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叛逆の時

たまの休日。


国を守るのが仕事の聖騎士に休みはそう多くない。だからこそ思い切り羽を伸ばす者もいれば、何もせずひたすら休むという者もいる。


しかしその聖騎士のさらに上に立つものとなれば、羽を伸ばす、休むということを知らない。


「ハハハハハハッッ!! このガルウェイン様に真昼間に出会っちまうとは、つくづく運のないヤツらじゃねぇか!」


その手に自らの聖剣「ラグネラ」を振るい、モンスターたちをバッサバッサと切り払うガルウェイン。


彼女は特殊体質で、日中は魔力や筋力が常時の3倍に跳ね上がる。故に「太陽の騎士」との別名がついており、日中ならばその実力は聖騎士長アルヴァリンに匹敵するのではとの声もある。


「なー、これ本当に俺いるの? お前一人で充分だろうがこれ」


呑気に欠伸をしながら、怒濤の勢いで敵を殲滅しているガルウェインにアリマが問う。


「ああ、確かに要らねぇな。なんで来たのお前?」


「いやお前が連れてきたんだろうが・・・」


最後の一振りに灼熱の炎を乗せ、敵を焼き切ったガルウェインが剣を鞘にしまう。完全に彼女だけで殲滅してしまった。


たまの休日、アリマはゆっくり過ごそうと家でのんびりしていた。そこに国から発注された依頼書とともにガルウェインが乗り込んできて、あとは成り行きで今こうなっている。


当初の彼女曰く、「面倒だから付き合え」との事だったが、いざ戦いになるとその台詞はどこへやら。彼女は面倒くささなど露も見せずに、戦い抜いた。


故にアリマは鎧の着損である。これなら裸一貫できたとしても、倫理的以外には問題なかっただろう。


「ふい〜、いーい準備運動だったぜ」


「そりゃ良かった。腹減ったから昼飯にしないか」


「飯なんてねぇぞ?」


「あるよ」


空間魔法陣を開いて、そこから自信満々にバスケットを取り出す。


蓋を開ければ、アリマ家・・・、の横のカフェ特性サンドイッチの召喚。


「いつの間に・・・」


「お前が昼抜きで戦おうとすることなんて分かってんよ。生憎だが、俺はそれについていけないからな」


三度の飯より戦いがモットーのガルウェインは空腹だろうが構わず、そこに敵がいるのなら剣を振るう。腹が減っては戦ができぬ、など彼女にとっては嘘っぱちだ。曰く、「殺る気があれば何でもできる!」と言ってた。


が、用意して休憩を促せば素直に従う。もはやこのために自分は来たのではないかとアリマは思念していた。


「そういや、昨日お前大丈夫だったか?」


休憩モードに転じて、どかっと腰を下ろしたガルウェインが口を開く。


「何が?」


「いや・・・、昨日お前の嫁、酒飲んでたろ。あの嫁、普段は清楚な癖に、酒入ると本性が出てくるからな」


ガルウェインは割とどうあっても酒が入ってしまう状況を作ってしまったことに申し訳なさそうだが、アリマは「ああ・・・」と生返事を返す。


「まぁ、()()()()外傷も無かったし、こうして生きてるし大丈夫だったんだろ」


「いや、妻相手にお前は死を覚悟してんのか?」


ベルヴィアが酒を飲むとどうなるかというのは、円卓騎士や身内では有名な話。それはそれは酷いことになる。主に夫が。


ちなみに夫のいない所で彼女は酔うほど飲まない。だが本人曰く、「大丈夫、誰と飲んでも夫以外は大丈夫だから、うふふ・・・」とのこと。


「それに俺、()()()()()()()()()


「それは大丈夫とは言わないな、おう」


「この世には知らない方がいいこともあるだろ?」


「もはや慣れた、みたいな言い方すんなよ」


ちらっとアリマの方を見たガルウェインの視線に、アリマの首筋に残された傷跡が写った。それは歯型に見えたので、「はあ・・・」と溜息を吐く。


「お前さぁ、間違えても浮気とかすんなよ」


「いきなり不穏なこと言うなよ、どうした?」


「いやお前が死ぬだけじゃなくて、なんなら世界まで滅ぼすとか言い出しそうだからな、あの嫁」


「マジか。俺のこと好きすぎだろベル」


「多分、お前が思ってる4倍くらいは愛されてんぞ」


なぜ彼が思ってる以上なのか。それは彼女の愛が炸裂している頃、大体彼は意識を失っているからである。


ついでに言うと、普段外では2人は円卓騎士という役を背負っている。そんな中ではある程度威厳を保っていなければならず、直接相手とイチャコラすることなど問題外。


そして内では子供もおり、仕事に支障を出す訳にはいかないので、夜でも2人の時間はあまりない。


しかし彼女は抑えきれない「好き」は、気の許せる団員や同じ円卓騎士の前では微妙に溢れている。


団員の証言では、「その話を振ると止まらない」、「でも嬉しそうに語るその姿が可愛くて微笑ましい」、「結婚しても恋する乙女の団長・・・可愛すぎかよ!」との声が多く、彼女の率いる「白羊」では、早く結婚したいとの声が絶えないそう。


「そういえば、お前も一応女だけどいいのかねえ」


れっきとした女性であるガルウェインに対して、とても失礼な言葉だが、言った方も言われた方もあまり気にしていない。


「それな。本人にも聞いたんだが、なんかアタシはいいらしいぜ」


「まぁお前と俺がどうこうなるなんて、キリンの首が短くなってもありえないか・・・」


「そうそう。街頭でアンケートでもしてみろ。アタシらなんて兄弟にしか見えねえぜ?」


そう言って笑い合う二人。こういう所に甘い空気が一切ないから、二人は兄弟か相棒くらいにしか見えないのである。


「一応アタシが2コ上だから、姉だな」


「え、2コ上だったっけ?」


「アタシ27、お前25だろ?」


ちなみにアリマの生きた現実世界とは違い、この世界では魔力が人間の老化を若干遅らせ、平均寿命は100歳程度になってしまっている。最高齢は西方の元大魔術師で198歳とも言われているくらいだ。


故に25も27もアラサーなんて呼ばれず、30何歳も躊躇いなくお兄さんお姉さんと呼んでもらえる。


「俺らが兄弟だったら・・・親が大変だな・・・・・・」


「違いねぇ」


兄弟揃って円卓騎士という大出世だが、この2人が兄弟だと子供の頃、親にかける苦労はいかほどか。


「まぁ実際兄弟でも恋仲でもないんだし、やましい事がないことくらい誰の目にも明らかだろ」


「そっすね、姉御」


「お、その呼び方なんかいいな」


いずれにせよ、この2人は今のこの立ち位置と関係性に不満はない。それだけで充分だった。


しかしアリマには若干聞きたいことがあった。


「あんまり聞くことでもないかもしれないけど、お前は結婚とか考えてないのか? もう結構いい歳なんだからさ」


「ねぇな」


あまりに即答。不意をつかれたアリマは「お、おう、そうか」と訳もなく狼狽える。


「生まれてこの方、恋や愛っていうもんを感じたことないんでね。アタシが人を見る価値観なんてたった2つだ。そいつが強いか強くないか、面白いかつまらないか、だ。まぁ円卓騎士になってからは、悪いか悪くねぇかってのも考慮しなきゃならなくなったがな」


誰しもが持っている価値観。


恋や愛を知っている者でも、異性に求めるものは異なってくる。


顔、金、性格など多岐にわたる。例えば「金」と答えたとして、それが本当に愛なのか、と非難されることもあるだろう。しかしそれが本当の愛であり、「金」ではなく、「金を持っている人」に恋する人もいるのだ。


面食い、金好き。どんな言葉で非難されたとしても人の価値観はその人だけにしか理解出来ないものであり、変えられるものではない。


ガルウェイン、彼女の場合、それが偏ってしまっているだけで、彼女にどんな過去があったとて、それに不自然はない。


「まぁ円卓のヤツらはみんな何かしらで「強い」からな。団長だってちゃんとソンケーしてんだぜ? まぁあの人は圧倒的に「つまらない」ところだけ直して欲しいんだがな」


「あの人だって頑張ってるんだぞ? 国の運営とか、円卓騎士としての象徴立てとか」


「それ自体がつまらねぇんだよ。国の運営は分かるが、後者はちっともわからん。強さこそが象徴であり、国民を安心させる材料だろうが。要は負けなきゃいいんだよ」


「それは暴君の考え方なんだよなぁ・・・」


そうは言うが、自分も団長の言う事を色々聞き流している時点で反論できないのではないかと、アリマは思った。


「まぁ、アタシには知る由もない大人の事情ってやつがあるんだろうな。これからもあの人の言う事は極力聞きたくねぇが、そこは察してやる。だから嫌いにはならねぇよ」


「そっか」


「円卓騎士の身内では仲良くしていきたいしな」


彼女もしっかり大人だ。誰がどんな苦労を背負っているのかは察せる大人だ。


「それ今度、団長に直接言ってやるといいぞ。ほら、日頃の感謝とか?込めてさ」


「あの人はアタシのかあちゃんか何かか」


その辺で、いつの間にかバスケットは空になっていた。


「しかし美味かったなコレ。これもあの看板娘が作ったのか?」


「今日の味的にそうだと思う」


「お前は常連か」


家の隣にあるカフェだ。常連に決まっている。


なんなら静かに仕事したいときとか、1人になりたいときは家の延長線みたいな感じで使わせて頂いている。


「『いつもの』とか言ったら、なんか出てくんのか?」


「本物の常連ってのはな、何も言わなくても出てくるんだぜ」


「すげえ」


軽く感心しているガルウェインを尻目に、バスケットを空間魔法陣に押し込む。


「まぁそれも含めて、『いつもの』なんだろうな。いつもってのは当人が何もしなくても進む日常のことなんだし」


「それなら今、あそこからこっちに突っ込んでくるあれも『いつもの』ってことで仕方ないよな?」


彼女の指さした空の向こうから、隕石の如くこちらに向かってくる影があった。


元から今日の目的はそれだ。


「さぁさぁ獲物がやってきたァ! いくぜ円卓騎士による龍狩りだ、オラァ!」


太陽の騎士はゆっくりと聖剣を抜く。


「また随分とデカイな。これはさすがに俺も働いた方がいいか・・・」


都市から少々離れた穏やかな平野で、危険種との戦闘。


国民を安心させるのが、円卓騎士の仕事ならこれも「いつものこと」だ。相手がコソ泥だろうが、龍だろうがやることは変わらない。


そしてまた「いつもの」日常が続くように。




────────


「いやー、やっぱ昼間だからなぁー。あんまり手応えなかった」


傷一つない鎧でガルウェインは退屈そうな声を上げる。


「俺がいなかったらもう少し楽しめたんじゃねぇの?」


「さすがに空飛んでるからってだけで、文字通り隕石落とされたアイツには同情したよ」


結果として2人の前に現れた龍はものの数分で撃沈された。


地上で攻めようとすれば、昼間の力で鬼と化した太陽の騎士に阻まれ、空を飛べば、最強魔導師の癪に触って、隕石を落とされる。もう彼にとっては、2人に出会ってしまったことが年貢の納め時だった。


そうして2人の円卓騎士は最上級危険種を討伐したにも関わらず、何食わぬ顔で首都の門をくぐる。


「? なんだか騒がしいな」


門をくぐって駐屯所を目指す道のりで、かなりの規模の人が集まっていた。


よくみればその渦の中心には騎士が何人か、人々を宥めている。


「珍しいな、人身事件でも起こったか」


2人は不意にその場に近づいた。すると、


「あっ、オイ! 円卓騎士だ! 円卓騎士が来たぞ!」


「なんだと!? おい、アンタら! この国は大丈夫なのかよ!」


2人に気づいた人々の集団が、そちらの方に雪崩込む。


口にするのは皆、不満や不安の声ばかりだ。


「落ち着いてくれ。一体何があったんだ?」


アリマは血相を変えて詰め寄ってくる人々を宥める。


しかし誰一人として落ち着かず、事情が分からない。


「これはアリマ卿にガルウェイン卿!」


「お前たち少し離れろ! この方達は円卓騎士様なのだぞ!」


そこに元々、集団の標的になっていた騎士たちが割って入ってくる。


「お勤めご苦労。で、この騒ぎはなんだ? 殺人鬼でも現れたか?」


「労い感謝致しますガルウェイン卿。それが・・・」


騎士は重苦しい雰囲気を纏って、おずおずと口を開く。


その言葉はアリマとガルウェイン、2人の表情を一挙にして変えた。


円卓騎士という象徴によって築かれてきたブリティリアの平和が、今少しずつ綻びの音をたてていた。



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