる……じかん……よ』


 これが夢だと、実は少し前から気付いていた。




「ポーカーフェイスは生き抜く上で重要なスキルよ?」


「今いらない」




『テノ……起き……時間……よ?』


 エルフの少女は深い眠りから目を覚ます。


「こんばんは、テノ」


「……交代の時間かしら?」


「うん」


「そう、少し待っていて」


 記憶の片隅でハイエルフの少女は悲しそうな顔をしていた。

 己を親友と呼び、慕ってくれた少女は今どうしているのだろうか。

 そんな事を考えながら、エルフの少女は見張り役を交代するためテントを出る。


「何か異常は?」


「特に無いかな。魔物たちも寝込みを襲う気は無いみたいだし」


 ここは魔界の入り口から一番近い泉、通称”悪魔の子池”。

 魔王城を目指して魔界に降り立った一行はここで水浴びや食事を済ませ、明日の出発に向けて休憩を取っていた。


「別に僕がずっと見張り役をしても良いんだよ?」


「それだとあんたに借りを作っているようで気が収まらない」


「じゃあ、クリオスやアリスにもお願いしたら?」


「四歳児の人造人間ホムンクルスと精神年齢子犬の無駄乳に? 安心して寝られる訳ないでしょ」


「ふふっ、そんな事言って、本当は二人の事をいつも心配し――」


「永眠したいのかしら?」


「……はいはい、悪かったよ」


 黒ずくめの少年は降参のポーズを取り、テントに中に姿を消す。

 時間は深夜を回ったところ。

 眠る前は五月蠅かった虫たちも今は静かに夜を過ごしている。


「ステラは元気かしら……」


 ふと漏らした少女の声に反応する者はいない。

 風の精霊があの子の所まで届けてくれるのを期待するしか無いのだ。

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