第六話 消える凶器
「変だ。おかしい」
そして、RYOは一呼吸おいて、話を切り出した。
「何故、夏場なのにこんなに冷たいんだ」
野志穂警視の方を向き直り、RYOはいう。
「そうね、確かに冷たいわね。何か殺人と関係があるのかしら?」
「その入っているドライアイスじゃないの?」
野志穂警視は一緒に入っていたドライアイスに気付いた。
視線がそのドライアイスの方に集まっていく。展開の早さに息を呑んだ。
「いや、これは偽装だ! ドライアイスをいれておく必要があったんだ」
「犯人が意図的に出したとでも?」
「そうだ。出す必要があったんだよ。何かを隠すためにね」
また数歩あるき、RYOは何を思ったのか急に止まった。
「近くに血のついた洗面器があるっすね。何か関係があるんじゃないっすか?」
「いや、それは血が飛び散ってついただけだ。(冷たい? プラスチック? 鉄?)」
水を溜めている受けを注意深く見遣った。
「そうか、判ったぞ! プラスチックだ!」
「RYOプラスチックがどうかしたの? プラスチックなんてどこでもあるじゃない」
野志穂警視が怪訝な面持ちで訊き返した。
「ドライアイスを出して外にほうる必要があったんだよ」
数歩歩き、冷蔵庫の前でRYOは止まった。
「これだ!」
RYOは右手で冷蔵庫を勢いよく開けた。
「な、何、このにおい」
近くにいた若菜が凄まじい匂いに、思わず口を手で押さえて冷蔵庫から遠ざかる。
「ごほごほ、すごい刺激臭だ!」
翔も我慢できなかったのか、刺激臭に喉をやられ、後退った。
「やっぱりな、思った通りだ。この甘酸っぱい鼻につく匂いは、酸だよ!」
皆の方に向き直り、蒼い眼光を炯炯と照らしながらRYOはいう。
もう一人の別人格の涼の言葉にどよめきが生じた。
「酸には鉄を溶かしステンレスは溶けないっていう性質がある」
一呼吸おいて別人格の涼は重厚な声で言った。続けてRYOは話を切り出した。
「無論、プラスチックも同様に溶けない」
「じゃぁ、まさか、ベリアルは?」
怪訝な面持ちで細い柳眉を燻らしながらカナは言った。
「御名答だ。恐らく入っていたドライアイスを一旦、洗い受けに出し、プラスチックのその容器に酸を入れ、芳名さんを殺した直後に血を拭き取り凶器をそこに沈めたのさ!」
野志穂警視の方を一瞬チラリとRYOは見た。
「そうすることで発見されるまでに鉄製の凶器が完全に溶けてなくなり、凶器が消えて無くなるって訳だ」
「凶器が消える?」
「さすがね、冷蔵庫の中に入っているのを見つけるなんて」
野志穂警視が早い展開に息を呑み、RYOの推理に関心した面持ちを見せた。腕を胸元で相変わらず組んでいた。
その時だった。大体の謎を推測した時点で誰かが怯えて動いた。
「ほ、芳名、ひぃ、こ、殺される~」
「桝居!」
桝居と櫻井に呼ばれた人物はうろたえ、腰を屈めながら走り、必死にその場から逃げ出そうとした。部屋の外に駆け出していく。
「待てッ、出るな、奴の思うつぼだ」
手を差し出して追って、止めようとするが、余りの速い逃げ足に、追い着きそうになかった。櫻井もRYOと一緒に駆け出そうとした。
「ベリアルは、まだ潜伏している」
もう一人の別人格RYOに変身したまま、急いで旅館の外へ追いかけた。続いて、野志穂警視、翔、櫻井たちも追い駆けてくる。
桝居は外に止めてあった車に乗り込んだ。RYOたちが気付き、悔しそうに舌打ちする。
「ダメだ、追い着かない。何て逃げ足の速いやつだ、車で行っちまった」
桝居が乗った車が出たのを確認すると舌打ちし、何故かふっと意識を失ってRYOは倒れこんだ。元の黒髪に戻った。別人格が消えたのだろう。その反動らしい。
若菜が心配そうに後ろの方で胸に手を遣り涼に駆け寄った。
周りは唐突の出来事に動揺の色を隠せなかった。
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