白い部屋・黒い神様
真っ白な部屋。家具は鏡のみで、照明器具さえないのに明るく、1K程の小さな部屋。そして、学生服の彼。
手には手錠を嵌められ、首元には『怠惰』の文字が彫られた首輪。そのどちらにも、鍵穴等はない。
目を覚ますと、そんな状況に置かれていた。
「何処だここ」
ーーーと、そこで何もなかった筈の真っ白な壁の中央に、長方形の窪みができる。
「!?」
恐る恐る、彼はその窪みを覗くと、直ぐに紙の切れ端が中へと入り込み、その窪みはゆっくりと元へ戻っていった。
「読めってか?」
彼はその手紙を拾い、座り込む。その紙もまた真っ白な物で、汚ならしい赤字で三行こう書かれていた。
「『怠惰』の桜場 赤君へ。貴方には罪を償うチャンスを与えます。数時間後、『贖罪部屋』へと足を運ぶよう、お願い致します。『黒い神様』より」
「怠惰だと?ていうかおい!何処だよここ!出せよ!」
桜場は、手当たり次第に壁を叩き回る。が、応答が一切無いことに少しずつ怒りを募らせていた。
「数時間後ってなんなんだよ。そもそも時計もないから何時か分かりゃしねぇじゃねえか」
試しに、自身の学生服ポケットを漁ろうとするが、手錠が邪魔で確認ができない。
しかし、腕や太股にそういった異物の感触が一切無く、諦めた。
「止めた。考えてもどうしようもねえしな。寝るか」
そう呟いて『何時も通り』窮屈そうに目を瞑った。
ーーー
「貴方はいつもそうよ。私達がどれだけ尽くしてもーーー」
「うるせえよ!俺の邪魔をするなら、殺してやる!」
「赤!母さんに何やって」
「親父もだよ!見てるだけです何もしやしねえじゃねえか。こんな女と一緒には居られない!」
「黙りなさい!貴方は私の為に生きていればいいのよ!」
「んだと...やっぱりここでーーー」
ーーー
「おい」
母親の怒号。
「死んでるんじゃねえの?」
父親の冷めた目。
「起きなさいってば!」
頬の痛みーーー
「痛いって!!」
桜場は頬の痛みに飛び起きる。それに驚き、近くで頬を叩いたであろう彼女はしりもちをつく。
「わー!びっくりした。そんないきなり飛び起きないでよね!」
「何処だここ...」
桜場の眼前には同い年くらいの男女が五人立っていた。
目付きの悪い、いかにもな不良少年。
右目を眼帯、左目を肩辺りまで伸ばした髪で隠した少女。
七三分けの眼鏡の少年。
熊の人形を持った少年。
そして、先程桜場の頬を叩いた少女。
「お前ら何なんだよ」
「こっちが聞きてえくらいだっての」
桜場の質問に、少し気の強い返答をしたのは不良少年だった。
彼等もまた同様に、手錠と首輪をされている。
「待てよ、俺はさっきまであの部屋で寝てたんだけどさ。どうやってここに来たんだ?」
【それは、私が教えてあげよう】
「「!?」」
周りを見渡す六人。薄暗い部屋に六人が固まっていた。
学校でよく見る木製の机と椅子が六つ。左右に三つずつ置かれており距離的には五メートル程の間があった。三つのい机にも数メートル間があり、それ以外は特に何もない部屋である。
薄暗いために、その他の物は全員確認がとれないため、声の聞こえた方がいまいち分からずキョロキョロと周りを見ていた。
【どうも皆さんこんにちわ。私、裁判長の『黒い神様』で御座います。貴方達はそれぞれ、『罪』をお持ちの様ですね?それすなわち、万死に値するものと心得て頂きたい】
「あ?罪だと?」
「万死って...笑うわ。」
【お静かに。『憤怒』の古賀 三月君。『色欲』の大川 小夜君。貴方達は既に『私達』の手中にいることをお忘れなきよう】
「『私達』とはまた、怪しいワードですねぇ」
【さて、話を元へ戻させて頂きます。貴方達にはこれから、『全数決』を行って頂きます。ルールは簡単ですので、あまり気負いをせずようお願い致します】
と、そこで薄暗かった部屋はゆっくりと明るくなっていた。
部屋は、学校を模したような作りで、目の前には黒板があり、教卓もある。回りの壁には、それぞれ『怠惰』『憤怒』『色欲』『傲慢』『嫉妬』『暴食』の名が彫られた扉があった。
そして、机も同様に、罪の名が書かれてあるのだった。
【ルールを説明させていただきます。十二時間に一度、全員で、一人の『悪者』を決めてください。全員が揃って一人を悪者へ投票することができた場合、『悪者』には『監禁部屋』へと移動して頂きます。しかし、誰かが裏切ったりした場合などで、票が割れてしまった場合は、より多くの名前を投票した人間を『監禁部屋』へと移動させて頂きます】
「つまり、四人が『憤怒』へ、二人が『嫉妬』へ入れた場合は、四人がその『監禁部屋』ってやつに入れられる訳か?」
【ええそうです】
そのルールに不自然な箇所を見つけた『色欲』の大川。桜場の頬を叩いた少女は問う。
「だったら三・三で票が割れてしまったらどうするのよ?」
【はい。その場合のルールなのですが、選ばれた二人が監禁部屋へと移動になります】
【投票は机の中にある紙とペンで記載することをお願い致します。それと、机には投票五分前までは触れることを禁じさせて頂きます。勿論、ペンや紙を自室に持ち出すことも禁じさせて頂きます】
「なぁおい、なに勝手に話進めてるんだよコラ」
【注意事項としては、仲間内での暴力の禁止、『全数決』が終わり次第部屋へ戻ること、『全数決』開始一時間前に『贖罪部屋』へと集まることを挙げさせて頂きます】
「自室じゃ時間がわからなくねえか」
【その点は問題ありません。手紙を読んでいたとは思いますが、こちらから部屋へ合図をさせていただきます】
「その『全数決』が終わって部屋へもどったらもうでられないのか?」
【そちらに関しては後程手紙を送らせていただきます。ですので、今から一時間のミーティングを行って下さい。自己紹介などでも構いません。また、食事などに関しても手紙と同様の手段を用いてお出しさせて頂きます】
そう言って、どこから流れていたかわからない声は流れてくる事は無かった。
「...」
「自己紹介しましょうか。仲間と言えば仲間ですし敵と言えば敵ですのでね」
「おいおい眼鏡のてめえ。敵対するんなら今すぐ殺してやってもいいんだぜ」
学生服の『傲慢』谷口 瑛太の胸元を掴む『憤怒』の古賀。
「やめなさいよ、バカじゃない?こんな分けのわからない状況でいきなり喧嘩するくらいなら少しでも考えを出しあった方がいいでしょ」
「あぁ?」
『色欲』大川は仲裁に入る。
「俺は、桜場 赤。高校二年だ。帰宅部で、対した特技も何もない」
「僕は谷口 瑛太だ。高校二年で、頭の回転には自信がある方だ」
「チッ!古賀だ。高二で、喧嘩なら負けねぇ」
「頭の悪そうな自己紹介ね。私は、大川 小夜。高二よ。さっさと終わらせて家に帰らせてほしいわほんと」
「えと、あの。南 楓です。この子はサクちゃんです。高校一年生です。仲良くしてくださ...さい...」
「南 紬。楓と双子。似てないってよく言われる」
「え、双子!?」
桜場は二人の顔を見合わせる。独特な白髪が一緒なだけで特には似ている用にはみえない。
「まず、ここに来る前に皆何してたか覚えてるかな?」
「なんだ手前がしきってんだよくそ眼鏡」
「まぁまぁいいじゃんか。えと、俺はたしか学校が終わってそのまま帰宅してたら、記憶がねえんだよな」
「私もよ。部活が休みで、友達とケーキを食べに行こうとしてたら記憶がない」
「「私達は病院に行ってる最中」」
「僕は図書室で勉強してたなぁ」
「俺は屋上で寝てたらだ」
詳しく聞くと、全員が、学校終わりの17時頃に記憶を失っているようだった。
「なぁ、さっき声のやつは『監禁部屋』とか言ってたよな。皆は自分の首輪に彫られた罪の名前に心当たりあるのか?」
「「ない」」
全員が即答だった。
その他にも個人の考えや疑問などを話し合い、一時間のミーティングは終わった。
【それでは皆様自室へとお帰りください】
その声の合図と同時に扉はゆっくりと開いていく。全ての扉には真っ暗な通路があるだけで、部屋が直ぐに在るわけではないようだった。
真っ暗な通路を抜けると、先程の真っ白な部屋があり、入った途端に真っ白な壁に通路を塞がれてしまった。
「とんでもないことに巻き込まれたような気がするなぁ。いや、当事者なのかもしれねえけど」
ーーー
「お前が消えたらそれでいい」
「気持ちわるい」
「お前のせいだ」
「お前が悪い」
「母さんの気持ちを知らないのか?」
ーーー
脳裏に、母親と父親。クラスメイトの冷めた目が焼き付いていた。思い出したく無いものをふと思い出してしまい気負う桜場に、またもや手紙が窪みから入ってきた。
『開始一時間前に合図を送りますのでくれぐれも寝過ごさぬようにお願いします。ルールを箇条書きにしてまとめさせていただきますのでしっかりと読み、挑んでください』
・開始十分前までは他人との会話を許可する
・十二時間に一度『全数決』を行います
・全員の票が一人へ宛てられた場合、一人は『悪者』として『監禁部屋』へと、移動になります(宛てられた人間は誰に票を投じても無効となります)
・「四・ニ」の票で別れた場合は、四人を『監禁部屋』へと移動させて頂きます
・「三・三」の票で別れた場合は、宛てられた二人を『監禁部屋』へと移動させて頂きます
・「ニ・ニ・ニ」のように、三人以上の人が票を宛てられた場合は、『全数決』自体を無効とさせて頂き、後、十二時間後へお待ちして頂きます。しかし、二回その様なことが起きた場合、こちらから一人を『監禁部屋』へと連行させて頂きます
・メンバー同士での暴力や喧嘩は禁じます
・投票五分前までは席に触れることを禁じます
・『悪者』とは今回、『嘘つき』を指しますので。そちらの方をお考えのうえ行動してください
・シークレットルールを確実2つご用意させていただいております。そちらのルールを反した場合のみ『監禁部屋』ではなく『拷問部屋』へと移動させて頂きます。ちなみに、シークレットルールは他言無用ですので悪しからず。
と、そう書かれてあった。
時間の問題。空腹の問題。このゲームの攻略法。
「そう、これはゲームだ。深く考える必要はない。俺は慣れている。どうせ死ぬ訳じゃないんだろ」
そう言って震える自身の体を止めようと、必死に自分に言い聞かせた。
ゲームのシミュレーションを何度も行い、心を落ち着かせ、遂にーーー
【それでは、一回目の開始まで一時間前を切りましたので入室をお願い致します】
というアナウンスと共に歩を進めた