14杯目~魔界観光~
初めましての人は初めまして。
リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:《操ってよ》からくりピエロ 歌ってみた ♪音羽ララ♪
「ご主人様! 関所が見えてきましたよ!」
犬耳娘ははしゃいだ様子で声を上げる。
彼女の瞳に映る建物は、築数百年はくだらない代物だ。
「まったく、あの魔物も本当に使えないわね……転送魔術くらい使ってくれてもいいじゃない」
「エルフ様、フードからお顔が見え隠れしています。しっかり被ってください」
顔立ちの整ったエルフに青色の髪が特徴的な人造人間。
「さあ、そろそろ魔界の入り口だから気を引き締めてね、三人とも」
そして三人の中心に位置する黒で統一されたラフの恰好の少年。
四人は馬車に乗り、下界と魔界の入り口とされている“ヴァールハイト”を目指していた。
「そういえば、まだ魔王に会いに行く理由を聞いて無いんだけど、リュウタ」
「あれ? そうだっけ?」
「聞いてないわよ。なに? 勇者にでもなるつもり?」
「え? 別に魔王を倒しに行くわけじゃないよ?」
「だと思ったわ。魔王を殺す気があるなら、まずはこの門ぶっ壊して宣戦布告とかするでしょうからね」
「えっ!? ご主人様、そんな事まで出来ちゃうんですか!?」
「いやいや、流石に僕でもそこまでは……」
「そういえばマスター、私と戦った時、石橋を破壊しましたね。しかも剣の一撃だけで」
「あ、確かに!」
「あれは偶然だよ?」
「今頃力を隠し持っているキャラ演じても無駄よ。だいたい、自分の何倍もあるオークやトロールの攻撃だって素手で受け止めておいて何言ってるのよ」
馬を器用に扱うホムンクルスは手綱を緩め、獣人の門番に許可証を見せる。
王国から発行された正真正銘の許可証に王家の印が印字された物は効果絶大らしく、普段は厳しい持ち物チェックも完全にスルーだ。
「それにしても変わってるわよね、リュウタ」
「ん?」
「だってあんた、あのまま巨乳王女の求婚受けていれば将来安定だったのよ? なに? もしかしておっぱい嫌いなの? 男として大丈夫?」
「いやいや、おっぱいは好きだよ?」
「変態」
「おぉっと、これは手厳しい」
王の命により魔物の城を完膚なきまでに沈めた少年は玉座の間にて王女から求婚を受けた。
これまで何度か王の命により魔物退治をしてきた少年に王女が惚れたらしい。
年齢的にも同い年くらいの二人はこのまま結ばれる……誰もがそう思った。
「えぇっと……確かご主人様の返答は……」
「まだこの広い世界に潜む悪は消えていません。この立場だからこそ、救える命も有ります。ですので、王女は王女という立場だからこそ出来る方法で、僕は冒険者という立場だからこそ出来る方法で世界を平和にしましょう」
「クッッッッッッサァ!」
「えぇ? そう?」
「何なのそのセリフ!? 何のアニメから持ってきたの!?」
フードを豪快に脱ぎ捨て、宝石のような両緑眼を見開く。
眼力だけで魔物を殺せそうだ。
「またエルフ語ですか? その“アニメ”というものは」
「ホムンクルスは別に分からなくても良いわよ。大体、この世界そのものがアニメみたいだし」
馬車はゆっくりと魔界の地を突き進む。
門からそう遠く無いせいか、まだ魔物の姿は見えない。
「ご主人様! 前方の森から魔物の気配がします! 数は……三十から四十くらいはいそうです!」
「ありがとうアリス。クリオス、ちょっと馬車を止めてくれるかい?」
「はい、マスター」
見渡す限り途切れる事の無い森。
下界の森と違い、纏っている雰囲気に不気味さを覚える。
「どうする気? いつものチートパワーで更地にでもする気?」
「そんな事をしたら人間と魔物で戦争が起きちゃうでしょ?」
「あら? やっぱり巨乳王女様が気になる?」
「随分突っかかってくるね。もしかして……嫉妬?」
「はぁ? もう一度転生したいのかしら?」
「これはまた手厳しい」
少年は森から少し離れた所で周囲を確認し、エルフは風の音に耳を澄ます。
通常、冒険者と言えど魔界に降り立つ者は少ない。
理由は簡単であり、そもそも目的が無いからだ。
魔王退治を目的とする勇者パーティーなら可能性として有り得るだろうが……魔界で勇者が生まれたという情報は出回っていない。
「かなり警戒しているわね」
「数は四十くらい?」
「そうね。でも、それは警戒している小魔物の数。戦闘系の魔物を合わせたら……千はくだらないわね」
「千か……そっか」
「どうするの? このまま突っ切る?」
「……いや、ここは回り道にしよう」
「あら珍しい。どういう風の吹き回し?」
「別に戦争を仕掛けに来た訳じゃ無いし、それに折角の魔界なんだから、観光もしたいなぁって」
「魔界で観光って……はぁ……」
「あのツノの魔物も言ってたけど、魔界にも街が有るって言ってたから……そこで情報収集をしよう。あ、動物とかって魔界にもいるよね?」
「……いるわよ。なに? 魔界のど真ん中で野宿でもする気?」
「いや、何匹か捕まえて魔物たちと交渉出来ないかなぁって」
「はぁぁぁ……あんた、馬鹿じゃないの? 交渉材料もだけど、こんな警戒された状態で話し合いなんて出来る訳ないじゃない。一歩でも奴らのテリトリーに入ったら、斧やら槍やら持った魔物がわんさか出てくるわよ」
「だよねぇ」
「……東の方角に五十キロ進んだあたり、そこで森が途切れているわ。回り道をするなら、そこまで行かないとダメね」
「五十キロかぁ……どれくらいかかる?」
「この馬車なら、ゆっくり行っても二日有れば着くわよ。ただ、今日は野宿決定だけどね」
「野宿かぁ……結構久しぶりじゃない?」
「そういえばそうね。今日は……三十キロ先にある泉の近くで休むとして、明日は早朝から出発しないと森のど真ん中で野宿する事になるわよ」
「別に僕はそれでも構わないけど……魔物さんたちは困るだろうし、明日は早めに出発するようにしよっか」
少年とエルフは再び馬車に乗り込み、東の方角に馬を進める。
「マスター、今日はどのようにしましょうか?」
「テノが言うには、三十キロ先……三百メリール先に泉が有るらしいから、今日はそこで野宿にしよう」
「分かりました。では、夕食の準備もありますので、少し急いぎましょう」
人造人間の手綱を握る力が強まる。
魔界と下界の植物事情がどれほど違うか分からないが、日が落ちてから泉に到着しても食用植物の収集が難しくなる。
獣人族なら匂いで見つける事が出来るかもしれないが……夜に森の中を探索するのは愚策だ。
「ご主人様ご主人様! 質問良いですか!」
「ん? 何かな?」
「ご主人様とテノちゃんは別の世界から来たっと仰ってましたが、そこはどんな所だったのですか!?」
獣人娘は目を輝かせて二人に迫る。
「うーん……どんな所か……」
「腐っている所よ。この世界みたいに魔物という“大きな敵”がいないから、常に同じ種族同士でいがみ合っているわ」
冷めた口調で言い放つエルフ。
今彼女の視界を覆っているのは過去の世界での出来事なのだろうか。
「魔物がいないの!?」
「えぇ、いないわ。ついでにエルフも、獣人も、ドワーフも、ホムンクルスもいないわ。いるのは醜い人間と動物くらいかしらね」
「という事は、種族同士の争いは無いという事でしょうか?」
前座席で聞いていたホムンクルスが話に加わる。
彼女は暗殺や抗争鎮圧の為に作られた経緯があるため、こういう話に興味が湧くのも自然な事だろう。
「……いや、そんな事は無いよ」
「そうね。種族同士……って言えば語弊が生じるけど、少なくても争いは有るわ」
「それはどのような事が要因になるのでしょうか?」
「そんなの数えきれないわよ。自分より有利な者がいたら、とにかくそいつの足を引っ張って地に落とす。話はそれからよ」
「……そうなのですね。どの世界でも争いは消えない……そういう事なのですね」
「まあ、この世界だって今は国同士の小競り合いをしている場合じゃないから、人同士で戦争……なんて馬鹿な事はしてないけど、魔物がいなくなって平和が訪れたら……」
「……どうかされましたか? エルフ様」
「……いえ、別になんでもないわ」
エルフは少年の顔に視線を移す。
一見、外の景色を間の抜けた表情で楽しんでいるように見えるが……瞳の奥に潜む光は空の彼方の更に遠く、別の何かを捉えている。
「ねぇ、テノ」
「……何かしら?」
「泉には可愛い魔物とかいると思う?」
「……は?」
「だから、可愛い魔物っていると思う?」
「……一応聞くけど、可愛い魔物ってどういう意味かしら?」
「え? そのままの意味なんだけど……強いて言うなら人魚的な?」
「……はぁぁぁ」
「あれ? そんな溜息案件だった?」
「マスター、泉に生息するのはリザードマンなどのゴッツイ魔物だけです。稀に水底で暮らすトロールがいますが、それも容姿は期待できないかと」
「あれ? そうなの? セイレーンとかローレライって泉にいないっけ?」
「セイレーンは海岸、ローレライは川の岩に潜むと言われています。どちらも泉で見かけたという情報がありません」
「そっかぁ、それは残念……ん? テノ、どうかした?」
「……別に。ただ、真面目に考えていた私がアホだったって思い知っただけよ」
「真面目な事はいい事だよテノちゃん!」
「無駄乳は黙ってて」
魔界に突如現れた種族の違う女三人と人間の男が一人。
ただの冒険者で魔界を馬車で優雅に旅をする。
かれこれ魔界に入って一時間、未だに魔物たちは姿を見せない。
「……魔界の空も、下界の空と変わらず澄み切っているな」
通常、冒険者が魔界を“馬車”で歩き回る事など出来ない。
理由はいくつか有るが、一番の理由は魔物に襲われる格好の的になるからだ。
「それにしても、魔界って不景気なのかしら? バグだらけのネトゲより過疎ってるじゃない」
「気配は沢山ありますけどね!」
青空の下、馬車はゆっくりと東の泉へと向かう。
客席に……大きな存在を乗せて。
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