プロローグ
約三年前とある病院で重度の心臓病を持った少年の手術が施工されようとしていた。
寝台に乗った中学生らしき少年が手術室に運ばれていく。
担当医師らしき人が少年を見遣りながら重い口を開いた。
「お父さん、助かる方法はこれしかありません……治す術は他にないのです。手術費は一億円かかりますが」
「しかし、金額が高過ぎる。一体、こんな金をどう工面しろと……」
心臓病を患った少年の父親は担当医から、金額を聞き愕然とし、声が震えながら肩を落とす。
その時だった。診察室に誰かが割って入ってきた。
「警察の者ですが」
警察の人は女性でグレー系のスーツを着ていた。だが胸元が開き、まるでキャバ嬢のような格好をしている。
知的な雰囲気の女性はその場で警察手帳を見せた。奥にお付きの警官が二人ほどいた。
「なぜ警察が?」
少年の父親は唖然になり、目を大きく見開き、即座に訊き返した。
「お父さん、我ら『警視庁特秘任務室サイバーアイズ』が力を貸しましょう」
知的な警察官の女性の後ろにいた同僚だろう警察官が口を開く。
「手術費、一億という金を出してくれるとでもいうのか?」
少年の父親は、駄目もとでカマをかけていった。
「我らが極秘裏に開発した『サイキック・ディヴァージュ』という薬には重度の心臓病も治る効能があります。他の病気に対しての免疫性もあります」
知的な感じのグレー系のスーツをきた女性警察官が徐に口火を切った。
「サイキック・ディヴァージュ薬?」
「決して命に別状はありませんが、呑むとディヴァージュ覚醒し、もう一人の自分の意識が脳に生まれるため、副作用止めに薬を一日四回服用せねばなりません。この症状は永遠に呑むと続きます」
寝台に横たわっていた重い心臓病の少年を一瞥し、女性警察官は言う。
少年は咳き込み苦しそうだった。
「永遠に続く、死ぬまで症状が続くということか」
「無論、もし、投与しなければ、貴方の息子様は治す術がない心臓病で亡くなられますよ。ただし、無償で提供するには条件があります。涼くんを我ら警視庁特秘任務室サイバーアイズのエージェントになって活動して頂けるなら、命の保障は致します」
真摯な瞳で女性警察官はいう。
「エージェント?」
「簡単にいえばサイバーアイズの刑事になるということです」
一段落置き説得するように優しく女性警察官は言った。
「涼が生きていられるのなら……」
チラッと寝台に寝て呼吸装置を付けている心臓病の少年、涼を涙目で父は見遣った。
「すまん、涼、許してくれ。お前の命を助ける為だ。いいだろう。涼が助かるなら、そうしよう」
「受け入れてくれたのですね。呼吸が荒い、時間はないわ。お医者さん早速、投与して!」
「判りました」
担当医が即座に動き、少年に駆け寄って看護婦さん数名とともに寝台を動かし手術室へ入った。
そして、投与が始まった。
心臓病は本当に治せるのだろうか。『サイキック・ディヴァージュ』奇跡に近い薬だ。
永遠に、死ぬまで、もう一人の意識が生まれて体内で共存する、とんでもないことだ。
☆☆ ☆☆
第一話につづく。