10杯目~北の森の支配者~
初めましての人は初めまして。
リアルタイムでお読みになっている方はおばんでございます。
久しぶりの方はご無沙汰しています。
小説作成時BGM:Nameless story(転生したらスライムだった件OP1)
空には青白く光る満月が一つ。
「それじゃあ……作戦通りにね」
『了解!』
月明かりに照らされ、大小異なる三つの影が素早く城の中に侵入する。
門番は影に気付くどころか、敵がいること自体想定していないようだ。
「よし、みんな順調に侵入出来たみたいだね。優秀で助かるよ」
螺旋模様が特徴的な大剣を握り締め、城へと続く道を悠々と歩いていく。
門番の魔物はやっと侵入者の姿に気付いたのか、奇声を上げて仲間を呼び出した。
「行くよ!」
踏み込むと同時に爆風が巻き起こる。
周囲を囲もうとしていた魔物が咄嗟に後方へ下がる。
「はぁっ!」
振り回した大剣の余波によって門ごと破壊する少年の剣さばき。
敵わないと踏んだゴブリンやスライムたちはすぐに逃げる準備へと取り掛かった。
「さぁ……どんどん掛かってこいぃぃ!」
走り出し、障害物は魔物だろうと壁だろうと次々と破壊する少年。
城のあらゆる場所で煙が立ち込め、警報と魔物の雄叫びが鳴り響く。
遅れて登場した武装オーク、トロール、グール、巨大スライム、ホブゴブリン、グリフォン……その全てを大剣一つで叩き潰す。
「グォォォォ!」
四体のオークが少年目掛けて二階から飛び降りる。
下の階では既に弓矢と投擲が飛び交っている。
「よっ!」
しかし、少年は避けるどころかそれを大剣で受け止めた。
「グォアァォッ!?」
「吹っ飛べぇぇぇぇえ!」
地面に大きな亀裂が入り、武装したオークは二階どころか城の天井を突き破って屋上まで弾き飛ばれた。
天井が崩れ始め、魔物共が一斉に壁際へ移動する。
「はぁぁぁあ!」
そのまま周囲に大剣を薙ぎ払い、グール共を壁に叩きつける。
「まだまだぁぁあ!」
魔物たちは恐れていた。
城を攻めてきた冒険者や兵士はいたが、一人で乗り込んで来た者などいなかったからだ。
力自慢のオークやトロールの一撃を受け止め、グリフォンを仕留め、巨大スライムを風圧だけで圧倒する……そんな存在に。
「flguoa!」
「fmsuu!」
「glcsaie!」
少年を中心に立ち込める黒い煙。
魔物の中に魔術を使える者がいるようだ。
「煙……ぉっと」
四方八方から飛び交う火の球と氷の刃。
上空から降り注ぐ炎を避け、足元から突然飛び出す氷の刃を勘で避けながら、地面に転がった天井の破片を適当に蹴り上げる。
これだけ敵に囲まれているのだ。
命中率なんてゼロでも当てることが出来る。
「さてと……そろそろ皆は……おっ、アリスとクリオスが人質を全員開放、テノが親玉の場所を発見、か。それじゃテノの所へ行きますか」
魔導具での通信を受けた少年は立ち止まり、剣を地面に突き立て仲間たちに返信を送る。
動きの止まった瞬間を逃さないトロールが煙の中から姿を現し、べっとりと血のついた棍棒を振り落とした。
「グアガァウファジ……!?」
「うーん……よし、返信終わり。あ、お待たせ」
左手一つで巨大な棍棒を受け止める。
ムキになったトロールは全体重を掛けて押しつぶそうとするが、地面に少しヒビが入るだけで少年を潰すことは出来ない。
「あはは、じゃあ僕、そろそろ行くね? 色々運動になって楽しかったよ」
「グアファファファ゛――!」
頭上を隙間なく埋める炎の粒。
少年はそれを見上げながらゆっくり大剣を抜き、トロールを棍棒ごと上空へ放り投げた。
「斬魔刃!」
薙ぎ払った斬撃によって炎の球が全て霧散し、魔物たちは壁を突き破って隣の部屋へと追いやられる。
もうこの部屋に、立てる者など少年以外残っていなかった。
「さて、テノは……」
「連れてきたわよ……って、ホントに化物ね。これじゃあ、どっちが魔物か分からないわね」
エルフの少女は紫色の光沢があるロープで角の生えた魔物を縛り付け、そのまま引きずりながら部屋に入ってきた。
顔は赤黒く、一本の角と牙が特徴的な……この城の支配者と言ったところだろう。
「く、くそっ……冒険者共が……」
「へぇ、話が通じるタイプの魔物か。これは助かるね」
「お前らに話すことなどない!」
「あはは、これは嫌われたもんだなぁ」
「そりゃそうでしょ……いきなり自宅に正面切って入ってきて、家来共々はったおし、挙げ句の果てに屋根と壁には大穴開けられて……あんた、ツいてなかったわね」
「黙れ! それになんだお前らの力は! 城ごと破壊する冒険者など聞いた事ないぞ!」
「あははっ、そんなに褒めても何も出ないよ?」
「うがぁぁぁあ! 今すぐぶち殺してやるわぁぁぁぁぁあ!」
角の魔物は必死にロープを引きちぎろうとするが、勿論唯のロープでは無い。
「無駄だからやめておきなさい。それに例え、そのロープから逃れられたとしても、私にすら勝てない貴方がこの化物に勝てると思う?」
「化物って酷いなぁ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「こんな紐でアイツを縛り付ける事が出来るなら、私だってとっくにやってるわよ。それに、私たちの目的は別に貴方の命じゃない」
「……どういう意味だ」
「命だったら、私が発見した三秒後には死んでるわよ、貴方。それに周りを見てみなさい。貴方の家来、みんな息があるでしょう?」
城の外や部屋の中で倒れている魔物は数多くいるが、そのいずれも息が残っている。
重症の者から軽傷の者まで様々だが、死んでいる者はいないようだ。
「……何が目的だ」
「お? やっと話してくれる気になった?」
「……他の冒険者とは違うようだな」
「わぁ、魔物のツンデレって初めて見たよ! まぁ、雄のツンデレとか需要が皆無だけど」
「リュ・ウ・タ?」
「あ、はいはい。それじゃあ、単刀直入に聞くけど……」
少年は刃の付いていない大剣を背中に背負い、角の生えた魔物の瞳をじっと見つめる。
「僕を魔王に紹介してくれないかな?」
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