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名探偵「にいたん」【後】


 賢児が少年を逃がそうとしていたところへ麻美が入ってきた。

「賢児!」

「かあたんだ!」

 慌てて逃げようとする賢児の首根っこを捕まえると、麻美はささやくように言った。

「あのね、警察のおじさんたちが、このお部屋を調べたいんですって。だから、邪魔しないでいい子にしてましょうね」

 麻美が言い終わるか終わらないかのうちに、華織に案内されながら、4人の捜査員が部屋に入ってきた。

「…まったく迷惑な通報ですこと。こう言っては何ですけど、うちはよそ様の物をどうこうしなくても、生活していけますの。盗られるならともかく、盗る側に回るなんて、バカバカしいの一言ですわ」

 華織が睨むようにして、4人の長と名乗った署長に言うと、彼は腰の低い様子で彼女に言葉を返した。

「申し訳ありません。こちらとしても、このようなご立派なお屋敷にお住まいの方が、そのようなことをされると思ったわけではありませんし、ついさっきには、お屋敷に誰かが侵入しているのを見たという通報もありまして、不審者が侵入しているといけませんのでね。まあそれに、弟さんは政治の世界に身を置かれる可能性が高い方のようなので、そういった関係で、何か預かり物をしなければならなくなったとか、そんなこともないではないと思いましてね」

「うちで預かって、誰が何の得をするんですの? 政治の世界に身を置こうとしているからこそ、身の回りには気を遣っている時期ですのに」

“まったく。夕べ受け取ったヴィジョンと、一字一句違わぬやりとりだわ。もう、うんざり。…まあ、この先、どうなるのかまでは知らないけど”

「対立候補がらみの嫌がらせということも考えられるんですが、被害届と目撃証言が出ている以上、こちらも何もしないわけにもいかないんですよ。お許し下さい」

 署長は華織に丁寧に頭を下げると、他の調査員たちと、部屋を調べる役割分担を相談し始めた。

「すみません。おっしゃる通り、こちらの所有品が盗難にあっている可能性もあります。この部屋に置いてある品物のチェックを一緒にお願いできますか」

 署長が麻美に聞くと、華織が先に答えた。

「それなら、所蔵品を管理している者がおりますので、今呼びますわ」

 華織が大垣に内線で連絡すると、ほどなく大垣が姿を現し、所蔵品台帳を示しながら、調査員たちと一緒に3つの茶箱に入った所蔵品を確認し始めた。


 華織は、むすっとしたまま、窓際へ行き、腕を組んだまま外を眺めた。

「あら? ねえ、麻美ちゃん。あの人、だあれ?」

「え?」

「ほら。泥棒よけの囲いの中に。ほら、青いジャンパーの…まだ高校生くらいの若い子みたいだけど…」

 華織の言葉に反応した調査員の一人が、麻美より先に窓の外を見る。

「署長。どう見ても不審者です。下に行って、あの男を尋問します」

「わかった。頼む」

「あ…閉じ込められないように、お気をつけて」妖艶に微笑む華織。


 所蔵品のチェックは他の者に任せ、署長が賢児に話を聞き始めた。

「坊ちゃんは、どうしてここにいたんだい?」

「えーと…ひみつ。おりんごむけなくなるから」賢児が麻美の後ろに隠れる。

「どういうこと? 賢児、怒らないから、正直に言いなさい」

 麻美が言うと、賢児が小さくつぶやいた。

「…にいたんに、ご本をもってくの」

「にいたん?」

「この子の3つ上の兄です。今、熱が出て隣の部屋で寝てるんですけど」

「そうか。お見舞いにご本なんだね。…坊やがこの部屋に来たとき、誰かいたかい?」

「……」

「賢児、正直に言いなさい」麻美が怖い顔をする。

「…おにいたん」

「あれ? 寝てるんじゃないのかい?」

「よそのお兄さんのことじゃないかしら。涼ちゃんのことは“にいたん”て呼びますから」華織が答える。

「よそのお兄さんがいたのかい? 何してたんだい、その人は」

「あのね、おりんごむいてたの」

「りんご? おい、痕跡があるか、その辺を調べろ」調査員の一人に指示する署長。


「…この部屋には、ないようですけど」

「その男が食べちゃったってことか…?」

「坊やは食べたのかい?」

「たべてない」

「じゃあ、その男が食べたんだね」

「たべてない」

「…やっぱり話を聞くには小さ過ぎるかなあ」苦笑する署長。


「そんなことないです。聞き方にはコツがあるんです」

 ドアの横には、いつの間にか涼一が立っていた。

「涼一! おまえ、いつからそこに…寝てないと駄目でしょう!」

 駆け寄ろうとする麻美より先に、賢児が走りより、涼一に抱きついた。

「にいたん!」

 賢児の頭を優しく撫でながら、涼一は署長に言った。

「僕が聞きますから。…ねえ賢児、りんごはなかったんでしょ。どうしてそのお兄さんがりんごを剥いているのが、わかったの? 何でりんごを剥いていると思ったの?」

「りんごむくやつ、もってた」

「その人、ナイフ持ってたの?」

「うん。でも、けんたんがきたら、ぽっけにいれたよ。それで、おはなししたの」

「ナイフ? やだ、怖いわ」華織が叫ぶ。

「どんな話をしたの?」涼一がまた尋ねる

「あのね、けんたんは、にいたんにおりんごあげたかったの。かあたんは、おりんごはおっきくなってからじゃないと、むいちゃだめって。おにいたんは、おりんごむけていいなあっておもったの」

「お兄さんとお話したんだよね。お兄さんは何て言ってたの?」

「けんたんも、もうすぐ、むけるようになるって」うれしそうに笑う賢児。

「そっか。よかったね」賢児の頭を撫でる涼一。「それから、どうしたの?」

「おにいたんがね、へんなおりんごのおさらを、たからばこにいれたの。でもね、てぶくろしないんだよ」

 賢児は少しぷーっと口を膨らませた。どうやら、涼一と話ができてうれしい賢児は、少年に口止めされたのも、すっかり忘れている。

「りんごのお皿と、宝箱というのは何だい?…手袋というのは?」

 署長が賢児に尋ねると麻美が答えた。

「りんごのお皿というのは、赤いガラス食器です。うちでは、果物の種類によって入れるお皿の色を変えているんです。宝箱というのは、所蔵品を入れているそれらの茶箱のことです。主人が冗談でそう呼ぶもので、真似してるんだと思います」

「ええ。お皿はね、りんごは赤、みかん類はオレンジ、バナナは黄色という具合なんですの。…でも、こんなところに果物皿を持ってきたりしないわよね」華織が言う。

「ええ。それに、手袋ってなあに?」

 麻美が賢児に尋ねると、涼一がしまったという顔をした。

「…ここにあるものは大事なものばかりだから、手でべたべた触らないようにしてるんだ。大垣さんみたいに手袋を使ってる」

「手でべたべた触らないかどうか以前に、ここには勝手に入っちゃ駄目って言ってるでしょう?」

「ないしょではいるから、へいき!」賢児が叫ぶ。

「…平気じゃありません」眉間にしわを寄せる麻美。

「でも変だね。その人、人の家に勝手に入るのに、手袋もしてなかったんだ」

 涼一が何気に話題を自分たちから逸らしながら、署長のほうを見る。

「そうだね…」少し考え込む署長。


「それから坊や、そのおりんごのお皿とやらは、どこにあるんだい? おじさんたち、宝箱を探したけど、余分なものはなかったよ」署長が尋ねた。

「聞き方、少し上手になったね」

 涼一が小声でつぶやくと、横で華織がくすりと笑う。

「もうないよ。かあたんが来るから、おこられるから、にげてっていったの。たからばこにいれたおさら、もってってもらったの」

「とすると、その男は、宝箱に赤い皿を入れたんだね」署長が茶箱を指差しながら言う。「そして逃げるときに、それを持ち帰ったと」


「おじさん、それは多分、ちょっと違います」涼一が言う。

「どう違うんだい?」

「賢児は、へんなおりんごのおさら、って言ったでしょう? 赤じゃない色だったか、形が普通のお皿とは違っていたんだと思います。…ねえ、賢児、その変なりんごのお皿は、どんなお皿だったの?」

「ぶどうのおさらみたいだった。ごはんたべるおちゃわんみたいだった」賢児が答える。

「紫の茶碗です」

「通報の情報と一致しますね」調査員の一人が言う。

「さすがね、涼ちゃん。大人より優秀かも」調査員たちを見渡す華織。


 その時、庭のほうから声がした。

「取り逃がしました!」さっき庭に出た調査員がこちらの部屋に向かって大声を上げている。

「まったく…」溜め息をつく署長。

「あら、逃げちゃったのね。あの仕掛け、もうちょっと工夫しないといけないわねえ、麻美ちゃん」

「そうですね。ところで、あの方、出てこられるのかしら」麻美が心配そうに窓の外を眺める。

「大垣さん、悪いけど、あのお巡りさん、迎えに行ってもらえるかしら」大垣に頼む華織。

「はい、ただいま」

「恐れ入ります」ばつが悪そうに頭を下げる署長。


「おじさん。もうひとついいですか?」涼一が再び口を開く。「その人、どうして賢児にナイフを使わなかったんでしょう」

「え?」

「だって、人の家に勝手に入っているときに誰か来たら、すぐに逃げるか、来た相手が声を出せないようにするんじゃないですか。賢児は小さいから、大人みたいにちゃんと言うこときかないかもしれないし、普通はナイフで脅して、縛ったりするんじゃないですか?」

「まあ、そうだね…」

「最初から、あまり使う気がなかったんじゃないかと思うんです」

「使う気がないって、どういうこと、涼ちゃん?」華織が不思議そうな顔をする。

「結局、何も盗んでないんでしょう? 賢児の言うことが正しいなら、盗みじゃなくて、置きに来たんだよね」

「そうねえ」

「でも、もし、おまわりさんたちが部屋に入ってきたときに、その人がまだ部屋にいて、つかまって体を調べられたら、何かを盗みに来たんだと思うよね。その人のナイフは、家の人を脅かすためのものだと思うよね」

「そりゃあ、そう思うわよ。普通は人の家に物を置きに、こっそり入ったりしないもの」

「おまわりさんは、その人が置いた茶碗が、最初からうちにあったと思うよね。その人が、それを今、盗もうとしてましたって言ったら、そう思うよね」

「思うわね、きっと」頷く華織。

「そのお茶碗が誰かの大事なものだったら、僕たち泥棒にされちゃうね」

「やだ、涼ちゃん。それじゃあ、このおまわりさんたちの最初の言い分みたいじゃ…」そう言いながら、署長を振り返る華織。「そういうことなんですの?」

「まあ…その可能性もあるということのようですね」苦々しげな顔で署長が答える。

「賢児が追い出しちゃったけど、賢児が部屋に入ってなかったら、おまわりさんが来るときにちょうど部屋にいたんだよね。タイミング良すぎるよ」

「確かに…通報では、急いで踏み込まないと証拠を隠滅されるというようなことも言ってたな。きな臭いことに関する内通者の通報かとも思えたんですが…この家の人間を、はめようとしていたということもあり得るようだ」


「おじさん。僕の学校の新しい用務員さんを調べてくれませんか」

「え?」

「最近、僕にいろんなことを聞いてきてたんです。家の中のこととかも。美術品や、家にあるお皿のことも聞かれました。変だったんです、あの人。他の友達に質問しているふりをして、僕の家のことばかり聞くんです。だから僕、嘘をつきました。毎週水曜日は、お昼ごはんの後、家に誰もいなくなるって」

「水曜日って、今日じゃない!」驚く華織。

「賢児がこの部屋に入るとも思わなかったし…。賢児のこと、危ない目にあわせてごめんなさい」涼一が麻美に謝る。

「…どうして、ちゃんと言わなかったの?」

「…熱でふらふらで、昨日はあんまり記憶がなくて…」

「もう…無理しちゃだめよ、涼一」麻美が涼一を抱きしめる。

「でも、賢ちゃんが無事でよかったわ。ナイフ持ってたのなら、一歩間違ったら大変なことになるところよ」心配そうに言う華織。

「たいへんなこと?」賢児が首をかしげる。

「そうよ、賢ちゃん。ケガさせられたりしたら大変でしょう」

「そんなことしないよ。おにいたん、やさしかったよ。あのね、おとうとがいるんだって。かわいいんだって。でも、びょういんにいるんだって。びょうきだって」きゅっと唇をかむ賢児。

「病院? 奴はそう言ったのかい?」

「うん。だからね、その子にも、おりんごむいたげるといいとおもったの。だから、おさらもって、びょういんにいってって言ったの」

「所長、もしかして先日補導した…」

 調査員の一人が言うと、署長は難しい顔になった。

「すみません。建物の壁の指紋と外の足跡を採取したら、今日はこれで失礼します。また、ご事情を伺いに上がるかもしれませんが、その節は、よろしくお願いいたします。おまえら、行くぞ」

 調査員たちは、窓とその外側の部分の指紋を採取し、写真を撮ると、道具を手早く片付け、華織たちに一礼をして部屋を出て行った。麻美も、庭側での調査に立ち会うために部屋を出て行く。


「涼ちゃん、お手柄ねえ。んもう、大好き!」涼一を抱きしめる華織。

「にいたん、だいすき!」賢児も涼一に抱きつく。

「そうだわ。本当にもう大丈夫なの?」

「うん。賢児の誕生日までに治すよ。箱根まで行くんだから」

「そうよね。箱根詣でですものね。ちゃーんと治さないとね。じゃあ、今日は大事をとって、ゆっくり寝てましょうね」

「けんたんも!」

「だーめ。賢ちゃんは別」

 華織が賢児を引っ張ると、賢児は泣きそうな顔になった。

「けんたんにうつったよ。なおったよ」

「…やだ、賢ちゃん。もしかして、涼ちゃんの風邪、うつりに行ったの? 私があんなこと言ったから?」しまったという顔をする華織。

「どうしたの、伯母さん?」

「ごめんなさい…さっき麻美ちゃんと話してたのよ。風邪はうつれば治るって言うわよねって」

「賢児は、僕の風邪を治そうと思って、うつりに来ようとしたの?」

 涼一の問いに、こくんと頷く賢児。

「そっか…ありがとう。でも、賢児にうつったら、今度は僕に移って、二人とも治らないよ」

「なおらないの?」

「うん。だから、賢児も風邪引かないように気をつけようね。あさっては一緒にお出かけだからね」

 涼一がそう言うと、とたんに賢児の顔が明るくなる。

「わかった!」

 賢児は二人を交互に見ながら、にこにこと笑っていた。


  *  *  *


「きのうもきょうも、ごちそうがいっぱいだね」

 うれしそうな賢児に涼一が言った。

「おめでたいことがあるときは、ご馳走を食べる決まりなんだよ。きのうは洋子おばさまの結婚式だったし、今日は賢児の誕生日なんだから」

 兄らしく賢児を諭そうとする涼一も、実は目の前に並んだ豪華な刺身盛りや、天ぷら等、様々な料理を見回しながら、少々落ち着きがなかった。

「涼一の七五三以来だから、2年ぶりかしら、ここのフルコース食べるのは」

 一家がこの店に前回訪れたのは、箱根大社で涼一の七五三を済ませた帰りだった。今日は、二人とも七五三とは関係がなかったが、たまたま時期が七五三と重なってしまい、店の中は2年前と同様、可愛らしく着飾った子供たちとその保護者たちでいっぱいだった。

「そうだな。あの時は、賢児はまだふたつだったから、覚えてないだろうけどな」保が賢児の頭を撫でる。

「よくわかんない…」保を見上げながら、その手を握る賢児。

「白子の天ぷらっていうのを初めて食べたよ。おいしかったなあ。賢児も喜んで食べてたよ」涼一もテーブルの向こうに手を伸ばして、賢児の頭を撫でる。

「そう言えば、今日のコースには入ってないなあ。…ちょっと、電話してくるから、そのついでに聞いてくるよ。先に食べててくれ」


「じゃあ、ゆっくり食べてましょうね。おとうさんが戻って来たとき、何にもなくなってたら、かわいそうだものね」ふふふと笑う麻美。

「エビの天ぷら、賢児と半分こしていい?」

 涼一がそう聞くと、麻美はいったん自分の小皿にエビを取り、半分ずつにしてから、二人に渡した。

「おいしいね、賢児」エビを頬張る涼一。

「おいしいね、にいた…おにいちゃん」自分の言葉遣いを気にしながらも、うれしそうな賢児。

「賢児は4つになったから、にいたんじゃなくて、おにいちゃんて呼ぶことにしたの?」

 麻美が尋ねると、賢児は少し恥ずかしそうに頷いた。


 と、その時、少し離れたテーブルから麻美たちのテーブルの畳まで、赤ん坊がものすごい勢いでハイハイをしてきた。

「かあさ…」その姿を見つけた涼一が、横に座っている麻美の腕をつかんだときには、その赤ん坊は、もうすでに麻美の正面に座る賢児の横、さっきまで保が座っていた場所に、ちょこんと座っていた。

「あらぁ。かわいい女の子ね。どこの子かしら」

 当の赤ん坊は、うれしそうに笑って声をあげながら、懸命に賢児の手をつかむ。

「かわいいねえ。いいこ、いいこ」

 今日で4歳になった賢児は、少しお兄さんぶった口調で、その子の頭を撫でる。

 赤ん坊は、うれしそうに賢児を見上げて、はしゃぐ。「たあ。うー、あー」

“かわいいなあ…”賢児は、また頭を撫でた。


「すみません!」

 一人の女性が、慌てて麻美たちのテーブルに駆け寄ってきた。

「申し訳ありません。…もう、この子ったら」

「あ、いえ。かわいいお子さんですねえ」微笑む麻美。

「すみません、ご迷惑おかけしまして…こら、玲ちゃん。そんなにお手手を引っ張ったら、おにいちゃんにご迷惑でしょ。ほら、行くわよ」

 女性は恐縮した様子で、肩から斜め掛けしていた抱っこ紐の中に赤ん坊を抱き入れると、賢児に「ごめんなさいね」と詫び、麻美に礼をして、その場を立ち去った。

 抱かれた赤ん坊は、まだ何か声を出しながら、賢児に手を振っていた。

「ばいばい」賢児も、遠くなっていく赤ん坊に手を振る。

「あの子、賢児のこと好きなのかなあ。いっぱい話しかけてたね。それに、あの、抱っこする布、すごくきれいだったね。お母さんが着てた着物とおそろいだったよ」

「涼一はよく見てるわねえ。でも、ほんと素敵だったわ。お母さん、おきれいだし、おしゃれよね。…あ、涼一。もしかしたら、あの子が賢児のお嫁さんかもね。だって、レースやフリルがたくさんついた白い服着てたもの。ウエディングドレスじゃないかしら」そう言って微笑む麻美。「昨日、早くお嫁さん来てください、なんてお願いしたから、箱根の神様が賢児に会わせてくれたのかも…」

「およめたん?」びっくりする賢児。


「お嫁さんがどうしたって?」戻って来た保が声を掛けた。「白子の天ぷらもあるそうだよ。注文してきた」

「ありがとう、とうさん!」うれしそうな涼一。

「実は今ね、賢児のお嫁さん候補かもしれない、ものすごくカワイイ子が、あなたの席に座ってたのよ」

「お嫁さん?」

「…やだもう。賢児と同じ顔してびっくりしないで」

 麻美は、けらけらと笑い転げながら、今起こった出来事を保に説明した。


  *  *  *


「兄さん、お待たせ」

 弦子が息を切らして店の出入り口まで走ってきた。

「どうしたんだ?」

「もう玲ちゃんたら、隣の隣のテーブルにいたご家族のところに、すごい勢いで、はいはいして行っちゃって、そこにいた男の子の手を握って放さないのよ」

「済まないな、弦子。面倒かけて。ついさっきまで、寝てばかりだったのになあ。赤ん坊は、あっという間に様子が変わるから油断できないよ」

「玲ちゃん、その子のこと、好きなんだあ」鈴音が玲香のほっぺたをなでる。

「たあ」玲香は、それに答えるように、うれしそうな声を上げる。

「いい子いい子って、頭なでてもらってたわよ、その男の子に。…それがね、ハンサムくんなのよ。お兄ちゃんもいたけど、二人揃ってすごいハンサムなの。お母さんもお綺麗だったわ。でも、顔はそんなに似てなかったから、きっとお父様似で、お父様もものすごくハンサムなのねえ。ちょうどね、席をはずされていたようで、そこに玲ちゃんが座っちゃったんだけど」

 弦子がうっとりしたように言うのを見ながら、飛呂之は呆れたようにつぶやいた。

「絶世の二枚目を見損ねるなんて、おまえには箱根のご利益がないのかもなあ」

「あら。そんなことないわよ。ねえ、玲ちゃん」

 弦子が話しかけると、玲香はまたうれしそうに声を上げた。

「ほーら。玲ちゃんは、絶世の二枚目に必ず会えるって言ってるわ」

「違うよ、おばちゃん。玲ちゃんは、ムリムリって言ってるんだよ」

「もう。鈴ちゃん、ひどいわあ」

 4人の楽しそうな笑い声が、箱根の地に軽やかに響き渡った。


  *  *  *


番外編 名探偵「にいたん」 終

続いて 番外編 西園寺保探偵事務所2 迷探偵「賢児」へ


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