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まともに働く

荘厳な雰囲気を、長い長い終わりの見えない廊下を、男は歩き続ける。


ここを歩く時はいつも、昔と、そして今の風景を思い浮かべるのだ。


廊下の形姿は昔も今も何ら変わりない。


しかし人は移り変わり、自らが思い、考えることも変わった。


記憶も印象もすべて、時の流れと移り変わりの波に飲まれ、果てへと流されていく。


人との出会いも、過去の印象も。


それでも、あの日彼の前に、風のように現れた少年を忘れられない。


騎士への憧れも、誇りもまったく持ち合わせていなかった稀有な存在。だからこそ、彼は良い意味でも悪い意味でも人の目を集め、皆、彼に惹かれるのかもしれない。


自身の理解が及ばないものに、蓋をして、目につかないようにすることは中々難しく、彼の存在を誰もが無視できなかった。


そんな上で輝き続けた彼のことを、皆が期待し、信頼している。


手間をかけさせられ、散々愚痴を漏らす騎士団長も。やれやれと辟易を浮かべる他の円卓騎士も。


そして男自身も、彼の言動にはいつも楽しませてもらっていた。


思い出し笑いを少し浮かべながら、重厚な扉を前にして、男は足を止める。


「さて・・・今日はどんな1日かな」


扉をぐっと押し開ければ、その部屋の最大の特徴である円卓が目に入った。


そしてその一席に腰掛け、ゆらゆらと船を漕いでいる元少年の姿も。


「ふっ・・・。寝坊で遅刻するくらいなら、早めに来てここで寝ればいい、ということですか・・・」


そんな彼の姿を見て、今日も平和な1日であることを、騎士ライオロットは占うのであった。




────────


「今日は1つ案件があってな。諸君らの中から数名、解決にあたってもらおうと思う」


今朝の円卓会議は、騎士団長のそんな言葉から始まった。


「おいそこ2人。露骨に嫌な顔をするな。ええい! 貴様らだ、貴様ら! アリマ卿にガルウェイン卿!」


俺とこのガルウェインは基本、円卓に並んで座ることが多い。そして俺のもう片方の隣席にはベルヴィアが座ることがほとんど。


さらにガルウェインの隣席には、副議長のライオロットが座す。


つまりは問題児を優等生で囲んでしまおうという魂胆なんだろう。だが何分、問題児が懲りないので、結局効果は見込めていない。


「はいはい、分かってますよ。どうせ案件は誘拐とか強盗立て篭りとかで、そういう裏仕事は黒馬(ウチ)に回ってくるんでしょう?」


「なんだよく分かってるじゃないかアリマ卿。た・い・へ・ん! 申し訳ないのだが・・・頼むな?」


「少しは申し訳なさそうにして欲しいんですけど」


円卓騎士は基本、それぞれが1つ「騎士団」を持つ。


そしてそれぞれに決まった役割がある。


その中の1つ黒馬、正式名称「黒色(くろしき)13番隊騎士団」。首都キャメルサラムにおける、重要事件の隠密解決が主とされている。つまりは裏仕事。


なので騎士団の中でも黒馬はもっとも人が少ない。が、その分結束力は強いと俺は謳っているが。


「が・・・、今回は少し難解でな。できるだけ少数精鋭で解決にあたりたい」


「どんな案件なんです?」


「それは後々説明するが、今回は円卓騎士からあと二人ほど派遣する。その者達と黒馬の精鋭たちで事にあたってくれ」


それを聞いて、横の輩の顔が嫌そうに歪んだのを見た気がした。


「その2人を今から決めるわけだが、さっき嫌そうな顔をしてたし、1人はガルウェイン卿で決まり」


「なんでだよオイ」


敬意もクソもない様子で、言動だけは男のようで男じゃない女騎士ガルウェインが立ち上がる。


彼女のその荒々しい言葉遣いと敬意のなさには、とても聖騎士はおろか女の雰囲気が感じられない。


彼女もまた女として見られる気はなく、円卓騎士の中では俺に並ぶ問題児騎士であった。つまりは騎士団長の管轄?である。


慣れた様子で騎士団長は彼女の糾弾をスルーし、続ける。スルーされたガルウェインが暴れ出す。ライオロット副団長が押さえる。


「それでもう1人だが・・・、まぁ人的にもベルヴィア卿とできればライオロット卿も行ってもらいたいのだが・・・」


騎士団長に視線での問いに、ライオロット卿は頷き、ベルヴィアも「問題ありません」と優等生の解答をする。


「よし。では決定だ。その他の団にもキャメルサラム郊外での危険種モンスター討伐の依頼が待っている。もちろん案件にあたる4人の団の兵士たちもそっちに動員させるように。では解散」


議長が言い終わると同時に、全員が椅子を引き、一斉に立ち上がる。


「離せライオロット卿! 今日という今日は一言言ってやらなきゃ気がすまねぇ! 待てこの暴君騎士王ー!」


若干1名は引きずられながら。




────────


円卓会議終了から数分後、騎士駐留所の入口には、各団の団長、副議長相当の人物が合計で10人ほど集合していた。


会議後に騎士団長に食ってかかったガルウェインも、丸め込まれたようで、舌打ちをしながらもきちんと現れた。


「えー。一応今回の案件について騎士団長から説明を受けてきた」


そう切り出すした俺を起点にして、全員が円を描くように並ぶ。


「今回の案件は、誘拐されたグリストリン家当主の救出だそうだ」


グリストリン家。そのワードが数名の反応を誘った。


「グリストリン家って・・・流通の面における主要家よね。失踪じゃなければ、かなり悪質な誘拐よ、これ」


「そうですね。我々、円卓騎士がいながら、このような悪事を起こす輩がまだいたかと思うと、己の不甲斐なさを実感いたしますね」


優等生組として呼ばれた2人は、口々に己を恥じる言葉を並べ始める。


この国ブリティリアでは、円卓騎士と騎士団による統治が隅々まで行き届いており、国民同士のいざこざはあれど、強盗や誘拐などの悪事はほとんど起こらない。


それは円卓騎士団に、悪事を未然に阻止してしまうほどの過去の実績と名誉があるからで、最近では円卓騎士の存在を知らぬものばかりが、犯罪の主犯者となっていた。


なのでこの国で犯罪を犯す者は────、


「さて・・・誘拐だとしたらこの犯人は、バカか、世間知らずか、それとも本当の強者か。どれだろうな」


「できれば骨のある奴であって欲しいな。バカや世間知らずに手を焼かされるのは、実に腹立たしい」


俺の全体に対する問いかけには、ガルウェインが強気な言葉で返してくれた。


「でも誘拐なら・・・犯人はかなり強者だと思います」


ガルウェインの言葉に乗るように、ベルヴィアは首肯する。


「世間知らずが、名家グリストリン家の当主をピンポイントに攫うでしょうか? 標的がグリストリン家なのには、明確な意図があると思いますが」


その説明には、その場にいる多くの騎士が肯定の色を示す。


「バカが金目当てでさらったのかもしんねーぜ?」


「金目当てならグリストリン家よりもっと良い家があるだろう。それさえも分からないバカなら、こんなことは実行できてないさ」


「む・・・」


これでこの場の意見は、一致した。


敵は強者の可能性が高い。それに基づいて、遂行すべき作戦を打ちだす。


「今回は2人1組式でいこう。1人だとやられた時に情報を持ち帰れないかもしれないし」


「それは賛成ですが、問題はどうやって探すのです? アリマ君、まさか全員で街中を走り回って探すとは言わないでしょう?」


「なんだそれ。めんどくせーな、何とかならねぇのか」


ガルウェインの言葉は聞き流し、ライオロット卿のその言葉に、アリマは服のポケットを探り出す。


そしてあるものを取り出した。


「粉?」


「誘拐された当主の魔力痕を結晶化したものです」


「これがあれば探せると?」


短くかぶりを振った。


「いえ、人間の魔力にも似た『型』のようなものがありますので、このままでは似たような魔力も追跡してしまい、偽物(ダミー)を一つ一つ探しては、潰しを繰り返すことになります」


「なんだそれ。めんどくせーな、何とかならねぇのか」


ガルウェインは特に深く考えていないようだが、他の者は軽く、その返しに引き気味だ。


さすがに我儘では・・・、と。


「あぁ、それは何とかなった。魔力をパターン分けして、追跡する魔力を99.9%くらいまで誤差をなくした。これで追跡する魔力は一つに絞れるはずだ」


いや、何とかなっちゃうんかい。


多分、俺を除く全員が思っただろう。


「だが結局、その痕跡をこの街中から探し出さなきゃいけない。まぁかなーり分かりやすく示すようにはしてあるんだが、それでも駆けずり回らなきゃならんだろう」


「なんだそれ。めんどくせーな、何とか──」


「ならねーよ! そこまで何とかなってたら、俺一人で充分だろうが!」


「んだよ。役立たずだなぁ」


り、理不尽すぎる・・・。


多分、俺を含めた全員が思っただろう。


「ま、まぁとりあえず組を作ってしまいませんか? えっと10人だから、2人5組ですよね?」


「そうですね。まぁ適当にパパッとやってしまいますか」


説明が一通り終わると、優等生組が話を進め始めた。


「じゃあ、コテツ一緒に行く────」


「アリマ君、君はまずその魔力痕を解き放ってからにしましょうね? そしてコテツ卿は私と行きましょうか?」


「え? は、はい・・・。よろしくお願いします、ライオロット卿」


ほとんど交流のないライオロットに誘われ、コテツはあたふた。


そして何故か強引に相方を取られた俺は、ぽかーんとするしかない。


こうして俺が間抜けた顔をしている間にも、ずんずんペアは組まれていき、最後まで取り残された。


しかし10人で余りは出ない計算なので、もちろんもう1人取り残されるわけで、


「・・・・・・えっと、行こっか?」


「なんでお膳立てしてくれたの・・・・・・?」


そこに一組の夫婦が残った。


別に夫婦だからいいのに、と思いつつも、仕組まれたその結果に、俺たちも顔を見合わせて従うのであった。



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